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『桃色のケロイド』 作者:Cano / 未分類 未分類
全角2413.5文字
容量4827 bytes
原稿用紙約8.6枚
精霊になった彼はあたしのおでこに冷たいキスをして
空に旅立った
あたしはその場に立ち尽くし 彼の触れた頬に触れ
今のは幻覚だろうか
でも確かにあたしはこの目で彼を確認し、この身体で彼を感じた

去年の暮れ、
あたしは 友人達の誘いを断れずに飲み会に行き、そこでコウと出会った
彼は軽々しいタイプであたしはどうも合わないと思った
なのに なぜか彼の一言一言には
あたしが思春期に考えた問題の答えを次々に教えてくれていた
あたしは中学2年の時に父親を事故で亡くした
どうして人は死に直面しなきゃならないか それを必死に考えた
何故そんなに悩んだのかもわからない
だけどその答えを知りたかった
すると彼はあたしにこういった
「人の死を見つめる事は 自分自身を見つめなおすことができるから。
だからたぶん あんたは それを考える事によって
こうやって生きる事ができる。」
それを聞いた時 あたしはただの憶測だと彼を罵った
すると彼は怒るでもなく涙を流すのでもなく
微かに笑って
「そうかもしれない」と呟いた
「現に俺は 人の死をこの目で目撃しても 何もかわることはできない。
だけど 俺は自分が変われると信じたいんだ」
あたしは彼の一点を見つめるような 鋭い瞳をじっと眺めていたら
彼はあたしの目と焦点を合わせて
「あんたの目には俺が映ってる、俺の目にはあんたが映ってる、だけど死者の目には自分は映らない。その代わりに死者の瞳に映った自分を自分で見つめる事ができる」
あたしは彼の言った言葉の意味がわからなくて
適当に返事をした
彼はそれを察したのか 静かに笑い フォークで皿の上に盛られた料理を突き刺す
すこしの沈黙の後 彼は口を開いた
「店を出よう」

彼と一緒に店を出て あたしはしだいに彼が ホテル街に向かっている事を悟る
カッコつけたことを言っていても所詮は男。
やっぱりあたしの答えを導きだしてくれるような人なんて幻想だったんだ
あたしの予想通りに彼は 脆そうなホテルの一室に入る
部屋に入ると彼は あたしの服を脱がしあたしを愛撫する
あたしが彼の背中に触れた時 あたしは一瞬手が怯んだ
未だ残っている指先の感覚には
大きな火傷のような跡、あたしが問いただそうとしたとき
彼は既にあたしの唇を占拠し あたしは口を開く事ができなかった
彼に抱かれながらあたしは気がつく、
彼はただ欲求を満たそうとしているのではない
身体を繋ぐ事で心も繋ごうとしているのだ
彼はあたしに 全ての完全な答えを贈ろうとしてくれている。

それから数日後 あたしは彼と再び食事をしていた
相変わらず 会話の少ないデート
そう思っていると 突然口を開く。
「高校の時、家が焼けてできた傷。」
「え?」
「この前 言いそびれたんだ 背中の火傷」
それから彼は いつものように時々笑顔を見せながら
その火事で両親と妹を失った事を話した
高校を卒業するまで 祖母の家で暮らしていたが
彼の卒業を目前にして その祖母が他界。
「俗にいう 泥沼ってやつ?」
そこまで言い終えると彼は ワインを一口飲み、また喋りだす
ろくに会話も 無かった家族を亡くした事より
自分を最も愛してくれた祖母との別れのほうが悲しかった。と
あたしは この前彼が言った言葉の意味が少しわかったような気がした

真っ黒な闇の空で 自分の存在を確かめ合うように 光輝く星たち。
あたしは また 彼があたしの前に現れないかと 肌寒い外で たたずむ
彼が生前に言った言葉を思い出す
俺は 死ぬとき炎に炙られ、苦しみながら死にたい と
あたしが どうして?と聞いたら
「最後に 父親や母親、それに妹が感じた痛みや感情を 自分の身体で感じたい。
それで もしかしたら 本当の家族って奴になれるかもしれない」
と彼は言った
「せめて あたしの死を看取ってから 家族になって?」
「何年、何十年 待てばいいんだろうな」
彼はそう言って 静かに微笑むと あたしの頭を撫でた
あたしは甘えるように彼の肩を借りる

冗談では無い事はわかっていたけど
まさか そんな早くにあたしを置いていくなんて
思ってもいなかった

彼は自室で自分を焼き殺した
悲しかった、憎かった、
あたしは毎晩彼を思いだしては 泣いてばかりいた
だけどある時、ふと思った
彼の言った 人の死を見つめる事で自分自身を見つめなおす事ができるという言葉。
あたしは 彼の死んだ 焼け焦げたアパートに行ってみた
怖くていけなかったその場所は 想像以上に酷かった
彼は此処で 一人寂しく死んだのだろうか?
眠るようにでもなく、ただ 痛みと苦しみだけの感覚で。
彼は家族を作る為に死んだ。
あたしは 父が死んでから
どうして 父が死ななければいけなかったのか。
どうして 死んだのが父でなければならなかったのか。
もう人生を楽しみきった人ではいけなかったのか。
あたしはそんな事ばかりを考えていて
ほかに変わりは居なかったのかと
何度も何度も考えた。
だけど 彼は両親と妹、祖母を失っても
代わりはいないかなんて考えなかった
ただ 彼らとひとつになる事だけを考えていた
孤独に耐えながらも 自分の配置場所を探し求めていた
星たちのように 自分で自分の存在を表明しようとしていた??
わからない。
ただの憶測かもしれない

「あなたは間違ってるよ。あたしと一緒に家族になればよかったじゃない。
生きてても 充分 あなたは あたしにとって 一番光ってる星だった。
こんな事言ったら あなたに笑われるかもしれない。
口にするのは簡単だって」

あたしはその場で泣き崩れる
すると 青白い物体がこっちに歩いてくる
あたしは 涙を拭いて それを見つめる
それは確かに 鋭い目つきの あの日のままの彼で
あたしのほうに ゆっくり歩いてくる
近づいてきた 彼の身体には 無数の火傷の跡が刻まれていた
あたしは 怖いという気持ちよりも 会いたい気持ちのほうが大きかった
彼にもう一度 抱きしめてもらえる
2004/04/29(Thu)22:00:32 公開 / Cano
http://www2.pf-x.net/~solitude/
■この作品の著作権はCanoさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
暗い話ですみません。
今回は登場人物に名前はあえてつけませんでした
読みにくいかもしれませんがあしからず・・・。
内容もいまいちわかりずらいかもしれません
宜しければ批評お願いします。
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