- 『悪魔狩りの独白(終結)』 作者:成夜 / 未分類 未分類
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全角33637文字
容量67274 bytes
原稿用紙約103.1枚
<簡易あらすじ>
フェンリルと言う名を掲げる悪魔狩りは相棒の魔剣ロキとともに旅していた道中、医者の女性・マギーと一緒にとある町まで同行することになる。
ところが途中寄った街では死者の群れが悪魔化して、ヴァンパイアになったりゾンビになったりと大騒ぎ。行きがかり上、と言うより悪魔狩りを名乗る以上、つい余計に首を突っ込んでしまって……。
<後書きならぬ、先書き>
初めまして方、初めまして。
ここから先は本編をごらんください。
ちなみに最近、あとがきならぬ、「先書き」にこってたりします。
小説を買って読む際に最初に読むのは「大まかなストーリー」というかその小説の「評判」と「簡単な内容」を知ってから読んだり買うかどうか考えますよね。
俺もそうだったりします。さらにこういった掲示板形式だとそういった「前置き」とかが全部作者のメッセージでしかまとまらないので、ぶっちゃけここでメッセージ書いてやろうという無茶苦茶な行動を起こしたりしてます。
管理人さんに怒られたら無論やめます。んで上の簡略ストーリー読んで、好みでない方はプラウザの戻るなり、右上の×押すなり、感想に罵詈雑言でもぶっつけちゃってくだせえ。それでは……またどこかで(メッセージで?)
最後になりましたが、修正を手助けしてくださった ほにゃさん、 ヒカルしゃん、この場を借りて御礼を申し上げさせていただきます。
<プロローグ>
奴らは時として現れる。
人々の畏怖、闇の象徴。それは闇夜に現れ、闇夜とともに去る。
理由はわからない。人々はただ恐怖するのみ。
如何なる神の威光も権力も通じぬ彼らに、なす術などありはしなかった。
戦う試みは幾度となく繰り返された。だが奴らは底を知らない。
戦えば血が流れ、その数の民が消えていく。そしてその血をすすり、新たな奴らが生まれてゆく。
奴らは時として現れる。
神の威光を信じても決して拭えぬ恐怖の中、それは現れた。
「悪魔」を狩る者。
彼らが何者なのか、誰も知らない。ただ人々の間に語られていくのみ……
やがて人々の記憶からは消え去り、伝説のみが残る……
『手こずらせやがって』
異形のそれは歓喜を押し殺して呟いた。その微笑は歪んでおり、生命としての常軌は欠片も感じさせてはいなかった。
目……と言うべき器官が幾つもそれを凝視していた。獲物を見つめれば見つめていくほどほど、異形の生命たちの鼓動は高鳴り始める。
『我らを闇の眷属と知って、この場に現ることを褒めてやろう』
別の声が、高鳴りを抑えていた者たちをさらに煽る。
銀髪を靡かせた『女』は月を眺めながら背を向けていた。美しく伸びた銀髪は手入れもされることもなく乱雑に伸びているようだが、風に揺れれば流水のごとくきらびやかに漂い、月光を浴びてはさらに輝きを増していく。
「……月が、綺麗だ」
『女』は呟く。確かに月は美しかった。
彼女の瞳と同じ円を象った満月は、まるで空の落とした雫の一滴のように儚く、それでいて淡く輝いていた。
彼女が振り返ると同時に異形の者たちが凍りついた。相貌はあの月と同じく丸く湖水を思わす深い瞳。今は鋭利に細められて眼光自体が刃のごとく突き刺さる。
さらに息を呑むのはその美貌、まるで神が作り出したガラス細工のごとく静謐で繊細な鼻梁、顔立ち、そして瞳。そのどれもが目の前の彼らに対し怯えも恐怖も抱いてはいない。
闇夜に紛れた風が吹き、対峙している大地に一撫で吹きかけると同時に砂が舞い上がる。夜風……と思われたそれは漆黒の刃を放つ、異様な剣であった。刀身は黒という黒を超越し漆黒まで昇華され、唯一剣の重心軸である箇所には血の様な紅の一筋が走っている。その紅がまるで血のように零れ、黒い刀身を染めていく。
一瞬、何が起こったか気づかなかった異形の存在が、やがて一つの悲鳴でやっと気づく。
『うごぁっ!』
飛んでいた。『女』の手前の者が、体の一部を空中に放り投げだされさらにもう一陣の風が舞うと全身を頭から等分にわけられていた。黒い刀身に零れたのはその者の血だった。
