- 『痛い蜜の味(第2話)』 作者:閏 / 未分類 未分類
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原稿用紙約3枚
「羽鳥さん、発見!」
校舎裏の薔薇園に、桜はいた。
昼食の時間、彼女はいつもここにいた。
「一緒に食べよ?」
信也が桜の隣に座ると、黄色の弁当箱の蓋を開けた。
・・・お礼しないと。
昨日、信也がくれたぬいぐるみは桜の部屋に飾ってある。
可愛い黒の目、蝶の形をした橙のピアス。
ぬいぐるみを部屋に飾ったのは、何年振りだろうか。
信也は必死に弁当に食らいついてる。
「――――・・・あのさ」
信也は冷たく、静かな声に吃驚した。
でも、自分に話し掛けてくれたという喜びでその吃驚は消えた。
「ん?」
綺麗な笑顔。
透き通った、本音を語る笑み。
「・・・ありがと」
それはまるで独り言。
信也は目を見開いた。
「ありがとう、ぬいぐるみ」
途端に信也は笑った。
桜は自分と喋って笑顔だらけの人は初めてだった。
・・・妙な気持ち。
もやもやしていて、心が温かい。
微妙な嬉しさ。
「いいよ、羽鳥さん喜んでくれたらそれで」
彼は笑って弁当を片付けた。
桜も、弁当の蓋を閉めた。
―――・・・閉めた。
「私は」
信也は、デザートを取り出す手を止めた。
「何?」
「私は優しくない」
だから閉めた、心の扉。
閉め切った心はいつのまにか凍る。
「優しくないさ、信也くんみたいに」
優しい彼のおかげで溶け始めた心。
それは蜜のように、蕩けていて。
いつ元に戻るかわからない。
彼女の心はそんなに脆くなっていた。
「優しいよ、羽鳥さん。だって、月を綺麗に感じる気持ちがあるから」
月。
昨日、朝に見た白い月を、桜は綺麗と思った。
それだけで。
「いいんだよ、羽鳥さんは羽鳥さんで、羽鳥さん自身の優しさの形があるんだから」
ありがとう。
信也の言葉は全てを溶かす。
その後、二人は信也の持って来た西瓜のゼリーを食べた。
外国輸入店から、買ってきた西瓜のゼリーは微妙においしい。
桜の心も微妙だった。
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2004/03/25(Thu)22:14:34 公開 / 閏
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■作者からのメッセージ
心の氷が溶け、蜜になる。
どうして蜜かと言いますと、何かあったらすぐに凍ってしまう微妙な状況だから。
桜も信也も今時の中学生より特殊なタイプ。
次回なんてすっごい新キャラ登場。
どんどこな一年を終了して、四月には中二でなる閏でした★