- 『Cry 1〜4』 作者:尾羽未一馬 / 未分類 未分類
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1
総てを、諦めかけた瞬間。
―呼ぶ声が、した。
始まりは、何の変哲もない。
いつものように、つまらない学校をサボってうろついていた町中で、
俺と同じように、暇をもてあましていた馬鹿に喧嘩売られて。
(原因は覚えてない。多分覚える意味もないような下らないことだろ。きっとそうだ。)
相手はなんでか五人組。
オイオイ、俺は一人にしか喧嘩売られてねぇよ。
大体こっちは一人だってのに。聞いてねぇぞ、コラ。
そんな悪態を心の中で吐きながら、一応三人までは快勝。
ただ、その後二人が問題で。
同時に殴りかかってくるもんだから、反撃なんかやりようがなくて。
で、
握り拳二つ、しゃがんで同時に避けようとして、
・・・・
―・・・それから。
――・・・・それから?
「―・・・痛ってぇ・・・・・」
思い出そうとして、電流みたいに頭に走った痛みに呻く。
ああなんてこった。ろくなモンじゃねぇ。
ただでさえ馬鹿なこの俺の脳味噌が、さらに馬鹿になったらどうしてくれやがるつもりだ、あの馬鹿共。
おかげで目の前が真っ白じゃねぇか。
喧嘩の舞台は確かゲームセンターやら何やらが立ち並ぶ路地裏で、
こんな真っ白な壁なんか、無かったはずだ。
・・・・・・ん?
・・・・・・・・・・・ってことは俺、今どこにいるんだ?
まさか目が見えなくなった、なんて馬鹿なことがあるわけねぇ。
・・・・・ということは、つまり?
・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
つまり・・・・・・俺は気絶している?
「・・・・・ってンな訳あるか!俺!」
考えついた答えに、俺は思わずツッコミを入れる。
いや、我ながらどうかと思うぞ、それは。
「・・・・あ、あのぉ・・・・」
グルグル良く分からねぇ思考の渦に飲まれそうになっていた俺の頭上から、
怯えたような声が振ってきて、俺は上を見上げた。
「ぁ?・・・・・・・・・・・あぁ!!?」
思わず声を上げて、今俺が見たモノのあまりの有り得なさに俺は俯いて頭を抱えた。
・・・・・とうとう頭がイカレた。そう思った。
見上げた俺の目に映ったモノ。
・・・・・・・天使、とかいう想像上の生き物。
・・・・に、よく似た、羽根を生やした人間。
それが、宙に浮いていた。
一瞬普通に「ああすげぇなぁ。人間って飛べんだなぁ」とか思った自分が信じられねぇ。
よーく考えてみろよ、俺。
地球のどこの国に羽生えてしかも宙に浮ける人間がいるってんだよ。オイ。
んなのいたら大ニュースだっての。
ここら辺報道陣だらけでごったがえすっつーの。
「あ、あのぅ・・・・ホウドウジンって、なんですか?」
「うわ!!?」
いきなり話しかけられて、驚いて俺はまた声を上げた。ついでに仰け反った。
いつの間に。
天使モドキが俺の顔をのぞき込んでいた。足は地面(?)についてる。かがんでまで話しかけたいか?
つか、声に出てたのか、今の!?
正直、自分でも分かるぐらいに目元、口元が引きつっている。
でも天使モドキはそれに気付いてねぇのかそれとも気付かない振りをしてんのか、
首を傾げて、また言葉を発した。
「それに、テンシとか、チキュウとか・・・・。あなたは、どこの」
「・・・・・・・ってちょっと待て、オイ。」
いま、何か問題発言を聞いた気がした。
地球をカタカナ言葉で発音しやがった、こいつ。
「地球を知らねぇのか!?」
「はい。」
しかもあっさり返しやがった。しかも知らなくて当然みたいな言い方だ。
「ブルースケイルには、そんな場所はありませんから。」
・・・・・・・は?
・・・・ブルー・・・・なんだって?
地球がない!?ンな訳あるか!!