人間であった名残を残す鮮血が、漆黒を紅に染め上げていく。
『ぎっ!』
さらに攻め立てようとした者たちの動きが止まると、ゆっくりと崩れ落ちた。地面を這う足の力が出ない。
「…………!」
『女』は見下ろしている。感情の無い瞳で見下ろしている。
腕を伸ばして立ち上がろうとして気づく。彼らは足を切断させられていた。一瞬意識が凍りつく。視界が暗転し潰れた。『女』がその剣で頭を叩き割ったのだ。擬音にするには異質だが、水と砂を混ぜた袋を叩き潰したような鈍い音が響く。
最初の一陣、いや一撃ですでに異形の者たちは次々に切り裂かれていた。闇夜のおかげで隠れていた『大型剣』がその漆黒の刀身を閃かせる。『女』の身長を遥かに超す大型剣だ。
音も無くただ風と砂利の踏み飛ばされる音のみが凄惨を物語る。闇夜の静けさは一瞬にして崩れ去り、荒ぶる者たちの舞台となる。
ここも然り。
やがて……
夜風が吹いていた。
静けさの漂う夜気の風に吹かれながら、銀髪は舞う。
歩み行く先に道は無かった。だか静寂に対なす規則的な音は確かに進んでいた。
闇夜に踏み入れる者。
彼の名は……
1部 悪夢
「ケバい光だ」
呟く青年は物憂げだった。
感情そのものが欠落したような口調に、苦々しさなどは感じそうにもないが青年は確かに毛嫌っていた。そのケバい光を浴びて彼の銀髪が細長く風に揺れている。
蒼水の瞳が見据える街並みは暗く沈んでいる。
外灯は所々消えていき、すでに空は闇夜に沈んでいた。
「嫌な夜になりそうだな」
開かれた唇から漏れた言葉には感情の欠片も感じられない。
辺りに地面は無かった。背後に雑草がまばらに生えた大地が広がるのだが、彼の足元から先には何も存在しない。覗くのはなだらかとは言い難い急斜面に続き、微かだが水の流れる音が響く。闇夜で見えにくいが青年の脳裏には川のせせらぎが鮮明に連想される。そしてその川に架かる橋の向こうに町並みが広がっている。
青年は瞳を開く。猛禽を思わせる鋭い双眸が覗いていた。少女のような肌理細やかな顔立ちとは裏腹に常時無表情とくれば少々不気味な気もするが、彼に関してはさほど気にすることでもなかった。逆にガラス細工めいた異様な神秘感が漂い、見る者は誰もが息を飲む美しさ、「花」が見て取れた。
青年は軽く歩みを始めると急斜面に足を伸ばし、そのまま滑り降り始めた。
闇の世界は彼らの世界だ。人が蹂躙するにはあまりにも脆弱すぎた。
街角の一角で出くわした少女もその一人だ。さしたる令嬢でも高貴な血を引く身分でもない単なる町娘の一人なのだが、運命の女神に微笑まれるわけでもなかった。
目の前の異形の存在がその鋭い顎牙を向け、滴り落ちる唾液と思しきものが路肩の排水溝に通らずに地面を侵すと泡のように溶ける。
その眼球、といっても一対の瞳のある箇所にはなぜか眼球が六つ。それぞれ左右に三つずつ分かれて存在する瞳孔が一瞬見開かれた瞬間、何かが掠めた。
少女の瞳も見開いた。突如舞い降りた存在が異形の存在の真上を通過すると、ちょうど彼女の前に現れて同時に異形の存在が鮮血らしき黒い液体を壁や地面に撒き散らして倒れた。正確には頭から股間まで分断されて、立つ事はおろか生命としての存在を否定されたからだ。
少女が何か尋ねようとして青年はその表情をさらした。少女ですら魅せられてしまうその顔立ちが覗く。だが青年が再び振り返ると「それ」は集まってくる。
壁に張り付いて、路地から堂々と現れて、空を舞う者、影から生まれ出でる者。
彼らは総じてこう呼ばれている。
「悪魔」と。
青年は手にしていた大型剣をひるがえすと跳躍して壁を蹴り上げて登りだすと、壁に張り付いていた蜘蛛の様な「悪魔」を一瞬で切り抜く。「悪魔」は影に溶け込むようにして消滅した。
少女が呆気に取られている間、実に数匹が血祭りならぬ「影祭り」にさらされていた。悪魔に「死体」や「遺骸」という存在が存在しないからだ。理由は不明だが人の負の感情を糧に生きる邪悪そのものの存在、一種の魔導生物という説が一応有力だ。死後の肉体は暗黒に染まり空気中に散ってしまう。
