- 『幼馴染のファンタジスタ @〜J』 作者:紅い蝶 / 未分類 未分類
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全角22417.5文字
容量44835 bytes
原稿用紙約71.25枚
@『秋の転校生は幼馴染み』
――――初秋。夏の暑さがまだ残っていて、青々とした葉が赤く染まりかけてくる頃。高校に入って二回目になるこんな陽気。
あたしの名前は、鈴森 瑞希(すずもり みずき)。自慢じゃないけど2年連続で「ミス桜ヶ丘」に選ばれた。
そんな9月のはじめ、一人の男子がこの静岡県立桜ヶ丘高校に転入してきた。
その人は男で、黒い髪がサラサラしてる人で、クラスの友達はみんなカッコイイって言ってて、あたしももちろんそう思ってた。
でも勉強が全然ダメ。数学とか中学二年生レベルの問題も解けない。国語もダメ。社会もダメ。物理も化学も何もかもがダメ。
でも、体育だけはすごかった。
女子がグラウンドを暑い暑い言いながら走ってるとき、男子は一学期からの続きでサッカーをやってた。
その中で飛びぬけてうまかったのはあの人。
サッカー部のキャプテンより全然うまくって、みんながビックリしてた。
サッカー部のマネージャーのあたしとしては、この人が入ってくれれば全国も夢じゃない。そう思ったの。
名前・・・・・・なんだっけ?えっと・・・・・・・・。
・・・・・・あっ!思い出した!!
その人の名前は・・・・・・・
相良 雄二(さがら ゆうじ)
って、この人・・・・・・・・あたしの幼馴染だ・・・・・・・。
その日の昼休み。瑞希は一人で購買に来ていた。両親が昨日から2泊3日の温泉旅行に出かけたため、弁当を作ってもらえなかったのだ。
多くの生徒で賑わっているこの購買は近くの弁当屋とパン屋が共同で売りにくる。
どこにでもある普通の弁当屋とパン屋だが、その味は何か光るものがあっておいしい。特にパン屋のほうは毎日主婦や学校帰りの若者で溢れており、職人はフル稼働でパンを作る。売れすぎるせいか、3時頃には材料切れで閉まってしまう。
そんなパン屋と、「あったかい弁当」をモットーにしている弁当屋が低価格で販売してくれているのがこの購買なのだ。
その購買に瑞希も並び、自分の順番を今か今かと待っていた。
並び始めて10分。やっと瑞希の番が来た。スカートの右ポケットから5月17日の誕生日に母親に買ってもらったブランド物の財布を取り出し、購買のおばちゃんに食べたいものを注文しようとしたとき、瑞希の前に一人の男子が割り込んできた。
「おばちゃん!カツ丼とピザパンちょうだい!!」
もともと気の強いほうである瑞希は、その男に文句を言おうと口を開きかけた・・・・・・が、言えるはずも無かった。
相手は3年生でしかも不良。
中学3年生の頃不良の高校生に性的なイタズラをされそうになって以来、不良という存在が怖くなってしまった。
そのことについてはまた今度話そうと思う。
とにかく、そんなことがあったせいで瑞希には何も言えない。
肩より少し長いくらいのきれいな黒い髪をクシャっといじって諦めようとした。
その時、不良が襟足をつかまれ引っ張り倒される。
(誰?)
瑞希がそちらに視線を向けると、そこにはさっき見たばかりの顔があった。
―――相良雄二。不良より少し身長が低く172cm程度。小さくはないが大きいとも言えないその彼が、不良を睨んでいる。
「なんだぁ!?てめぇ!!」
予想通りのセリフ。大体の不良はこんな風に言い返すだろう。自分が言われたらごめんなさいとだけ言って100メートルの世界記録を出してしまいそうなスピードで逃げるだろう。
だが、雄二は逃げるどころか不良の胸倉をつかんで言った。
「あんた、マナーって言葉知らねぇのか?今こいつが並んでたろうが。自己中は嫌われるんだぜ?」
静かだが迫力のある声で言った雄二に対して、不良はもちろんそのまま帰るわけも無く言い返してきた。
「あぁ!?ぶっ殺すぞ!てめぇ!!」
また予想通りだ。ホントに個性が無いというかなんと言うか・・・・・・とにかくありきたりなセリフだった。
そう言って不良が雄二に殴りかかっていく。
顔面に向かってくるその拳をひらりとかわし、鋭いミドルキックを不良のドテッ腹に叩き込んだ。
不良はその後息を乱しながら「覚えてろ〜!」と、またありきたりな捨てゼリフを残して買ったものを置いたまま、クラスへ帰っていった。
「もう忘れた〜」
雄二は明らかに相手を馬鹿にして、ハンカチをひらひらとしながら見送った。
「あ・・・・・・ありがと。雄二君」
瑞希はモジモジしながらお礼を言った。
モジモジしているのは雄二に惚れているからではなくて、幼馴染だということを思い出したからだ。約10年ぶりの再会。照れて当然だ。もっとも雄二はそんなこと気付いていないだろうが・・・・・・。
「いいよ。気にすんなって」
雄二は日替わり弁当を買いながらそう言って、その後教室に戻ろうとした。
それをなぜか、瑞希は呼び止めてしまった。もうお礼は言った。もう用はない。
なのに瑞希は彼を呼び止めた。心のどこかで雄二が本当に自分の幼馴染かどうか確かめたかったのかもしれない。
「なんか用?」
雄二が振り返るのと同時に、日替わり弁当が入った黄色のビニール袋がガサっと音を鳴らす。
「あの・・・・・雄二君って、小さい頃に桜ヶ丘3丁目に住んでなかった?」
「住んでたけど・・・・。なんで知ってんの?あんた、名前は?」
雄二が不思議そうな目でそう問いかけた。当たり前の反応だろう。相手はきっと自分のことを覚えていないのだから・・・・・・。
「あたし、鈴森瑞希。・・・・・・・覚えてない?家が隣だったでしょ?」
その名前を聞いた瞬間、雄二はまるで頭の上に電球でも出てくるかのような表情で、ポン!とグーにした手でもう片方の手のひらを打った。
「お前、瑞希か。いや〜、懐かしいなぁ〜。覚えてる覚えてる」
よかった・・・・・・。自分の予想は当たっていた。そして、雄二は自分のことを覚えていてくれた。本当によかった。
「幼稚園の年中の頃に、石につまづいて倒れたときに顔面に犬のウ○コがべちゃっと・・・・・・・」
―――――バキィッ!!
瑞希の鉄拳が喋っている途中だった雄二の左頬にクリティカルヒットした。
先ほど不良をなんなく倒して見せた雄二の体が3メートルは吹っ飛んだ。
「・・・・・・・・いいパンチ・・・・・持ってんじゃねえか・・・・・・」
前言撤回。
覚えられていて最悪だった。
そんな他人の人生最大の汚点を、こんな公の場で大声で言うなんて・・・・・・・。
「・・・・・・バカ!」
瑞希はそう言い残して教室へと帰っていった。
もちろん、雄二を置き去りにしたまま・・・・・。
A『サッカー部』
目の前に雄二がいる。あたしの初恋の人。といっても幼稚園の頃だけど・・・・・。
あいつは別にあたしのことなんてどうも思ってない。
まぁとにかく、そんな雄二が目の前にいる。
その雄二があたしの肩に手をかけて、目を瞑りながらそっと近づいてくる。
え?嘘・・・・・。ちょ、ちょっと・・・・・・・!い、いきなり・・・・・!?待ってよ!!あたしはまだ心の準備って物が・・・・・・。
――――――幼稚園の年中の頃に石につまづいて転んだときに顔面にウ○コがべちゃっと・・・・・・・。
さっきまで目の前に近づいてきていた雄二が突然離れて、そう言った。
・・・・・うるさい。それは言わないでよ・・・・・。あたしの人生の汚点なんだから・・・・・!!
