- 『ミッシング・ブルー』 作者:KR / 未分類 未分類
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原稿用紙約3.3枚
“青”がいなくなった。
それは、三月に入ってから四度目の雨の日。アパートの中庭で、巻き付く主を失くした鎖付きの首輪が、
寂しく濡れているのを俺が見つけた。
まだ肌寒い雨の日に、大切な家族を外につないでおくなんて薄情な主人だって、そう思う?
だけど俺だって好きで寒い思いをさせてた訳じゃない。コンビニの深夜バイトの帰り道、急に振ってきて
「あっ!」と思ったんだ。もちろん、走って帰ってきた。だけど、あいつは本当に水に濡れるのが嫌いで、
だからやっぱり小屋か何か作っておいてやれば良かったかな。それか、傘でも開いて置いとくんだった。
今さら、後悔しても仕方ない。“青”を捜そう。俺のたった一人の家族。
田舎者の俺が都会で一人暮らしなんか初めて、思わずホームシックにかかりそうで飼い始めた同居人。
今まで動物なんて飼ったことなかったけど、予防注射とか定期検診とか、色々面倒なこともあるけど、
意外に楽しくやれてたんだ。
晴れた日曜とか、金なくて腹減ってる時とか、ちょっと遠い自然公園なんか行って、フリスビー片手に走り回って
転げ回って、寝転がって笑いあって。
楽しかったじゃないか。そうだろ?不安になることなんて何にもないよ。俺はちゃんと帰ってくるから。
なぁ“青”。
「空」
行き先は解ってた。いつも俺が“青”と散歩に来る公園。滑り台の下で丸くなって、“青”に
しがみついてる“空”がいた。
「青。俺の代わり、サンキュ」
「…………」
“青”は俺が手を差し出すと、クンと鼻を鳴らしてすり寄ってきた。“空”は俺に背を向けて、
まだしゃがみこんでる。
「遅くなってゴメン。“青”が鳴いたんだよな」
「………どうすればいいか解らなかった」
「ゴメン。一人で寂しかった?」
「寂しかったよ。………」
彼女が“空”だから、飼い犬に“青”なんて平凡だろうか。でも俺は、今も最高の名前だって思ってる。
俺に抱きついて、好きだ、好きだってめいっぱい叫んでくれる、こんな存在、二人と二匹もいない。
「大丈夫だよ。ホラ」
いつの時だって雨は止んで、“空”には“青”と、太陽の“光”が必ず広がる。
fin.
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■作者からのメッセージ
動物ネタを初めて書いた…!(え?動物ネタ?これ…)
短編が大好きな作者のいつもの「名前のない主人公の私小説」です;
でもこの主人公は名前ある…かな?(笑)
あえて公表する必要はなさそうですが。好きにご解釈ください♪