- 『刀一本道―第二話―』 作者:流浪に / 未分類 未分類
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第一話
時は江戸…
帯刀した者達が死と隣り合わせに生き…
帯刀をしてない者達は…常に刀に怯えながら生きていた時代…
――この物語は…
色んな人が生活する町『織町』に
一人の武士が流れ着いた事から始まる――
「ハァ…、ハァ…。」
一体…どの位歩いたのだろう…
俺は…このまま死んでしまうのだろうか…
武士は、鈍い頭で考えた
小さな思いが生み出した旅だった――
世界に出て…
色んな刀を見たかった…
色んな人達と友達になりたかった―
時には、刀を抜かなければならない時もあるだろう…
それでも…
武士は世界を見たかった――
「ハァ…、ハァ…、ハァ…。」
ドサ…
ついに武士はその場に倒れた
もう直やってくる死を待ちながら…
目を瞑った――
死に行く侍を現世に呼び戻したのは
綺麗に…
青空の様に澄んだ声だった
「……大丈夫ですか?」
………
…………?
誰だ…
俺に声を掛けたのか…?
……一体誰が…
「あの…、大丈夫でしょうか?」
武士はゆっくり目を開けた
そして声のする方向へ目を向けた
少女だった
握り飯を持った少女が立っていたのだ
武士は握り飯に飛びつきそうになったが、
はやる気持ちを抑え
尋ねた
「……俺に…、何か……用…か?」
「あの…、よければ…食べませんか…?」
……夢でも見ているのだろうか…
俺に…、握り飯を…
「………」
「どうぞ。」
少女はニコリと微笑んだ
武士は黙って握り飯を手にとった
一つ目はむさぼる様に食べ
二つ目は三つ目と一緒に口に入れ
四つ目は一口一口よく噛んで
五つ目は味わいながらゆっくり食べた
五つ全て食べ終えると
少女に頭を下げた
「すまん…。助かった…!」
「いえ。」
少女は笑顔を崩さずに答えた
「……この礼に何か出来る事はないか…?」
「………。」
少女は暗い顔をし
俯いた
そして直に顔を上げ
こう言った
「……父を助けてくれませんか…?」
「……父を…?」
「………はい…。」
少女は近くに置いてあった木箱に座った
武士も隣に腰掛けた
「助けるとは…?」
武士は首をかしげた
……すると、少女は重い口を開いた
「父は…奉行所の役人をやっているんですが…、最近…父がやくざ達に命を狙われているんです…。」
「……やくざに…?」
「はい…。そのやくざは…、最近力をつけ始めた…『常紋組』の人らしくて…。この町周辺を支配しようと目論む『常紋組』にとって、この辺りを仕切る奉行所の人間は邪魔な存在…。だから、奉行所の重要人物である父を殺す事で…一気に勢力をのばすつもりなのでしょう…。」
武士はアゴに手を当てた
そして腰にぶら提げている刀に目をやり
決心した
―――俺は武士だ
武士の刀は他者を殺める為ではなく
まもる為の刀だ―――
「ウム。握り飯の礼だ。そのやくざ共から、お主の父を救おう。」
「あ…、ありがとうございます…!」
「いや、礼を言うのは俺だ。死に掛けだった俺を助けてくれたのだからな。」
場面は変わって――
ここは『常紋組』の屋敷
「ウイッ…!」
背の高く、腕の太い男が酒を飲んでいる
周りには、やくざが数人取り巻いている
『常紋組』の頭だろうか…
「奉行所の白川は始末したんだろうなァ?」
男はドスのきいた声で、唸る様にそう言った
「い…、いえ…!そ、それがまだ…。」
やくざの一人が額に冷や汗を浮かばせながら言った
「手前ェ!ふざけてやがんのか!?」
男は太い腕でやくざの首を掴んだ
「ひぃ…!」
「奉行所を止めねえとウチの組が無くなっちまうだろうが!!あァ!?」
「し…!しかし…!白川の野廊、いつも後一歩のトコロで逃げやがって…!」
「黙れ!この役立たずが!奉行所の重要人物の白川を始末すれば、ちょいと別の道から奉行の息の根を止める事も出来る…!……わかってんのか手前ェ!!」
「は…、はい…!解ってます!だから…、命だけは…!!」
男はやくざの首から手を離し、腰にぶら提げている刀に手を置いた
「役立たずは要らねェ!!」
「お助け…!」
男は刀を鞘から抜いた
抜刀したと同時にやくざの首は飛んだ
