- 『Sir Distiny <運命のカミサマ>』 作者:黒子 / 未分類 未分類
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原稿用紙約4.65枚
Sir Distiny <運命のカミサマ>
お空の上って、とっても退屈だ。だって、本当に何もないんだもの。
そんな僕の、ただ一つの楽しみが、地上の人間達を眺めること。最近ちょっとお気に入りがいるんだ。
砂の海がどこまでも続く、小さな村の小さな家。
その中でずっと育ってきた、色の白い女の人。とってもかわいいんだ。そして、綺麗。
一週間にいっぺん、街に売るためのレースを編んでる指先なんか、とくに。
僕はずっと、彼女ばかり見てた。
けれども、初めて見たときからちょっとだけ経ったある日、彼女はお嫁に行ってしまった。同じ村の、男の人。ずっと昔から、仲がよかったみたい。
二人はとっても幸せそうだった。
……ちょっとだけ悔しくなった僕は、二人が住む、その国に戦争を起こしてやった。
案の定、男の人は戦争に行ってしまった。
いつ帰ってくるか、わからない。
……帰ってくるかも、わからない。
彼女は三日三晩、泣いて、祈った。
そして次の日から、狂ったように、レースを編み始めたんだ。
……この国には、お金を払って、兵隊にならないで済む決まりがある。
だけど、それは王様みたいな人しか持ってないような、本当にすごい額なんだ。
……レースで、そんなお金ができると思ってるの?金の塊でも掘り起こさなきゃ、無理なんじゃないの?
僕は彼女の夢に出て、そう言ってやった。
……その、次の日。彼女はスコップを持って、砂の海に出かけた。
どこから見つけてきたのか、うさんくさそうな古い地図を片手に。帽子をかぶって。兵隊みたいな、格好で。
彼女は砂を掘った。さらさらの砂を。掘ってもなかなか穴なんてできない、砂を掘った。
次の日も、彼女は砂の海に来た。
次の日も、
次の日も、
雨なんか、一度も降らなかった。ずっと、気の遠くなるようなかんかん照りだ。
……ばかじゃないの?
僕は夢で言った。
そんな変な地図で、君のそのスコップで、本当に金が掘れると、……金なんかあると思ってるの?
それでも彼女は来た。
僕が好きだった、白い肌。まるで火傷みたいに、真っ赤になった。
僕はそんなことをさせたかったんじゃない。
彼女の白い手が、好きだった。レースを編み続ける、白い手。綺麗な手。
……あの男の人を愛した、あの、手。
……しばらく経って、すごく大きくなった、彼女が掘った穴。
かちんと、スコップにあたるものがあった。
……頭よりも大きい、金の塊だった。
彼女はそれを、慌てて掘り起こした。
少し前まで、レースを編んでいた手。今は、もう見る影もない。きっと今したら、糸がささくれてしまう。
金を抱えた彼女は、空を見て、叫んだ。
「ありがとう!運命の神様!」
……やっぱり、彼女はバカだったみたい。
そもそも、彼女を、こんな目に遭わせたのは他ならない僕なのに。
ありがとう、なんてサ。
……ありがとう、なんてサ。
そのあと僕はバカみたいに泣いて、砂の海には久々に雨が降った。
三日三晩降り続けた。そうしてやっと止んだ。
戦争してた所にも降った。
大砲の火がつかなくなって、それで戦争はうやむやのうちに終わった。
今、彼女は帰って来た旦那さんと、仲良く暮らしてる。
昔みたいに、けれども少し黒くなった手で、レースを編みながら。
END..
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