- 『海より青い空 1』 作者:仲村藍葉 / 未分類 未分類
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原稿用紙約3.65枚
―――俺は、もう腐っているのだと思った。
警察に咎められる程度のみみっちい悪事は一通り働いた気がする。
喧嘩だってした。俺の手には俺と同じ腐った奴の血が染み込んでいる筈だ。
―――そう、思っていた。
―――…そう、思っていたかったのに。
意味も無く入った二流大学もやめ、気がつけば目を合わせる事もなくなった家族からも離れた俺は、ただ一人、木造襤褸(ぼろ)アパートにすみ、日雇い労働で日がな一日ぎりぎりの生活をしている。
その日も交通整備のアルバイトを終え、ぶらぶらと夜道を歩いていた。
―――まるで反抗期の子供だ。
自嘲的な笑みを浮かべながら、自分の現状に嫌気を感じる。
堂々巡りだ。
ただ何もしたいことも生き甲斐も見つけられずに、今も欲しい物を買ってもらえず癇癪を起こしている子供のように無駄にあがいている。これでは喧嘩をしていた頃と何も変わらないではないか。
―――ああ、苛々する。
路上に唾を吐き捨てる。端に横たわる犬でさえ、俺に哀れんだ目を向けてくる。
気が付けば八つ当たりのように思わずその野良犬を蹴飛ばしていた。
腹を蹴られたその犬は、甲高い鳴き声を上げ、よろよろと逃げていく。
「ばーか」
独り言。
そう、独り言だ。
子供の頃、母親が独り言は淋しさの現れだと教えていた。
それはつまり。
淋しいのだろうか、俺は…。
大通りから脇へと曲がり、裏路地を抜けたところに公園がある。
児童公園の筈らしいが、生憎周囲の住宅には今では公園で遊ぶ位の年の子供はいない。
自分の住んでいるアパートもその住宅の中のひとつで、この公園のすぐ横だ。
通り様にに夏にもかかわらず淋しげなそこに冷気が漂った気がして、思わず身を竦めて無精に生えた顎髭を撫で擦りながら、そこの厭な空気から逃げるように足早に去ろうとしたが、出来なかった。
人だ、しかも年端もいかないような子供。
周りに親は、いない。なぜか一人で公園で遊んでいる。
幽霊化とも思ったが、実際それはありえない。なぜなら今まで神も、幽霊の存在も信じた事が無いからだ。
それにちゃんと足もある、などと余計なことまでも考えたりしたが、それなら本当に親は―――?
しかし人は時に考えている事とは全く違う方向の行動をとるものだとこの時痛感した。
ベンチに腰を下ろし、小さく歌を口ずさみながら兎のぬいぐるみを動かしている小さな少女。
気が付けば、その小さな存在を両の腕に抱え込み、一目散にアパートの自分の一室へと帰っていったのだった。
しかしながら、そのとき自分の腕の中におとなしく納まる少女のぬくもりに、なぜだか少しだけ心が安らいだ気がした。
続く
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■作者からのメッセージ
此処では初めての続き物に挑戦、です。
小説など書く事のまず無い自分にとって、殆ど手探りで書いているに近いので不安半分、けれども書きたさも半分、微妙なところです。
本当に色々考えすぎて進みも遅いですが、感想をくれたり等静かに見守ってくださると幸いです。見て下さる人がいるのは何よりも幸いなので…。
出来るだけ頑張って続きを書いていきますので〜。