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『いつか』 作者:紅い蝶 / 未分類 未分類
全角2778文字
容量5556 bytes
原稿用紙約7.6枚




 「お前のこと、好きだ。誰よりも……」
 雨がパラパラと降っている、五月の陽気。まだ梅雨入りはしていないはずだが、ここんところやけに雨が多い。でも、その雨が新緑の木々を揺らしてこれまたいい感じ。
 そんな日の放課後の帰り道、高校二年生の俺、村上誠司(むらかみ せいじ)は告白した。相手は同学年の松下美咲。セミロングというと短すぎ、ロングというと長すぎる黒髪。軽く、本当に軽くウェーブはしているがほぼストレートだ。最近流行の“ロリ顔”とは違った、それなりに大人びた顔立ち。決して美人! とは言えない。だがその辺にいる女の子に比べればそれなりに美人だ。
 だが勘違いしてもらっちゃ困る。俺が惚れたのは顔にじゃない。その性格だ。うるさくなく、静か過ぎず。簡単に言えば、騒ぐときは思いっきり楽しそうに騒いで静かにするときはちゃんと静かにする。メリハリがしっかりとした子だ。優しくて、楽しくて、ほんのちょっとだけ抜けている、そんな子。
 俺と美咲は男女の間では恐らく一番仲のいい“友達”。一緒にいる時間が楽しくて、うれしくて、居心地がいい。そんな関係。俺は美咲のことを一人の女性として見ていたが、あっちはそうじゃないかもしれない。だから告白するのが不安だった。どうしようもなく不安だった。そして不安になる一番の理由は、俺と美咲は一年前に付き合っていて、そして別れた。ということだった。
 「……ありが…とう。うれしいよ。……すごく」
 美咲の言葉はそこで途切れた。傘を忘れたせいで濡れた髪が色っぽく風に揺れる。俺も傘忘れたからびしょ濡れだけど。
中々返事が返ってこない。俺は直感した。ああ、フラれるんだな……と。そんなもんだろう。今美咲は年上の男とメールしてるらしいし。そいつのことが好きなんだな、きっと。
 その日、美咲からの返事は返ってこなかった。というより、俺から避けた。正直な話、フラれるのが怖かったから。
そんな風に、俺の恋物語は始まった。いや、もう始まっていたのかもしれないが、俺自身は今から始まったと思った。

【第一話:これから始まる恋物語】

 それから、俺と美咲の関係は気まずくなった。なんだかギクシャクして、前のようにふざけあったり笑いあったりできない。それどころか話すことすら間々ならずにいる。告白しなきゃよかったかな、と本気で思ったりもした。そうすれば今まで通りの楽しい関係が続いてたんじゃないかって。
 でもそれが嫌だったから、告白した。美咲は恐らく年上の男を好きだろう。学校にいる間はしょっちゅう携帯をいじくっている。メールでもしているんだろうか、と思うたびに俺の心臓をきつく締め付けた。だからといってそれを止めさせる権利なんて俺にはないし、大体にしてそんなことは言えない。
 美咲本人は、友達の前では明るく振舞っているものの、どこか暗く感じる。悩んでくれているのだろうか。それとも、年上の男のことを考えているのだろうか。どちらなのかは俺にはわからない。でも、暗かった。それは明らかで、誰が見てもわかるほどだ。美咲の友達はそれには触れていなかったが、きっとわかっているだろう。友達だからこそ、余計に。
 美咲と言葉を交わしても前のように話は弾まず、質問と回答で終わるという、まるで授業中の教師と生徒の会話のようだった。
 「二時間目、何?」
 「あ、体育だよ」
 こんな感じ。やりきれないっすよ、ホントに。気まずくなるのは嫌だったんだけどな……。
とにかく、そんな日が一週間も続いた。


