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『〜東京1人暮らし日記〜』 作者:rathi / 未分類 未分類
全角5035文字
容量10070 bytes
原稿用紙約17.35枚

〜始めに〜
この日記は、僕、七端 緑(ななばた りょく)が日常をつづった日記です。
(日記なんだから、そりゃそうか)
一応、自分1人で見るためにしか書いていませんが、泥棒とかが来てこの日記を手に取り、見た時の為に説明しておきました。
お金とかは持って行っても構いませんが、この日記だけは持って行かないで下さい。
お願いします。



   ○月×日(月)〜晴れ〜

今日、僕は都会に引っ越してきた。
理由は、大学に合格したからだ。
「緑さんですね、部屋まで案内しますよ」
今僕は、物件屋さんに今日から住む部屋を案内されていた。
このアパートの外装は良く、建ってからそんなに経ってないらしい。
駅も近く、コンビニも近い、それなのに家賃は3万円という破格の安さ。
いい部屋を見つけたものだ。
「こちらです」
物件屋さんは鍵を取り出し、部屋を開けた。
「へぇ……?」
玄関を見ると、まず一番先に目についたのは、白い白線のような物。
心なしか人の形をしていた。
「こ、これって……?」
「あぁ、これですか。……今流行のファッションですよ、ファッション」
「ファッション……ですか?」
「おや? お客さん、知らないんですか? 都会ではこれが今一番流行っているんですよ」
……マジで?
それは知らなかったなぁ……。
あれ?でもファッションって服装じゃないのか??
「きっと前の住人が残していったのでしょう、気にしないで下さい」
頭に?マークを3つ程浮かべながらも、取り合えず納得しておく事にした。
中に入り、部屋の数を数えると2つ。
見取り図では確か3つだと思ったけど……。
「それはきっと見取り図の記述ミスですよ」と、物件屋さんが言ってくれた。
なるほど、確かにそれはよくあることだ。
でも気になるのは、明らかにセメントか何かで固めた形跡があるのは、一体何故だろうか……。

「それでは、気になることがございましたらご連絡下さい」
丁寧にお辞儀をしながら、物件屋さんは去っていった。
中も一応全部見たが、特に目立った異常とかはなかった。
なんか喉が渇いたな……。
キッチンへ行き、蛇口を開けた。
にゅるりと黒い物体が流れ落ちてきた。
……毛?
前の住人の悪戯だろうか?女の人ぐらいの長さの髪が何十本と流れ落ちてきた。
邪魔くさいのでそれをそのまま排水溝に流してやる。
コップを手に取り、さぁ水を飲もうという時に、蛇口から出る水は赤くなった。
最初はちょっとビックリしたが、しばらく使っていないと赤サビでこうなることもあるそうだ。
しばらく流しっぱなしにしておけば、その内流れ落ちるだろう。

―5分後―

水は、まだ赤かった。
よっぽどサビていたのだろうか。

―10分後―

水は、まだまだ赤かった。
いい加減諦め、持ってきたペッドボトルのお茶を飲む事にした。
キラリと光る物が目に入ったので、取り出してみると包丁だった。
先端に何か赤い物体がこびり付いていたので、タワシで洗い流した。

引っ越しで持ってきた荷物の梱包を解き、所定の場所へと設置していく。
そういえば風呂場をまだ見てなかったなぁ……。
タオルを置いてくるついでに見ることにした。
ガラガラと引き戸を開けると、中はトイレと風呂場が一緒になっているタイプ。
田舎ではこんな物はなかった。
風呂桶を覗くと、排水溝近辺にまたしても赤い物体がこびり付いていた。
なんか赤い物体がやたらと多いのは気のせいだろうか……?
後で大掃除でもしなければ。

大体の設置も終わり、夜も更けてきたので布団を敷いて寝ることにした。
東京に来たという精神的な疲れもあったのだろう、すぐに深い眠りに落ちた。

ずしり……と、なにか重みを感じる。
目を開けて確認しようかとも思ったが、面倒くさいので止めた。

こうして僕は初めての、東京一人暮らしを何事もなく、平和に過ごした。



  ○月△日(火)〜曇り〜

この日記のタイトルでもあった、東京一人暮らし日記、それが行きなり変更になりそうな今日この頃。
憑いちゃいました、オバケさんが。
あぁ〜……、日記のタイトルは『東京二人暮らし日記』……いや、正確には『東京1・5人暮らし日記』に変更しようかと本気で悩んでます。
彼女の名前は田中 かの子、28歳だそうです。
生前はOLを務め、結婚もして、幸せな生活を送っていたそうです。
え……?なんで僕が知っているかって?
……彼女がずっと僕の耳元で語りかけてくるんですよ、独り言みたくずっとブツブツと。
で、夫に愛人が出来、その愛人と共にかの子さんをあの部屋で……これから先はちょっと言いづらいです。
ともかく、そういう経路があり、今に至るわけです。
今僕は神社に向かっています。
可哀想だとは思いますが、成仏してもらうのが一番だというわけです。