青年は煉瓦造りの壁を蹴り跳躍して、さらに空中の「悪魔」にも襲い掛かる。羽の無い人間と侮ったのか鳥と人を合体させたような悪魔が鷹のそれと思しき鉤爪で青年の真上を捕ろうとして動きが止まった。真上、背中の真上をとられたのは悪魔のほうだった。
青年は「空中を蹴って」さらに跳躍すると、鳥の悪魔の背中から腹までをきれいに分断して闇に還らせた。
地を這う者をあざ笑うかのような青年の行動だが、地べたの悪魔は青年に感心が無いようだ。逆に放心状態の娘に殺到しようとして、青年が動く。
剣だけが降り注いで地面を突き刺す。少女が驚愕し、ようやく接近していた悪魔に気づく。だがもう一つ異様な光景が目に付いた。剣が地面に刺さっていない。金属が打ち鳴らされるような音は聞こえたのだが今、眼前の剣は浮いていた。
切っ先が宙を浮いて刀身が赤黒く染まっていく。刹那、刀身に鋸の様な「牙」が生えた。
刀身自体は普通の直刀で湾曲した箇所は無いのだが、一直線の刃筋すべてに鋸状の牙が生まれると、刃は一人でに動き出し悪魔に襲い掛かった。
悪魔の中に武器の形状を象った者の話は聞いたことは無いが、呪われた剣にこういう種類の刃が存在するのは少女にも心当たりがあった。「踊る剣ダンシングソード」と言われ、持ち主の意思無しでひとりでに戦う魔法の剣の呼称だ。
呪われた刃が地上の悪魔を相手にしているころ、銀髪の青年は鳥の悪魔たちに素手で戦っていた。実際は腕に仕込んだ隠し爪で殴り合いの応酬を繰り広げているのだ。
悪魔の体を抑えて余った腕で反撃し、きりもみしながら空中を自由落下すると、空中をさらに蹴って体勢を立て直す。浮遊はできないらしい。
刃のほうは悪魔を次々に切り裂いていた。胴を薙がれた者や頭を砕かれた者、だがそれらのすべてが頭に異様な突起物が生えたり感覚器官が多い存在ばかりである。元からグロテスクだったものがさらに奇怪なオブジェに変えられる様に少女は嗚咽しそうになる。
最後に唸り出したのは異様な破裂音だった。闇夜の静寂を根底から破壊する乾いた破裂音に少女の耳はつんざくった。耳の鼓膜がキーンと唸る中、その正体を知った。青年が落下してきて音も無く地面に着地して、手の中で光る鈍色の鉄器に白い煙が上がっていた。少女の知識にはそのような武器は存在しないが、今しがたそれを使ったということは青年がそれを悪魔に向けていた構えで悟った。
銀色の銃身は月の光を浴びて燦然と輝き、さらにもう一丁が青年の手の中に現れると最初の一撃とは比べ物にならないほどの破裂音が断続的に響き渡った。
しかも銃を撃ちながら歩き回って、滑空していた者、逃げ出そうとする者、誰であろうと問答無用に打ち抜いていく。
少女は耳を塞いで蹲った。
悪夢なら早く覚めてほしい。誰でもいい、私を助けて。
少女の願いが届いたのか……闇夜に静寂が戻った瞬間、何もかもなくなっていた。
悪魔も、青年も。
少女の悪夢はここで終わったのだ。
手の中で拳銃を弄びながら青年は街路に出ていた。拳銃、もとい銃器という概念の無いこの街には彼の手の中にあるのは「不思議な金属の塊」でしかない。それを手の中で広げただけで銃身は見事に消えた。なんてことはない、ただ脇腹のホルスターに滑り込ませただけだ。
青年は相変わらず無表情であった。だがその実、眠たかったのだ。昨日から夜通しで森の中を彷徨い歩いて、さらに先ほどの戦闘行為にはさすがの彼も疲労を感じていた。
周りは煉瓦造りの一軒家が立ち並び、住居兼店などの看板なども見られる。通路は比較的広いのだが今は冬と思えるほどの寒空である。青年はその場所を探し当てた。
風当たりの少ない建築物同士の間に設けられた路地裏。ゴミの回収箱が設置されていたが問題はない。奥のほうへ進むとひんやりした空気が漂っている。まぁゴミ溜めの場所よりはましだろうと壁に寄りかかり瞳を閉じる。
本当に疲れていた。瞳を閉じるとあっさり眠りについてしまった。だから気づかなかったのだろう。近づく小さな靴音に。
2部 ドクター
目覚めると暖かい空気とともに柔らかい匂いが漂っていた。日向に当たった布団の香りだと気づくと青年はいぶかしんだ。
「あ、起きた?」
目先の女性は笑顔で彼を見据えた。
「どういう神経してるのか疑われるわよ? あんなところで眠るなんて」
