- 『記憶の花園で眠れ第一話【パス変更依頼受理】』 作者:風路そう / 未分類 未分類
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「やっぱり、無理かもな〜…」
義太夫は数秒前に自分の手にかかった鬼を見てつぶやいた。
(殺しをしたくないって言っても、妖怪にとって人間ってのは敵って思いが埋め込 まれてるのかもな…)
だからと言って、自分が妖怪の餌食になるわけにもいかず、今この現状にあるのだ。
というか、身体が勝手に動いてしまう…義太夫はそれを自覚しているのだが、長年の癖はどうしようもない。
鬼に黙祷をささげつつ、自分の後ろにしゃがんでいる少女に目を向けた。
「…で、嬢ちゃん…あんた死ぬとこだったんだぞ…?」
少女は服の泥を手で払い、義太夫を眺め見た。
「あなた…お強いのね。」
そう言いながらにっこりと笑った。
ぞくっ…
こいつ…違う…
義太夫は本能的に感じた。
少女の笑顔はとても子供には見えない美しさがあった。
それどころか、人間離れしている美しさだった。
義太夫は顔がこわばった。
「お前…な…」
なんなんだ?
妖怪でも、幽霊でもない。なにか、別の…
「あら…あなた…わかるんだ。」
少女は、ふっと小さくため息をついた。
「安心なさって。あなたの敵になるものじゃないから。」
彼女は妙にさばさばした口調で話し始めた。
「まずは、自己紹介ね。私はくぐつ…え〜と、つまり人形ね。名前はないわ。あ なたは?」
「お、俺…は、義太夫…。」
「義太夫…へぇ、あなたみたいな若いのが妖怪殺しをしてるなんて、世も末ね。」
「な、なんで知ってるんだよ…。」
少女はクスッと笑った。
「あら、あなたはなかなか有名よ?妖怪殺しのお坊さん。」
「妖怪殺しはもうやめた…。」
「じゃあ、今のはなにかしらね。」
「あんたが危なかったから…つい…」
少女の目が少しきつくなった。
「理由は、それだけ…じゃないのでしょう…?」
義太夫は、どきっとした。
そして、急に腹立たしくなってきた。
「…あんたには関係無い…じゃあな…」
少女に背を向けて、歩き始めようとした。その時、
「ちょっとお待ちなさいよ。話くらい聞かないと失礼じゃなくて?」
「なんだよ…話って…。」
「有名なお坊さんなら知ってるんじゃないかしら?魂鎮めの社を。」
「魂鎮めの社っていったら…霊やらなんやらのとりついた物を清める場所だろ?そ こがどうしたんだよ…。」
「私をそこに連れていってほしいの。」
「なんで俺が…。」
「場所がわからないのよ。だから、案内してくださる?」
義太夫は昔、父親に連れられ行った記憶があるが、少女を連れて旅をするのはどうも面倒だと感じた。
逃げる…か…
とりあえず、走って逃げるために、くるりと後ろを向いた。
が、少女がすでに自分の前に立っていた。
「なっ…」
「さ、早く行きましょうよ。あと、逃げようとしても無駄ですから…肝に命じとい てくださいな。」
口は微笑んでいたが、目が笑っていない。
義太夫は、またドキッとした。
そして、逃げるのは諦めることにした。
わざわざこんな頼みのために必死で逃げるのも馬鹿らしい、それに、目的もなく旅を続けるのも飽きてきたところだった。
「わかったよ…。それより、当分一緒なんだ。呼ぶ名前が無いと不便だぞ…。」
少女は少し呆けた。が、すぐに笑顔で話し始めた。
「そうですね。…あなたが付けてくださいな。やっぱり、可憐な名前がいいわ。」
「人に任せっきりだな…。そうだな…じゃあ、【花世】なんてどうだ?」
「かよ…?」
「花の世で花世。けっこういいと思うけど…」
「あなた…なかなかいいセンスしてますわね…。気に入りましたわ。じゃ、出発 ですわね!義太夫!」
「そうだな、行くか。」
少し謎はあるが、相棒ができたことを義太夫は密かに喜んでいたのだった。
どんな結末が待っていようとも…
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2004/03/18(Thu)22:36:18 公開 / 風路そう
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■作者からのメッセージ
続きものを書いてみました。
花世が魂を込められ(つまり生まれた)理由が二話目で明らかになります。
前に書いたもののほうが伝えたいものがはっきりしてると思います…。
でも、読んでいただけるだけで幸いです。
よろしくお願いいたします。