「何か用かな?」
白い装束を着た神主さんが僕を出迎えてくれました。
用件を話すと、快く承諾してくれました。
「ハンニャ〜ラ〜、ニャムニャム〜!」
何やら訳の分からないお経らしきモノを唱え、白い紙が着いた棒をバッサバッサ振り回していました。
「モロモロ〜……カーーー!」
一際大きな声をあげると、肩で息をしながら神主さんは僕に語りかけました。
「お主に取り憑いているのはな、佐藤 まさるという男じゃ。年は……40歳くらいかの、借金が多すぎて、お主の部屋で自殺したそうじゃ」
……あれ?
僕に取り憑いているのは女の人で、名前は田中かの子じゃないのか?
「儂のお経を聞いて、満面の笑顔を浮かべたままあの世に旅立って行ったぞ」
……あれれ?
彼女はまだ、僕の肩に居て、未だに独り言をブツブツと言ったままなんだけど……?
「さぁ、御祓い料を払って貰おうか」
どうにも腑に落ちないまま、御祓い料12万円を支払うこととなった。

頭に?マークを浮かべたまま、道を歩いていると、水晶を持った怪しげな女の人に話しかけられた。
「ムム!? 見えますぞ!? そなたの肩には怨霊が憑いておりますな」
おぉ!すごい!この人一発で見破ってくれた!!
「そなたの肩に憑いているのは女……そう、20代の女じゃな」
おぉ!今度こそ本物の人だ!これなら大丈夫だ!!
「名は……鈴木 美奈子(みなこ)という名前らしい」
おぉ!?……あれ?
「このままでは後一週間もせずにそなたは呪い殺されてしまおうぞ! あぁ恐ろしや! この壺があればそなたは助かるというのに……不憫なモノじゃな……」
はぁ、相槌としか言いようのない返事をした。
「本当は、本っっ当は最上級国宝指定にされているこの壺じゃが、そなたの命を救う為じゃ、この壺を譲ろうぞ」
どこにしまってあったのか、僕の顔ほどある壺を取り出した。
「断腸の思いで、本っっ当に断腸の思いでお主に30万円でこの壺を譲ろう!」
なんだか腑に落ちないまま、奪われるように壺代30万円を持って行かれた。

「ただいまー」
僕は家に帰った、手には壺の他にお札、霊水、聖水、何だかよく分からない人形などなど……。
御祓いグッズ満載だ。
どれかが効果があったのか、彼女はいつの間にやら居なくなっていた。
効果があったというのならば、この御祓いグッズを買って正解ということだろう。

寝る前に、せめてもの供養と思い、彼女に対して黙祷を捧げて寝た。

深夜、トイレに行こうと思い電気をつけると、御祓いグッズは全て無くなっていた。
また彼女に取り憑かれると一瞬パニックになったが、替わりに今日支払った代金が全てそこにあった。
頭に?マークが3つほど登場していた。
押し寄せる尿意に耐えきれず、トイレに行った後、ふと玄関を見ると白い白線は消えていた。
頭の?マークが一つ増えた。
腑に落ちないまま、寝ようとすると、壁に何やら紙が貼ってあるのに気が付いた。
そこには、女の人らしい文字でこう書いてあった。
『今日貴方を見てて、こんなにも哀れで、不幸な人が居ることを初めて知りました。愛する夫に裏切られ、殺された私ですが、何だか貴方を見ていると、どうでも良くなってきました。なんだか、晴れ晴れとした気分で、成仏出来そうです。せめてモノお礼として、騙されてた貴方に代わって御祓いグッズは返品して貰ってきました。代金も、ちゃんと全額返して貰いました。これが、私に出来るせめてものお礼です。本当に、ありがとうございました』
よく分からないが、御祓いグッズは偽物で、でも彼女は成仏して、代金は全部あって……。
頭の?マークが2乗になって増えた。
でも、思った。
オバケに同情されるのだけは、何だか嫌だなぁ……。