青年は無反応。この反応と表情は彼の生まれつきであって、したくてしているのではなかった。彼なりに驚いているのだがその表情を作るのはまだ下手なのだ。
「……」
「あら失礼、自己紹介から始めるべきだったかしらね」
女は微笑んだ。淡い茶色の髪をなびかせ、日光を浴びて燃えるような赤色に染まっている。白い素肌に少し自分に似ていると青年は感じたが、さほど大した感情でもなかった。ただ気が付いた程度だった。顔立ちは女性独特の柔らかさの典型のような細くて丸め、それでいて瞳が丸く大きいので愛嬌が感じられた。
こういうのを巷では「可愛い」と言うのだが、あいにく青年の知識に女性の区分けの内容は記録されていはいなかった。
「私はマギー。マーガレット・アルフォンス。医者よ」
口を開くと凛とした少し低めの声が響いた。だが笛の音のような芯のある物言いで、鈴の音のような甘ったるしい声ではない。
青年は上体を起こした上体のまま瞳を細めて思案した。彼の思考はなぜここに連れて来られたかの一点に尽きた。
まず考えたのが「彼」目的の誘拐。自負する気はないが自分の容姿は嫌というほど知っている。街角で女と間違えられたのは数回ではない。そしてそっち目的で誘拐する輩はこの世界には大勢いる。秘密裏に「子買い」などと言う人身売買組織がのさばっているほどだ。彼が奴隷になれば高額が付けられるのは考えたくもない。
さらに他の点を考える。たとえば昨日の戦闘の目撃者だとすれば、とか。公にするつもりはないがかといって隠すことの程でもない。青年はこの事にたいして大きく考えてはいない。ただ「何者か」が現れて暴れた、痕跡はなし、その程度の事だった。結果だけであっさり簡潔している。問われても無視を通せばいいと思っている程だ。
「あなたは?」
再ほどから返事がないことに首をかしげ、青年はとりあえず布団から降りる。すると慌ててマギーが近寄って、
「怪我してるでしょ? すぐ動いちゃ」
「もう、治った」
返事と呼ぶにはあまりに素っ気無い第一声だった。動いたときから気づいていた二の腕の包帯と胸元に張られたガーゼをその白い指で剥がす。マギーの魅力的な青い瞳がさらに丸くなった。
「う……そ」
掠めたような深い傷跡が二の腕辺りを二箇所切り刻み、胸や脇腹にも大きな傷跡が残っていたのだ。深くはなかったが傷が広かったので化膿する恐れがあったのだが、それが今はない。傷跡も残ると思われていたのにそれすらない。単なる応急処置ではない、医者の経験上のすべてを費やした彼女だからわかる彼女だからこそ、その驚愕は確かなものだった。
【そうそう、そいつに医者は不要だぜ】
マギーの背筋に寒いものが走り、後ろを振り向く。人は不意を付かれた時、なぜか後ろに振り向く性質があるのだろうかと、青年は不思議に思った。
「だ……誰?」
青年は呆れつつも近くに置かれてある自分の荷物から、大きな長い包みを蹴飛ばした。中から現れたのは昨夜、数多の闇の血を吸い上げた闇色の刃、大型剣であった。
「朝っぱらから顔出すな」
【今昼間だぜ、寝ぼすけ】
開いた口が塞がらない。誰が言っていたか青年は思い出した。マギーがちょうど今そんな感じというか実行しているからだ。
【中々喋らない馬鹿な主に代わって自己紹介しましょう。俺はティーゼル・ブレイク。闇の剣だとか破邪の剣とか言われてるこの肉体の魂、精霊――】
「邪精」
青年は表情一つ動かさず訂正した。すると剣の発言が止まり、つかの間の沈黙が室内に充満していた。やがて恨みがましく剣の精霊、邪精は苦々しく反論する。
【喋るなら喋れよ】
「お前の嘘を訂正しただけだ」
二人のやり取りを眺めていたマギーは少し驚いていたがやがて首をかしげて頷くと。
「そっか、彼は人見知りするタイプなのね」
【お嬢さん、大正解】
青年は一瞬で場に馴染んだ女医者に少々呆れてしまった。
青年の名前は「フェンリル」。
生まれは不明、年齢も一九かそこらと曖昧。銀髪碧眼の珍しい髪色と眼色だから地域だから特定できそうだとも思うが、生憎彼は「忌み子」とも自ら名乗った。
彼の生まれた村は質素な、それでいて自然と調和して文明という文明があまり発達していない漁村で生まれた。その村では掟や仕来たりが強く、なおかつ自然を神としていた為、他者やはみ出し者にはひどく冷たかった。
