- 『片方のピアス 一話…二話』 作者:明 / 未分類 未分類
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原稿用紙約9.7枚
――――プロローグ――――
朝、起きて見た光景は……変わり果てた父の姿。
目の前には、殺風景な暗い部屋に一本の縄。横に倒れている一脚の椅子。そして、一枚の紙。
紙には丁寧な字でこう書いてあった……『遺書』
一話
ある田舎の浜辺を歩いている少年が一人。
少年の名は「五十嵐 孝輔(いがらし こうすけ)」親子3人で楽しく暮らしていた、普通の少年。10年前……6歳のとき母親は病死した。それからというもの、父親と孝輔、2人で暮らしてきた。父親は、以前より孝輔と接するように、いい父でいるように、孝輔に優しくときには厳しくしてくれた。それでも、母親が死んでからというもの、悲しさのあまり、毎日酒に明け暮れた。
その結果、父親は……アルコール中毒……になっていた。
何回も入退院を繰り返した。酒を止めようとも思ったのだが、止められなかった。ついに、『俺はもう駄目だ。生きていても何の価値もない』そう思いつめたのち、あの部屋で首をくくって死んだ――。そう、父親は、闇に包まれこの世を去った。
そんな孝輔、今16歳。何を思ってこの浜辺を一人、歩いているのだろうか。その顔は無表情……いや、今にも死にそうな顔だ。そんな顔をして、ただ、ただ、歩く。
そして、歩いてる孝輔の手には、一枚の紙がしっかりとつかまれていた。
一枚の紙……それは紛れもないあの、父親が書いた遺書だった。
あの朝……死んだ父親を発見した孝輔は、すぐに、へたれこんだ。
「………っ」
声もでない。
「っ…ぁ……父さんっ……」
パニック状態になっていた。そんななか、目の前にあった紙を発見した『遺書』無我夢中で丁寧にたたんであった紙を開き、読んだ。これもまた、丁寧な字で書いてあった。
『遺書
孝輔へ
ごめん。父さんの病気は、どうすることもできない。
この病気のせいで、孝輔にもたくさんの迷惑をかけた。こんな父さんがいたら、孝輔にまた迷惑がかかる。また、これ以上迷惑をかける。
父さん分かるんだ。このまま月日がたつと、父さんは父さんでいなくなる。父さんの心は壊れる。孝輔に、なにをするか分からない状態になる。
そうなる前に……母さんのところへいくよ。
こんな父さんに父親なんて言う資格はないのかもな。
孝輔、ごめん。ごめんな。
お金は、貯金に入ってる。心配するな。
孝輔、お前は本当に優しいやつだ。どれだけお前に救われたことだろうか。母さんが亡くなって、悲しい思いをさせた。それでも、お前は。強く・優しく育ってくれた。父さんのわがままを許してくれ。孝輔、愛してるよ』
――遺書もところどころ滲んでいた。これは、父親の涙なのだろう――
「……父さん!!父さんっ!!!」
涙が止まらない。無限にながれてくる。父さんを支えてあげられることができなかった。自分はなんて無力なのか、自分を呪った。
そのとき、遺書に重なって、紙がもう一枚あることに気がついた。
泣きながら紙を見る。目がにじんでいて、はっきりと文字が見えない……涙をぬぐって、見た紙にはこう書いてあった。
『最後に、このピアスを絶対につけておくんだ。このピアスが、これからのお前の将来を導いてくれるだろう。』
その言葉の下に、ピアスがテープではりつけられていた。そのピアスは、沖縄の海のような綺麗な蒼色だった。
とりあえず、その場はピアスをポケットにいれて、また、泣き崩れた。
その後孝輔は、市役所の人にたのんで、父と二人だけの、静かな葬式を行った。そして、ピアスのことを思い出した。孝輔は、今までピアスをあけたことは一度もなかった。ちゃんと、専門のところで片方だけ穴をあけてもらって、あの蒼色のピアスをつけた。
そして今、浜辺を歩いている。
将来を導く…か……。孝輔は考えていた。
これから、どんな未来がまっているのだろうか。孝輔は、ひたすら歩く……。
二話
