- 『少女の道』 作者:平乃 飛羅 / 未分類 未分類
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原稿用紙約3.95枚
一人の少女が旅をしていました。
その少女は長い長い道を、自分が思うように歩いていました。時には目が眩むような青空を仰ぎ、時には小さくも懸命に働くアリに目を留め、時には通り過ぎる人々を眺め、時には果てない道の先にある一本の線を、不思議そうに首を傾げながら見ていました。
先にある道は静かに少女を導いていました。先を示す物は何もないそんな道なのに、どういうわけか、少女はその道が自分に向かってとても雄弁に語っているような気がしました。
だから、一人の旅でも、ぜんぜん寂しくありません。
風が吹きました。少女は髪を押さえました。それでも少しだけ乱れてしまったので、手で整えます。上目遣いに風の行く末を追えば、その先に丘がありました。決して背の高くない、それでも威風堂々とした──しようとしている丘。丘は少女を呼んでいました。少女は丘のてっぺんに立ち、両手を広げ、遠くを見ます。とてもとても遠くを見ます。雲がありました。大きな入道雲。その雲に手を振って、少女は丘の上で仰向けに転がりました。入道雲から一転し、空には薄くて消えそうな雲が点々としていました。とても可愛らしくて、届かないとわかっているのに少女は手を伸ばしました。しかしそんな白に勝るぐらい、そう、その雲のさらに上には目が痛くなるぐらいの蒼がありました。
しばらくして、少女は立ち上がりました。風が吹くと、丘が寂しそうに自分の身体から伸びた草を揺らします。微笑み、少女は丘の背中をそっと撫でました。少女は旅をしています。だから旅立たねばなりません。少女はさよならと呟き、歩き出しました。
道が続いていました。
少女に挨拶をしたのは、うさぎでした。何も語らないうさぎが頭をぺこりと下げたのです。愛らしいそのうさぎに少女も頭を下げて挨拶をしました。うさぎはそれで満足したのか、道の脇に生える雑草の群れに飛び込み、姿を消しました。
道がどこまでも続いていました。
途中、反対方向へ旅をする一人の少年と出会いました。彼は少女にどこまで行くのかと訊ねました。少女はわからないと答え、じゃああなたはどこまでいくの、と訊ね返します。少年もわからないと答えました。少年は質問を変えます。
きみはこの道の先に何があるか知っている?
少女はうなずきました。知ってるよ、そこには何もないことぐらい。
それでも目指すのはなんでなの? 少年は首を傾げました。少女は小さく笑みを浮かべて、少年にこういいました。わたしが来た道も何もなかったの。それを知ってるのに、なんであなたはそこに行こうとするの?
おかしいなと、少年は彼女の言葉を否定します。きみが今まで会ってきたのはなんだい? あれは全部幻なのかい?
少女は答えました。あれは全部、この先にあることじゃないかな?
少年はとても納得した表情をして、今から進む道の先を見ました。少女に挨拶をして、先を歩き始めます。少女もそれにならい、自分の進むべき道を歩き始めました。
一人の少女が旅をしていました。その長い長い道を自分が思うように歩いていきました。
届かない一本の線に向かって、いつか届くのではないかと心の中ではらはらしながら、少女は歩いていきます。空は青く、地面には小さな生き物の営みがあり、なんとなく通り過ぎる人々の脇をすり抜け、彼女は歩いていきました。
そう、自分自身の道を。
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■作者からのメッセージ
自分の作品について語るのは苦手なので、皆様のお好きなように読解していただければ、と……(笑)