- 『ゆら揺らり 1』 作者:春 / 未分類 未分類
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原稿用紙約9.45枚
ゆら揺らり 1〜
お金が欲しい。
3000円?ちょっとおかしいんじゃないのお母さん。
洋服って幾らすると思ってんの?
1500円の青のタンクトップでいい買い物って言われるんだよ。
そのいい買い物を2回繰り返すだけで1ヶ月の小遣いが「パァ」だ。
そもそも洋服自体が子供の自腹ってことがおかしいって。
「You'r wrong」だよ。
あと遊園地代も自腹ってやめてほしい。
だってあなたの化粧品で幾らしてると思ってるの?
息遣いが荒い。
心の中で幾ら叫んでもストレスは解消されやしない。
2歳上の姉と共同で使っている部屋のドアを開いて向かって右、
に位置する千夏の唯一のスペースで千夏は息、いや生きを荒げてた。
無意識に貧乏揺すりをすると右足のつま先が、
机の椅子をいれる部分、少し空洞がある場所の奥に当たってそのまま椅子が後ろに倒れた。
「いてぇ……ッ!!」
つま先を抑えてごろんと床に寝る。
無造作に積み上げてある漫画を一冊取ってぺらぺらとめくった。
部屋の大半を占めてる教科書の山。
中学2年生の部屋としてはこの汚さは異常なんかじゃないかと不安になるときもある。
汚い部屋には似つかわしくない白のレースのカーテンから春を知らせる風が吹いてきた。
「春休みつまんねー……」
春休みや夏休み冬休みって、それは帰宅部であるあたしへの挑戦?
友達は皆部活に汗を流している間、暇な時間をどう有意義に使うか。
新学期への予習?今までの復習?
仕方なく一人で買い物や映画を見るようになってからもう8日たつ。
一ヶ月の小遣い3000円をどうやり繰りしても金は足りるはずもなくとうとう底をついた。
部活に精を出す友人達から連絡はない。
鳴らない携帯を開いたり閉じたり。
たらららぁ〜らららったららららっらりら〜りらーらーらー
聞きなれたハイスタの「my first kiss」が流れる。
目覚まし設定?それとも着信?メール?
無意識に携帯に飛びつくとトップ画面に「着信」という言葉が目に付いた。
誰からかも確認しないまま通話ボタンを連打する。
「もしもし!?」
『わっ何どしたの!びびるじゃん』
少し低い声が耳元から聞こえた。
「あぁ。亜由か」
『久しぶりー8日ぶり?元気?』
8日ぶりに聞く友人の声。
同じ帰宅部である少し不良混ざりの亜由は修了式以降いくら連絡しても繋がらなくなっていた。
「普通に暇くさい。遊ばない!?今から遊ばない!?」
『あぁ。あたしも千夏と遊びたかったんだよ。言いたいこともあるし。今からあたしの家の前に集合ね!じゃ!』
久しぶりの連絡。
久しぶりの一人じゃないお出かけ。
あぁ、この前買った青のタンクトップを着て出かけよう。
「早いって」
自転車を必至でこいで到着した千夏の体からは汗が少し出ていた。
そんな千夏を見て亜由は口元を少しだけ動かして笑った。
「いや!久しぶり!うん!見てのとおり元気だよ!いやーどこ行く今から?つってもあたし金ないから原宿とかやめてね!」
「やー!待って待って!!」
ペダルに足をかけると亜由が腕を引っ張って静止した。
口元は何故か笑っている。
こほんっとわざとらしい咳払いをすると亜由は聞いた。
「千夏さんお金はほしくないかね?」
昔の外国の探偵を思い浮かべるその喋り方に鳥肌がたつ。
「は、何」
「だから金欲しくない?って。どうよ。YESかNOでね」
「YES……?」
ハテナ交じりの答えに少しだけ顔を歪めてから亜由は喋り始めた。
「いやーあたしもなかなかお金厳しくてさ。
一ヶ月4000円?そんなの1日で使い終わるって!!でも何かとあたしん家って切り詰めてるからさ。
気づき始めてるんだよ子供だって!だってお母さんのお気に入りの骨董品が日に日に減ってきてるしさ……
あぁなんか切なくなってきた。え?続き?あ、そうそう
でね。あたしなんとかお金が手に入らないかなーと思った訳よ。
でもあたしらバリバリ中学生。歳騙してバイトやるにも遊びたい年頃だし。
縛られる生活って嫌なんだよねー。
それで家のパソコンで調べてみたの。
そしたらライブチャットとかって時給3000円以上!!
だけどカメラで顔ばれるらしくてさ、それは嫌じゃんさすがにさぁー!!」
一旦息をつく。
春というよりも夏を連想させる風がタンクトップから出る腕にそよそよとあたる。
「他にもブルセラとかね……知ってる?下着とか売るやつだよ。
パソコンで掲示板に書き込みして希望者に輸送で送るとか。
あっ!もちろん使用済みじゃないよ。買って履いてないのを何度も洗濯したり汚したり。
だけどその希望者っていうのがねー生脱ぎとか希望したりすんのさぁ。
やっぱり輸送だとばっくれられるから怪しんでるんだと思うんだけど。
でも生脱ぎってありえる!?気持ち悪いじゃん。最近その手で誘拐とか多いし。
だけどあることにひらめいたのさ」
顔を対面させるとにやにやと笑う。
「ホモ」
「……ホモってあの。ホモサピエンス?だっけ?」
「そう確かそんな感じの。男が男を好きってやつ」
亜由は千夏の自転車を脇に寄せると千夏の手をひく。
オートロックの鍵穴に鍵を突っ込むと階段を上りドアを開いた。
長い廊下の玄関から一番近い右側のドアをあけると殺風景の部屋。
パソコンの電源を押すとウィーンとなり一旦黒い画面になってからメニューが並んだ。
手馴れた動作にインタネットに繋げる。
お気に入り、ホモ掲示板と次々にクリックするとトップ画面に大きく「ホモ大好き」と出た。
「何。ここ」
「いやいやちょっと待ちなさい」
カチ、カチと何度かクリックの音がした後あるスレッドにたどり着いた。
「まぁ読んでみて」
青い背景に並ぶ黒の文字の羅列をゆっくりと読み上げた。
「【彼氏の下着売ります。パンツ5000円。すい終わった煙草1本200円。
噛んだアメ、ガム……】」
言葉を濁した。
ホモという存在が気持ち悪い訳ではない。
ただそのサイトの雰囲気が、だろうか。
続いて疑問符が幾つも並んだ。
「亜由これって」
「このレス見て」
[何]という言葉を遮ると亜由はレスを指した。
【4月1日名前;名無しさん
希望→パンツ、煙草4本、ガム2個。で幾ら?買うよ。
住所はメールで送る】
なんとなく。
なんとなくだが亜由の薄い笑いの意味がわかった途端鳥肌がたった。
ただ胸の奥に好奇心が光輝きはじめてることを知らず。
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2004/04/04(Sun)10:55:55 公開 / 春
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■作者からのメッセージ
中学2年生。
好奇心旺盛の貧乏な女の子のお話ですッ
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