- 『妻よ。』 作者:コヨリ / 未分類 未分類
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午前二時十七分。
私は87歳の男。
息子が一人。娘が一人。
孫は三人いる。
妻には七年前に先立たれ、その後は息子家族と暮らしている。
息子家族はよくしてくれた。孫達は妻を失った私の心の痛みを和らげてくれた。
私は今の生活にも満足している。
だが私は今、妻の元へ旅立とうとしている。
何かをわずらっているわけではない。死因は老衰と判断されるだろう。
私は布団に横たわっているのだが不思議な浮遊感を感じている。
これが魂が抜けるという感覚か。
朝になると誰かが私のことに気づくだろう。
息子達には迷惑をかける。
どうせなら、ひっそりと一人で死ねばよかった。
だがこれから子供達が無事にやっていけるか心配だ。
遺産は十分とはいえないがそれなりの額を残してやれる。
家族同士の争いだけはするんじゃないぞ。
兄妹、家族仲良くするんだぞ。
…。
あぁ、もうお別れのときが来たようだ。
ばあさん。いや、信代。今お前のところに行くぞ。天国で二人仲良く暮らそう。
さらば、息子よ、娘達よ。
……。
思考は薄らいでいき、彼の鼓動はその運動を停止した。
彼はその一生を終え、愛する妻の元へ旅立ったのだった。
ウィーン、ガチャ!
「お疲れ様です。」
「うぅ…。ここはどこだ? 天国か? 信代はどこだ?」
「何言ってるんですか? ここはゲームセンターですよ。」
「ゲームセンター?」
彼の87年間はたった100円のゲームにすぎなかった。 あなたは本物ですか?
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2004/04/19(Mon)03:47:55 公開 / コヨリ
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■作者からのメッセージ
ふと自分の人生が未来のゲームじゃないかと考えてしまうときがあるんですよね。
漫画の読みすぎでしょうか…。