- 『SKY LESS―前編』 作者:繭 / 未分類 未分類
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自由になりたい。
孤独は嫌だ。
そんなボクの夢。
一度。
たった一度でいいから、空が見たい。
蒼く、広大に続く空を―――。
>>SKY LESS
前編
一歩一歩進む度、何も履いていない足の裏にひんやりと冷たい感触。
歩き続けるのは、なんとなく威圧感を与える真っ黒な床。
ときどき、この床が深い闇となりボクを飲み込んでしまうのではないかという錯覚に襲われる。
幅の広い黒い床を向いて歩くと、息が苦しくなる。なのに、今歩いている黒い床の廊下には窓が一つも無い。
床と同じく、真っ黒な天井にある、ぼんやりと霞んだ光の、円球のランプだけが唯一の明りだ。
窓が無く、外の明りが一切入ってこないので、昼と夜の区別もつかない。過ぎゆく時間さえ、わからない。
窓がない壁。床とは正反対に真っ白だ。やけに目がチカチカする。
こんな黒い床と白い壁の廊下を歩き始めて、かなりの時間が経つ。
でも、そのかなりの時間が、どれ位なのかボクは知らない。知ることが出来ない。
ボクは足を止める。
足が痛い。
頭も重い。
―この廊下に終わりはあるのだろうか?
ボクは一つの汚れもない壁に手をつき、一呼吸した。大粒の汗が頬をゆるやかに伝い、床の闇に吸い込まれていった。
何時からかはわからない。気づいていたらそうなっていた。
朝か夜かわからぬまま、いつも目覚めるのは小さな部屋。
部屋は床も壁も天井も四方が白く、ボクにぴったりのサイズの軋むベッドと傷だらけの木製の丸テーブル、そして、この廊下につながっている、外れそうな取っ手のドアしかない。そこにも、窓は無い。
毎日二回、バラバラの時間に質素な食事が丸テーブルに置かれている。
食事はだいたい焦げた硬いパンや、冷めて脂が浮いたスープなどだった。
何もすることがないボクが、仕方なくベッドで横になっている間に食事は片付けられる。
―食事が運ばれ、片付けられる。
と、いうことはボク以外に誰かいるのだ。
今まで一度も姿を見た事が無いが、この廊下のどこかに部屋があり、そこに人がいるのだ。
そこにいる人はきっと、どうしてボクが空の無いここに閉じ込められているのか、どうすれば空の在る外に出れるかを知っているはずだ。
そう思うと、力が少し出た気がした。
壁についていた手を離し、痛んだ足を動かす。
また、ボクは歩き始める。
―しかし、何故閉じ込められているボクは“空”のことを知っているんだ?―
>>後編へつづく
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2004/05/29(Sat)20:11:43 公開 / 繭
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■作者からのメッセージ
短い話ですが、後編も頑張って書きたいと思います。前作に雑談板等で感想を下さった、紅い蝶さん、笑子さん、有難うございました。