- 『デンジャラスヒューマン最終話』 作者:竜涎香 / 未分類 未分類
-
全角10818文字
容量21636 bytes
原稿用紙約38.75枚
チッチッチッチ…
時計の音が規則正しく鳴っている。
時刻は既に午前1時、そんな時間に竃はパソコンをやっていた。
ピロン♪
という音がなり、メールがきた事を竃に知らせた。
「誰からだ?」
メール差出人の所には、「清製研究所」とかかれていた。
タイトルの所には何もかかれていない。
開いてみると、ますますわけがわからなくなった。
メールに、こんな事が書かれていたからだ。
『SSGは調整のため、我々の研究所に返してもらう。それと、君のお父さんは我々が預かっている。返してほしくばとりにこい』
「父さん…」
「ってなことが今日の朝あったんだよ。」
「佐々霧さんが連れていかれるのか?」
次の日の昼休み、屋上で竃と学が話していた。
「やっぱ行った方がいいかなぁ」
「自分の親父と佐々霧さんがヤバいってのによくのんきでいられるな…」
「SSGは別として…うちの父さんはそんなに弱くないんだけどなぁ」
「どんくらい?」
「子供が束になってかかっていっても逆に倒しちゃったりするくらい」
「……なんだよそれ」
「でも後ろから近付かれると弱いんだなぁ」
「ダメじゃん」
そんな話をしていると、玄関に妙なトラックが見えた。
「なんだ?あのトラック」
「さぁ?」
「あ、校長がでてきた…」
「佐々霧さん…も一緒だな」
「メールでいってた奴だな。預かるって…おい学?」
気付くと学がいない。
「あれ?どこいった?」
ふと見ると屋上に取り付けられた高いフェンスの上に学がいた。
「おい…バカ!ここ屋上だぞ!?」
「佐々霧さあぁぁぁぁぁぁん…!!!」
ためらいも無しに学は落ちていった。
「あのバカ…」
竃も階段を降りて玄関へむかっていった。
玄関に辿り着くと、学が必死に校長と研究員を説得していた。
「♪%&*♯@!!!」
あまりにも興奮しているので、なにをいっているのか判らない。
「すぐ返してくれるっていってるんだからね?ほら、邪魔しないで」
校長がなだめようとするが、学は顔を真っ赤にしてまだなにやら叫んでいる。
竃はそこでなにか異変に気付いた。
SSGが動いていないのである。
「あれ?たしかスイッチは溶接して…あ」
研究員は手にスタンガンを持っていた。
「ショートさせたのか…」
と独り言をいってると、後ろから裕子が近付いてきた。
「やぁ孤独君。」(独り言を行っている為)
「…妙な名で呼ぶな」
竃はふりかえらずに言った。
「あれ、学くんは?いっつも金魚のフンみたいにくっついてるのに…」
「ああフンならあそこにいるぞ」
「校長とSSGと…なんか変なのも一緒だね」
後ろでのんびり傍観していると、ずっと黙っていた研究員が動いた。
「トラックの中に入れられてるけど…」
「全員な」
「あたしらはここで見てていいわけ?」
「…ダメだろう」
竃は玄関の影から飛びだし、素早く研究員の腹めがけて思いきりパンチを打った。
ガンッ
硬い金属音がした。
竃は研究員に胸ぐらをつかまれ、投げ飛ばされた。
「痛ってぇな…」
その言葉を最後に、竃の目の前は真っ白になった。
そしてトラックは見えない所へと消えていった。
目が覚めると、白いベッドに寝かされていた。
「ここは…どこだ?」
「ああ、やっと起きたの…」
裕子が隣に座っていた。
「ここは保健室だよ」
「あれから…どうなったんだ?」
「あんたは気絶して、校長と学君とSSGはあのへんな研究員に連れてかれたよ」
「警察には…通報したか?」
「教頭がまっさきに、ね」
「そうか…」
「ところでさ、あんたが研究員に殴りかかった時変な音したよね。なんで?」
「ああ、あれか…」
竃は手を裕子に見せた。
拳が真っ赤になっていた。
「人間の横っ腹なぐってこんなになるの?」
「体の周りに鉄でも着てるか…あるいは人間じゃないかだ」
「SSGとおなじ機械ってこと?」
「そゆこと」
「…で、あんたはこれからどうするの?」
「行くよ、清製研究所」
「どうやって?」
「ある人の助けを借りる」
放課後、竃と裕子はある古風のバカデカい家へ向かった。
「ここ、どこ?」裕子が家を指さしながら言った。
「………」竃は無言でインターフォンを押した。
「だれじゃ!このジジイの優雅な午後を邪魔したのは!」
門の向こうから怒声が聞こえてきた。
バーン!
