- 『背中の十字架』 作者:ティア / 未分類 未分類
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原稿用紙約5.95枚
殴るのは僕の役、蹴るのは彼の役。
うじうじしたコイツを見ていると、どうしても手を出してしまう。
何度も何度もそんな自分を嫌になり、もう止めようと決心した。
しかし、気が変わったり友達からそそのかれたりで結局僕は、典型的な「いじめっ子」に分類されるのだろう。
その日は夏の中では異常といってもいいくらい涼しい日だった。
僕は遊び半分でいじめっ子仲間のユウを誘い、またいつもどおり放課後にトモキというイジメの標的を、人気の無い体育館裏に呼び出す。
そしていつもどおりトモキが泣くまで暴力を僕とユウとでふるうのだ。
普通なら許されない行為だが、僕とユウにとってはもはやこれが最高のストレス解消方法になっていた。
しかし、この日、妙にユウの方が苛立っていて暴力も迫力あるものだった。
見たことも無い、ユウの本気でキレたような行動に僕もどうしていいかわからず、いつのまにか僕は傍観者のようにただ見ているだけ。
ユウが最後にトモキを大きく蹴り飛ばした。
思いっきりだったんだろう、イジメで打たれ慣れたともいえるトモキも、顔が砕け腹を押さえ涙も出ないという様子だった。
ユウが振り返り僕を見た。先ほどより少し熱は冷めたようだったが、やはりまだ彼の周りにオーラのようなものがある。友達である僕でさえ身震いする。
彼と僕はそれからトモキの苦しむ姿を、近くの台座から眺め、うすら笑っていた。
……酷い奴だな……。心のどこかから僕自身に声が聞こえた気がした。
表通りの車の走る音だけが響く中、苦しそうにトモキがゆっくり顔を上げた。
睨んできた。
驚いた。トモキが僕とユウを憎悪の目で睨みつけてきた。気の弱いトモキが僕らを睨むなんてまったく考えたことも無かった。
そんなトモキの態度、僕はともかくユウは当然それが気にくわない様子で、立ち上がり再びトモキに蹴りをくらわした。
僕はただその様子を……。
笑っていた。
「罰としてここに閉じ込めてやる」と、ユウが嫌がるトモキの首をつかみ運動会用の用具がある倉庫にトモキを閉じ込めた。
倉庫の扉がドンドンと振動し、中から「出してよ」と弱弱しいふにゃけた声が聞こえる。
それを僕とユウは腹を抱えて笑い飛ばした。
僕とユウは必死で泣き叫んでるであろうトモキをよそに、「負けたほうがコーラを買ってくる」と、ジャンケンを始めた。
一発で僕が負け、悔しい顔と憎たれ口をユウに放ち、しぶしぶ自販機にコーラを買いに行く……フリをした。
本当は負けて良かったと思ってる。よくわからないが今日のユウはやりすぎだ……、とてもじゃないが閉じ込められたトモキのいる、あんな気まずい空気の中にはいたくない。
少し走って自販機の前まで来た。財布をあけ小銭をいれコーラをとる。なに、簡単なことだ。
両手に冷たいコーラを持って一つ面白いことを考えた。
このままユウにコーラを渡し、気まずい雰囲気のままでいるより、ちょっとユウと遊んでやろう……。あいつの血の気も引くかもしれないし……。
そう思って僕は左手のコーラを思いっきり振った。
ユウに片方がハズレだ、とでも言い少し遊んでやるとしよう。
そう考えたときだった。
『………………。』
……何か……聞こえた気がした。
低い男のうめき声ともう一つの声…。一瞬後ろを振り返るが何も無く、ただなんとなく聞こえた気がしただけだったので、僕はそのまま気にすることも無く足を進めた。
……体育館裏に帰ってきたら。
誰もいなかった……。
ユウが見当たらなく、急いでトモキの閉じ込められている倉庫を開けてみたが、ただ雑然と赤と白の旗や大きな綱が置かれているだけだった。
僕は無言だった。無言でただ何が来るわけでもないのにその場で待ち続けた。
その時間がなんでもなく、ただ怖かった。気温以上に僕の背中が冷たく感じた。
後日、近くの湖で一人の少年の死体が発見される。
そう、それは紛れも無く……。
その後の捜査にも関わらず事件は迷宮入りとなる。
その事件を知って、僕はほとんど言葉を発しなくなった。それからトモキとは学校で会っても、口をあわすどころか目すらあわすことは無くなった。
僕は迷宮入りとなったこの事件の真相を知っているかもしれない。
でもそれを誰にも話すことができない。
今日もまた教室の隅っこで僕は小さく震えている。
背中に重い何かがのしかかっていた。
Fin
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■作者からのメッセージ
少しブラックな短編です。
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