孝輔は今日も、歩き続けていた……。
いったい、何日歩き続けていたのだろうか。いろんな所を歩き続けていた。そう、父親のこと、ピアスのことを考え続けながら――
一日の食料は公園の水だけ……。お金は一銭も、持ち歩いていなかった。
バタッッ
ついに孝輔は道端で倒れた……
――「………」
目覚めたとき、真っ白い天井が一面に広がっていた。
「…ん。俺……?」
「あ!目が覚めた?!」
目覚めた孝輔に、声をかけてくれたのは看護婦さんだった。
「孝輔くん、栄養失調で道端で倒れたのよ。通行人の方が病院に電話してくださったのよ。何日も食べていなかったんですって?」
さすが、看護婦さんだ。お見通しってやつだな。と孝輔は思う。
「あ。まぁ……」
「ちゃんと、ご飯は毎日食べないとね。じゃあ、何かあったら、このナースコールでしらせて下さい」
そう言いながら、看護婦さんはナースコールを見せる。
「はい」
孝輔は、その白く、透き通るような声で返事をする。
「では、お大事に」
ガチャ
看護婦さんは部屋からでていった。
ハァ……大きなため息をつく。そして、部屋を見回した。孝輔が入院しているこの部屋は4人部屋で、孝輔の他に、70代くらいのお爺さんが一人、そrえと、40代くらいの中年の男性が一人いた。もう一つベッドがあいていたが、今は誰もいない……。しかし、多分小さい子がいると思われる、絵本がベッドの上においてあった。
父さんも、こんな感じな場所で入院してたのかなぁ。孝輔がそう思っていたとき、
ガチャ
また部屋のドアが開いた。そして、小学生くらいの女の子が部屋に入ってきた。この子が、もう一人、この部屋の患者なのだろう。
「おお!!!春香ちゃんおかえり」
この女の子に話かけたのは、70代くらいのお爺さんだった。
「うん。春香、もう迷わずに一人でトイレいけるんだよ!!!」
ものすごい可愛い笑顔で返事をかえしている。
すると、中年の男性が口を開いた……
「春香ちゃんも帰ってきたし、新入生も目覚めたことだし、皆で自己紹介しません?」
新入生とは、孝輔のことだった。3人とも、孝輔のベッドに集まってきた。最初に話しかけてきたのは、言い出しっぺの中年の男性だった。
「まず、私から。佐藤 敏彦(さとう としひこ)と申します。腰を悪くしてこの病院で入院してます。よろしく」
「わしは、中今 喜一朗(なかいま きいちろう)じゃ。とにかく、よろしくな」
お爺さんが言い終わった。最後は、あの、女の子のばんだ。
「えっと、春香は、山崎 春香(やまざき はるか)って言います。小学2年生だよ。よろしくねお兄ちゃん」
お兄ちゃん……そんなこと言われたの、小学校以来かもしれない。一人っ子の孝輔には、お兄ちゃんと言われたことが、少し、照れくさかった。そして、口を開く。
「うん。皆さんよろしく。僕は、五十嵐 孝輔って言います。少し、人見知りがありますが、どうぞ、お願いします」
パチパチパチパチ!!!
歓迎の拍手が部屋に響きわたった。いい雰囲気の病室だ。
その後、すぐに春香ちゃんが孝輔ところに絵本を持って駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん、読んで!!!」
笑顔で言った。孝輔に絵本を読んでもらいたかったらしい。
「いいよ!!!」
孝輔も、笑顔で答えた。
「じゃあ、読むよ」
「うん!!!」
そして物語が始まる……
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2004/05/07(Fri)21:33:21 公開 / 明
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■作者からのメッセージ
二話目、遅くなってしまいました。
それと、少し短いかもしれません……。一話、一話が短いですかねぇ…((?
三話目は、物語から始まります。よかったら、また見てください!!!
では、感想・意見待ってます。