という大きな音と共にこの家の家主、前田鬼丸(まえだ おにまる)がでてきた。
「おお、竃ではないか!」
「あ…鬼丸お爺ちゃん?」
「うむ?おお、裕子嬢ちゃんか。久しぶりだのう」
実はこの人、竃の爺さんである。
「ところで爺ちゃん、頼みたい事があるんだけど」
「なんだ、なんでも言ってみい」
「清製研究所まで行きたいんだけど…」
「…どうした、お前があんな所へ行くなんてなにかあったのか?」
「俺の知り合い3人と…親父が捕まってるらしいんだ」
「誠二が…」
「頼むよ、爺ちゃん」
「…竃よ、あそこに行くのはやめてくれ」
「なんでだよ…」
「あそこは危険すぎる…誠二は…あいつは儂の言う事を聞かなかったからこんなことになったんだ」
「爺ちゃんの言う事?」
「あんな研究所なんてどこにでもある、頼むからあそこにだけは入らないでくれってな…」
「なんでそんなこといえるのさ」
「儂はな、悪い事はしとらんが裏の世界に詳しい。あの研究所が悪どいくらいは知っとるわ…」
「…でも、爺ちゃんは父さんを助けたくないのかよ!」
「いいや、助けにいくがお前は来るな。死にたくなかったらな」
「でも…」
「いいか、お前らは家に帰っておとなしくしとるんだぞ!」
バターン!
大きな音と共に正門が閉まった。
「…で、どうするの?」
「どうって…行くよ、研究所」
「どうやっていくのさ、鬼丸お爺ちゃんは連れていってくれないし…」
「とりあえず急いで家に戻ろう」
「おじゃましまーす…」
「…早く上がれよ」
裕子は玄関できょろきょろしてばっかりでなかなかあがってこない。
「いや…なんか久しぶりだなぁ〜って」
あれから数分後、竃達は家に戻っていた。
「とりあえず、パソコン起動だ」
「こんなときにパソコンなんて…あんたどうかしてるよ」
「俺もそう思う」
「俺もそう思うってあんたねぇ…」
「だけど、研究所にいくんだったら先に攻撃しとかないとな」
「攻撃?」
「これ」
竃は裕子にCDを見せた
「普通のCDじゃん」
「中身は普通じゃないんだな」
「一体なんなのさ」
「俺が作った新型ウイルス、結構前に暇つぶしに作ったんだけどね」
「暇つぶしって…」
「これはな、送った相手のパソコンのシステムファイルを破壊するんだ」
「…恐ろしいねぇ、ワクチンは効かないの?」
「効かない。…けど1つのパソコンしか破壊できないし、3時間経たないと効果が表れない」
「ダメじゃん」
「いいんだよ、こんなの蔓延させたらやばいから…」
竃は話ながらも器用な手付きでマウスを動かし、メールを開いた。
「メールアドレスわかんないんじゃないの?」
「前に研究所から送られてきたメールに返信する」
「ああ、そうすればいいのか…」
裕子は感心する振りをしてますますこの男がパソコンマニアだと思った。
「じゃあこのウイルスを添付して、時計のアラームを3時間後に設定しとこう」
「で、次はどうするの?」
「爺ちゃんの家に戻る」
「え?戻るの?」
「ああ、ここへはただこれ取りに来ただけだから」
いつのまにか竃の手には小さなカギが握られていた。
「…どこのカギ?それ」
「爺ちゃん家裏口のカギ」
「なんでそんなものがこんな所に…」
「気にしない気にしない、さっさと行くぞ」
そういうことで、再び竃と裕子は鬼丸の家へと向かった。
「どこが裏口の扉なの?」
裕子がふてくされている。
「あれ〜?たしかここらへんに…」
鬼丸の家の裏手は、草がぼうぼうと生い茂っていた。
「あったあった…裕子、これだ」
「これ…なの?」
裕子が見て驚いたのは、草やコケが生い茂っている地面にある小さな穴を竃が指さしたからである。
「…えらく小さいねぇ」
「知らない人がみたらこんなのカギ穴じゃないと思うだろ?」
竃は話ながら、ポケットからカギを出し、穴に入れた。