――――――幼稚園の年中の頃に石につまづいて転んだときに顔面にウ○コがべちゃっと・・・・・・・。
「・・・・・うるさーーーーい!!」
バンと机を叩いて立ち上がった。
「・・・・・・え?机?」
さっきはそんなものなかった。雄二にキスを迫られて、そうかと思えば幼い頃の最悪の出来事をしつこく言われて・・・・。
「どうしたぁ?鈴森ぃ」
目の前に広がっている風景は自分の教室である22HRのいつもと同じ風景。37人のクラスメイトの唖然とした視線。そして担任でサッカー部顧問の桐原 章人(きりはら あきひと)の姿。
そう、さっきのは夢だったのだ。その証拠に自分の机は寝息で少し湿っていて、額は赤くなっている。
「・・・・・夢?」
その言葉を聞いて桐原がため息をひとつ吐いて瑞希に向かって話し出した。
「あのな、鈴森。サッカー部のマネージャーとしてがんばって疲れているのはわかるけどなぁ・・・・・・。テストに関して最重要なことについて話してるときに寝るのはまずいだろ」
「ご、ごめん・・・・・なさい」
謝ることしかできない。それもそうだろう。寝てたのは自分で、しかも大事な話をしている中大声で怒鳴ってしまったのだから。
瑞希が席に座ろうとしたとき、一人の人物が目に入った。
・・・・・・・雄二だ。
前かがみになりながら瑞希のほうを向いてクックックと笑っている。
(夢の中であたしを馬鹿にしておいて、なおかつ現実でもバカにしてくるのね・・・・)
授業中だというのにも関わらず瑞希はズンズンと雄二のほうへ向かって歩いていった。
それを見て危険を察知したのか、雄二は音を立てずに立ち上がって音も立てずに歩いて逃げ出した。
それを追う瑞希の歩調が速くなる。それにつられて雄二の歩調も速くなる。挙句の果てには走り出し、教室の中で二人は鬼ごっこを始めた。
まぁ、2分ほど続いたその鬼ごっこも桐原の拳骨が双方に落ちて終了となった。
放課後の下駄箱。帰宅する生徒とこれから部活に励もうという生徒でにぎわっている。
その中を一人で歩き、自分の靴を取り出すと上履きと履き替えて下校しようとする雄二を瑞希が呼び止めた。
「ねぇ、雄二君。サッカー部に入らない?体育の時間見てたけど、うまかったからさ」
「あ〜、パスパス。俺サッカーに人生賭けるつもりなんてねぇし、それにせっかくの休みが潰れちゃうだろ?やっぱ休みは休みでのんびり過ごしたいわけよ。ってことで却下。じゃあな」
手をヒラヒラさせながら玄関から出て行く雄二の腕を瑞希は無理矢理つかんで止めた。
「待ってよ!じゃあなんでそんなにうまいの!?サッカーが好きで、だから一生懸命練習してたんじゃないの!?サッカー部に入ってよ。そんなにうまいのにもったいないじゃない!」
自分の腕をつかんでいる瑞希の手をそっと引き離し、雄二は一言だけ言った。「あきたんだよ」と・・・・・・。
雄二が去ってから一人で立ち尽くしている瑞希は心の中で文句を言った。
――――あきたわけないじゃない。あれだけうまいってことは、それだけ本気だったってことじゃないの?・・・・・・バカ!
瑞希はしばらく呆然としていたが、そのうちサッカー部のマネージャーとしての仕事を果たすためにグラウンドへと向かった。
学校から東に歩いて約五分。そこには小さいがきれいな川があった。小さい頃、よく瑞希と一緒に遊んだ川だ。お互いの親が見守る中、幼稚園の帰りに二人とも水着になって水浴びした。それは雄二にとって忘れられないし忘れたくない思い出だ。
10年ぶりにこの街に帰ってきたとき車の中からこの川を見たとき、雄二はそんなことを考えていた。
でも今は違う。今は川原に一人ぼっちで座っていた。
その雄二の目からはぽたぽたと雫が・・・・・・・・涙が落ちている。その涙が自分の服を濡らし、目を赤く腫らしていくことなど気にも留めずに、雄二は自分のひざを叩いた。叩いて叩いて叩きまくった。
「・・・・・ちくしょう・・・!!なんで、なんでこんなひざになっちまったんだよ・・・!!」
雄二は桜ヶ丘高校に転入する前、サッカーの名門『清水市立商業高校』にいた。一年生でレギュラーとなり、二年生では春のインターハイで静岡県3位まで行った。だがそのインターハイでひざを狙われ、蹴られまくった挙句の半月版骨折。完治はしたが骨折後も無理して試合に出ていたためあるひとつのハンディを背負うことになった。
「二度と本格的にサッカーはやっちゃだめだ。お遊び程度なら構わないが、無理したときには二度と取り返しのつかないことになる」
取り返しのつかないこと。それはひざが曲がらなくなる。ということだった。歩くことはできても走ることはできなくなる。サッカーはボールを蹴るときなどにひざへと負担がかかる。そのため、本格的なサッカーは禁止と宣言されたのだ。
飽きたんじゃない。できないんだ。やりたくてもサッカーができない。今までサッカーに本気で取り組んできた雄二にとって、それほど苦しいものは無かった。
誰も通らない川原で、雄二は一人で泣いていた。
B『サッカーはファッション?』
次の日の放課後、下駄箱で靴に履き替えている雄二に瑞希が話しかけた。内容は昨日と同じ。「サッカー部に入って欲しい」とのことだった。
もちろん答えはノー。といっても自分の過去を明かし、サッカーができないというのは悲しくなるので言わない。「却下」とだけ言って雄二は帰ろうとした。
「逃がさないわよ・・・・・・」
そう聞こえたかと思うと、次の瞬間には瑞希に後ろからがっしりと捕まえられた。
「お、おい・・・!やめろって・・・!!」
「やめないよ。あんなにサッカーがうまいのにやらないなんてもったいないでしょ?さぁ、みんなと一緒に青春の汗を流そうじゃないか!」
なんかの青春ドラマでありそうなセリフを恥ずかしげも無く言って、瑞希はズルズルと雄二を引っ張っていった。グラウンドへと向かって・・・・・・。
桜ヶ丘高校のサッカー部は、弱くはないが強いとも言えない。ようするに微妙なのだ。インターハイも全国高校サッカー選手権大会も、2〜3回戦止まりなのだ。
名門じゃない為か、やはりグラウンドは他の部活と共用だ。
一周400メートルのトラックがあり、その中ではサッカー部が活動。そのトラックでは陸上部が。そしてトラック以外のところでは女子ソフトボール部とテニス部が活動している。グラウンドは広いのだ。
そんなグラウンドでサッカー部がウォーミングアップとしてロングボールを蹴っていた。二人一組となって30メートルくらい距離を開けてボールを蹴りあうのだ。そのボールは浮き玉だったりゴロだったりと様々である。
雄二にとってロングボールは相手の足元にしっかりとボールが行って当たり前。相手のいる位置から2〜3メートルもずれるのは考えられない。
その考えられないことを、ここのサッカー部はやっていた。格好だけにこだわりすぎてうまくボールを蹴れなかったり、有名選手のキックフォームを真似して全然見当違いのところにボールが飛んで行ったり・・・・・・。中には浮き玉を蹴って10メートルも飛ばない奴もいた。
まぁそんな中にも、それなりにボールの蹴れる奴は数名いたが・・・・・・。きっと彼らがこの部活を引っ張っているんだろう。
