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『素晴らしきかな』 作者:若葉竜城 / 未分類 未分類
全角892.5文字
容量1785 bytes
原稿用紙約2.95枚
「素晴らしきかな」
僕のお父さんが毎日のようにいっていた耳に焼き付くような言葉。
僕はいつもその言葉を聞くのが苦痛だった。
だって僕はお父さんにそういって貰える価値があるような人間じゃなかったから。
それから十年経ちお父さんの臨終の直前。
実の父親が死のうとしているのに涙一つ流れない僕はお父さんにそれを話した。
「お前は素晴らしきかな。素晴らしきかな」
そう言ってお父さんは死んだ。
お父さんの最期の言葉はただでさえ冷め切っていた僕の心をいっそう虚しくさせるようなものだった。
お母さんもお父さんの後を追うように死んでいった。
残された僕を哀れんで一人の女性が友人になってくれた。
彼女はとてもいい人に見えた。
僕は彼女と結婚して子供も産んだ。
幸せに思える毎日が続いて気がつくと僕もお父さんと同じように臨終を迎えていた。
妻は既に死んでいて身内といえば息子だけだ。
息子は僕を前にして逝くな、と泣いている。
僕は息子のその様子に満足している。
絶対に僕は死ぬときに涙一つ流さないような人間には子供を育てまいと思って育ててきたかいがあった。
「何一つ俺には誇れるものも父さんに認められたものも無いのにこれからどうやって生きていけばいいんだよ・・・・・」
僕は息子の嘆きに驚いた。
僕は子供の頃から何でもできて逆によくドジをするお父さんを見下したりしてもいた。
だから息子も優秀でないと許せなかった。
何か間違いを犯せばそれがどんなに小さなことでも容赦無く叱咤した。
子供というものは親に対して甘えるものだが僕は甘えなんて許さなかった。
息子が僕を恐れるようになっていくのは感じていたけど「父親」とはそういう存在だと思っていた。
そして息子は勉強にしても運動にしても業績にしても誰にも負けることがない「優秀」な男になれた。
なのに、これは何?
あれほど完璧な自慢の息子はどうしてこんな泣き言をいうのか・・・。
意識が遠のいていくのが感じられる。
死神が頬にふれる。
僕は急いだ。
一言。
たったの一言。
息子にいわなければならない。
「素晴らしきかな」
ああ、全ての人に。
そして僕の自慢の息子に、
世界中の幸福を・・・・
2004/03/19(Fri)11:44:15 公開 / 若葉竜城
■この作品の著作権は若葉竜城さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
素晴らしきかな。
やっぱり子供には飴とムチでしょう。
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