ああ親父、お袋。
俺は悪い夢を見ているんだろうか。
そうだとしたら叩き起こしてくれ。
今叩き起こしてくれたらちゃんと学校出るから。いやマジで。
2
天使モドキの言葉を信じるのはとてつもなく簡単だ。
そう、俺が学校の試験で30点以上取ることに比べれば、
余裕綽々お茶の子さいさいってヤツだ。誰にでも出来る。多分。
これは夢だと思えばこんな訳の分からない状態にも納得が出来る。
というか俺は今猛烈にそう思いたかった。というより、そうとでも思わなきゃ頭がついていかねぇ。つか、やってらんねぇ。
・・・・なぜなら今俺の目の前には、現実として信じられない光景が広がっているからだ。
それこそ、マンガとかゲームとかにでも出てきそうな。
空は青い。
それはまあ普通だ。ごく普通だ。
家がある。
それもまあ普通だ。それが宙に浮いてる、なんてことがなければ。
人がいる。
うん、普通だ。背中に羽根があってさらに家同様浮いてさえいなければ。
ちなみに、土やコンクリートはない。つまり、地面がない。
・・・・・ありえねぇ。
「・・・・なあ、ココはなんなんだ?」
俺は白い壁にぽっかり空いた穴から外をぼーっと眺めながら、傍らで椅子に座ってのんびり本を読んでいる天使モドキに言った。
ぱたん、と本を閉じる音がした。
「ええと、何度も申し上げているように、ここはブルースケイルという場所で、あなたの仰る、チキュウという場所ではないんです。」
うんいやそれは言わなくても分かる。つか見れば分かる。
地球にはまず宙に浮かぶ家なんて今のところないし、
背中に羽が生えた人間がいるなんて話も聞いたことがない。
そこから考えると、まずここは地球じゃない。
ついでに夢でもない。
信じたくも認めたくもないけど、喧嘩の後どうなったか思い出そうとした、そのとき頭に走った痛みは確かにホンモノだった。
「・・・・・・・そういえば、何故あなたはここにいらっしゃったのですか?」
天使モドキは不思議そうに聞いてきやがった。
ンなこと知るか!俺が知るか!
むしろ俺が知りてぇ!
実際俺は望んでこんなわけの分からねぇ場所に来たわけじゃない。
「知らねぇ。つか分かんねぇ。」
俺はぼそっと呟いた。
ここが天国だとか言うんだったら、まぁ何となく理解はできる。
喧嘩の最中、避けようとした握り拳2つが当たって、その当たり所が悪くて
ポックリ逝っちまったとか。
・・・・・・凄ぇダサイ死に方だけどな・・・・。
くだんねぇ想像をしていると、また天使モドキが話しかけてきた。
「・・・・・・・・クリムゾンスケイルの方でも、ないですよねぇ?」
俺は外を眺めるのをやめて、天使モドキの顔を見た。
いい加減ちゃんと話をするか。そう思ったからだ。
とっととこんなワケの分からねぇ世界とはおさらばしたい。
真剣な声色とは裏腹に天使モドキはなぜか微笑んでいた。
何が楽しいんだこのエセ天使?
「・・・・だからなんなんだよ、そのクリムゾンスケイルとかってのは・・・・。」
「ぁ・・・言ってませんでしたか?
ここ、ブルースケイルは空の国で、クリムゾンスケイルというのは地の国なんです。」
・・・・・・・・・・・・いや、聞いてねぇよ!!
俺は心の中でツッコミを入れた。ちなみに裏拳だ。
「ブルースケイルの住人には、見てお分かりだと思いますが翼があり、飛ぶことが出来ます。」
言葉を続けるエセ天使の背中には、確かにその言葉通り翼があった。
そして俺の心中ツッコミは当然綺麗に無視された。
「じゃあクリムゾンスケイルの人間はどういうやつなんだ?」
俺がそう聞くと、エセ天使は一瞬何かを言い淀んだ。
「・・・・、あちらの方々は、私たちのように翼を持ちません。
それによって飛ぶことが出来ない代わりに、強靱な肉体を持ちます。」
あー、それで俺をクリムゾンなんたらのヤツかと思ったワケか。
強靱な肉体とやらが俺に当てはまるかどうかは置いといて。
外見だけならそんなに違いはなさそうだしな。
「・・・そして現在、ブルースケイルとクリムゾンスケイルは、戦争中です。」
エセ天使は、今まで浮かんでいた微笑みを消え去らせて、そう言った。
・・・・・・・・・・・・マジかよ。
3
多分天使モドキの真剣な顔からすると、それは嘘じゃないんだろう。
だとしたら、何だ?