「おいおい、なんだよこの部活」
鼻で笑って、しかもため息までついた雄二に対して、瑞希は少しムッとなった。
「あんたはうまいからわかんないかも知んないけど、みんなあれでも一生懸命がんばってるの。そんなバカにしたような言い方しないで」
「あれで真面目にやってるって?寝言は寝てから言えよ。確かに何人かはできるやつもいるみたいだけど、誰かの真似したりして明らかに遊んでるやつだっているじゃねぇか」
痛いところを突かれた。遊んでる人たちも確かにいるからだ。試合には来たことのほうが少なく、たとえ来たとしても出るわけじゃなくてただ話しているだけ。練習の中でマラソンをしてもだらだらと歩きに近いスピードで走るだけ・・・・・・。
「た、確かに遊んでる人もいるけど・・・・・・。でも部長の清水くんとかは一生懸命やってるんだよ」
「とにかく、俺は部活に入るつもりはねぇんだ。この時間は電車少ねぇんだからもう帰してくれよ」
そう言ってかばんを持って立ち上がる雄二を、また瑞希が捕まえた。
「お前、いい加減にしてくれよ・・・・・」
「一回やってみてよ!お願いだから・・・!!雄二君がいればもっといいところまでいけると思うから!!」
雄二はまだ夏の暑さが残っているにもかかわらず学ランを着て第一ボタンをあけている。他の生徒はみんな夏服のためワイシャツだ。そのためだろう、サッカー部キャプテンの清水 修也(しみず しゅうや)には大声を出している瑞希の横にいるのが相良雄二だと一発でわかった。
「おい!お前・・・・・・うちのクラスの相良じゃないか!?」
そう言って二人のほうへ駆け寄ってくる清水を見て雄二は頭をぼりぼりと書いた。
二人がいるグラウンド横の石段へと登ってきた清水の第一声は予想通りのものだった。
「お前、サッカー部に入ってくれるのか?」
「入らねぇよ。無理矢理こいつに連れてこられたんだ。じゃあな」
「お、おい・・・・・。待てよ」
学ランの裾からはみ出したワイシャツの裾をひらひらと揺らして帰っていく雄二の右肩を清水がつかんだ。
それまで瑞希のせいでイライラしていたのがついに爆発した。雄二の中で、なにかが吹っ飛んだ。わからなくもない。嫌だと言っているのにしつこく言い寄られるのは誰だって嫌だろう。
「いい加減にしろよ!お前ら二人してしつけぇな!迷惑なんだよ・・・!!サッカーなんてやりたくねぇって言ってんだ!!」
あまりの迫力に清水は一瞬ビクッとし、掴んでいた肩を離してしまった。
「わ、悪い。しつこく言われるのは・・・・・嫌だよな」
怒りをぶちまけた雄二はそれ以上何も言うことなく帰ろうとした。
「な〜に怒鳴ってんの〜?」
そこへと玄関のほうからやってきたのはサッカー部の大蔵 隆(おおくら たかし)。茶髪をヘアワックスで立たせた頭髪。部内一の容姿で結構モテる。それなりにサッカーもうまい。雄二には劣るが・・・・・。
だが玉に瑕なのは泥臭いことが嫌いなことだ。雨の日の試合やマラソンなどの日は決まって休む。ようするに・・・・
「サッカーはファッションだろ。すげぇプレーして女の子にモテれば万事オッケーっしょ。だからやんなよ、君もさ」
そう言った大蔵に向かって、鋭い眼光が突き刺さった。
「あぁ?」
その眼光の発信源は雄二。ヤクザですら身じろぎしそうなその眼は、本当に鋭いものだった。
どこか抜けてるのだろうか・・・・。大蔵はビビッていない。
「いや、だからさぁ・・・・」
「サッカーがファッションってか?なめてんのか?モテればいいだと?」
そう言いながら大蔵に一歩ずつ近づいていく雄二。
そして大蔵との距離が一メートルくらいになるまで近づいたとき、雄二は大蔵に向かって指差した。
「お前みたいな奴にサッカーやる資格ねぇよ」
二人の間を通り抜けていくように風が吹く。その風に木々の葉がゆさゆさ揺れて、今の雄二の心のようにざわついた。
さすがの大蔵もカチンと来たのか、雄二に言い返した。
「お前にそんなこと言われる筋合い無いんだよね。俺に言えるほど、お前そんなにうまいのかよ。え?」
また風が吹く。さっきと同じ方向へと向かって・・・・・・。その風が雄二のサラサラの黒髪を揺らした。
「試してみるか?」
雄二のその言葉に大蔵はニッと笑った。その笑みは無言のOKサインだった。
二人は無言のままサッカー部の活動場所であるトラック内に行く。その途中で瑞希がそっと話しかける。
「これがきっかけで、サッカー部に・・・・・・入ってくれたりしない?」
サッカー部員からサッカーボールをパスしてもらい、そのボールを利き足である左でちょんとすくい上げて手の平に乗せた。
「・・・・・・・ありえないな」
聞いてきた瑞希に対して、その一言だけで返答した。
「一対一でキーパーを付けてのドリブル勝負だ。点を入れたほうの勝ちだ。いいな?」
先攻は大蔵。ゴールから20メートルほど離れたところで雄二からボールを受け取った。
雄二はそこから5メートル程度離れたところで立っている。
キーパーは桜ヶ丘高校の正キーパーである都築 渉(つづき わたる)。まともにがんばっている部員の一人である。
「行くぞ?」
周囲の部活も野次馬として集まってくる中、大蔵がドリブルを開始した。
C『お久しぶり、サッカー』
9月13日木曜日。放課後。全校生徒のほとんどが部活に励んでいる時間。
普段ならみんなそれぞれ部活動に必死に取り組んでいるのだが、今日は違った。
グラウンドで行う部活はもちろん。うわさを聞きつけた体育館や教室で部活を行う生徒もグラウンドにやってきている。
目的は雄二と大蔵のサッカー対決。
“かっこいい転校生”と“サッカー部のかっこいい男”の勝負は、女子だけでなく男子も注目している。
サッカー部の活動場所であるグラウンドのトラック内のコートを囲むように、大勢の生徒が見物している。
「おいおい・・・照れちゃうなぁ。こんなに人がいるとさ」
大蔵は少し照れたようで髪をぼりぼりとかいた。桜ヶ丘高校サッカー部は弱いわけじゃないが大観衆の中でやることはほとんど体験していない。
それに対して雄二は・・・・・・・清水市立商業高校でかなり上のほうまで上り詰めたため、たかだか50人くらいの観衆はどうってことなかった。
むしろ・・・・・・心地いい。戻ってきた。自分はサッカーをやっている。その感じがたまらなくうれしかった。
でも、これで本当に最後だ。二度とサッカーをやることは許されない。
「始めろよ。早く終わらせたいんだからよ」
本当は終わらせたくない。だが、雄二の心の中にある何かが、本音を言うのを邪魔した。
「・・・・・・・行くぜぇ」
大蔵は足の裏でボールを前に転がし、そこからドリブルを始めた。
それに対し、雄二は大蔵から1メートルほど離れたところで腰を落とし、体を斜めにしてディフェンスの姿勢をとった。
大蔵がボールをこねる。足でボールをまたぐシザースフェイントをやってみたり、蹴るフリをするキックフェイントをやってみたりした。
だが雄二は微動だにしない。大蔵の扱うボールに対して軽やかなステップワークでピッタリと1メートルの距離を保っている。