「…よし、開いたぞ」
竃がそういった瞬間、ガバっと地面が上に盛り上がり、裏口が顔をみせた。
「わぁ、びっくりしたぁ…」
「さ、いくぞ」
竃は中へ入りながら言った。
「はいはい」
裕子も中に入っていった。
中は炭坑のようであった。
木の枠が壁に組み立てられ、所所上からランプがつり下げられている。
「ねぇ、鬼丸お爺ちゃんってなにしてんの?」
歩きながら裕子が竃に話しかけた。
「なにって…なにさ」
「だから、こんな大きい家なんか建ててなんの仕事してるのって」
「ああ、爺ちゃんは株で儲けたらしいぞ」
「株ぅ?」
「適当に買った株券が大当たりしたらしい」
「大当たりって…宝くじじゃあるまいし…」
「要するに運が強いんだよ、あの爺さんは」
「あ、もうひとつ聞きたいんだけど」
「…なんだ?」
竃は立ち止まって振り向いた。
「どうしてこんなところ通ってるの?」
「どうしてって…爺ちゃん家入るためだろう」
「だから、なんで鬼丸お爺ちゃん家に入るの?」
「…知らないで来たのか?」
「だって教えてくれなかったんだもん」
「爺ちゃんの家にはヘリが置いてるんだよ」
「…それで島に行く気?」
「あたりまえだろう」
「あきれるわねぇ…」
「なんとでも言えよ、行きたくないなら俺だけでも行く」
「ここまで来たんだから行くわよ」
「なら、文句言わずについて来い」
「…はいはい」
2人は再び歩き出した。
地下通路は入り口から50mほど歩いた所で行き止まりだった。
「行き止まりじゃない…」
と裕子が言ったが、竃は無視して上を向いている。
「ねぇ竃…?」
裕子が上を見ても土の天井だけでなにもない。
「ここだな…」
しばらく土の天井をなでていた竃がいった。
「…………?」
竃は鍵を持って上に手を伸ばすと、小さな窪みに鍵を差し込んで捻った。
カチャという鍵が開く音がした。
竃は土の天井を押すと、いとも簡単に押しあがった。
「はぁ〜よくできてるねぇ…」
「よし、出よう」
竃は土の天井を外にほおると、外へ出ていった。
「ようやるわ…」
そういいつつ、裕子も外へと出ていった。
一方ここは清製研究所。
小さい部屋に校長と学が並んで縄で縛られて座らされていた。
学は必死に縄をほどこうとしていたが、校長はもはやあきらめた様子だ。
「くそっ外れない…」
「もうダメだよ…私達はこのまま死んで…」
校長がそう言いかけた時、黒いスーツに身をつつみ、髪をオールバック固めた男が部屋に入って来た。
「誰だ!」
「我が名は松本洋介…いや、そんなことはどうでもよい、少し見せたい物がある…つれてこい!」
次々と小さい部屋に黒服の男達が入り込んできて、学と校長を抱き上げた。
「どこに連れていく気だ!」
相変わらず学は気性が激しいが、校長はさっきからうつむいたままで何も抵抗しようとはしない。
2人が連れていかれた場所は、なにかの研究室だった。
「ここはね、SSGプロジェクト最高責任者、前田誠二の研究室だよ」
「前田誠二…竃の親父が佐々霧さんを!?」
「竃…ああ、あの小僧か。そうさ、あの小僧の親父があの精巧な戦闘兵器を作り上げたんだ」
「戦闘兵器ぃ!?」
「そうさ、もっとも本人は最後まで人間と仲良くなれるロボットを作っていただけと思ってたかもしれないがね」
「どういうことだ?」
「あいつがSSGを作り上げた後、後ろから殴って気絶させて私が戦闘用に改造をしたのだよ」
「なんでだよ」
「戦争に送りだす為に決まっているだろう?SSGを大量生産させて軍に売れば、大金が入る…」
「佐々霧さんをそんな目的につかうなぁ!!!」
「…うるさい小僧だ。おい、またさっきの部屋にほおりこんでおけ!」
松本は黒服の男達に命令すると、研究室のイスに座った。