そして、彼はそれに該当した。「銀髪」だからだ。
彼は未熟児、もっと言うなら特異体質で色素が抜けて生まれた白子であった。ただそれだけで父は悲しみ、母はつらい思いをしてた様な気がした。
実は二人のことをよく覚えていない。それどころか「知らない」と言っても過言ではなかった。
彼は記憶を失っていた。
父のこと、母のこと、今生きてるかさえもまったくわからない。それどころかなぜ自分がこの剣を手にしたかでさえ覚えていないのだ。精霊が存在するのをしたのはつい最近だが、それでもこの剣の詳細は彼自身も未だ詳しくはない。
【俺だって自分のことぁ、わかんねえよ!】
剣にはティーゼル・ブレイクと言う名をフェンリルは与えていたが、まさか邪精の名前になるとは思ってもいなかった。ただし今はそんな長い名前ではなく「ロキ」と言うあだ名で呼ぶことにしていた。
【生まれたての赤ん坊のころの記憶を知らないのと一緒さ】
そう言うと納得できるような、それでいて釈然としない両極端な感情が複雑な思いとなってのしかかる。フェンリルの数少ない疑問の一つだ。
「それが、悪魔退治とどんな関係が?」
マギーがやっと説明の中に問いを掛けてきた。そしてフェンリルは少し納得する。考えのうちの一つが「当たって」いたのだ。彼女はおそらく彼の戦闘を見届け、路地裏で睡眠を取ったのを見つけ介抱したのだ。
マギーは問い出してはいけないと気づいたのか口を押さえようとする。こぼれた言葉は手で汲めないと思うのだが、フェンリルは言わなかった。
それにフェンリルもロキとの会話の最中、彼女にも自然と口を開くようになっていた。
「大した事じゃない、ただ悪魔の血が必要になっただけだ」
フェンリルは語り始めた。
邪剣【ロキ】は魔力を食らうように作られており、さらに魔力が枯渇すると宿主、この場合フェンリルの魔力を喰らい出す。魔力とは生命力の一種であり無くなっていけば疲労や精神状態に異常をきたす。現にフェンリルは魔力を大量に喰われたことがあり生死を彷徨ったことがあると言う。
フェンリルはこの間まで、数多の「人間」をかつては切り裂いてきたと言った。
そのときマギーは一瞬表情を凍らせたが、
【悪人限定】
ロキがすかさずカバーを敷いた。マギーはそれでも表情を曇らせていた。医者の仕事は「人を救うこと」であってフェンリルの行動とは完全に相反していた。
「それで最近知ったんだ。巷に効く『悪魔』の噂を」
【俺たちも悪魔に変わりないと思うけどな】
フェンリルは瞳を瞑り、傍らの大型剣は鈍い輝きを反射していた。
【あいつらの魔力は格別だった。なにより人とは違う。恐怖や嫉妬、妬みといった負の感情が詰まってやがる。そう言うのが格別に美味いんだよ】
まるで自慢げに歌う刃にマギーは戦慄を感じてしまった。つまり彼らは「人の闇」を狩って、喰らって生きていると言うことだ。魔力とかそういうことに関しての知識はないが、【悪魔】が【悪魔】と呼ばれる由縁をその脳裏であっさり結び付けられたのだ。つまり、【悪魔】とは……
【少し喋りすぎたかな】
不意にロキが口をこぼすとフェンリルが始めて表情を変えた。微笑をこぼしたのだ。鼻で少し笑う程度だったが、なぜか新鮮な雰囲気が部屋全体に染み渡っていた。少なくともマギーにはそう感じられた。
「そうだな、長居してしまったな」
フェンリルは自分の上着と外套を纏うと、剣と昨夜戦闘で使用した暗器の数々を着こなしていく。まるでその場にはいなかったような、そんな事を言い残すような真っ白な銀髪。まるで幻のような青年の背後に彼女は声をかけた。
「あっ、ちょっと待ってよ」
フェンリルは瞳を下げながら振り返った。その瞳に感情がないのはわかりきっているが、彼女にはまるで雪のような儚さを感じ取った。
「治療代にちょっと付き合ってくれない?」
闇の剣と幻ばの人間の声が、合唱となった。
『はぁ?』
3部 転生
朽ち果てた教会にひっそりとたたずむ存在を人々はあまり気にも止めない。それもそうだろう、いちいち気にするには当たり前すぎるその存在を恐怖していては教会にも行けるわけもない。
ただ、その夜は違った。