「・・・このっ!」
やけになった大蔵はシザースフェイントを一度やってボールを突き出し、強引に雄二を抜こうとした。
そして抜いた。
「へっ・・・・ザマミロ」
大蔵がシュート体勢に入ろうとしたとき、ボールと自分の間に何かが割り込んできた。
・・・・・雄二だ。抜いたはずの雄二が目の前にいた。
そして、吹き飛ばされた。
大蔵の体は地面についてから2回転してやっと止まった。ひざは擦り剥け髪には土がついている。
「いってぇ・・・・」
雄二はヒールリフトでボールをすくい上げて手に乗せると、大蔵に向かって一言だけ言った。
「そんなもんかよ、ファッションサッカー君」
「なんでだよ・・・・。抜いたじゃねぇか・・・・・・」
地面に倒れこんだまま大蔵が聞いた。その声は悔しさと疑問に満ちた声だった。
「お前が俺を抜いた後、体を反転させて腰からお前にぶつかってっただけだよ。とっとと立てって。まだ俺の攻撃が残ってんだからさ」
髪についた土を払い落とし、お気に入りのACミランのユニホームについた土もパンパンと払って大蔵は立ち上がった。
「これで俺が決めりゃぁ勝ちなんだよな?」
コクリと大蔵がうなずくのを確認して、雄二はボールを前に蹴りだした。
「さぁて・・・・、どうやって抜こうかなぁ」
D『ボロボロのファンタジスタ』
――――パサッ・・・・。
初秋。放課後。
グラウンドのサッカーゴールのネットが静かに揺れた。
ボールがネットを伝って地面に落ちる。転々と跳ねるボールはやがてぴたりと止まった。
グラウンドが一瞬静まり返る。人という人がみんな止まっているボールと雄二を交互に見た。
「俺の勝ちだな。ファッションサッカー君」
その言葉と同時くらいに観衆から拍手が響き渡った。中には叫ぶものもいるくらいだ。
「・・・・・・・何が・・・起きたの?」
瑞希がキャプテンである清水に聞いた。
「・・・・・・・すげぇ。すげぇすげぇすげぇ!!」
瑞希の質問などもはや耳に入っていない。それほど雄二のプレーはすごかったのだ。
「清水君。何が起きたの?」
さっきより大きな声で再度瑞希が質問した。
すると清水はごくりと唾を飲み込んでから、落ち着いて話し始めた。
清水の話によるとこうだ。
雄二はボールを蹴りだした後、シザースフェイントを二度行った。大蔵とは比べ物にならないほどのフェイントを。
そのフェイントにつられて開いた大蔵の股の間を抜いたのだ。いわゆる股抜きというやつだ。
大蔵がボールを追って雄二の右側からタックルを仕掛ける。
それに対して雄二はボールに左足を乗せて体を回転させながら右足でボールを引いて前方に出した。
これはよくジネティーヌ・ジダンが行うマルセイユルーレットという技だ。読者の方のために説明するならば、ゲーム・ウイニングイレブンで右スティックを一回転させたときに出る技だ。
とにかく、雄二はそれで大蔵の後ろ側に回りこんで完璧に抜き去った。
その後飛び出してくるキーパーの目の前でヒールリフトでボールにキーパーの頭上を通過させてゴール。
といった内容だった。
「お前・・・・・・・なんなんだよ」
大蔵が驚いた表情でそう聞いた。
それもそのはずだろう。たいしてうまくないと思っていたやつに、あれだけの芸当をされたのだ。驚かないわけがない。
「清水市立商業って知ってるよな?そこで1年のときからレギュラー張ってた。そんだけだよ」
汗ひとつかかずに事を済ませた雄二は、瑞希の前を素通りしてリュックサックを背負い、帰路についた。
清水は何が何でも雄二をサッカー部に入れると張り切り、早速顧問の桐原に相談しに行った。
大蔵は無言で立ち上がって水を飲む。
そして瑞希。
彼女にはどうしても理解できなかった。
なぜサッカーをやらないのか。
なぜプロを目指さないのか。
高校二年生という若さで十分プロで通用する技術を雄二は持っている。
本当に・・・・・どうしても、瑞希には理解できなかった。
通学路にある桜神社。
そこにある階段を登って反対側に下れば、家までの距離がグンと近くなる。時間で言えば20分は短縮できるだろう。
47段の階段。いつもならどうってことはない。階段登りなど、清水市立商業で嫌というほどやらされてきた。体力的にも精神的にも楽なものだ。
雄二は今まさにそこの目の前にいた。
じっと階段を見据える。たった47段。世の中にはもっときつい階段はあるし、何より自分にとってはもう慣れっこの階段だが・・・・・。
「・・・・・・・別に、急ぐわけじゃないしな」
そういって雄二は階段の前をスルーした。
雄二のヒザが悲鳴を上げていた・・・・・・。
E『嘘』
次の日の朝。雄二は桜神社の階段を通って桜海駅(おうみえき)へと向かった。
前日はヒザが痛んで通れなかった階段も、今日は何てことなかった。
久しぶりのサッカー。本当に楽しかった。相手はちょっと弱すぎたがとにかく楽しかった。
でも、もうやるわけにはいかない。絶対にやっちゃダメだ。
そうやって気持ちを割り切って、雄二は一歩ずつ歩いた。
「行ってきま〜す」
瑞希は明るい声でそう言って家を出た。
昔、雄二たち家族が住んでいた家は現在老夫婦が住んでいる。瑞希にとてもよくしてくれる優しいおじいちゃんとおばあちゃん。
そのおばあちゃんが家の前で掃除をしていた。小さな箒で落ち葉をパッパっと掃いている。
「あら瑞希ちゃん。おはよう」
おばあちゃんが天使のような微笑を浮かべてそう言った。
「おはよう、おばあちゃん。今日も元気ですね」
その後おばあちゃんと軽く話をした後に桜海駅へと向かった。
『一番線、静岡行き、まもなく発車します。閉まるドアにご注意ください』
桜海駅に構内アナウンスがこだまする。それに続いて発車ベルも鳴り響く。
雄二を含め乗るべき人は全て乗り込み、もう乗る人はいないであろうそのホームに階段をドタバタ駆け下りる音が聞こえた。
「ま・・・・待って待って〜〜〜!!!」
その声を聞いて、一番ドアに近いところに立っている雄二はピンときた。
「あのバカ・・・・・・」
瑞希の必死の叫びは車掌に聞こえていない。
この電車に乗り遅れると、学校の始業時間にどうしても10分遅れてしまう。かといって歩いていくこともできない。
桜海駅から桜ヶ丘高校最寄の柚木駅(ゆずきえき)までの間に3つ駅があり、とても歩いて間に合う距離じゃないからだ。
「ひえぇぇぇぇ〜〜っ・・・・!!」
プシューっと音がしてドアが閉まる。いや、ひとつだけ開いていた。誰かが無理矢理開けてくれているのだ。
「・・・・・・・早く乗れよ」
雄二だ。彼の筋肉はいったいどういう構造になっているのだろう?普通は無理だ。開けておくことなんて・・・・・。
瑞希は「ありえない」とつぶやきながら飛び乗った。でも、心の中は雄二の優しさに感無量だった。
小刻みに揺れる電車のリズムが心地よくて立っていても寝てしまいそうになる。
ドアの窓から見える景色はどんどん切り替わっていき、次第に柚木駅に到着した。
ドアから降りてぞろぞろと桜ヶ丘高校の生徒が学校へと向かう。
その中に雄二と瑞希の姿もあった。二人並んで学校へと歩いていく。周りから見たらカップルに見えるかもしれない。もともと幼馴染だからか、並んで歩くことに違和感は覚えなかった。
