- 『無色のクレヨン 第一話』 作者:シイナ / 未分類 未分類
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俺の手には無色のクレヨン。
毎日退屈で。
毎日窮屈で。
周りには家族も、執事も居たのに。
オレが知っているのは孤独の色。
――俺の手には無色のクレヨン。
第一話 完璧主義者な優等生
「あの……手紙呼んで頂けましたか?」
太陽が紅く、綺麗に光り輝いて見える夕方。
――体育館の裏。
告白場所にしてはベタすぎるね。
俺としては早く帰りたい衝動だけど、こういった些細な茶番劇にも付き合わないと、『優しい』俺のイメージに傷が付くだろ?
「ああ。読んだよ。だから来たんだけどね」
「そ、そうですよね! あの……好きなんです。一条様のこと」
もじもじと俯きながら真っ赤になっている。まるで林檎状態。普通の男子なら「可愛い」と思うんだろうけど、俺にはまるで効果無しだぜ?……なんて、言葉にはしないけどさ。
チラリと俺の方を見たかと思うと、また俯いてしまった。
「良ければ、付き合って下さい」
やっぱりね。「付き合う」とかってその人の全てを分かってから言うものだろ? 俺の何を分かってるんだろう。反応を待っているみたいだけど、生憎答えは一つしか持ち合わせてないんだ。
「君のことは良く知らないし……それに僕、今は誰とも付き合うこと考えてないんだ。君にはもっと良い人が現れると思うよ。君は可愛いからね」
砂を吐くような甘い台詞に、爽やかに微笑みを浮かべる。既に彼女の頬は朱に染まっていた。
「お時間取らせて……すみませんでしたっ」
彼女は一度微笑み、走り去っていく。それは満足した表情のようにも取れた。
――俺の心の内も知らないのにね。
「……時間の無駄だったよ」
手の中にあったはずの可愛らしい手紙は、グシャグシャになって宙を舞った。
俺の名前は、一条鈴(いちじょう すず)。
名の知れた財閥の次男。だからって何ってことは無いんだけど。だって、この学園で、男女共に認知されているのは俺の努力の賜物だから。批判するのは、ごく一部の人間じゃないかな。
「鈴じゃん。おっはよー!」
無邪気に笑いながら駆けつけてくるのは、無二の友人の新崎茜(にいざき あかね)。その瞳は真っ直ぐで、たまに……俺が凄く汚れてるんじゃないかって思う。
「おはよう、茜。珍しく今日は遅刻じゃなかったんだね」
「アハハ。俺だって毎日遅刻してるわけじゃないよ〜」
茜は俺の前の席に座った。そこが彼の席だから当然なんだけど。
俺の表情が綻ぶのが分かる。計算じゃなくて、自で和ませてくれる奴。良い奴すぎて玉に瑕だけど。
「昨日さ、隣のクラスの佐々木さんに呼び出されてたろ? 付き合うの?」
「断ったよ。でも情報早いね。流石というべきかな」
「『一条様親衛隊』の奴らが言ってたからさぁ。あの子今頃リンチになってるよ、きっと」
ああ、あのフザケタ奴らのことか。
迎えの車が来るまでに俺を囲んだり、少しでも近づく女子をリンチにしたり。まぁ、そのおかげで告白される回数が減ったのは有り難い。色恋沙汰の面倒は嫌いだ。
それはともかく、人は彼女らを、『一条様親衛隊』と呼ぶらしい。隊長が誰なのかなどは、あいにくと知らないけれど。3年の女子が担当していることだけは、間違いないだろう。
「ああ……『抜け駆け禁止』ってやつ?」
「そうそう! ていうか、鈴ってすっげーモテるよね。俺も女だったら放っておかないもん!」
「それは光栄だね」
クスクスと自然に笑みが零れた。
照れないでこういうことを言うのが、彼の良い所だろうとも思える。
「あ、そうだ! 鈴って例の転校生のこと知ってる?」
「……転校生? 知らないけど。どうかした?」
「二年に昨日転校生が来たんだって! その子がすんごーく可愛いんだって!」
嬉しそうに話す茜には悪いけど、その手の話には全く興味が沸かない。
知ってか知らずか、話を続けている。
「その子、柚谷真希(ゆずや まき)っていうらしいんだけど、後輩からは『可憐で清楚で、まるで白雪姫!』って言ってたけど、本当かなぁ? ねぇ、始まるまでまだまだ時間あるし、今から見に行かない?」
「……遠慮しとくよ」
生憎、俺はそういう皆に認知されるような奴とは馬が合わないんだよ。同属嫌悪ってやつかな。
それに、わざわざ俺が見に行くなんてイメージダウンもほどほどだ。
分かっていない茜はぷくっと頬を膨らませている。
「鈴のケチー。良いもん、俺一人で見に行くから!」
「いってらっしゃい。僕は保健室に行くよ」
「具合悪いの?」
「……頭が少し痛くてね」
本当は仮病だけど、優等生で通ってるから誰も疑わない。
大体、一時間目ってどうも眠くなって仕方がないからさ。認知されてるのって特なんだよね。こういうときに。
「じゃあ、報告楽しみに待ってるよ」
爽やかな作り笑顔を浮かべて、教室を後にした。
続く→
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第二話 噂は信じちゃいけません
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2004/04/19(Mon)05:27:39 公開 / シイナ
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■作者からのメッセージ
シイナです。殺人ウイルスの展開に悩んでいて、平和(?)な学園生活を書いてみました。気の向くままに書けて楽しかったりします(笑)気の向くままに視点は交代制だったりします。
一条鈴……十八歳の男。御曹司。自分に自信があると同時に、誰からも認められる完璧な奴。親衛隊が有るほどの人気っぷり。裏表が激しい。猫かぶりのときは「僕」。自は「俺」。同時に「君」から「お前」に変わる。
新崎茜……鈴の友人。明るく天然。単純純粋が似合う奴。良い奴過ぎて時々苦労人。裏表は無し。成績は全然駄目だけど運動神経は鈴と並ぶ程良し。頭は悪いが馬鹿じゃない。