司祭長は護衛の神殿騎士を二名つれてその墓地を訪れていた。当たり前のことだが辺りはしんとしていて人気もあまり少ないのだが、夜になるとそれは更に恐怖と言う色を増して闇を彩る。
付き添いの神殿騎士には珍しく、彼らは白布を鎧に装飾し中には楔帷子チェインメイルを着込んだ本格派の戦士たちであった。片手には神を模した装飾の施された銀の槍が、闇夜に突き刺さらんばかりに空に向かっている。
司祭長の方は武装はしていない。むしろ濃緑の法衣を纏っていつつ威厳のようなものを宿していた。年齢は四十代に差し掛かるころだろうか。少し生えた口髭を整えた精悍な表情に一滴の汗がこぼれた。
「確かなのか」
「はっ」
司祭長がつぶやくと護衛の騎士は頭を垂れた。
司祭長の背筋が凍っていた。瞳は空ろに闇夜を見据え拳は打ち震えている。
「儀式の準備は?」
「滞りなく、伝承の通りに、すべて集まりました」
すると司祭長の青い表情に赤みが差した。
「そうか……」
喜悦が浮かんだその表情を見据え、護衛の兵士たちもまた薄く唇を弧に曲げる。だが彼らのその姿を見据える黒衣の導師を彼らは気づかなかった。
導師は彼ら以上に深く、それで残忍な笑みをこぼしていた。
枯れ木も山の賑わい、とは誰が言っていただろうか。彼は蒼穹を仰ぎながら一人黙考する。寒さの増してきた街道を歩く二つの影。フェンリルは無表情なまま小さく息のを吐く。口から白い吐息が漏れる。
彼女の護衛。それが建前上の依頼だった。フェンリルの腕を見込んでマギーは彼を傭兵代わりに雇ったのだ。
もっともフェンリルにはお荷物を背負い込んだ程度のものなのだが、地形の詳しさと彼女の強引な性格に不承不承了解したのだ。
「寒いわね」
厚手のコートを纏ったドクター・マギーはそんな彼を真横から眺めてつぶやいた。フェンリルの身長は高い方でもなく、マギーが横顔を覗ける程度なのだ。
マギーの視線に気づいても彼は振り向くことさえしない。ただその蒼翠の瞳は虚空を見上げるばかり。その彼が一瞬瞳を動かした。マギーもつられて空を見上げると一羽の鳥の影があった。ただし、
「大きいわね」
鴉にしては大きく鷹ににしてはこの場には珍しい鳥の姿であった。
「大きすぎるよ」
フェンリルは抑揚もなくつぶやくと背中の包みを解き、「ロキ」の漆黒の刀身を剥き出しにさらすとすかさず両手で振り上げて構えに移行する。
鴉の羽ばたきが一旦急旋回して、やがて陰影が現れだし姿がはっきりしてくる。
「えっ?」
その鳥には四肢があった。鉤爪を備えた両腕両足、加えて肘から先が枝分かれしていて翼と腕に分かれていた。頭は肥大化していて嘴が鶴嘴の先端を思わすような鋭角を備えている。これが動物だと言うならすでに体形からして生態系を逸脱している。
「大烏系……」
フェンリルはそうつぶやくと跳躍して、「空間を踏んで」さらに跳躍を続けた。よく見るとフェンリルの靴の真下で琥珀色の魔方陣が展開されて、それが足場となってフェンリルは跳んでいるのだ。
人型ともおぼつかない鳥類に酷似した存在は足の鉤爪を伸ばし、フェンリルを踏みつけようとしてその姿を見失った。
鴉の首筋に生暖かいそれがこぼれた。
「雑魚」
平坦な抑揚もない声音が響くと同時に鴉の頭が胴体から離れ、空を抱く翼は黒い影に引き裂かれた。フェンリルは身をひねって背後を取ると、ロキを片手と遠心力で振り回し、あっさり胴体ごと分断してしまったのだ。
鴉の巨大化した死体より後にフェンリルは地面を踏みしめる。マギーの表情を覗き見るとひどく青ざめていた。医者であるなら動物の内臓など見慣れてるのではないかと思うが、フェンリルは言わなかった。
「な、何……これ」
「人間が『悪魔』と呼んでる存在」
答えるフェンリルは静謐だった。まるで何事もなかったようにすましている。
「想像つくとおり元々は普通の鳥か何かだったんだろう。だが『何か』に当てられて豹変した、というところか」
フェンリルは死体を一瞥して暫くその場に留まっていたが、やがて死体が闇に染まり枯れ果ててしまうとマギーの元に戻った。そして口元に手を当てて告げた。
「妙な気配がある」
「えっ」
「この道の先」
フェンリルが顎で指し示す道の先に特に変わった景色はない。それなりに整備された街道に転がってるのは、まばらに生える雑草や小さな小石ばかり。