「ねぇ、雄二」
昔の感じが戻ってきたからだろうか、君をつけずに呼ぶことができた。といっても昔は「ゆうたん」「みずちゃん」と呼び合っていたが、この歳になってさすがにそれは恥ずかしかった。
「なんだよ」
「やっぱり・・・・・・サッカー部には入ってくれないの?」
「同じこと何度も言わせるなよ。俺はサッカーに飽きたんだって・・・・・・」
「嘘!」
雄二はそれに対して言い返せなかった。・・・・・・嘘だから。
ただ前を見ながら呆然と歩いていく。
「昨日サッカーやってる雄二の顔、すごいうれしそうだった。飽きたんじゃないよね?本当は何か理由があるんでしょ?」
革靴をコツコツと鳴らしながら、歩くペースの速い雄二に必死についていく瑞希。
雄二はそんな瑞希を気にも留めずに歩いていく。無言で。
「答えてよ!ねぇ!ゆう・・・・・」
「“二度とサッカーはやるんじゃない。”医者に言われた言葉だよ。半月板骨折の後遺症」
突然告げられた真実に、瑞希は言葉が出なかった。
飽きたんじゃなくて・・・・・・できない。やりたくてもできない足。
瑞希はうつむいて、雄二のペースについていくことができなくなった。
自分はなんてことをしてしまったのだろう。どれだけ雄二を傷つけただろう。どれだけ・・・・・どれだけ・・・!!
「瑞希」
声のしたほうにゆっくり顔を向けると、雄二が立っていた。歩くのをやめて立っている。自分のことを待ってくれている。笑って・・・・・。
「そんなに気にすんなって。言わなかった俺も・・・・悪いんだしさ」
――――――次の瞬間。瑞希は雄二に抱きついていた。
「お・・・・おい!瑞希・・・」
「ごめんね・・・・・・雄二。ホントに・・・・・・・ごめん・・・・・・!」
泣きながら謝ってくる瑞希を、雄二はそっと抱きしめて、肩より少し長くてサラサラの黒い髪をなでてあげた。
「いいって言ってんだろ。そんな・・・・泣くなよ」
学校の始業チャイムが空に響いたが、そんな音は二人の耳に届いていなかった。
昔、好きだった瑞希を今抱きしめている。
昔、好きだった雄二に今抱きしめられている。
幼稚園の頃から変わっていないその気持ちを確かめるように、二人は抱き合っていた。
F『青原美咲』
「うーし、全員席に着け〜」
桐原の声が教室にこだますると同時に、クラスの生徒達は次々に席へと着いた。
瑞希はポケットからMDウォークマンを取り出してバッグへとしまう。一度桐原に没収されたことがあり、さすがに二度目はやばいと思っているからだ。
さっきまで聞いていた若手女性シンガーソングライターの大ヒット曲が頭の中を巡る中、目の前の席に座っている親友・酒井裕子(さかい ゆうこ)が話しかけてきた。
「瑞希!今日見たよ〜。相良君と抱き合ってたでしょ〜」
ニタァっと笑う裕子のその言葉に、瑞希はまさに顔から火が出るほど真っ赤になった。
「そ・・・・そんなんじゃないから!!」
「え〜っ?」
目を細めて疑ってくる裕子。それに対してただただ顔を赤くしてうつむく瑞希。
二人がそんなやりとりをしていると、桐原がとんでもないことを言い出した。
「なんか知らないけどなぁ・・・・・・・、親の都合で急遽もう一人転入生が来ることになった。うちのクラスに」
途端にざわつき始める生徒達。ありえないと言う生徒もいれば、どんな子がくるのか心待ちにしている生徒もいる。
「それじゃあ入ってきてくれ〜」
ガラッと開いた扉。そこから中に入ってきたのは女の子だった。軽く茶色のかかったロングヘア。瑞希に負けずとも劣らない容姿。瑞希は“かわいい女の子”。その子は“きれいな女の子”といった感じだ。
クラス中の男が「うお〜〜!!」っと叫ぶ中、がたっと音を立てて立ち上がる男がいた。
「・・・・・・み、美咲!!なんでお前・・・・!」
その男は雄二で、その雄二の顔は驚きに満ちている。
そして雄二の顔を見た瞬間、美咲と呼ばれた転入生の顔がパッと明るくなった。
「ゆうちゃ〜ん!!」
ガバッと雄二に抱きつく美咲。慌てふためく雄二。それを見て席を立って怒りをあらわにする瑞希。
「ちょっと雄二!誰よその女!!」
「清水市立商業で一番仲良かった女子・・・・」
「あんたこそ誰?」
二人の女の間で激しい火花が散る。その間に挟まれた雄二はただだらだらと汗を流していた。
その場を収めたのはやはり担任の桐原で、その後美咲が丁寧に自己紹介して朝のホームルームは終了となった。
休み時間、昼食時、掃除中・・・・・・いつも美咲は雄二の側にいる。「ゆうちゃん。ゆうちゃん」と言いながら金魚の糞のようにぴったりくっついていく。
そして放課後。雄二はいつもどおり帰宅する。
そんな中美咲が瑞希に話しかけた。
「ねぇ、ゆうちゃんから聞いたんだけど・・・・あなたサッカー部のマネージャーなんだって?」
「そうだけど、どうしたの?」
朝の陰険なムードとは打って変わって、今はそれなりに仲の良さそうな話を展開する。お互いに心の中でどう思ってるかはわからないが・・・・・。
「あたし、サッカー部に入りたいんだけど・・・・・・・。見学に行ってもいい?」
女子が?高校サッカーに参加?瑞希は耳を疑った。
「いいけど、危ないよ?」
瑞希がそう言うと、美咲は笑ってこう言った。
「あぁ、だいじょぶだいじょぶ。その辺の男より全然うまいから」
自信に満ち溢れたその言葉、その顔。
瑞希からサッカー部の活動場所を聞くと、美咲は一人でグラウンドへと歩いていった。
「・・・・・・・まさか・・・・ね」
桜海駅で列車から降り、改札を定期で通る。
駅から自宅へ向かって歩き出すと様々な人がいた。
子供と遊ぶ母親。営業中のサラリーマン。意味もなくなぜか煎餅を叩き潰している変なオジサン。
そういうのを見ながら5分ほど歩いていくとポケットの中に入っている携帯電話からお気に入りの着メロが流れた。
『もしもし。雄二?』
「おお、瑞希か。どした?」
『あの青原美咲って人、どういう人?』
やっぱりな。と雄二は思った。今日のあの雰囲気を見ていれば大体の察しはつく。
携帯の番号交換して一日目で電話がかかってくるということは、そんなものだろう。
「どういう人・・・・・かぁ。とりあえずサッカーがめちゃくちゃうまいな」
『サッカーが・・・?』
「ああ。一対一で俺も何度か負けてるし、男子に混ざっても十分にやれる」
『わかった。ありがと』
そっけないな。と思いながら雄二はしばらく無言でいた。すると瑞希は電話を切ろうとしたので唐突に呼び止めてしまった。
「瑞希!」
『・・・何?』
「俺と美咲は・・・・・・そういう関係じゃないからな・・・・・・」
瑞希は『わかってる』とだけ言うと、電話を切った。
相良雄二と青原美咲。この二人の存在が桜ヶ丘高サッカー部の運命を変えるとは誰も思っていなかった。
G『コーチ』
「えぇ〜っと・・・・・・22HRに転入してきた青原美咲です。前の学校でサッカーやってましたぁ」
・・・・で?というのがサッカー部面々の反応だった。
サッカーをやってたからなんですか?まさかあなたこの学校でも男子に混ざってやるつもりですか?
