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創作小説 投稿掲示板『登竜門』 『ねぇ、何で』
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- 『ねぇ、何で』 作者：渚 / 未分類 未分類
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全角3164文字この星で生きるため。
容量6328 bytes
原稿用紙約10.7枚
「ねぇ、何で空は青いの？」
この星で眠るため。
「ねぇ、何で太陽は光ってるの？」
この青い星地球を
「ねぇ、何でせーは生きてるの？」
汚しちゃいけないんだ。
「ねぇ、海斗。何で？」
今年で８歳になる「せー」がしきりに話しかけてくる。せーは妹じゃない。血はつながってない。近所のガキでもない。ただ、予備校から帰るときにたまに公園によると、いつも一人で必死で砂場を掘っている、そんな女の子。
何してるんだ？
助けてって言ってるの。
俺の問いに、「そいつ」はそう答えた。変な奴。第一印象はそれだった。それだけ言うと、「そいつ」はまた砂場を掘り始めた。赤いスコップで必死で掘っている。小さい爪の間には砂が詰まっていた。
手伝ってやるよ。
俺は「そいつ」の隣にしゃがみこみ、「そいつ」が掘っていた穴を手で掘り始めた。「そいつ」はじっと俺をみていた。日本人にしては茶色っぽい瞳がずっと俺を見ていた。やがて「そいつ」はにこっと笑い、また掘り始めた。夕方の公園で、俺たちはただ黙って砂場を掘りつづけた。
「ねぇ、何で夜は暗いの？」
また始まった。「せー」の口癖、「ねぇ、何で」で始まる、答えのない質門。俺はベンチに寝そべってうなった。
「そいつ」は自分を「せー」と呼んだ。意味はしらない。俺も「そいつ」をせーと呼ぶことにした。
「ねぇ海斗、何で？」
「神様がそう決めたんだよ」
「どう決めたの？」
俺はちらりとせーを見た。目は俺を見ていたが、手はずっと砂場を掘っている。
「あのな、太陽は地球の電気なんだよ。でも、一日中明るいと寝れないだろ。だから、神様は６時ぐらいにはその電気を消すんだよ。だから暗くなるんだ」
「じゃあ何でお月様が出てるの？」
「太陽が消えちゃって、真っ黒だとなんだかさびしいからだよ」
「お星様も？」
「そうだ」
せーは小首を傾げて、じっと空を見た。
俺は今度はどんな質問が来るかな、とぼんやり考えた。何で雲は白いの、とかその辺かと思っていたら、まったく予想外の質問が来た。
「ねぇ、何で生き物には心があるの？」
俺は黙ってせーを見た。せーはまだ空を見ていた。小さな鳥の群れが青い空を横切っていった。
何で心があるの。そんなこと、俺も知らない。というか、そんなこと考えたこともない。俺は答えに困り、せーがしているように空を見た。せーは痺れを切らしたように俺を見た。
「ねぇ、何で？」
せーは俺をにらむ、に近い目で見ていた。
「なんでだろねぇ」
「なにそれ」
せーはぷっと膨れ、土を掘る手を止めた。
何でだろう。楽しい、面白い、幸せ、切ない、悲しい、辛い、嫌い、愛しい…心がなければ何も感じられない。
「多分、神様が命のおまけにくれたんだ」
俺はぽつんと言った。せーは不思議そうに俺を見た。泥だらけの手で自分の顔を掻く。茶色い筋が３本、せーの顔についた。そんなガキ特有のマヌケさがかわいくて、突然いとおしくなる。俺はむっくり起き上がり、せーのわきの下に手を入れ、ベンチに座らせた。せーは別に何もいわず、ただ俺を見ている。
「命はな、神様がくれるんだ。前に言ったよな？
せーは黙ってうなずいた。これも以前、「命は誰がくれるの」とせーに質問された。
「でもな、ただ生きてるだけじゃつまんないぞ」
「なんで？」
「だって、何も感じないんだぞ？お前はいろいろ知りたいことがあるだろ？それは何でだ？」
「…知りたいから」
せーは少し考えてから言った。
「もし心がなかったら、その『知りたい』っていうのも感じないんだ。それだけじゃないぞ、楽しいのも、うれしいのも感じないんだ」
「好きも？」
せーの声は、なぜか涙声に聞こえた。俺はせーの顔を見ず、ただ、せーの肩を抱いた。とがった肩骨が手のひらにあたる。
「…ああ。好きも感じない」
俺の声は、ほぼ吐息に近かった。俺はふと、せーが泣いていることに気がついた。俺はただ、驚いた。せーはいつも俺が質問に答えてやると、うれしそうに笑っていたのに。満足そうに微笑んでいたのに。
