- 『喋るオウム no.1〜no.4』 作者:髪の間に間に / 未分類 未分類
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原稿用紙約28.8枚
貴方は生きているのですか?
喋るオウム no.1
「私の家のオウムは喋るんです」
カシは会社帰りスーツ姿のまま皆で飲んでいるときに私にそう言った。ちなみに私達の仕事はOLだ。カシとは私の会社の後輩である、天然なのか計算なのか分からないシュールな乗りが無性に好きなのである。
私はオウムが喋るのは当たり前だろうと反論すると、周りに流されやすく滅多に逆らう事のない彼女が珍しく言い返してきたので、崖っぷちでたそがれている時にいきなり背後から全力タックルをかまされる位ビックリしただろうと思う。
カシの言うにはそのオウムは賢くて会話もできるし色々な芸も出来るらしい。
そんな事を言われると見てみたくなってしまうこの私。それは是非とも見てみたいと言うと樫は家が近いので行きましょうよと誘ってきた。勿論即移動だ。
皆には挨拶もそこそこにタクシーに乗り、カシの住むアパートへと向かった。確かに近かった、5分くらいで到着したのだ。
中々良い大きなアパートで様々な所に防犯カメラ等犯罪対策が見られた、エレベーターの中でそんな事を考えながら防犯カメラを見ていると扉が開いた。
「カシ、ここ何階?」
「あ、確か6階です。 住んでます、902号室」
「いいとこ住んでんじゃない。眺めいいでしょ」
カシは照れたように笑った。何か、平和だなって思った。案内します、と私の先を歩き、私はそれについて歩いている時になぜか、一瞬だけ意識が遠ざかった気がした。
『902 佐取 樫』と書かれた表札の前、カシが鍵をスーツの内ポケットから取り出すと手際よく足元に二つ、ドアノブに一つの鍵穴に差込み錠を開ける。にこり、とカシが笑って扉を開けた。
「ようこそ、私の世界へ」
「侵入したる」
私も笑って言った。カシが靴を脱ぎ中に入る、私もそれに続いた。
カシが入った正面にある扉を開けたときだった。声が聞こえてきたのだ。
「お帰り、今日は遅かったね。飲み会でもあったの?」
その声は動物が発するカタカナな声ではなかった。明らかに感情の込められた、人間の声なのだ。
「ただいま〜、計画が結構成功したから打ち上げ。今日は先輩連れてきたの、顔見せして」
驚いている私を無視してカシは『何か』と話をする。バサバサバサ、羽ばたく音とともにカシの肩に一羽の鮮やかな赤や緑が美しい鳥が着地した。
間違いなく、オウムだ。しかし、どこか引っ掛かる。明らかにこのオウムは人間らし過ぎる、しかし、人間ではなくてオウムなのだ。優雅な動作でそのオウムは私に一礼をした。
「初めまして、私はこのとおりオウムですが飼い主である佐取カシによって名前も付けていただき現在は佐取ハヤシという名前を名乗っております」
丁寧な言葉でオウムが自己紹介をする。やはり人間の声だ。声だけでなく、雰囲気も少し違和感があるものの人間に近い。
「あ、初めまして。高島カイです、カシの会社で経営部門の部長をやってます。よろしく」
反射でつい挨拶を返してしまった。これだから営業周りは。
気が付けばカシがふふん、という勝ち誇った表情で私の反応を待っていた。負けたよ、完敗さ。確かに喋るオウムさ。
「カシ、負けたよ。どうやってしつけたんだ?」
「私、躾なんてしてませんよ」
当たり前のようにカシが言ってのけるが、それは本当だろうか。
「じゃあ前どこかに飼われてたとか?」
「いいえ、私はどこで生まれたかも知れない野鳥で猫に追い掛け回されていたのを助けていただいたのが始まりでした」
「本当?」
「ええ、私は鳥ですが嘘は嫌いですので」
「あ、先輩立ち話もなんですから中に入ってください。酔った後の紅茶は美味いですよ」
ペットボトルですけど、とカシが付け足す。私は促されるまま中々広く四角い部屋に入った、丸テーブルがあり椅子が囲むように3個、右奥の方にはキッチンがあるようだ。カシがそっちの方へと向かう。
私の酔いはもう既に冷めていた。いつのまにか丸テーブルの真ん中に陣取っているオウムを勝手に椅子に座り観察する。オウムが訝しがったのかこちらを向く。
「何か?」