みんながそう思っていた。
「女がうちの部活で何しようって言うんだよ」
誰かはわからないが、そういう声が聞こえた。それに対して美咲はニコッと笑ってこう答えた。
「あんたたちがあまりにもだらしないから叩きなおしてあげる」
この不意をついた言葉に誰もが不満を漏らした。女にサッカーを教えてもらうなんて恥ずかしくてできるわけがない。
「ふざけんなよ。お前に教えられるようなことなんてねぇっつうの!」
また誰かの声がした。そんな技術があるわけない。あるほうが不思議なくらいだ。
「じゃああたしが部長よりうまかったら認めてくれる?うまければいいでしょ?」
そういって美咲はボールを拾い上げてコートの中へと入っていく。そして部長の清水を呼んだ。
「清水君・・・・・だっけ?相手してよ」
ボールをポンポンつきながら清水を待つ美咲。清水は無言で美咲のほうへと向かっていった。
やる必要ねぇよ!という声が聞こえたが清水は無視して歩を進める。
「・・・・・・いいぜ。やろうか」
ニッと笑ってボールを地面に下ろし、ドリブルを始めた。
「ねぇゆうちゃん。あたし・・・・・この学校でもサッカー部に入ろうと思うんだ」
昼休みに美咲が雄二に言った言葉だ。前にいた清水市立商業で、実力から言えば雄二と同じくレギュラーだったはずだ。だが“女子”という理由で一度も試合に出ることはなかった。それと同じ苦しみをまた味わおうというのだろうか・・・・・。
「でも、選手じゃなくてコーチとして。この前転入の説明に来たときにたいしてうまくなかったから、このままじゃいいところまで行けないしね」
これには少しビックリだった。てっきり前と同じようにプレーヤーとしてやるのだと思っていたが、コーチとしてやるというのだから・・・・・・。
「いいじゃねぇのか?俺はサッカーやらないけどさ」
「だめだよ。ゆうちゃんもサッカーやるの!一番大事な局面で頼りになる人がいなかったら困るでしょ?」
「あのなぁ・・・・・。俺はやりたくても・・・・・」
あきれたように言う雄二の言葉をさえぎって美咲が言葉を発した。
「本当になんにもできないわけじゃないんでしょ?だったら10分だけでいいから・・・・・。ねっ?」
「・・・・・・・・無茶言うなよ」
この会話はそこで終わったわけだが、今家にいる雄二の頭の中ではまだ続いていた。
本当にやれるだろうか。10分だけでもやれるだろうか・・・・。やれるなら・・・・・・・やりたい!!
雄二の中に眠っていた本当の気持ちが顔を出した。
そして雄二は家を出て、病院へと向かった。
美咲のテクニックは半端じゃなかった。ボールコントロールだけなら雄二をも凌ぐかもしれない。
とにかく美咲はうまくて、あっさり清水を抜き去るとゴールネットを揺らした。
「これで認めてくれるでしょ?あたしがコーチね」
ブーブー言いながらも、男の約束だ。部員達はしぶしぶ認めるしかなかった。
女子生徒がサッカー部のコーチ。なかなかないことではあるが、これが新しくサッカー部を始めるために必要なことだったのかもしれない。
病院からの帰り道。
言われたことはただ一言。
「10分。それ以上は絶対に禁止」
十分だった。サッカーができるなら・・・・・・。
雄二は小さく拳を握り締めた。
H『桜ヶ丘高校サッカー部』
次の日、またいつもどおり放課後の部活時間がやってきた。
選手権大会まであと二週間程度。どこまで強くなるかはわからないが、とにかくやるしかない。
そう思って美咲はまっすぐに部活へと向かった。
顧問の桐原も昔はサッカーをやっており、練習メニューは彼が作る。
それに合わせて指導していくのが美咲の役目だ。
だが、今日は独断で一つメニューを増やした。
「今から5キロのマラソン。あたしに勝てなかった人はさらに5キロ」
美咲のその一言から始まったマラソン。校内を何周しただろうか。駐車場を通りテニスコート前を通りグラウンドを通り・・・・・・。とにかくあと一周。トップは・・・・・・・美咲だった。
「ほらほら・・・・。全員もう一回走りたいの?」
息を切らしながらではあるが、あきらかに美咲はまだ余裕だ。二位の清水とも30メートルほど距離が開いてしまっている。
目の前にはビリの男がいる。いくら普段真面目にやらないといっても、女に負けるのは抵抗があるのだろうか、意地でも抜かれないようにがんばっている。
「情けない・・・・。女の子に勝てないなんて・・・・」
テニスコートからグラウンドへ走ってくると見えてくる5段ほどの階段。別に角度が急なわけでもないので普通に走って降りられる階段だ。
そこを降りればゴールがある。そこには瑞希がいて、誰が何周走ったのかをチェックしている。
階段まであと50メートル程度。そのとき後ろから誰かが猛スピードで走ってきた。
「負けられるか・・・・・よぉぉぉ!!」
後ろを振り向くとそこには鬼のような形相で必死に美咲に追いついてくる清水がいた。その後ろには大蔵も。
