- 『目指せ! ドラゴン胎児!!』 作者:成夜 / 未分類 未分類
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全角5758文字
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原稿用紙約18.05枚
1話 <目指せ、ドラゴン胎児?>
「はぁ」
溜息をついて私は両肘を机の上に置いた。何しろチラシをあちこちに配った後で何故か知らないが一気に疲労が出てきたのだ。私はとうとう新たな道を歩み始めたのだ。
黒い髪がしなだれて腕と一緒に机に雪崩落ちる。黒い瞳といわれているが、今は灰色になってるに違いない。
……親父の手も妹弟の力も借りず、ついにやってきてしまった。後悔はないが結構心細いものだと、20になった今でもつくづく思う。人間って結局寂しがりやなんだな。
私は顎を手のひらに乗せて、目先の扉の向こうの客を待つ。まだ来てないんだけどね。
だがそのとき、扉に備え付けた鐘が響き、来客を知らせる。顔を輝かせた私を迎えたのは。
「ちわ〜、夕食運びに来たよ〜」
マルスの国(黒髪がほとんど)には珍しい金色の髪に愛らしい碧眼をもった親友、サラーだった。彼女は飲食店の娘で、私がちょっと世話になったというかかけちゃったというか、そんな縁のあるお店の看板娘だった。年も私と同い年で気も多少あったのが友情の始まりだ。
「ありがとぉ〜」
夜食に持ってきてくれたのは簡単なサンドウィッチと牛乳一本。我が家の財政というか仕事の資金上、あまり高いものが食えないという悲劇なのだ。
「大丈夫、こんな仕事で……」
「金が入るときは入るし、入らないときは入らない。それとも私に普通の仕事をしろと?」
私は彼女にかつての悲劇を連想させるように言葉を選ぶと、彼女はあきれていた。
「まったく、腕っ節が強いからって無茶したら駄目よ」
「無茶はしないよ、自分の限界だって知ってるし、限界を超えて尚やり遂げなきゃならない時があることも知ってる、大丈夫」
私は強気に微笑むと彼女も諦めて、私が頼んだサンドウィッチをひとつつまんだ。私が頬を膨らませると、
「いいでしょ? これくらい」
そして彼女は一瞬拗ねたような表情をこぼしたのだが、すぐに表情を一変させた。私が鋭い表情に変わっていたからだ。
「失礼、開いていたのでね」
そう言うと漆黒のローブの男は掲示板や店先に飾らせてもらったチラシを見せながら、我が事務所「ミラクルベリー」に上がりこんでいた。
私の名はマリア。ただのマリアだ。もう性名は必要ない。
「あたしは冒険者じゃないっつぅ〜の!」
憤慨しながらあたしは後ろの相棒、銀髪の青年レヴィアに叫んだ。
「でも、お金がないんでしょう?」
「うっ……」
以来はごく単純。とある未発掘の洞窟にレッドドラゴンって言う、危険ランクBの結構危険な魔物が潜んでるのでこれの退治。さらにその奥に魔法の探知で財宝が眠ってるらしいので、それの確保。なお、依頼主は「黒魔導師協会」という一応、公共の組織の一つだ。
なお、あたしの情報だと黒魔とは一般に攻撃系や自然災害系を引き起こす魔法としてるが、一応マルス王国では警備の強化に魔法を採用しているので問題はない。が……
「なぁ〜んか怪しいのよね」
「なぜです? 武勇伝は伝わってたじゃありませんか」
「そっちじゃない!」
なお、武勇伝とは今回の件は関係ないので、とりあえず語らないでおこう。サラーとの友情話だ、普通のね。
私たちは手渡された地図にそって国境を越えて、中間地帯に出るとあっさりとその洞窟は姿を見せた。というより、何名かの黒魔道士と思しき漆黒の法衣をまとった男たちが、洞窟を前に立ち往生している。