うん、間違いない。私の考えは当たっていると思う。
「あなた、一度死んだでしょう」
私とオウムの視線が交わる。長い沈黙、しかし実際には4秒くらいだったかもしれない。
「やっと分かってくれる人が出来た」
オウムは、人間としてそう言った。
部屋の奥からカシが戻ってくる。オウムは、オウムに戻った。
No.2 俺は生きているのだろうか
またいつか、オウムと話をしたい。
昨日は結局ちょっと紅茶をご馳走になってから帰ってしまっただけ。オウムの正体は掴めなかった、でも一つ、分かったことはある。あれは、ただのオウムなどではない。
私は異様に霊感とかいうものが強いらしい。知らない人に声を掛けられたので頭を下げたら友達に電波ちゃんかと思われたり、近所に住んでいると思っていて挨拶をしていた人が生きていなかったり、友達とカラオケに行くと誰も入れた覚えの無い曲が入っていたり、具合の悪い友達の背に何か乗っているのを見たり、それをグーで殴ると友達が元気になったり、とにかく例を挙げたらビックリするくらいキリが無い。
「ただいま〜」
今日も休日出勤で会社の仕事を終え、私の家の玄関を開ける。そういえばカシが一戸建てっていいなぁ、と羨ましがっていたな。しかし父が買ってくれた物だから申し訳なくてちょっと使いにくいのだ。
「おかえりなさい」
今日も私を迎える柔らかい女の声、私はその声に随分と助けられる。
「お風呂沸かしといたよ、それとも先にご飯食べる?」
「えぇと、先に飯食う」
玄関で靴を脱ぎ入ってすぐ右手にある扉を開ける。広い対面式のダイニングキッチン、黒いテーブル、そしてテーブルに沿ってL字型に黒いソファーが二つ、48型プラズマテレビが一つ、私の憩いの場所だ。
私を迎えたエプロンをつけた声の主がキッチンで何かを炒めている。彼女は栗林ナツキという、私とは10年来の付き合いだ。お姉さん系の清純派って感じで家事も出来る性格もいい、まさに嫁の理想像だ。今現在独身男性の皆様、嫁をとるのなら彼女のような人を推します。顔が良いだけじゃ駄目、ゼッタイ。
軽く息を吐きながらソファーに倒れるように座り、スーツの上を脱ぎ私の隣に置く。気づくともう目の前に料理が展開されていた。
「今日のご飯はドリア?」
「野菜炒め作ったんだからちゃんと食物繊維とりなさいよ」
フライパン等を洗い始めた彼女が少々大きな声で私に注意をする。御免なさいね私はバリバリの偏食家ですよ、治す気はございません。
夕飯を頬張りながら今日は早く寝ようと考える。明日、カシに言ってみよう。オウムに会わせてくれ、と。
あまりにも唐突な展開だった。夜10時30分、さぁ今日の仕事も終わりだという時にカシが慌てて私の机に飛んできたのだ。それは私がカシに声を掛けようかなと思ったころ。
「先輩! 私のお父さんが脳梗塞で倒れたっていうので私ダッシュで帰ります! あの、オウムの世話お願いしますから! ごめんなさい!」
「え、おい、カシ。人に軽々しく家の鍵を」
カシは私の机の上に招き猫のキーホルダーのついた何本かの鍵を置くと、私の言葉も聞かずにダッシュで帰っていた。確か彼女の実家は青森だった気がする。
カシの父親は大丈夫だろうか? それを数分考えてから、気付いた。
『オウムの世話お願いしますから』
とてつもなく不謹慎だがこれは又と無いチャンスではないか。私は急ぎ会社を後にした。
『902 佐取 樫』
私は見覚えのある扉の前で立ち止まり、カシから預かった鍵を取り出してそれぞれの鍵穴に勘で鍵を差し込む。これが中々上手く行かなくて5分ほど時間がかかってしまった。
扉が、開く。
「お帰り。今日は早かったね、何かあったの?」
オウムの声、私があの時聞いた人間の声ではない、オウムの声。
「存分にあったようだ」
私が答えて靴を脱ぎ、正面にある扉を開ける。バサバサバサ、羽音と共にオウムが現れる、オウムは未だオウムのままだ。
「何があったのですか?」
「カシの父親が脳梗塞で倒れたらしい。私は世話を頼まれたから来たんだけど、家に連れてった方が良いよねぇ」
「脳梗塞ですか。大事無いといいのですが……」
「とりあえず、車は下に止めてあるから、今から行くよ」
「はい」
言うとオウムは素直に従う。やけにあっさりとしているな、動物なんてそんなものなのか?