大蔵について美咲が知っていることはただひとつ。雄二から聞いたことでサッカーをなめている。ということだけだった。
雄二に負けて改心したのだろうか・・・・、大蔵は本当にがんばって走った。今までの大蔵だったら走るどころか参加していない。
とにかく、そんな大蔵と部長の清水が美咲に迫ってきていた。
そして、並ぶ。
体力は美咲のほうがあっても、基礎的なスピードは男である2人のほうが格段に上だ。
3人並んで階段に突入する・・・・・が、その階段はいくら緩いといってもさすがに3人が全力で走って通り抜けられるほど広くない。
そのせいで一番からだの小さい美咲はバランスを崩し、10段ある階段の真ん中辺りから吹っ飛ぶように転んだ。
「あぶねぇっ!!」
ドシャっという音とともに美咲は地面に打ち付けられた。だが不思議とどこも痛くない。ふと下を見るとそこには清水と大蔵がいた。
二人とも避ければ済んだものを、身を徹して美咲を助けてくれたのだ。その証拠に2人のヒジやヒザなどは擦り剥けて血が出ている。
「ちょ・・・・二人とも!大丈夫!?」
心配になって美咲が立ち上がって呼びかける。
2人は「大丈夫大丈夫」と言って立ち上がり、また走り出した。
美咲は2人を抜こうと思えば抜けたが、どうしても抜く気になれなかった。
全員がゴールし、全員がへばっていた。
美咲に負けた男子はもう一度走ったりはしなかった。一生懸命やったということで免除だ。
練習後のマラソンだけあってかなり疲れたようだ。立ってストレッチなどをする元気も残っていない。
大蔵と清水は瑞希に手当てをしてもらい、美咲はみんなにドリンクを配って回った。
「お疲れ様でした」
全員で集合してそう言い合うとその日の部活は終了。
瑞希と美咲は一緒に更衣室へと行き、制服に着替えた。
「すごいんだね、青原さん。男子より速いなんて・・・・・」
ワイシャツのボタンを締めながら瑞希がそう言った。憧れというか、うらやましいというか、とにかくそんな気持ちが瑞希の中にあった。
「そんなことないって。ただ練習をこなしてきただけだもん。ゆうちゃんみたいに練習後に自主練なんてできなかった。ゆうちゃんはもっともっと速いよ」
ゆうちゃんというその響き。いったい清水市立商業で2人はどんな関係だったのか、瑞希はとてつもなく気になっていた。
・・・・・だが聞けない。聞いたらショックを受けるかもしれない。心の中のそんな思いがブレーキをかけていた。
「あたしとゆうちゃんはね・・・・」
いくら自分がブレーキをかけていても相手から言われたらブレーキのかけようがない。今まさにそんな状況。
美咲が言おうとしてることを、瑞希は心から聞きたくなかった。
もしここで話を遮ったらどうなるだろうか。第一印象から変わって、せっかく仲良くなれそうなのにそれが壊れてしまうかもしれない。でも・・・・・聞きたくない。
瑞希が迷ってるうちに美咲が口を開いた。
「親友だった。あたしのことを女だからって区別しないで、男のように接してくれた。あたしはゆうちゃんを好きになって、告白したの。そしたらどうなったと思う?」
のろけられるのか・・・・・。正直瑞希はそう思った。ノロケ話なんだろうな、と。
「見事玉砕。俺には小さい頃から好きな女の子がいるんだ、って・・・・・・。それって、鈴森さんでしょ?」
瑞希の勘は違った。小さい頃から好きな子がいる。ということはもしかして・・・・・自分?
期待に胸が膨らんだ一方、美咲に対して何か申し訳ないように感じた。
「あたしじゃないよ、多分。あたしと雄二はそんな関係じゃないしさ」
その一言でその話題は終了し、二人は同時に更衣室を出た。
美咲とは柚木駅まで一緒だったが、そこからは逆方向なのでお互いに一人で帰宅することとなった。
“小さい頃から好きな人がいる”という言葉が、瑞希の心を大きく弾ませていた。
駅から家に向かって歩いていく途中に、ナイター設備のある市民グラウンドを通る。普段は小学生チームがサッカーをやっていたり、大人が野球などをやっている。
その日も電気がついており、ボールを蹴るような音が聞こえた。
だがちょっとおかしい。瑞希が見る限り、サッカーなどをやるチームがいない。ということは一人なんだろうか?
一人のために電気をつけてくれるだろうか?
そのとき瑞希はひとつのことを思い出した。
雄二の親戚が、この市民グラウンドの管理人になっていることを。それが昔から変わらないのであれば、もしかしてサッカーをやっているのは・・・・・・・。
「雄二!!」
その声に振り向く影が一つ。
白いジャージを着ていて、黒いサラサラの髪の毛。身長は小さくなく大きくもない。
「・・・・・瑞希か?どした?」
紛れもなく雄二だった。サッカーボールを足でちょんとすくいあげて手に乗せると、雄二は歩いて瑞希に近寄ってくる。
「サッカー・・・・・やって平気なの?」
一番の疑問。ヒザを壊したせいでやってはいけないのではなかったのか?なぜ今彼はサッカーをやっているのか?