「微かだが、血の匂いが漂ってくる」
マギーは眉をひそめて鼻を動かすが、鉄さびたあの独特の匂いなどはかけらも感じなかった。フェンリルはその道なりに沿って進むと小さくつぶやいた。
「奴らは闇夜を好む。こんな真昼間になぜ……」
フェンリルの予言は当たった。そしてマギーの表情は凍りついた。
町の風景が見え始めたころからマギーの表情が青ざめて行くのがありありと分かった。フェンリルの冷徹な瞳はそれを確認していた。
「なにこれ」
戦慄の声を上げるマギーに返されたのはフェンリルのそっけない答えだった。
「死体」
町に広がるのはいくつもの死者であった。
損壊はそれほど酷くないが明らかに生者としての色を失っていた。血の通っていない腕、瞳孔を開き見えもしない瞳で空を仰ぎ、口には蝿が飛び交っている。
「酷い……」
医者として死体を見慣れたマギーでもさすがに唇を噛んだ。さらに戦場でなれたフェンリルも白い瞳のまま辺りを睥睨し、
「無差別だな、これは」
女、子供、老人を次々に確認していき観察していった。妙な共通点を見つけたからだ。
「……マギー」
初めてフェンリルが彼女の名前を呼び、マギーは一瞬表情をこわばらせた。
「一刻も早くここから立ち去れ」
「……えっ!」
フェンリルの一言は相変わらず静謐で、それが返って有無を言わせない言い知れぬ迫力があった。
「た、立ち去るって今更」
「立ち去れないなら俺が元の町までついて行ってやる。とにかく、帰れ」
「ちょっとなんで!?」
【吸血鬼】
騒ぐ二人に、さらに冷徹な声がもうひとつ響いた。
【お嬢さん、こいつはヤバイ世界に飛び込みかけだぜ、引き返すのは今の内だ】
マギーはフェンリルをすり抜けて死体のひとつを診察すると、一瞬で青ざめた。さらに別の死体を覗き、もう一体、さらに一体。
フェンリルはそんな彼女を一瞥しながら、一言。
「牙も」
言われなくてもわかっていた。彼女は比較的開いた口の死体を調べて奇妙に発達した犬歯を確認した。間違いない。
すべての死体には何者かに噛まれたような噛み跡が残され、しかもそれは獣の顎ではなく明らかに人間の顎と思わしきそれがくっきり残っていた。その傷跡で一際目立つのは、異常に発達した犬歯の箇所の二つの穴である。
「ヴァンパイアは別に悪魔でもなんでもない、一種の【奇病】だ」
フェンリルの言葉にマギーは一瞬あっけに取られたが、フェンリルは首を横に振って。
「病気には違いないが、こいつはウィルス性の発病だ」
「う、ウィルス?」
「ただし、魔法のな」
フェンリルは首を傾けると死体たちを一瞥し。
「勝手にヴァンパイア・ウィルスって俺は呼んでいるが、要するに人体の細胞に変異を及ぼす一種の癌細胞だ」
医者であるマギーにもウィルスのことや癌細胞が何なのかということぐらいは常人よりは詳しくわかっていた。だがこのフェンリルはそっちの方面の知識を持っているということに少々驚かされてもいた。
「体内に吸収されると最初に脳細胞を犯し、癌化させる。ここで面白いのはこの変異によって『意識が以前と変わらぬ者』と『意識を失って死ぬ者』の二者に分かれることだ。吸血貴族なんて自分たちを尊称してるヴァンパイを知っているか? あいつらは「選ばれた」何ていっているが実際はただ『運がよかった』だけだ」
マギーは今の説明を聞いて蒼白になる。
「じゃあ」
「そう、ここに転がってるのは『なり損ない』のヴァンパイア。ただし、『病気』は続いたままだ」
フェンリルはそういうと死体に一閃し、首を跳ね飛ばす。
マギーに小さな悲鳴がこぼれたが、フェンリルは聞かなかったように次の死体に一閃。同時に苦々しい表情がこぼれていたのを、彼女は見過ごしていた。
「俗にこいつらは下級吸血鬼
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2004/03/17(Wed)02:58:18 公開 /
成夜
■この作品の著作権は
成夜さんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
初めましての方、初めまして。久しぶりの人、こにゃにゃちわ(ぉぃ
やぁぁぁっと、終わったぁぁぁぁぁ!!