・・・・・とんでもない所に来ちまったんじゃないのか、俺。
戦争っつったらイコール殺し合い、なわけで。
ヘタしたら何の関係もねぇ俺まで殺られるかもしれねぇ。
・・・・・・・・・・最悪だぞ。オイ。いや、もう既に死んでるのかもしれねぇけど。
「・・・・ああ、すみません。あなたには関係のないことでしたよね。
この世界の事情なんて。」
天使モドキは微笑んで、まるで呟くように言った。
・・・・その表情がどこか悲しげに見えたのは、俺の気のせいだろう。
それにしても、戦争中・・・・・って。
「・・・・・どうすりゃいいんだよ、俺!?」
こういう場合どうすりゃいいんだよ何もせずに死ぬだけなんざ真っ平御免だぞ!?
大体死にたくねぇし!いや、もう死んでるのかもしれねぇけど!
「そうですよねぇ、戦争中ですから、召還士さんを呼んで元の世界に戻して頂くわけにも・・・」
天使モドキは何やら頷きながら妙なことを呟いている。
召還士だとか、元の世界に戻す、とか・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・ん?
元の世界に・・・・・・戻す?
・・・・・・・ってちょっと待て!!!!
「オイ今お前なんて言った!!?」
俺は思わず座っている天使モドキの両肩を掴んでいた。
天使モドキは驚いたみたいに目を何度か瞬かせる。
「はぁ、ですから召還士さんを・・・」
「じゃなくて!!その後だ!俺が元の世界に戻る方法があるのか!?」
俺の質問に天使モドキは頷いた。ただし、申し訳なさそうにこう付け加えながら。
「はい。ただ・・・・今はまだ無理、なんですが・・・」
・・・・・・・・・・
無理。
・・・・ということは、俺はまだ帰れない、と。
・・・・・・・ああそうだろう。人生はそんなに甘くない。
「・・・・何で無理なんだ?」
正直自分でもかなり落ち込んだトーンで言っているのが分かった。
そんな俺に対して、天使モドキはますます申し訳なさそうな顔をする。
「・・・簡単に言ってしまうと、あなたを元の世界に戻せる人がいないんです・・・・。
・・・・・もちろん、いることはいるのですが、今はその方の力を戦争以外に使うことは出来ないので・・・。・・・・すみません」
何故か謝られた。
・・・・こいつが悪いワケじゃないのに。
「あ、でも戦争が終わったらすぐにでも届けを出しましょう?それまでは私の家で暮らしてくださって構いませんから。
それに他の世界の方が誤って来てしまうのはよくあることですし、きっとすぐに戻れますよ!」
天使モドキはまるで俺を励ますように明るい調子で言った。
・・・・何でそんな、他人に気ぃ使えるんだ?こいつ?
いや、俺の勘違い・・・つか、思い込みかもしれねぇけど。
そういうわけで俺は、とりあえず天使モドキの所で世話になることになった。
断る理由もなかったし、断ったとして他に行く当てもなかったからだ。
・・・・・いつ帰れるんだろうな、俺。
4
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。」
天使モドキがのんびりとそう言った。
・・・うん、そういやそうだよな。
かなり遅すぎる気がするけど。
「私の名はクローツといいます。趣味は読書と料理です。
・・・・戦争が終わるまでになるのでしょうけれど、よろしくお願いしますね。」
ご丁寧に頭を下げて天使モドキ・・・もとい、クローツが言った。
・・・こうなったら俺も言わないってわけにはいかない。
相手の名前だけ聞いといて言わないのは卑怯だしな。
・・・・・・まぁもともとはこいつが勝手に喋り始めたんだけど。
「・・・・郷崎倉人(きょうざきくらと)。趣味は無し、特技は喧嘩。」
早口で俺は言った。
我ながら喧嘩が特技ってどうなんだ・・・・?呆れられるぞ、普通。
「きょうざ・・・?」
・・・・「特技は喧嘩」で呆れる以前に俺が早口で言った名前がどうやら聞き取れなかったらしい。
クローツは顔を上げると首を傾げて聞き返してきた。
・・・・・首を傾げるのはこいつの癖か?