「…せー？」
「なくなっちゃうの？」
せーは震える声で俺に言った。目にいっぱい涙をためて、俺を見上げる。
「なくなっちゃうの？」
せーはもう一度、静かに繰り返した。俺はただ、せーを見た。涙で濡れた目に俺の困惑した顔が映る。
「だって海斗、命はいつかなくなっちゃうっていったでしょ。それで、心は命のおまけなんでしょ？ じゃあ、心もいつか、なくなっちゃうの…？」
俺は久しぶりに、後悔した。俺の何気ない答えが、この子を傷つけた。なぜかはわからない。でも、俺の所為で傷ついた。それは確かで。
せーは黙って俺の腕にすがりつき、肩を震わせて泣きはじめた。
「…せーは、海斗が好きだよ。でも、心がなくなったらわからなくなっちゃうよっ…」
俺はせーの「肉体」を見た。まだ小さく、可愛らしい体、あどけない顔。俺はせーの「心」を見た。見たつもりだった。不安に駆られ、揺れている小さな心。
俺はせーの額にそっと唇をつけた。彼女の「肉体」と「心」、両方のためのキス。俺はせーをぎゅっと抱きしめ、そっとささやいた。
「あのな、命は、心より先になくなるんだ。だから、せーが死ぬより前に心はなくならない」
「…ホント…？」
涙で前髪が張り付いた顔を上げ、せーはぱぁっと顔を輝かせた。俺はあまりの立ち直りの早さに少し呆れながら、うなずいた。せーはにっとわらい、ベンチから降りた。そして、いつものように砂場を掘り始めた。
「そっかぁ、やっとわかった」
せーは俺に背を向けたまま言った。彼女の手は休まずに土を掘り続ける。
「命のほうが先になくなって、心だけが残ることもあるってことだよね？」
「ああ、まぁな。それって、俗に言う幽霊って奴だけど」
「やっぱり」
せーの手が止まった。彼女はゆっくりと振り返り、俺をまっすぐ見た。なんだがいつもと雰囲気が違う。いつの間にか、公園には誰もいなくなっていた。
「せーずっと不思議だったんだ。何でなのかなって」
「なにが？」
俺の声がかすかに震える。せーは黙って微笑み、また砂場を掘った。まだ９月だというのに、足元がぞくっとなった。まるで、冷気が地面を這ってきた様だった。
「何でせーはここにいるのかなって。何でこの砂場から、お母さんの声がするのかなって」
せーの声は静かだった。徐々に、せーの姿が変わっていく。白いＴシャツはゆっくりと赤く染まり、肩袖が破れている。ミニスカートから伸びた細い足は傷だらけ。顔から血の気が引くのがわかる。風がざわざわと木の葉を揺らし、恐怖をあおる。
やがてせーは小さい歓声を上げ、ゆっくりと振り返った。その顔は、思っていたよりずっときれいだった。額から血が流れていたが、特に大きな傷はなく、ちゃんと誰だかわかる。その手には、光る何かが持たれている。何かはわからない。せーはうれしそうに笑った。
「見て、海斗！！ せーのお母さん！！ やっと会えた！！ ねぇ、よく見てよ、海斗！！」
見れなかった。それがどんな姿なのか想像したくなくて。俺はただ、血で赤く染まったせーの靴を見ていた。せーは不思議そうにうなり、また笑った。
「ありがとね、海斗。せー、もう逝くね。海斗、今度あったら、またいろいろ教えてね」
それだけいうと、せーの体がゆっくりと小さな粒の塊になり、砂のようになった。風がそれを吹き飛ばし、そこにはひとつの腕時計が残った。それには血痕が点々と飛び、ひびが入っていた。時間は１０時２０分過ぎで止まっている。
俺はそこにがっくりと膝をついた。手には、その腕時計を握り締めて。
そこが昔踏み切りで、母親と小さな女の子が事故で亡くなったことを知ったのは、その少し後だった。事故の時間は、午前１０時２３分だった。
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2004/07/02(Fri)20:07:03 公開 / 渚
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■作者からのメッセージ
初めての短編です。短い上に、自分でもよく意味がわからないものになってしまいました；
一応、せーは事故死した女の子で、浮かばれていない母親の魂を探しているという設定です。微妙にホラー・・・でしょうか；
読んでくださってありがとうございました。感想、意見等お待ちしています。
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