って、正確には訂正も終わってないんで、皆さんの採点が終わって修正して初めて終わるんだな(−−;
あぁ〜疲れた〜。なお、執筆の際につかったBGMはとあるサイトの「ザ・マン・ウィズ・ザ・マシンガン」とか色々。
MP3とMIDI教えてくれた ゅぅさん、ありがとお〜
フェンリル簡易データー&マギーをば。
名前 フェンリル<銀の牙> 紫苑・アルフ・アヴァスター
職業技能 剣士(大型剣)LV25 銃士(二丁拳銃)LV13 魔導師(攻撃系)LV9 総合レベル 15
特徴 銀髪碧眼。容姿端麗、女性特有の顔立ちをした男性。 女装LV50(笑
武器 魔剣【ロキ】 魔拳銃【ユルム】&【ガルド】 手甲【チュール】 聖霊【ヴァルキュリア】
性格 無表情&無愛想青年。自らを「咎人」と背負っている。なぜ強いかは秘密。
好きな物 一人で飲むワイン。(親友に嫌がれるという。
嫌いな物 満月(親友といる場合は除く。
名前 マーガレット・アルフォンス
職業技能 医師(内科・外科・精神科)それぞれLV26 LV35 LV20
特徴 淡い茶色の髪、碧眼。大人びた女性。美人LV47(ぉぃ
武器 注射器(本編未使用。 メス 鋏
性格 世間を歩き回る医者だが、フェンリルを無理やり護衛にする辺りがけっこう強引と思われる。
好きな物 ラズベリーパイ
嫌いな物 ナッツ
さらにメモまで出てきたんでまとめてたんだけど、
序章 初っ端から戦闘の乱舞乱舞。一番最後の最後に関わりがあったりする場面。
1部 悪夢 さらに戦闘開始。何気にここのヒロインが名も無い普通の娘という。しかも本編とだいぶ無関係。
2部 ドクター 一応、今回のヒロイン登場。強引な医者の娘さん。でも中生代の女医師ってどんなのだろう(ぇ
3部 転生 さりげなく、前振りが入ってる。そろそろ色んな悪魔というかゲテモノ登場。
4部 悪魔狩り ゲテモノいっぱい登場。イラストついたら……うん、昼飯が食えなくなるな。晩飯を食おう(ぉぃ!
5部 神々の獣 さりげなく読むと、現代を思いっきり批判しているという作品(ぇ 無神教の方々は「神などいない」などと考えてるかもしれないけど、「神」という言葉、使ったことない人なんていないでしょうな。(遠い目
最終部 咎人の剣 『神々を斬獲せし者』 さて問題です。この題名は実はとあるゲームの中での最強の攻撃力を誇る武器の名前であったりします。けっこうピッタシなんでパクっちゃいました。ロゴを少し変えてもパクりはパクりなんで堂々とそのまま使ってます(ぉぃ! そのゲーム名を当ててみよう! 景品はでないけど、回答者の名前は記憶しときます(ぇ
こないだもらった指摘を思案錯誤。
☆いろんな表現を駆使していてかなりの自信作なんでしょう・・・しかし、表現が難しい(想像するのが)部分が多いと感じました
ヤブサメ様。
返事= 左様でございましたか(^^; やっぱり実際目で見たり触ったりできないものを表現するのは厳しいよ(;;
まだ訂正まで至っておりませんが肝に銘じさせていただきます。ありがとうでごじゃりましゅm(__)m
更なる返信= ごめんなさい、まだしてないや(爆破
☆いきなり10点満点?某サイトのように根拠のない点数の付け方はどうかと… 天薙 様
☆せめて他にも色々と資料を集めてくれや。 クスジティ(この作者のHP上の知り合い)様
返事=知り合いT氏、彼はメールでばしばしと指摘を下さるナイス・ガイでございまふ。メールできたんで、どんどんプリーズ!
返事=知り合いC氏。頼むから私情でレスするのはやめてちょ(メール作ったから、そこでな?
ぶっちゃけ私は「うまかった」「かっこよかった」の感想よりも「指摘」や「誤字」や「表現技法のミス」などを突っ込まれるほうが好きです。確かに挫折もあるっすけど、逆に「燃える」らしい性格なんで、そっちを求めてこっちやってきましたんで。
エレル氏も順調みたいだし、俺も頑張らないと……(;;)
って、感想変えるのも面倒くさい(爆死
とりあえず、ここはひと段落。次はちゃんと一部ずつ分けて出していくかな?