「郷崎倉人。二回も言わせんなよ。」
今度はさっきよりゆっくり言ってやった。
するとクローツは柔らかく微笑んで、
「キョウザキクラトさん。」
やけに嬉しそうに俺の名前を呼んだ。しかもフルネームで。
「・・・・・倉人でいい。」
フルネームで呼ばれるのは慣れてないからそう言った。
小、中学校の卒業式以来・・・それぐらいしか呼ばれる機会なんて無かったし。
「はい、分かりました。」
頷いたクローツはなんでか嬉しそうだ。・・・・もしかして標準で笑顔装備なのか?まあ俺には関係ない事だけど。
お互いに紹介も終わって、今はどうやら夕方らしい。クローツが飯を作ってる間、俺はこの建物を見て回っている。
改めてよく見てみると、どうやらこの建物には外に出るためのドアってものが無いみたいだ。
その代わりに、かどうかは知らねぇけど、真っ白な壁には人間一人が余裕で出入りできそうな穴が空いている。
・・・・・・・・・・・まさかこれが玄関とか言わないだろうな。
俺の腰のあたりから上にぽっかりと空いた穴から、俺は外を見た。辺りは少し薄暗い。
・・・・そして見下ろした。
「・・・・・・・・げ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・高い。
多分落ちたら死ぬ。いや絶対死ぬ。
俺の住んでるマンション(十階建て)より高い!
それこそ何かワケわからん物体になって発見される!!
・・・・てか、ここから物落とせば戦争なんて一気にカタ付くんじゃねぇのか・・・?
・・・とかなんとか少し物騒なことを考えながら、結局俺には実行する勇気はない。
それにこれ以上見てるとマジで落ちそうで、おれは穴から離れようとした。
・・・すると慌ただしい足音が背後から近付いてきて
「あ、危ないですよクラトさんっ!!」
いきなり服を引っ張られ、振り向くと顔面蒼白のクローツがいた。
「落ちたらどうするんですかぁっ!!あなたには翼がないんですから、
こんな所から落ちた場合万が一にも助かる可能性なんてありませんよ!?
たとえ下に森だとか林とかが広がっていても、この高さから落ちたらまず死にますよ!?それこそグチャグチャのメチャメチャです!!」
クローツは一気に捲し立てるとまるで全力疾走した後みたいに肩で息をしてる。
・・・・そこまで必死になるようなことか?他人のことだろ?
「俺にもそれぐらい分かるって。ただ、ここから町とかに物落としちまえば戦争なんざ楽勝だろうなーって思ってさ。」
「・・・・・・・・・はい?」
・・・・目が点になってる、ってのは今のこいつの顔のことを言うんじゃないだろうか。
「だから、こっから重い物でも落とせば・・・」
「・・・・・あ、ぁ・・・そんなことですかぁ・・・・。」
俺が繰り返すと、クローツは何故か安心したみたいにゆっくり俺の服から手を離した。
「そんなこと?」
「クリムゾンスケイルの町や村には、結界という物が張ってあって・・・そこにはいくら攻撃をしても、無駄なんです。」
「・・・・・そうなのか?」
初耳だぞ、そんなの。
「はい。でもよかった・・・。
クラトさんが本当に落ちてしまうんじゃないかと思って、私、すごく冷や冷やしました。すみません、私早とちりというか・・・」
さっきまで顔面蒼白だったクローツは、今はそんな状態を少しも感じさせないような微笑みを浮かべている。
・・・・けど、なんか無理してる感じがする。
・・・・・・・心配掛けた・・・のか、俺?
冷や冷やしたとか言ってるからそうなのかもしれない。
・・・・一応謝っとくか・・・。
「・・・クローツ、その・・・」
「はい?なんでしょ・・・!」
クローツが俺の言葉に反応した、その時だった。
「な、なんだ、この音!?」
今までに聞いたこともないようなでかい音がした。
・・・・いや、聞いたことはあるかもしれない。
けど、俺が聞いたことのあるそれは、ここまででかくはなかった。
「花火か何かか!?」
うん、そうだそうに決まってる。
ただこんなとこで打ち上げたら火事でも起きそうだけどな。つうかそうであってくれ、なんか嫌な予感がして仕方がない。
「いえ、違います!これは・・・・召還!まさか、ここに仕掛けてくるなんて・・・!」
・・・・・クローツはいともあっさりと否定してくれやがった。ただ、本人もかなり信じられないって顔してるけど。
というか召還って、俺を元の世界に戻す手段じゃなかったか?
「・・・・えー・・・・どういうことだ、これは?」
「・・・・・・・すみませんクラトさん、落ち着いて聞いてください。」
俺は落ち着いてる。いつでも落ち着いてるぞ、多分。
「・・・・どうやら、攻撃されているようです。」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・ああこれが戦争ってヤツか。
「・・・・・・・・ってマジで!?」
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2004/04/11(Sun)19:12:05 公開 /
尾羽未一馬
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■作者からのメッセージ
批判、ご感想お待ちしております。
4話目更新。ようやく名前が出ました(遅)。なんか中途半端で申し訳ありません。