愛用車、黒のエスティマ、通称『労働21号』の中、私は運転しながら助手席に座るオウムの本心を探ろうと試みた。
「この前、私は言ったわね。あなた、一度死んだって」
「はい」
あっさりとした返事、一気にオウムは人間へと変貌する。姿形の問題ではない、確かにオウムは人間へとなった。
「何で分かったんですか?」
「私、霊感強いのよ。今も、気付かない? 後ろの窓ガラスに手首だけがくっついてるわ」
「またまた」
オウムは冗談ととったようだが、これも本当だ。バラバラ殺人が今通っている道の近くであったらしい。いつもここを通る時はこの手首と出会う。
「で、あなたでしょう」
「何がですか」
「嘘を吐かなくてもいいよ、私もよく吐くし」
一呼吸、ゆっくり、ゆっくりと一呼吸、思いっきり息を吸って吐く。
「あなた、父親が脳梗塞だと彼女に電話を掛けたでしょう」
オウムが、ゆっくりと、ゆっくりと深呼吸すると、答えた。
「…そうです」
私の考えは、全て当たっているのだろう。
No.3 青い争い静かな世界
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
いつものように私を迎える柔らかいナツキの声、私は肩にオウムを乗せたまま靴を脱ぎ我が家に足を踏み入れ、憩いの場へと向かう。
「今日はご飯、お風呂どっちにするの?」
「ご飯、あと、今日はお客さん」
そう言いながら憩いの世界への扉を開け、ソファーにゆっくりと座る。オウムは肩に乗せたままだ。結局、私の問い掛けに答えてから一言も喋っていない。それはオウムに相応しない静かなものだった。
「あら、どちらさま」
ナツキがタオルで手を拭きながらこちらへ急いだ様子でやってきて、私の姿を見ると目を見開いて停止する。電源をOFFにしたように、全く動かないで停止した。
……ナツキが停止した状態で4分が経過した。その間私もどうすれば良いか分からず、動かなかった。オウムも同様だろう。
この静かな空間で、やっとナツキが口を開いた。
「カイさん、鳥使いか何かに転職したんですか」
すんごい真面目な顔でそう言われたもんだから、私はもう爆笑するしかなかった。オウムも弾けた様に人間の笑い声で笑った。
ナツキはようやく気付いたようだ。人と話すのが好きな彼女はいつも居る私以外の誰かが家に来ると妙にテンションが高くなったりする。今も、声が弾んでいる。
「そうですか。そのオウムの人は、一度死んだんですか」
オウムはハッとしたようにナツキに顔を向け、私の肩から離れテーブルに着地する。
「なぜ分かったのですか」
「私も、そうだもの」
笑って言ったナツキの一言に、オウムは何も反応できなかった。恐らく頭の中で色々なものが渦巻いて処理できていないのだろう。仕方ない、私が説明してやるとしよう。
「あのね、ナツキは元々私の付き人でね。死んだんだ、私の代わりに。漫画みたいに私の身代わりなって、拳銃の弾でね。で、葬式の日、お焼香を上げて帰ろうって時に会ったんだ、今のナツキに」
「あの、幽霊だったのか! と驚くよりも私はカイさんの家庭がどうなっているのかが気になってしまう」
私は微笑むだけで答えなかった。どうやらオウムは軽口を叩く程度に落ち着いたきたようだ。
「さて、今度はあなたに教えてもらわないとね。あなたはどんな人だった?」
「あなた達は謎だらけですが、まぁ気にしません。私は…」
オウムが話すには名前は原口タキ、性別は男、年齢は27職業は大工、交通事故で死亡したという。気付けば自分はオウムになっていたとも話した。
私はそこんとこ少し説明してやるとした。
「人間は死んだら何になると思う?」
「突然ですね。私にはわかりません」
