- 『バニラA 〜終わりを告げるセブンスター〜』 作者:雷仔 / 未分類 未分類
-
全角1388.5文字
容量2777 bytes
原稿用紙約5枚
「愛してるよ、鏡子。」耳元に解けこむような甘く優しい声。
「恋ニ・・・。」
私はその優しい声を振りほどくかのように抱きこまれた体を解き、
屋上のフェンスへ近づいた。
フェンス越しに見る景色はとても広く近くに恋ニがいるのに私に孤独を感じさせた。
「恋ニはいつもそう、私を満足させる方法を・・しってるのね。」
恋ニ、春日恋ニは私の恋人だ。この恋の始まりは偶然同じだった煙草の銘柄と
この屋上だった。
私が残り1本になったセブンスターをとりだし吸おうと思ったその瞬間。
「鏡子を満足させても自分を満足させる事ができない、愚か者だよ、僕なんて。」
「え・・?」
後ろにいたはずの恋ニはいつのまにフェンスの向こうにいた。
風が強く恋ニは少しグラグラしている。バランスが悪い状態で少しでも足を
滑らせたら下にまっさかさまだ。
「恋ニ、なにやっているの?早く戻ってきて・・!」
「鏡子・・?君は今、幸せ?」
「何いってんの!そんな事いいから早く、こっちに・・」
「幸せって聞いてるんだ」
恋ニが声を荒げた。
「・・・そうね。恋ニがこっちに戻ってきてくれたら幸せね・・とっても。」
私は取り乱すのを止め、恋ニをなだめるようそう言った。
恋ニは少し笑った気がした。
「ごめんね。僕は今この瞬間、君を幸せにする事はできない。」
「・・・れ」
私が恋ニの名前を呼ぼうとした瞬間。
私の視界から恋ニは消えた。
落っこちてしまった。
手に持っていたセブンスターが儚く私の手から滑り落ちた。
「恋ニぃ・・・・・・!!!!」
ガバっと音を立て私は起きた。
首・背中にぐっしょりとあせをかいていた。息が荒くなっている。
「・・・また、見ちゃった・・。」
これで何回目だろうか。恋ニが死ぬ瞬間の夢。
あのときのまま鮮明に夢に出てくるもんだから、涙が出る。
私は早く、一刻も早く、恋ニを忘れたい。
でもこうも何回も夢に出てくると忘れたくても忘れられない。
ベッドから立ちあがると目眩がし、足がガクンとなってベッドに座りこんだ。
すごい耳鳴りがした。
私がちゃんと支度をすませ、いつものように会社へ行く。
電車のホームにつくと人が溢れていた。人ごみが嫌いな私にとっては拷問だ。
その中を良く見ると・・・・。
「鈴木君。」
「うぁ!!あ・・浅木さん・・。」
鈴木君はあさっぱらから冴えない顔をしている。そしてバツの悪そうな顔もした。
「浅木さん・・?」「なぁに?」
「昨日は、ホントすいません。」鈴木君は体を大きく折り曲げ私に謝罪をした。
人が多いのに・・恥ずかしくないのかな。
なんか私は鈴木君の一生懸命さに笑ってしまった。
「いいよ。もう忘れるわ。」私がそう言うと鈴木君は安心した表情を見せた。
「ところで浅木さん・・体調悪いんですか?」
「え?なんで。」
「顔色メッチャ悪いっすよ・・。」
あぁ。そうか。夢を見たからだ。
「悪い夢、見ちゃってね。ここ最近ずっと見るの。」
「悪い夢?」
デンシャはまだ来る気配が無い。
「恋人が・・死んだ時の夢。」
「恋人?いたんすか・・。」
「まぁね。投身自殺だったわ。しかも私の目の前よ?趣味悪いわ。」
「本当に、亡くなったすか?」
「えぇ。」
鈴木君は悪い事でも聞いたように顔を俯かせ「そうなんすか・・。」
そう呟いた。
『一番線まもなく電車が参ります・・・』
ホームに響くアナウンス。
私達の間に会話がなくなっていた。
-
2004/06/07(Mon)06:27:39 公開 / 雷仔
■この作品の著作権は雷仔さんにあります。無断転載は禁止です。
-
■作者からのメッセージ
お久し振りです。
恋ニ(レンジ)は1年前に死んだという
設定です。
これからも、がんばるので・・。宜しくお願いします!