机には、多数のボタンがあり、その内1つを押すと、SSGのホログラフが出て来た。
「ふ〜む、私がつけた戦闘用パーツが全て外されているな…しかもスイッチ部分が溶接されている…」
松本は別のボタン2〜3個を押した。
すると机の奥にある、強化ガラスで丸く囲われているところに下から床と一緒にSSGがせりあがってきた。
さらに、天井から工具や武器がマジックアームにつり下げられて降りて来た。
「今度は…前より強く改造をしてやるよ」
机の上のボタンや、マジックアームを動かすスティックを巧みに操作して松本は再びSSGを改造しはじめた…
「あった、これだ」
無事地下通路を出た2人は、清製研究所に行くためヘリコプターを探していた。
「ヘリコプターか、近くで見たのは初めてだよ…」
「近くで見ると割と小さいんだな」
「まぁいいよ、さっさと乗り込もう」
「待つのじゃ!」
2人が後ろを振り返ると、鬼丸がいた。
「爺ちゃん…」
「そんなに助けたいのか?」
「当たり前だろ」
「ならば、儂も連れていけ」
「ダメだって、お爺ちゃんを危ない目にあわすわけには…」
「ほう、御主らヘリコプターを運転できるのか?」
「………………」
「よし話は決まった。では早速清製研究所へ行くぞ!」
竃と裕子は顔を見合わせ、しょうがないとため息をついて鬼丸の後にヘリコプターに乗り込んだ。
そして、ヘリコプターは風を切るようなうなりをあげて、鬼丸の屋敷を後にした…
「ところで…清製研究所ってどこにあるの?」
ヘリコプターの中、裕子がいった。
「海の上に赤いブイが置いてあるだろう?」
「…あ、ほんとだ」
「それを伝っていけば精製研究所なんだってよ」
「時間で言えばここからブイを伝って1時間半位で到着かのう…」
「へぇ、結構時間かかるんだね…」
「どうせ暇なのじゃから、少し楽しませてやろうか?」
「爺さん…まさかアレやるつもり?」
「もちろん、全員シートベルトを着用!」
「え?なに?なにやるの?」
裕子もわけのわからないままシートベルトをつけた。
「いくぞ!」
鬼丸は操作レバーを思いっきり横に倒した。
ヘリコプターは横にグルグルと回り、一気に高度が落ちた。
海面が目の前まで迫ってくる。
海面すれすれで鬼丸は操作レバーを元に戻し、ヘリコプターは高度を上げはじめた。
「爺さん、曲芸飛行またうまくなったな…」
「…恐かった」
裕子は目を大きく見開いて肩で息をしている。
「ハハハハハ、こんなもの序の口じゃ!」
「キャアアアアアアアァァァァァ!!!」
再びヘリコプターは裕子の叫び声を残してメチャクチャな回転をしながら降下していった…
「校長…なんか言って下さいよ」
研究所の小部屋にまた学と校長は入れられていた。
「………………」
「大丈夫ですよ、警察だってすぐにここにきて助けに来てくれますよ!」
「………………」
「竃だって助けに来てくれますって…校長!」
「………………」
校長はうつむいたままでなにも答えない。
「校長!聞いてるんですか!」
「ぐ〜………」
「……なんだ寝てんのか」
その時、小部屋に人が入って来た。
しわくちゃの白衣を身にまとい髪がぼさぼさの男だった。
「あんたは…竃の親父さん!」
「学君だね…助けに来たよ。今まで捕まっていたのだがなんとか抜け出して来たんだ」
「なんかえらいやつれてますね」
「数日間ろくに食べてないからね…おや、そこにいるのは…」
「あ、春香中学の校長です」
寝ている校長のかわりに学が応えた。
「申し訳ないね…松本の奴がこんな勝手な事を…」
「あいつ…なんなんですか?」
「うちの研究員なんだがね…おっと、こんな話している場合じゃない、さっさと逃げようか」
誠二は素早く学と校長の縄をとき、ドアのついていない方の真っ白な壁に向かってノックをし始めた。
「…なにをしているんですか?」
