- 『灰色』 作者:仲村藍葉 / 未分類 未分類
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原稿用紙約4.8枚
もう空が色を失ってからかなり経つと誰かが言う。
この灰色の空の向こうに未だ青色があるのだと、誰かが言った。
灰色
「君、あの空は何色に見えるかい?」
唐突に友人であるカラが云った。
彼のこう言う癖は昔からなので、僕は特に抑揚もなく、空を見上げながら、
「灰色じゃあないか」
とだけ答えた。
「そうだ、確かに灰色だね」
カラは只小さく笑って、
「今、僕があの空が青色だといったら如何する?」
「普通だったら皆に変人扱いされるだろうね」
僕は答える。
するとまた小さく笑う。
今度はゆっくりと掌を空へと伸ばす。
そのまま空を握り締めて。
再び手を下ろして。
掲げた自分の手を見つめると、呟いた。
「本当はまだあの空の向こうの方に青い空があるのかもしれない」
その瞳に観る事の無いこの空の灰色のような淡い夢を、カラはいつも口にする。
「もしかすると、あの空の色は僕には灰色に見えるだけであって、実は真っ青かもしれない」
いつか本当に起きるのかのように楽しそうに云う。
僕はその隣でいつも長いマフラーを巻きながら、彼の話に耳を傾ける。
誰も聞かないような、本当に夢の様な甘く淡い戯言を。
唯一人で。
このいつ住人がいなくなったのかわからない廃ビルの屋上で聞き続ける。
「ユウも、僕の事を変人だと思うかい?」
まるで確認するかのように時折カラはそんな質問をする。
「君のそう言う所は昔からだし、変わってるかもしれないけれど、頭がおかしい訳じゃあないだろう」
寧ろ彼はとても頭が良い。
続けて、
「それに、君の話を聞くのは嫌いじゃない」
と云う。
すると彼はいつものように小さく微笑んでから、空を見上げて
「そう言うと思った」
といい、更にいつもの様にこう言うのだ。
「だから、君が好きなんだ」
いつか
いつか
君が。
色を失ったあの空に
鮮やかな青色が戻る時を
本当に見られたらいいのにと思った
僕にとっても
君はモノクロームの写真の中で色を映す
灰色のような淡く綺麗な存在だから
夢が現になればいいのにと
それはとっても勝手な事だけれど
僕は。
いつも
いつも
いつも
君の隣でいつものように願っている。
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■作者からのメッセージ
長編書ける人を尊敬します。書こうとしたら、いつまでも止まらないので(汗)。
この二人でまたお話は書きたいと思っています。お気に入りなんで。