- 『ジェラシー 〜 甘い飴』 作者:おぐら / 未分類 未分類
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原稿用紙約14枚
ボクは、人付き合いもまぁまぁ良い。
友達もいる。運動神経は一番良いのだ。
しかし、勉強がてんでダメだった。
*
それでもボクは、親の名誉のため、つまり親の言いなりになり、
大学に行くこととなった。とても嫌だった。
しかも名門、早稲田大学。もちろん受かるわけもなく、一気に
二浪になってしまった。当たり前だと思う。しかたがなかった。
親も怒った。いろんな物を投げつけられた。
茶わんや、塩の袋や、ボールや、いろいろ。
そんなつらい思いをしながら、気分転換に
街を歩いていると―
*
「ほい、少年」
ひげを生やし、深く帽子をかぶった、見るからに怪しい老人露天商が、
声をかけてきた。ボクはとりあえず返答する。
「…なんですか?」
「何とも浮かない顔をしとるのぉ、何かあったのか?」
老人は悟っていた。
「………」
ボクは話した。大学に落ちたことを。別に恥ずかしくも無かったし、
少しは楽になれそうだったから、話した。
「ボクは…1位になりたい」
「ほほぉ…」
それを聞き、ひげを手で触りながら
「ならば、わしが成績1位にしてやろうか?」
老人は笑っていた。
「…えっ?」
「サービスじゃ、ほっほっほ」
「そんなことできるんですか!?」
ボクは大声を出した。
「人は信じるものじゃ、ほっほっほ」
老人はその大声を待っているかのように、高々と笑う。
「そ…それじゃあ!…ボクを1位にしてください!!」
「ただし…どうなっても知らんよ」
老人はニヤリと笑い、その場を去った。
*
「やった!受かった!!」
叫んだ。合格発表の掲示板の前で。ボクは早稲田大学に受かったのだ、成績1位で。
しかし、周りの人たちの目が、恐ろしく冷たく感じられた。が、別に気にしなかった。
ボクはあの老人に感謝した。街に行ってみたが、老人はいなかった。
親も喜んだ。ボクも喜んだ。しかし・・・
*
「…………」
それから、いたずらの電話がたくさん来た。
ボクが1位になったから、そのジェラシーだ。
ボクはそれを愚かに思った。だが、いたずらは続いた。
家の壁に落書きされたり、ポストに画鋲を入れられたり。いろいろ。
怪奇現象まで起こった。夜な夜な変な音がする。金縛りもあった。
街を歩くと、上のビルから鉄骨が落ちてきたりした。
ボクはそれを、幽霊と言う非科学な現象と言うことで考えるのを
止めた。
*
そして夜。聞こえる。いつもの音が。まるで動物がうなるような音。
最近は、部屋にこもりっ放しだった。何も食べず、鍵を掛けていた。
ボクは夜だと言うのに叫ぶ。
「幽霊か!?そうならやめてくれ!!」
眠れなかった。最近は全く。ただ、幽霊ではなかった。
人の声が、聞こえたからだ。
ひどいよ・・・ どうして・・・ オレあんなにがんばったのに・・・
なんでこいつなんだ・・・ 死ね、死ね、お前なんか死ね
一人一人の声が聞こえた。それはどんどん大きくなる。
ボクは耳を塞ぐが、意味がない。頭の中で響いていた。
「死ね」と言う声が。延々と響き続けていた。
「うわぁぁーっ!!!」
そう。これは幽霊なのではない。人のジェラシー。
自分が1位になれなかったと言う怨念。思い。苦しみ。
全てが1位を取った人へと行く、怒りだ。
ここでも、1人のまた¥ュ年が死んだ。警察は調べたが、死因は絶食で、
原因はわからなかった。
「早稲田大学で1位になったと言うのに…」と、人々は言う。
しかしそれは違う。内心では、『喜び』があるのだ。
少年が、また死んだのだ。人のジェラシーで。
*
街中。ここに、あの老人の露天商がいた。
「そこの少年。大学に落ちたのかい?わしが1位にしてやろうか?」
老人が、道行く少年に声をかけた。
「ほ、ほんとですか?」
少年が答える。老人も、不気味にわらい答えた。
「ただし・・・どうなっても知らんよ」
甘い飴
「ほっほっほ、時にお嬢さん?」
「えっ…はい?」
私(この話の主人公です)はとある街中の、露店を見ていた。
少しかわいいペンダントがあったからだ。
その露店の主は、顎に長く、白いひげの生やした老人だった。
老人は、わたしに話しかけた。
「ここでお嬢さんが買い物をするのも何かの縁じゃ。どうかね?