×月×日(水)〜晴れ〜【午前】

大学の講習も終わり、家に帰宅する。
「ただいま」
「おかえり」
家には僕一人しか居ないけど、これを言わないと何となく帰ってきた気がしないので、今も言っている。
「あぁー……、肩凝るよ」
首を左右に動かし、ボキボキと骨を鳴らす。
「お疲れのようね」
「あぁ……あ?」
居間から声が聞こえたので覗いてみると、女の人が椅子に座っていた。
黒い髪が床下まで伸び、太陽の光に照らされキラキラと光っている。
眼は少々つり目だが、スタイルもよく、相当の美人である。
見た瞬間、かなりドキリとした。
「あぁー……?」
「どうしたの? 呆けた顔して?」
さも自然にそこに居るものだから、ここは僕の部屋ではないかと思えてくる。
だが、居間に飾られた鮭をくわえた木彫りのパンダなんて飾っているのは、僕くらいなものだろう。
故に、ここは僕の部屋ということになる。
「どなた様で?」
人指を彼女に指すと、何を勘違いしたのかその指の方向の先を見る。
何かに納得したのか、少しだけ頷く。
おもむろに席を立ち、いつの間にか窓際に飾られていたサボテンを手に持ち、僕に見せつけるように差し出した。
「これはサボテンのサーボ君」
何だかとても早そうな名前である。
「いや、そうじゃなくて、君は誰?」
もう一度指さすと、今度は自分だと分かったのか、また小さく頷く。
「私は$#”&&です」
……何?
「私は$#……失礼、ブラスと言います」
何やら意味不明な言葉が聞こえた気がしたが、まぁそこは置いておくとしよう。
彼女はブラスと名乗ったが、日本人がそんな名前な訳がない。
けど外見は日本人にしか見えない。
……生まれは米国か?
「で、ブラスさん」
「堅苦しいのは嫌いなので、何か愛称をつけてもらえませんか?」
悩んだ末、最初の一文字を取って読んでみた。
「では、ブーさん」
彼女は眉を寄せて嫌そうな顔をした。
「それはちょっと頂けませんね。ウクレレ好きなお笑いの方と間違えられるのは心外ですので」
もう一度考え直す。
「では、ラーさん」
彼女はちょっと悩んだ後、静かに首を振った。
「それも頂けませんね。年がら年中裸でいる人みたいです。あぁ、ちなみに言っておきますがスーさんも頂けませんよ。私は釣りは嫌いですので」
パターンを読まれたみたいで、何か悔しい。
「しょうがありませんね、私の事は『ちゃん付け』で読んでもらえればそれで結構です」
「ブラスちゃん……?」
「はい、それで結構です」
それで満足したのか、少しだけ頬が緩む。
外見とは裏腹に、お茶目なんだろうか?
「ブラスちゃん、何故ここに?」
「では、あなたの愛称も考えなければなりませんね」
真顔でさらりと無視された。
「あなたの名前は?」
「緑、七端 緑です」
彼女は少し悩んだ後、こう言った。
「では、グリーンマンということで」
「お断りします」
間髪入れずに断った。
「では、セブンマンの方がお好みでしょうか?」
「嫌いです」
また間髪入れずに断ると、彼女は眉をひそめる。
「わがままですね」
「そういう問題じゃない気がしますけど……」
だんだん彼女の思考回路が理解出来なくなってきた。
「では……ダーリン」
グラっときた。
どういう経緯でそういう名前に辿り着いたのかは不明だけど、こんな美人にそんな事を言われるとグラリとくる。
「お嫌いですか?」
「い、いや……嫌いというより……ムシロちょっと好きかも……」
「ダーリン」
真顔で彼女はそう言う。
さらにグラリとくる。
「では決定ですね、あなたを今後ダーリンと呼ばさせてもらいます」
「是非」
願ってもない事だった。
「ではこれからよろしくお願い致しますね、ダーリン」
「はぅ……」
言われる度に、胸がキュンとくる。
彼女がどういう経緯でここに来て、どういう経緯でここに居るのか、もうどうでもよくなってきた。


<続>
2004/04/08(Thu)19:51:44 公開 / rathi
■この作品の著作権はrathiさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
久々に更新しました。
本当は〜雨〜を更新させたかったんですが、パスが入れ間違えたらしく、更新できませんでした。
今現在パス変更待ちですので、少々お待ちを。
ではでは〜
この作品に対する感想 - 昇順
改行していないのが気になりましたけど、
素直におもしろかったです。初めて作品を読ませていただきました。水山 虎です。
続きが早く見たい……はぅ。
はぅちょっとハマリました。面白いですね、ユーモアに長けています。
 
2010/12/30(Thu)21:49:220点水山 虎
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この作品の投稿者 及び 運営スタッフ用編集口
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