瑞希のセーラー服がそよ風に軽く揺れた。
「10分。それだけなら本格的にサッカーやっていいらしい。今はまだ感じを取り戻してるだけだから30分くらいできるだろうけどさ」
その言葉に、瑞希は喜んだ。心の底から喜んだ。雄二がサッカーをやれる。自分のことじゃないのになぜか、とにかくうれしかった。
そのあと雄二が練習を終えるまで、瑞希はずっと市民グラウンドでその姿を見守っていた。
帰りに一緒に食べたハンバーガーは、いつもより数倍おいしく感じた。
I『練習試合』
あれから一週間。雄二も少しずつ練習に参加するようになった。といってもやるのは連携の練習だけで、できるだけヒザに負担がかからないように調整した。
部員達も試合中の動き方やボールの蹴り方をはじめ、ちゃんとしたサッカーをやれるレベルまでにはなってきた。
だがその反対に、「めんどくさい」「疲れる」などの理由で退部する者が増え、部員は13人になってしまった。
「はい、お疲れ〜。今日の練習は終わり」
美咲が明るい声でそう言った。部員達は動きを止めてストレッチを開始する。
そんな中、清水が雄二のところへやってきた。
「相良、鈴森から聞いたけど・・・・・・ひざは平気なのか?」
スパイクの紐を解いていた雄二は手を止めて答えた。
「ああ、軽くやればな。選手権も10分くらいしか出られねぇけど・・・・・」
そうか、と答えて清水は黙り込む。何かを考えているのか、言おうとしてるのか・・・・・・。ただどちらにしても、あまり良い話ではないように感じた。
「選手権の一回戦の相手・・・・・・・・清水市立商業なんだ」
重たい口をやっと開けて、清水が言った。その表情はどこか寂しそうで悲しそうだった。
「俺達、3年生がみんなインターハイで抜けて・・・・・。それから1、2年生でがんばってきて、選手権こそはって思ってたのに・・・・・。うちの顧問、なんでこんなにくじ運が・・・・・」
「いいじゃねぇか」
清水の言葉をさえぎって雄二が言った。
「一回戦が強い相手でよかったよ。もし万が一勝ったら、一気に勢いがつくだろ?ポジティブシンキングってやつだよ」
その言葉に少し元気付けられたのか、清水は笑ってみんなのほうへ戻っていった。
だが逆に、雄二の顔は暗かった。
つい最近まで自分がいた学校と勝負。なんて言われるだろうか。ヒザの故障を理由にサッカーを諦めて転校したのに、なんでサッカーやってんだ。逃げたのか。とでも言われるだろうか。
雄二の顔が暗いのに気がついたのは、瑞希だけだった。
ストレッチも終わって全員で集合。顧問の桐原の前で並んであいさつをした。
そのあいさつの中であるひとつの発表があった。
「明日の土曜日、練習試合をやるからな。相手は一ノ宮高校。強いけど・・・・・まぁ胸を借りるつもりで思いっきり当たってけ。絶対に負けるなんてことはないからな」
一ノ宮高校といえばなかなか有名なところで、実力差から言えば5−0ほどで負けるだろう。
雄二が加わったことと、ここ一週間で技術的な進歩はほとんどないにしても、基礎的な動きなどをみっちりと美咲が教えたことによって、どれだけ差が縮まったかがポイントになるだろう。
一ノ宮に勝てないようならば清水市立商業に勝つなんて100%無理な話だ。
選手達が「やってやろうぜ!」などと意気込んでいる中、雄二だけは暗かった。
さようならのあいさつをした後、いつもどおり雄二と瑞希は一緒に駅へと向かった。
「ねぇ、雄二。どうしたの?なんか暗いけど・・・・・」
夜の帰り道。国道沿いを二人並んで歩く。横を何台もの車が通り過ぎていく。コンビニなどの光が歩いている二人を照らしていた。
「清商とはやりたくない」
清商とは、清水市立商業のことだ。やりたくない理由をだいたい瑞希はわかっていた。
「何か言われるのが・・・・・・怖いの?」
何も言わない雄二。顔はさっきと同じように暗く、うつむいてしまっている。制服のポケットに手を突っ込んで背中に背負っているバッグを揺らしながら歩いていく。
「・・・・・・大丈夫だよ。そんなに心配しなくたって、きっとみんなわかってくれるって」
「・・・・・・・・だよ」
「え?」
よく聞こえない。雄二が何かを言ったのは確かなのだが・・・・。瑞希は歩くのをやめてそう聞いた。
「お前に何がわかるってんだよ!!」
そう言って歩道の横の壁際に立っている瑞希の肩に手を掛けて壁に押し付けた。
「お前に何がわかるってんだよ!お前はなんにも知らねぇだろ!?勝手なこと言ってんじゃねぇ!!」
壁際に押さえつけられ、怒鳴られ、瑞希の顔は強張っていた。
・・・・・怖い。瑞希の目から涙がこぼれる。
それを見て雄二はフッと我に帰った。
肩に掛けている手を放し、オドオドした。額からは冷や汗が出てくる。
泣かせてしまった。女の子を・・・・・・・。
「ご・・・・ごめん!あの・・・・・その・・・・・・。とにかく、ごめん!!」
手を合わせて深々と頭を下げ謝る雄二。
「・・・・・・いいよ。あたしも少し・・・・無神経だった」
とは言うものの、声が暗い。雄二は頭を上げるのが怖かった。
「・・・・早く帰ろ?ね、雄二」
その言葉が雄二を救ってくれた。
雄二は頭を上げて返事をすると、また一緒に歩き始めた。
空には満月が輝いている。
明日の試合、清商との試合、どちらも深く考えずに自分のやれることを一生懸命やろう。
雄二だけでなく、清水も大蔵も・・・・・みんながそう心に決めた夜だった。
J『10分間のヒーロー』
翌日は雲ひとつない最高の天気で、鳥たちが楽しそうに空を飛んでいる。
気温は20.3℃。サッカーをやるには少し暑い気もするが、とにかく今日の試合で自分たち桜ヶ丘高校サッカー部がどれだけやれるかがわかる。
試合前のウォーミングアップを今まででは考えられないほど真剣にやり、試合開始まであと5分と迫っていた。
桜ヶ丘高校のベンチサイド。顧問の桐原がベンチに座り、あとのメンバーは桐原の前に立っている。
「相手は結構強いが・・・・・・とにかく思いっきりやってこい。やってみなきゃわからないからな」
その声を合図にスターティングメンバーはセンターラインへと向かった。
雄二をベンチに残しての前半35分間が始まろうとしていた・・・・・。
一ノ宮は想像以上に強かった。中盤でパスをポンポン繋ぎ、最後に逆サイドへと向かってロングボールを放り込む。
この戦法によってサイドからサイドへ選手は振られ、体力がじわじわと削られていく。
そして前半28分。
桜ヶ丘のゴールネットが揺れた。
入れたのは一ノ宮のエースストライカー、11番の用宗相太(もちむね そうた)。186センチと身長が高く、体もがっしりとしているため、フィジカル面で定評のあるFWだ。
右サイドから上げられたクロスに合わせられ、得点を許してしまった。
ベンチも含め選手達がため息を漏らす中、雄二だけはなぜかあくびをしていた。そして、相手に聞こえるような大きな声でこう言った。
「たいしたことねぇのにやられるなよ」
当然相手は怒る。敵意をむき出しにして雄二を睨みつけた。
「ベンチのくせに何言ってやがんだ」
用宗はそう思っていた。
後半に入り、選手達の疲労はピークに達してきていた。
だがディフェンス陣は踏ん張った。抜かれても抜かれてもそれに追いついてクリアする。
美咲が教えたことをしっかりと守っていた。
だが、それも長くは続かない。ついに2点目を許してしまった。用宗一人に持ち込まれ、シュート。完璧に技術の差がでてしまった。
ゴール後、用宗は自陣にもどらず桜ヶ丘のベンチに近寄ってくる。雄二の目の前で立ち止まると腰に手を当てて言った。
「たいしたことねぇんだろ?ベンチ君。だったら出て来いよ」
そういい残して自陣へと戻っていった。
後半残り10分。雄二は背番号7を背負ってコートへと入った。
ポジションはOMF(オフェンシブミッドフィルダー)。ようするにトップ下という場所だ。
それを見て笑う用宗。どうせたいしたことはできやしないと思っているのだろう。
スローインを受け取って前を向く。キーパーはペナルティエリアより少し前で腰に手をついて立っていた。
それを確認した雄二は、自分にタックルしてくる敵をひらりとかわすとゴールに向かって矢のようなシュートを打ち込んだ。
意表を突かれたキーパーの頭上を越えてゴールに突き刺さる。回転したボールはしばらくネットに食い込むように回っていたが、回転が止まったと同時に地面へと落ちた。
審判のゴールを告げる笛が鳴り響く。
雄二は自陣に帰る途中で用宗の肩をポンポンと叩いた。
用宗は目の前で起きた突然のスーパーゴールに唖然としていた。
これで2対1。残り10分弱での雄二の活躍が始まった。
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2004/05/03(Mon)18:38:30 公開 / 紅い蝶
■この作品の著作権は紅い蝶さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
今回はちょっと短いですが、とにかく雄二の久しぶりの試合です。
あと5〜6話で終わると思いますが、それまでお付き合いください。
それではvv