「ここらへんにね…あったあった」
誠二は少し音の違う場所をみつけ、思いっきりそこに蹴りを入れた。
すると凄い音がして、壁に大きな穴が開いた。
「隠し扉?」
「みたいなところだ、さぁこの通路から逃げなさい。島の端、砂浜にある船着き場に着くから、そこから船で逃げろ」
「でも…」
「ほら校長も持っていって、早く行け!」
「は…はい!」
学は校長を担いで、穴の中へ走っていった。
「さて…私もケリをつけないとな…」
そして誠二はドアから外へ出ていった。
バラババババババババ…
風を切る音と共にヘリコプターが砂浜に降り着く。
「吐くぅ〜!!!」
着陸と同時にドアから裕子が飛び出していった。
「弱いねぇ…」
竃もその後に続いて砂浜に降り立った。
「御主は大丈夫なのか?竃よ」
「俺は乗り物酔いはした事ないよ。…ん?あれは…」
遠くから校長を担いで手を振りながら学が走って来た。
「竃と…鬼丸爺さん!来てくれたのか!」
「裕子もそこにいるがな、それより学…大丈夫だったのか?」
「ああ、校長も眠りこけてるけど大丈夫だ。だけどお前の親父がまだ中に…」
「学君、どこから君は抜け出して来たのだ?」
「そこの洞穴が中につながってる。早く行こう!」
学は校長を砂浜に置いて、鬼丸、竃と共に洞穴へと走った。
「ちょっと…まって!あたしも行く!」
それまで海で吐いてた裕子がこっちに走って来た。
「お前は校長と待ってろ!」
竃がそう裕子に言い残して洞穴に入っていき、鬼丸と学もそれに続いていった。
裕子は一旦寝たまんまの校長を見、
「なんであたしがこんな中年の面倒見なきゃいけないのよ、竃のバカ!」と言った…。
「今、裕子の声聞こえてこなかったか?」
洞穴の中、竃が言った。
「いや、聞こえなかったけど?」
「空耳かな…バカって聞こえて来たんだけど」
「御主ら、そんなのんきな事を言っている場合ではないぞ」
前を見ると、小部屋への入り口がすぐそこにあった。
「あ、ほんとだ。…敵に見つからない様に父さんを脱出させないとな」
「ところで…なぜ誠二の奴は学君と逃げなかったんだ?」
「あ…なんかケリをつけるとか言ってました」
「ふむ…わからんのぉ」
そんな話をしながら、3人は小部屋に足を踏み入れた。
「父さんはどこへ行ったのやら…」
と、言いながら小部屋のドアをあけると、長い廊下が前、左、右に真直ぐ続いていた。
前の廊下には左右の壁に部屋がいくつかあり、廊下の一番奥に大きい部屋があった。
「たぶんあそこだ。松本ってやつがお前の親父の研究室だっていってた」
「あそこか…それにしても他の研究員はどこにいったのじゃろう。さっきから人の気配がないようじゃが…」
「まぁいいよ、さっさといこう」
長い廊下を3人は歩いていると、廊下の途中で左右の扉から人がなだれこんで3人を押さえ付けた。
「わあぁぁぁ!!!」
「なんだ…こいつら!めっちゃ硬いぞ!」
「こいつら…ロボットか!?」
そして3人はロボット人に羽交い締めにされ、奥の部屋へと連れていかれた…
「あ〜あ、暇だねぇ〜」
竃達がそんなことにあっていることなど知らず、砂浜で裕子は山を作って遊んでいた。
「校長は起きないし…1人で砂遊びってのもねぇ…」
「う…うう…」
校長がゆっくりと目を開けた。
「校長!やっと起きましたか!」
「えっと…誰だっけ」
「今年転校して来た橋本裕子ですよ…生徒の名前くらい覚えといてください!」
「いやぁすまんすまん…でその裕子君がどうしてここに…って学君は!ここはどこ!?」
「いっぺんに聞かないで下さいよ…」
裕子はいままであったことを話した。
「なるほど…竃君達が助けに…」
「じゃ、行きましょうか」
「どこに?」
校長は内心裕子の行きたい場所が分かっていたが、わざととぼけた。