「私が考えるに、人間は死ぬと原子よりも小さい『何か』になり、再生まで世界をうろうろする。簡単に言うと転生ね。そして、たまに、本当にたまに自分と他の生物の『何か』が反応しちゃう事があって、その他の生物より『何か』の数が大きい場合、自分と他の生物の『何か』が入れ替わりになってしまう」
「え、じゃあ彼女も」
オウム、いや、原口はナツキを向いてそう言う。
「いえ、私は誰にも。聞きませんでした? カイさん霊感が物凄いんですよ。で、私が見えて、その事をカイさんはお父さんに言ったらしいんですよ。あ、お父さんってカイさんのですよ。そしたら、そのお父さんも霊感強いらしくてその『何か』が最も強く作用する所に家を建ててもらって」
「一体どういう家庭…」
「ヤの付く自由業です☆」
ナツキは笑顔で、なぜかとても嬉しそうにそう言った。あんまり公言しないで欲しいのだが、ナツキはそれに誇りを持っているらしい。
ふぅ、と一度息を吐き、久々に長く喋った口を休ませる。しかし、そう長くも休ませられない。
「…今日、言いたい事があってあんな事をしました」
「だろうね。脳梗塞で倒れるっていくらカイの母親の声真似したって、電話なりすればすぐにばれるし、短い時間ですむこったろうと思ったよ」
「はい。私は、成仏したいんです」
「はい?」
予想外の言動に私はうろたえて変な声を出した。
オウムの姿とは言え、人間の意識があるのだ。なぜ成仏したいのか? 私には理解不能だ。
「何で成仏したいんだ」
No.4 草を掻き分け次へと歩む、茨に体を蝕まれながら
オウムは、なぜだか分からないという感じで私に問い掛ける。
「え? 何でですか?」
「何でって。あなた、成仏するって事は消えちゃうってことだよ。確かにそんな姿だけど人間の意識があるじゃない」
「別に消えてもいいんですけども」
飄々と語るオウムは以前嘘は嫌いと語った通りに本気な声色だった。なぜだ? このオウムは自分が消えてしまうのが怖くないのか? 恐くないのか? 私は怖い、恐い。
「何で? こわくないの?」
「当たり前でしょう。あなたが言う『何か』は様々な所をさまよいながら存在するんですよね? という事は成仏したらその『何か』になって生き延び続けるのでしょう?」
「そんなの正確には分からないよ」
私がそう言った時、とてつもない音が玄関の方から聞こえた。バタン! というレベルではない、マネキン人形を思いっきり車で撥ねたような音、それとほぼ同時に私の知る声が聞こえて来た。
「先輩! どういう事ですか! 実家に確認の電話を掛けたらお父さんはぴんぴんしててそれに驚いて取りあえず家に帰ったら鍵しまってるし大家さんに無理して頼んで開けてもらって部屋に入ったら『全ては高島カイに聞け』って書置きがあるしもう何がなんだかちんぷんかんぷんのさっぱりでもう本当にどうしようどうしようって無性に不安になりながらタクシーに乗ってぎりぎり覚えてた先輩の家に着いたら結構お金かかってるしふざけてるとしか言いようがないこの展開をどうしろと言うんですか!」
「とりあえず落ち着け」
「落ち着けるわけが……」
「あ、平清盛だ」
「えっ! どこ? ファンなんです!」
早口でまくしたてながらカシが我が家に上がりこんでくる。私は疲れたのでソファーに座って動かなかったが。
今までに私が聞いた中で彼女が一気にこんなに喋ったのも初めてだ。恐らく頭の回転が追いつかないのだろう。それにしても、『全ては高島カイに聞け』とは一体誰が。
そこまで思って今テーブルの上に乗っているオウムが何やら視線を寄越しているのに気付いた。オウムの姿でよく字が書けたもんだ。何とか平清盛で気をまぎらわせて落ち着かせる事が出来たようだが、呆気にとられて立ち尽くすナツキに気付かず、荒い息を吐きながらカシはどすっと私の横に座る。
「嘘かよ……」
「そう気を落とさないで。そして、落ち着いて聞いて」