 俺が通う高校はがあるところは岩崎といって、少し田舎で緑が多い。だからといって不便なわけでもなく、観光地として有名だ。といっても俺が岩崎に住んでいるかというとそうではなくて、電車で大体15分離れた大貫というところに住んでいる。大貫は岩崎よりも都会的だが、都会ではない。発展はしているがビルはないといえばわかるだろうか。ようするに“街”って感じだ。美咲も大貫に住んでいる。小学校、中学校は違ったけど。
 そんな岩崎の地名を取って、岩崎高校。全校で300人程度の小さな高校だ。一クラス30人前後で各学年3クラス。だからといって部活の数は少なくない。野球、サッカー、バスケなどの有名な運動部はしっかりとあるし、パソコン部を始めとした文化部もそれなりにある。その上緑が多く、敷地も広い。至って過ごしやすい環境なのだ。学力は少し低めだけど、無理なく勉強ができるので逆にいい。大学進学も十分にできることだしね。
 一ヵ月後に迫る文化祭では、俺が所属するサッカー部の招待試合がある。美咲はバレー部に所属しているが、今年は招待試合は無いようだ。告白する前は、応援に行く、と言ってくれていた。その通りに来てくれればいいけど、今の状況じゃ無理かもしれない。せっかくアピールするチャンスだと思っていたのに。

 「美咲、今度先輩と会うんだってさ。車で映画とか行くらしいよ」
 そう言ってきたのは同じクラスの磯原恵(いそはら めぐみ)。明るい性格でそれなりに可愛い。美咲とは違って少々幼い顔立ちで、それなりに結構モテる。肩程度の髪の毛は少し茶色が掛かっていてサラサラ。今は男女の壁を越えた親友だが、昔付き合っていたことがある。どこまでいったかといえば、最後まで。中学三年のときに付き合っていて、お互いに初体験だった。八カ月近く付き合っていた。別れた理由は、冷めたといえばそれまでだが、ちょっとしたことをきっかけにしてギクシャクし始め、そして別れた。嫌いになって別れたわけでもないので、別れた後も親友として付き合っている。
そんな恵は美咲と大の仲良しで、様々な情報を仕入れてきてくれる。ここで俺が恵に、美咲にうまく言ってくれ、とでも言ったら卑怯になる。だが恵にはそんなお願いはしない。美咲のことは、自分でケリをつけたい。相談には乗ってもらうが……。
 それよりも、引っかかることが一つ。いきなり車で二人旅かよ、ということだ。基本的にメールしかしていなくて、写メールってやつで顔は知っているものの、実際はどんな人物なのかわかっていない男と二人で、しかも車でとなると、最悪の状態も考えられる。車の中で強引に……なんてことも。
その先輩が健全なお付き合いを求めているならまだいいが、三歳下の女といきなり車でデートとなると、ヨコシマな考えがあるとも言えなくはない。そうならないことを祈るばかりだが、逆にそうなってくれれば美咲の先輩に対する気持ちが変わるかも、という汚い考えも頭に浮かんでしまうのでそれについて考えることはやめた。

 そしてその週の日曜日。美咲は大貫駅で先輩と待ち合わせをすると、先輩が乗ってきた新型のオデッセイに乗り込んでいった。車の中には、その先輩と美咲以外には誰も乗っていなかった……。
2004/06/21(Mon)21:02:25 公開 / 紅い蝶
■この作品の著作権は紅い蝶さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
こんにちわ。紅い蝶です。
フィクションではあるんですが、一部ノンフィクションのところも……。

初の恋愛モノ連載です。読み切りは書いたことありますけど。
前にヒロインの募集をした件ですが、その物語はまだ執筆中です。どうにもネタが浮かんでこなくて困っています。
そのため、その話をここで公開するのはまだ先になりますかね^^;


初の恋愛モノ連載に乗っかって、描写を全て主人公の視点で書いて見ました。これも初めてです。

どうなっていくかまだわかりませんが、zeroとともにがんばっていくのでよろしくお願いします。

批評はどんどんしてもらって構いません。が、あまり傷つくような発言はやめてくださいね^^;

いろんな意味で初挑戦のこの作品。
つたないところもあると思いますが、暖かく見守ってくれると幸いです。

それでは
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