「もちろん助けにですよ」
「…僕はもうあんな思いはたくさんだよ。そこにヘリも船もあるんだし、それで一緒に逃げよう」
「逃げる!?あんた…なに考えてるんですか!」
「だって…」
そんな話をしていると、竃達が入って来た洞穴からロボットが数体出て来てこっちのほうに向かってきた。
「え!?な…なにすんのあんたたち!」
「は…はなしてくれぇ!」
洞穴から出て来たロボット達は裕子と校長を捕まえ、研究所の中に入っていった。
「クックック…」
前田誠二の研究室に松本の押し殺したような笑い声が響き渡る。
「松本…俺達をこれからどうするつもりだ?」
やはり捕まっていた誠二が聞いた。
誠二、竃、学、鬼丸はロボットに羽交い締めにされて動けない状態だった。
「さぁな、そいつらの射撃訓練の的にでもなるか?」
松本が言ったそいつらとは、今竃達の後ろにいるロボット達だ。
「なぁオッサン、聞きたい事があるんだけど」
竃が言った。
「…オッサンだと?口を謹め、小僧!」
「こいつらってさ、自立起動型?」
「いや、ここにいるロボットは全てこのコンピュータで電波で命令を送って動かしている」
「SSGは?」
「あいつは我が研究所の新製品だぞ、性格プログラムに従って自分で考えて行動する」
「後1つ質問。ここの研究員達はどこいったんだ?」
「なに、殺しはしていない。研究所の地下でお寝んねしてるさ…もう満足か?」
「ああ、ありがと」
ピー ピー ピー
研究室に電子音が木霊した。
「…何の音だ?」
「お前にとっちゃあ絶望の音かな」
「何をいっている、小僧」
「ここに来る前、ここのコンピュータに新型ウイルスを送った」
「…新型ウイルスだと?」
「俺の作った特製ウイルスだ。システムファイルを荒らしまくってコンピュータを破壊する」
「こしゃくな真似を…」
そして竃達は動かなくなったロボットの手を振りほどき、松本を殴って気絶させて研究室から出た。
「父さん、ここから一番近い出口は!?」
「そこの隠し通路だが…地下室にいる研究員達も助けないと…」
「後ろから松本が追ってくるぞ!」
学が叫んだ。
「…何か『わあぁぁぁ』って聞こえぬか?」
「あれ?ホントだ…」
小部屋に向かって左右側の廊下から、白衣を来たたくさんの研究員が走って向かって来た。
「誠二さん!」
研究員が誠二の名を呼んだ。
「おお、あそこから出られたのか!」
「急に見張りのロボットが動かなくなって…この人達と一緒に逃げて来たんです」
「この人達?」
研究員達の後ろには、裕子と校長がいた。
「お前ら…捕まってたのか?」
竃が言った。
「あんたがあたしらを置き去りにした後に、ね」
「とりあえず…早く逃げよう」
誠二が促した。
そして、竃達と研究員達を含めた総勢20人は、狭い通路から外へ出た。
「さぁ、この研究所を捨てて逃げるんだ」
「…!父さん危ない!」
竃がそういって誠二を押し倒した。
「ゲホッ…どうした竃…竃!?」
誠二の上に乗っている竃の脇腹から血が出ている。
顔をあげると、そこには改造されたSSGの姿があった。
腕に付いている銃の先から煙が昇っている。
その銃を今度は研究員達に向けると…
「うわああぁあ!逃げろ!」
と一目散に船に乗り込んで逃げてしまった。
「佐々霧…さん?」
学が言った。
「学君、既にあのSSGは君の思っているSSGではない」
「え……?」
「松本洋介が作り上げた最悪の軍事用性格プログラム、殺人者の性格があのSSGに書き換えられているんだ」
「殺人者…」
「そうだ。私は完成直前のSSGを検査した時に見つけたんだが、その時私は襲われて気絶したんだ」
「つまり…学校来た時と同じ状態になったってわけか…」
竃が倒れたまま言った。
「竃!大丈夫か!」
鬼丸が竃の近くによって抱き起こす。