この老いぼれの話を少し聞いてくれんかね?」
ゆっくり、丁重な言葉で、老人は喋ってくる。
「あっ…はい。少しくらいなら…」
別に急ぎの用がある訳でもない。私は、老人の話を聞くことにした。
「これは…ある空想の中≠フ話じゃ…」
空想の中≠ニ言ったとき、老人は笑っていた。
*
私は博士だ。いろいろな医学、化学、何でも研究してきた博士だ。
私には、仲間がいる。共に研究してきた大切な仲間だ。
ある日、私の仲間の1人が、死んだ。病気だ。ひどく悲しかった。
もうこんな思いをしたくは無いと思った。
「…あぁ…そうだ」
その時思いついたのが、寿命を延ばすことだ。人の寿命を延ばす事ができれば、人は死ぬことが無い。
私はそれをすぐに実行した。
*
「ハハハ…やった!やったぞぉ!!」
私は嬉しさに満ち溢れた。
完成した。ただの粉薬に見えるが、それは大間違いだ。数々の研究を駆使し、完成させた。
この粉薬の成分は―(中略)―ともかく、この粉薬を飲んだ者は、寿命が固形化し、
体外へと吐き出される。その吐き出された寿命を他の者が食べると、その者の寿命が増えるのだ。
*
私は1人の少年をさらった。実験のためだ。いや、仲間以外なら死んでも良いと思った。その少年に粉薬を飲ます。
すると少年はもだえ苦しみ、死んだ。その後、ペッ と口から何かが出た。
飴のようなもの。つまりこれが『寿命』だ。さっそく私は、他の、病気で死にそうな仲間にこれを飲ませた。
すると、病気だった仲間が見る見る内に治り、寿命が増えるではないか?
実験は成功だ。人体の寿命とこの粉薬の―(中略)―などが、科学反応を起こし、固まった寿命が長ければ長いほど、
その寿命の飴は甘くなるらしい。若い少年の寿命を食べた仲間は
「甘い!」と叫ぶほどだった。まるで砂糖だ。
*
実験は成功。これで悲しむことはない。そう思った。が…
「や…止めてくれ…!!」
「グルゥゥゥ…!!」
唸りながら、私の大切な仲間が、包丁を持って私を襲ってきた。飴を飲ませた仲間だった。
たぶん飴のせいだろうが、なぜ失敗したのかわからなかった。
「ガァッ!!」
「ああぁぁっ!!!」
勢いの言葉と共に、仲間の包丁が私の左肩に刺さる。私はもだえ、倒れこんだ。それと同時に、
「ガァァァッ!!」
私の仲間が叫んだ。次の瞬間、バシュッ! と言う鋭い音と共に、仲間が消えた。いや、溶けてしまっていた。
*
私は助かった。が、実験は失敗に終わった。どうして失敗した?
成分も、論理も、構造も、全て合っていたはずなのに…
私はその後も、他の仲間たちと実験を続けた。失敗の理由は、
わたかなかった。どうしてもわからなかった。
「知りたい!どうして失敗した!?知りたい!知りたい!知りたい!何年掛かっても!!し・り・た・い〜〜!!!」
―私は、実験を続けた。
*
「―と言う話じゃよ…ほっほっほっ」
老人は話を終え、笑った。
「…………」
私は声が出なかった。街中の音が聞こえない。恐怖からだ。
「あの…ありがとうございました…」
私は足早に、老人からの恐怖から逃げようとした。が、
「あっ!」
露店に並ぶ、ペンダントに足を取られる。私はそのまま、老人へと倒れこんだ。老人の『左肩』に受け止められる。
「おっと…大丈夫かな?お嬢さん」
「いてて…すいませ…」
老人から離れようとした。その時気付いた。老人の服を私がもたれ掛かった拍子にズレて、左肩が見えていた。その左肩には、生々しく、深い、傷口があった。
「あっ…あぁ…」
その時私は悟った。この傷が、どういうことを意味するか。
自分でも恐ろしいくらい、早く頭が回り思いついてしまった。
鼓動が早くなり、額にも汗が浮かんでいるのを、自分でもわかった。
「…そうそう。忘れておったわい。あの話の続きじゃ」
私は動けなかった。
「その博士は、また実験に成功した。偶然に≠セがのぉ。もちろん過去の失敗の原因はわからずじまい…だから例え同じ実験が今度は完璧に成功したとしても…やはり、過去の失敗が許せなかったのだよ」
老人は。まるで自分のことのように語る。少しずつ、口調も変わっていた。
「だからその、過去の失敗を追求するため、私≠ヘ生き続けたかった…だから私は『寿命の飴』を食べたのだ」
震える私に、老人は最後、こう言った。その後は皆様の想像にお任せするとして、老人は恐ろしく冷たい声で、こう言った。
「仲間たちはとても甘かったよ」
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2004/03/11(Thu)18:27:09 公開 / おぐら
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■作者からのメッセージ
正直こういう物語は自分でも好きでは
ありませんが、あえて課題を出し、
書いてみました。
感想をいただけると嬉しいです。
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