「何してんの?」
「ん? ここは危険だぞ!」
「その危険な仕事をしにきたのよ」
あたしは荒々しい口調で言うと、契約書をたたきつけてその魔道士にくれてやった。どうせ戦闘じゃ役に立たない、ただの紙切れだ。
それで、ドラゴンは目の前にいた。というより魔道士の牽制で洞窟から出てこようとしているのか。
赤い皮膚に皮膜の翼、牙だけでなく頭部に二本ほど角が生えてるから、典型的なドラゴンだ。あたしは腰の太刀を引き抜いて横に水平に流すと、ドラゴンがあたしに気づく。
『まだ来るというのか、人間め』
『?…………あんた、言語竜ね』
不意に聞きなれた言葉を聞いて、私は竜言語で聞き返した。周りの魔道士たちが一同、騒然となった。当たり前だ。ドラゴンは魔物の中で最強級に属し、その生態系を詳しく研究しているのはマルス国の遠方に当たる帝国の魔導研究所ぐらいなものである。
『話ができるんだったら好都合だわ』
『必要ない。何人たりともこの先へ進むことは許さん』
『ドラゴンは財宝を守ってるとは聞いたことあるけど……頑固ってのは聞いたことはないわね』
『財宝?』
ドラゴンはいぶかしんであたしを見据え、鼻先を近づけてくる。
『わたしたちの目的は、その財宝だけ。あんたは危険因子として見られてるわ。あたしにしちゃどうでもいいんだけどね』
私の竜言語に黒魔道士たちは唖然としているが、ドラゴンは灼熱色の体を動かし、
『……お前は争いが嫌いか?』
『大好き、だけど今は資金不足なの。暴れたらそれこそオジャンだわ』
これは本音だ。いっそこのドラゴンと戦ってぶっとばしてもいいのだが、ドラゴンを吹き飛ばす方法というと「破壊級」の魔法を駆使しなければならない。そんなことをしたらこの竜が生息している洞窟自体を丸ごと破壊してしまうだろう。まぁ、いくつか竜退治用の小道具は持ってきているが、今は歩き疲れもあって面倒くさかったこともあった。
ドラゴンはふたたび私に鼻先をちかづけて、こう言った。
『……この先には、私の命より大切なものがある。それを奪わぬと誓えるか?』
私は一度、この内容を黒魔道士たちに通訳した。答えは少し思案されたのだが、あたしが痺れを切らして、
『OKよ。んで、あんたの大切なものって何?』
実物を見せ付けられて、あたしは卒倒になった。何で人間の女を守ってるんだよ!?
奥で見つけたのは小さな明かりと、少しこまめに片付けられた部屋があった。その部屋には女性が一人、健やかな寝息を立てて眠っていたのだ。草の葉で葺いた簡素なベットに女は眠っていて、お腹が微妙に大きかったりした。
「も、もしかして……」
あたしはレヴィンに振り向くと、レヴィンは朗らかに。
「えぇ、妊娠三ヶ月ちょっとでしょうか?」
「さらりと語ってんじゃね〜!!」
『我の命より大切なものだ』
『なるほど、花嫁を命より大切と説きますか。すばらしいですね』
『は、花嫁ぇ〜!?』
ちなみにレヴィンも竜言語を話せる。もともと私がレヴィンの話しているのを聞いているうちに覚えたのだ。仰天してるあたしをほうって、レヴィンは楽しそうにつぶやく。
「協会の皆さん? 彼女がお目当ての財宝、というわけじゃないですよね?」
レヴィンの答えは言うまでもなかった。洞窟というよりは構造が整地されている。部屋などと思ったのも、だいぶ整地されたためだ。
「無論だ、我々が発見したのは古代の魔導装置の反応だ」
『大丈夫です、貴方の大切なものは関係ないそうです』
レヴィンはそういうと、不意に女性が目を覚ました。
「……貴方たちは?」
驚いたのはその落ち着きだけではなく、瞳の色であった。赤いのだ。