「学…あの時どうやってSSGをおとなしくさせたんだっけ…」
「あの時は…たしかスタンガンで…」
「そうか…そうだったっけな。俺がスタンガンで…ショートさせたんだっけ…」
「でも…お前スタンガンなんて持ってないだろ!?」
「スタンガンは持ってないけど…ここにはショートさせるのに変わりになるものがある…」
ドシュッ
SSGの銃が再び火を吹いた。
今度は竃の腹に当たり、竃は気絶した。
「竃…竃!」
「SSGをショートさせる…そうか!」
学がいきなりSSGに向かって走り出した。
「学君!」
ドシュッ
学は銃弾をさけると同時にスライディングをしてSSGの足を蹴り、SSGが前につんのめって倒れた。
学はスライディングの状態から素早く立ち直り、手当たり次第に砂浜の砂をかけた。
「早く!叔父さん達も砂をかけて!」
鬼丸、誠二、裕子3人は訳がわからなかったが、学と同じく砂をかけはじめた。
瞬くまにSSGは砂に埋まったが、すぐにSSGは立ち上がった。
だが、妙に動き方がぎこちない。やがて、ピタリと動きが止まってしまった。
「やった…」
「なにをやったんだ?」
誠二が聞いた。
「そんなことより、早く竃を病院に!」
「そ…そうだな、よし」
4人はヘリコプターに竃を載せ、精製研究所を後にした…。
-------エピローグ-------
病院でわかったことだが、俺の怪我はたいした事は無かった。
もしかしたら元のSSGの性格が、急所を外させたのかもしれない。
現在俺は入院して、ゆっくりと撃たれた傷を直している。
元精製研究所メンバーは、あんなものはこりごりだと転職したらしい。
父さんも研究所をやめ、電気会社に就職した。
そうそう、学はあのとき何故砂をかけたのかと言うと、
「海でぬれた砂をかければショートすると思った」といっていた。
結果的にはさびて動けなくなっただけだったが、最愛(?)のロボットに立ち向かった勇気はまぁほめてやるとしよう。
調査のため、精製研究所に行った警察の調べによると、気絶していた松本はいなかったらしい。
またどこかに行って悪い事をしてなければいいが…
SSGは警察に回収された。解体方法がわからないと言う事で、今度俺と父さんが呼ばれた。
警察には内緒で解体後、また組み立てて元のSSGに直すつもりだ。
性格用チップのプログラムが打ち終るまでフレームは学に持っていてもらうことにした。
…あれから10年後、なぜかわからないが俺は裕子と結婚した。
別に周囲にも反対されず、すんなりと結婚式は行われた。
それから、俺も学もついでに裕子もロボットを開発する研究所に就職した。
昔から機械をいじっていた俺や、ロボット好きな学は別として、裕子まで就職したのは驚いた。
あんな事があったから、親父や今や70代に入った爺さんに反対されたが、
「あんなことを起こさない為に入るんだ」と言ってやったら納得してくれた。
SSGは無事直り、今は学の家で暮している。
後で聞いた事なのだが、父さんがSSGを開発したのは死んだ母さんの代わりを作る為だったらしい。
結局は学の奥さん代わりになっているので目的がどこか違うが、良しとしよう。
まぁいろいろやったが、今も楽しくやっている。
そうそう、校長は今もあの春香中学校の校長をやっているのを聞いた。
また変なものを買わないように周りの先生達からさんざん言われたらしい。
…俺はもうあんなことは絶対起こさせないつもりだ。
今も俺と裕子と学は、仲良く研究している。
デンジャラスヒューマン 完
-
-
■作者からのメッセージ
第1話、第2話にくらべ、書くのに時間がかかりました…。
最後の終わり方をどうするかなぁとずっと考えていたんですけど結局いいのが思い付かなくてちょっと適当になってしまいました。