その恐ろしく早い鞘走りに、
斬られた相手は、自分が死んだ事にすら気付かなかっただろう…
「ち…、ぐずぐずしやがって…。次は成功させるんだろうなァ!?」
男は残りのやくざを睨みつけた
「へ、へい!も、もちろん!!」
「じゃあ早く行かねェか!!」
「へ、へい!!」
やくざ達は凄い速さで屋敷を出て行った
前を走るやくざを押しのけてまで急いだ
「……ふん…。愚図どもめ…。白川を殺った後も、仕事は在るってのによぅ…。」
そう呟くと男は座布団の上に座り、再び酒を飲み始めた
「さあて…、この辺りをしめたら、次は何処を狙うかなあ…?ふふ…、はは…!はーっはっはっは!」
―――――第二話―――――
刀にも色々な種類がある
今回は最初に刀の説明をしておこう
『上段構え』
その名の通り上に腕を上げて構える
戦いの際は振り下ろす様に相手を斬る
名刀に『村雨』、『和合』などがある
『下段構え』
下に腕を構える
コソコソと動き回るのに便利
下から斬り上げる様に使う
名刀に『胡蝶』、『清水薔薇』などがある
『脇差』
一番軽い刀がこの種類
持ち運びに便利
ある程度力があれば、小さな子供でも使用できる
だいたい帯刀しているものは
脇差と他の種類の刀を帯刀している
名刀に『義知』、『河部』などがある
『居合刀』
常に刀を鞘に収めておき、
いざ、という時に素早く抜ける造りになている
名刀に『抜刀鬼』、『竜顔』などがある
『二刀流』
両手に一本ずつ刀を持つ
刀は重いので、
使うには腕力とそれなりの技量が必要
名刀に『風神雷神』、『金山銀山』などがある
『片手刀』
片手で使える軽い刀
ひ弱な男でも使用できる
素早い攻撃が可能
名刀に『紅大吟醸』、『色即是空』などがある
―――――――
暗い森の中…
焚き火がパチパチと音を立てている
それを囲むように座る数人の少年…
「さて…、次はここから北へ真っ直ぐ歩いた“織町”に行く。」
少し背の小さな少年が口を開いた
少年の言葉を聞いた周りの少年は目を丸くした
「織町と言やあ…あの常紋組が仕切ってる町じゃねェか?」
「そりゃあちょっとマズくないか?」
「織町に行ってどうするつもりだよ?常紋組に目ェつけられるじゃねェか?」
すると先ほどの少年は口元に微笑を浮かべた
「僕達は盗賊…。当然、盗みに行く。」
「…………。」
辺りを沈黙が支配した――
…………
…………
しばらく周囲の様子を覗っていた先ほどの少年がゆっくりと口を開いた
「お前らは何の為に帯刀してるんだ?当然戦う為だろうが。」
「……わかった…。」
一人がそう呟くと、少年達は刀を帯刀しなおした
「行こう!」
「おう!」
場面は変わって……
――織町…
「お主が私の用心棒を…?フン…。」
「お…、お父さん…!」
腰に携えた名刀『和合』…
綺麗な『はかま』を穿き
生地の良い着物を纏っている
……明らかに奉行側の人間…
「こんな何処の馬の骨ともわからん奴に私の命を預けられるものか!」
「この刀に誓う。アンタは絶対に俺が守ってみせる。」
「お父さん…、この方の腕を信じて…。」
「ぬう…!!くくく…!!」
奉行所の人間『白川 正造』は、唸る様に侍を睨みつけた
「お主…!名前は…!?」
「……土井 剣太郎。」
「流浪人か…!?」
「いかにも…。」
「フンッ!!去れ!!流浪人に助けられるほど私は弱くないッ!」
「ぬ…!」
その頃…
町ではやくざ達が集まっていた
「あったぜ…。白川の家だ…。」
「今回が初めてだよな?俺達が白川の始末を命じられたのは…。」
「ああ…。家を探すだけでも一苦労だったな…。」
「今回成功させねえと、親分にぶっ殺されるぜ…!」
「その位わかってる!!」
そう言って町人の間を縫う様に白川の家に近付き、
戸に手を掛けた
「邪魔するぜぃ…。」
つづく
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2004/05/07(Fri)22:08:02 公開 / 流浪に
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■作者からのメッセージ
二話目で登場した刀
上段構え『和合』
帯刀者『白川 正造』