「レヴィン、あんたたちで財宝の場所行っておいて。私はここに残っておくわ」
レヴィンは……一瞬眉をしかめたのだが、微笑んで頷いた。
あたしは彼女に向き直り、そしてドラゴンにも見えるように居並ぶと。
「これはあたしの好奇心から聞くんだ。あいつら黒服とは関係ないよ」
「はぁ……」
「一つ、何でこんな場所にいるのか。二つ、あんたと竜の関係。三つ、ここをどこか知っているか?」
あたしは竜にも伝えると、とんでもない答えを返してきた。あきれてしまった。
そして、さらにはレヴィン一人だけにしてしまったのもそろそろ不味いかと思い出す。
「一匹はでかすぎで動けない。一人は妊婦」
あたしは肩をわなわな震わせていると、赤い瞳の女性が手をそっと乗せて。
「落ち着いて。私たちが邪魔ならしょうがないわ」
「違うの! どっちかっていうと、あの黒服連中悪役でしょ!」
不意に女性とドラゴンがあたしに目線を注ぐと、
「この【遺跡】は古代文明のひとつ。それを再利用としてる連中だけど……過ぎた力の場合、私はそれを壊す。ってか馬鹿な人間がそれを悪用するのは大体わかってるからね」
あたしは踵を返して奥へ進もうとしたとき、
「あぁ〜助けてくださ〜い」
ドラゴンが丁度進めないほどの狭い通路のところで、黒魔道士に捕まったレヴィン。
「やっぱしね、黒魔道士十人近くでレッドドラゴンに手こずるなんておかしいと思ったんだ!」
大体、ノーマルドラゴンはランクAの危険モンスターであり、レッドドラゴンは「冷気」に非常に弱いのだ。もともと火山口あたりが生息区域だから、高位の魔道士がいれば危険はだいぶと低くなる。
「あたしを雇ったのは、近場で冒険者のゴロツキを半殺しにした武勇伝を聞きつけた、使い捨ての利く有能な戦士がほしかったから。おまけに目的のものを見つけたから本性出したんだろう? 暗黒道士の皆さんよ!」
大体こんな筋書きだろう。あたしだって小説の一冊や二冊よんでりゃ先の予想も大体つく。
「ど、導師! あの女、頭いいですよ?」
「やかましい!」
しかもあたしを馬鹿扱いしてたのか、いい度胸だ。
『ドラゴン? あそこにドラゴンブレス、ぶっかけろ』
『そ、そんなことをしてしまえばお前の仲間も燃え尽きるぞ? それどころかここは狭すぎる!』
やっちゃえば洞窟ごと蒸し焼きだった。うかつだった……。
「んじゃ、あたしが結局やるのかよ!」
言うが早いがあたしは人質を無視して突貫、魔道士たちは冷気の魔法を詠唱し、氷のつぶてを召喚した。魔法の詠唱にちんたらしているうちに、一人の懐に飛び込むとまず顎に掌打を叩き込んで昏倒。次は左足の旋風脚で喉を捕らえて詠唱を崩す。
魔法が完成した。氷のつぶて……もとい刃があたしを串刺そうと狙いを定めるが、あたしは引かない。
「あたしの拳が真っ赤に燃える! あんたらしばけと張り叫ぶ!」
炎の宿ったあたしの拳が弧を描き、魔法の氷剣をたたき砕く。
「なっ!」
拍子抜けた魔道士ほど愚か者はいない。拳が勢いに乗ったまま男の顎を砕く。よく見ればあたしの事務所に訪問してきた奴だった。
さらに狼狽して逃げ出そうとした奴はあたしの華麗な舞を見損なう。
腕を広げて炎が翼を描く。
「飛炎鳳凰舞」
全身を発火させて飛翔したあたしは伝説とされる幻獣「フェニックス」を模した炎の鳥となって、その翼がすべての魔道士を包み込み、燃え上がらせていく。
あたしが着地すると、全員気を失っていたが、火傷跡などない。しかに炎に焼かれていないわけでもない。
「お見事です、マリア」
レヴィンが今頃のこのこやってきて、あたしの名前を言うと、あたしはレヴィンの脳天に踵落しを食らわせてやった。
お前も「龍」のはしくれだろぉ! ちょっとは働け!