私は事の顛末を話そうとしたが、オウムの、いや、原口タキの言葉に遮られてしまった。
「初めまして、私は原口タキといいます。27歳男で大工をやっていました」
「ハヤ、何言ってんの?」
原口は少し間を作って、ゆっくりと、その言葉が少しでも分かりやすく通じるようにと思ってだろう。ゆっくりと、緩慢に言葉を発っする。
「私はオウムではありません。元人間です」
その言葉を受けとめて、カシは静かに笑ったようだ。
そして、誰も、恐らく推理小説を読み慣れた人でも、世界の神でも、本当に誰も予測できないような一言がカシの口から飛び出した。
「知ってました。ずっと拾ったときから」
沈黙
沈黙
静寂
静寂
音の無い無音領域がここに生まれた。一般的に心霊現象と呼ばれる無音領域、誰も、口を開かなかった。
沈黙
静寂
冷蔵庫のウィーンって音だけが聞こえた。
沈黙、そして静寂。
そして、それを私が破った。
「どういう事だ?」
何の捻りも無い一言、でも今はそれしか言えなかった。
「私、霊感とか無いんですけど人の雰囲気が、その人のシルエットみたいなものが感じられるんですよ」
「それだけでですか」
原口が半ば呆れた。と言うように首を人間の動きでこきっこきっと動かし、溜め息を吐き出しながら呟く。
「だから目の前で着替えや風呂上りバスタオル一枚とかが無かったのか……」
「焼き鳥にするよ」「ミディアムだよ」
私とカシの恐らく本気だろう原口に対する突込みで少しはその場が和んだ。場の空気を変えるため、そういうチャンスが欲しかったので見事に息のそろった突っ込みになったのだ。
「なるほど、だから気付いたのか」
「はい、最初は気付かなかったんですけど」
「よく気付いたな」
今度は、私が恐らく推理小説を読み慣れた人でも、世界の神でも、本当に予測できないような一言を発した。
「私が人間じゃないと、よくわかったな」
カシが小さく頷いた。
原口は状況が理解できているのかいないのか私を凝視する。
ナツキは優しく微笑んだ。
No.5 心に非ず、悲しみを知る
「先輩には隠し事できないですね。何でわかったんですか?」
「ちょっと待って下さい、一体どういう事なんですか」
一人だけ理解が出来ていない原口が割って入ってきた。その様子は混乱していてオウムのような動きで首をきょろきょろと動かしていた。
「どうもこうも無い。言った通りだ、私は人間ではない」
「えっ、じゃぁ一体何者なんですかあなたは。確かに常人離れした感じはありましたけど」
「ていうかあなたが驚くのに疑問を感じる。自分の格好見てみなよ」
「誤魔化さないでくださいよ!」
「…先輩、私も漠然と分かるぐらいなんです。説明して頂けますか?」
仕方が無い、自分で言うのも嫌なのだが説明するとしよう。
「私な、ぶっちゃけ元々人間でもないんだよ。猫だったんだ。ずっと主人に可愛がられてた黒猫だった。それと、主人はなぜか私の言葉、つまり猫の言葉が分ってた」
二人は目を見開き私は凝視する。声も無く驚いているようだ。
「ある日、その主人の娘が、その時は小学生中学年だったな。私を連れて散歩をしてた。そしたら突然彼女は倒れた、左胸からは綺麗に赤い血が地味に流れてたよ、即死さ。私はそれを主人に伝えに行った。その娘も私を可愛がってくれてて、泣きたくても泣けなくて鳴くしかなかった。私が伝えると主人は一人娘の凶報に裸足で駆けてきたよ。泣きながら主人は娘を抱いていた、声を上げて泣いていた。主人を知っている人なら信じられなかったろうよ、主人は誰にでも厳しくて鬼の佐取と呼ばれてたぐらいなんだ」
そこまで言うとふぅ、と一つ息を吐き自分を落ち着かせる。
「天文学的な確率だと思う。私の『何か』が一人娘の『何か』と共鳴して気づけば私は彼女になっていた。左胸の血は止まり、つい先ほどまで私だった黒猫の左胸から血が流れ出ていた。その死んだ一人娘の名前は」