財宝はあった。ただし……
「あたしの用があるのはこれだけだしぃ〜」
金銀財宝の一部をリュックサックに詰め込んだあたしは上機嫌なのだが。
「……こんなのあるなんて知らなかった」
竜の花嫁は目の前の魔道書や謎の機械を前に、彼女は絶句していた。
「でも、あたしには必要ないし、世界にも必要ないでしょ」
『我らにも必要はない。我には彼女がいればそれでいい』
そうそう、この竜と娘のエピソードを話してなかった。あっさり言うと女性は人生の落伍者だったということだ。自殺本位で下層地帯に降りたとき、たまたま出会ったのがこのドラゴン。
まぁ細かい話は取っ払うが、二人は当分一緒にいて、愛が芽生えたと。竜言語をもともと習得してた彼女ならではだ。
見事というか信じられないというか、まぁ目の前に本人たちがいるんだから信じるしかないか。
「んで、念のためこの洞窟ぶっ壊したいんだけど、いいかな?」
竜と娘に一応聞いてみる。この洞窟の主はほかならぬこの二人なのだ。
娘、といっても私より年上でしかも母親になる予定なんだけど、に訊ねると彼女は微笑を浮かべて。
「いいですよ。彼と一緒にまた別の地で」
「いえ、いい考えがありますよ。私の重荷も軽くなるし」
『えっ?』
レヴィンの発案に、私はあきれ返ってしまった。
「こんにちわ〜 おまたせしま……し……」
サラーが軽快に扉を開いた瞬間、牛のような大きな獣を確認して青ざめてしまったが。
「あぁ、大丈夫よ、噛み付かないから」
といってあたしがレッドドラゴン……通称、ドレイクを軽くなでると、サラーも青ざめながらもうんうん頷いた。
「だいぶ魔法で小さくしたんだけど、これが精一杯見たい」
「だ、だから今日は気前がいいのね」
サラーは注文の肉料理と数点の品々、加えていつも注文しているサラダサンドを持ってくると。
「あっ、そっちの多めの料理は彼女用なの」
「彼女?」
あたしが指差した扉が丁度そのとき開いて、中からシャーリィ……本名シャナン・ドレイクが現れる。彼女のお腹は前より膨らんでいるように見える。
「あ、はじめまして」
「はじめまして」
サラーとシャリーが挨拶をしたのはほとんど同時だった。
「こないだの依頼で、拾ったというか社員にしたの」
「えっ、事務所続くの? あたし、てっきり潰れるかと」
一瞬、カチ〜ンときたが、とりあえず黙っておくとあたしは前回の例があるから、手早くサンドウィッチを奪うと、
「ってマリア? もしかしてアンタの食事って」
「サンドウィッチだけだよ。ダイエット中なの」
「なによそれぇ〜! あたしよりスタイルいいくせにぃ〜!」
といって配達の品を近くの机に置いて、あたしに抱きついて組み伏せてくる。って、それより……
「やめんかぁ〜い!」
「やぁ〜だぁ〜! 吐け、何がどうこうしてこうなったのよぉ〜!」
「あらあら」
シャーリィがクスクス微笑んでいた。
ん? まてよ、ってことはお腹の赤ん坊がどんなのができるか観察できるってことだよな。
赤ん坊が生まれるまでの社員なのだろうか? まぁ行きがかりばったりだけど、まずは赤ん坊が生まれるまで面倒見るか。
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2004/03/18(Thu)02:06:38 公開 /
成夜
■この作品の著作権は
成夜さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
どもども、初めましては初めまして。久しぶりの方、にゃごにゃご(猫語?。
タイトルを思いっきり奇妙にして関心が引ける方のみ、ご覧くださったと思います。(ぇ
赤根の翼・短編その1。「目指せ ドラゴン胎児」をお届けしました。
異種族が大好きです。ぶっちゃけマリアもちょっとした「亜人種」なんだけど、それは次回か本編「赤根の翼」を探していただければ。
何? どっかで男が主役の「赤根の翼」があったと? しかも「○ァイ○ル○。ンタ○ー」を舞台にしてたと? 気の迷いです。忘れてください(爆破。
なお、これ一日で発案して、6時間くらいで書き上げちゃったのかな。チャットしながら。
キャラクターデーター(未使用データーは未記入
名前 マリア魔理夜 マリアテーゼ・デュラハン
職業 剣士(未使用のため測定不能) 黒魔道士(未使用のため測定不能) 炎使いLV32
特徴 黒髪黒瞳、東洋系の国マルスに何でも屋事務所「ミラクルベリー」を創設。女所長でもある。
年齢 20
性格 乱暴粗暴で、マルスの国に来ても早速喧嘩をやらかした模様。
好きな物 別れた彼氏からもらったペンダント。
嫌いな物 親父が付き添いでよこしたレヴィン。
名前 レヴィン海龍王 レヴィアタン
職業 竜? (未使用のため測定不能)
特徴 銀髪碧眼の付き添いというか、執事役。マリアの父上にお守りを任された模様。
年齢 不詳。30代前後?
性格 温厚でのんびり屋。昔はむちゃばかりやっていたとは彼とマリアの父談。
好きな食べ物 牛
嫌いな野菜 きゅうり
名前 サラー・ウィッドミル
職業 看板娘LV22
特徴 金髪碧眼のマルスに移住してきた少女。マリアの親友。
年齢 20
性格 活発でマリアとよく喋る。明るく元気な娘。
好きな機械 拳銃
嫌いな動物 蛙
さて、今日は疲れた。ね〜むろっと! お休みなさい(棺桶のきしむ音(ぇ