空気が緊張して緊迫して重くて暗くて辛くて私は言葉を吐き出した。
「高島カイ」
全員が、息を呑んだ。いや、ナツキだけは微笑んでいる。
「それにしても、ついに賭けに負けちまったなぁ」
私は必要以上に明るい声でそう言った。この重い空気はどうも苦手なのだ。
「賭け?」
「賭けって何です?」
原口とカシがほぼ同時に問いかける。
「賭けたんだよ。10年前に、そこに居るナツキと」
「え? ナツキって誰です?」
カシはナツキが見えないようでキョロキョロと周りを見渡す。私が人間ではないと言うことを感づいていたのにナツキが見えないなんてアンバランス過ぎる。
「ナツキは私のぼでぃガード、正直言っちゃえばお世話係。見えない? 彼女ももう死んでる。この中で最も幽霊に近いかな、足あるけど」
「えぇ? 見えませんよ」
「まぁいいや。ナツキは28歳程度の美人なお姉さん。今は微笑んで私を台所の方角から見てる」
「いや、それよりも賭けの話をして下さい」
原口が割り込み、話の催促をする。そんなに急かさなくてもいいのに、この鳥類め。
「賭けたんだよ。私が人間じゃないとばれたら、一緒に『何か』になるってな。簡単に言えば成仏かな」
カシが半ば呆然とする。
ナツキは更に微笑を深く。
原口はまるで反論するような口調で、言った。
「先に私を成仏させてください」
あぁあ、何だか大混戦だ。
カシが完全に呆然とする。
ナツキは変わらず無言で微笑む。
原口は私の答えを待つ。その答えは。
「皆一緒に逝こうか?」
という半ば自暴自棄となった私の提案だった。
Next no.6 生の道を折ってまで、貴方はそこに逝きたがる
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2004/07/01(Thu)01:26:26 公開 /
髪の間に間に
■この作品の著作権は
髪の間に間にさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
no.5 混乱絶好調 テスト直前の夜というか今日なので色々な意味で混乱大絶頂
連載ものです。
喋るオウムから物語は発展します。
皆さんどうか批評感想お願いします。
でも小心者全速力な私なので言葉遣いはどうか常識内で。
※樫→カシへ変更の為更新
※誤字訂正の為更新
蘇芳さん、感想ありがとうございます。 母母母・・・・・・(誤字ではありません 今回ダークになってしまいました。ねぇ、もうちょっと今回ギャグ入れたほうがいいんじゃない?←髪の声 本当にもう佳境です大きな盛り上がりを見せずこの雰囲気のままだーらだーらと終わる可能性大w ナツキさん今回何も喋ってなぁい!w
若葉竜城さん、あはハハハはハハハははハは(壊)しまった。性別記入を忘れてた。ご指摘ありがとうございます。私の書くやつって比較的中性的なのが多いので。
ナツキさんですが、彼女は人前では妙に喋りたいタイプな人間なのです(笑) そういった所、少々直させていただきました。
オレンジさん、読んでいて気持ちの良い文章と言われるととてつもなく嬉しいですな。no.3で大部分の謎が解けました。次で終わるかも。
笑子さん、二度目の感想をありがとうございます。うぅ、笑子さんまで褒め殺し、矛盾しないで読めるというのは嬉しいですが今回の更新で矛盾点が出てきたかも。←確認しろよ(笑
卍丸さん、三度目の感想をありがとうございます。 文学的……そうなのだろうか?(笑 最後の驚かす所は 「よし、最後に何か一発驚くのを入れよう」 という事で突発的なあいでぃあによるものです。いつも行き当たりばったり、いい加減それをやめたい私でしたw