- 『クロニクル 第2章第6話〜嵐の前の静けさ〜』 作者:ベル / 未分類 未分類
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全角20990文字
容量41980 bytes
原稿用紙約72.25枚
クロス・クルセイドより遥か北―――
ザンッ!!
魄霊に囲まれた森の中で女が一人ナイフを二本もって駆け抜ける。
足を踏み出すごとに飛び上がる土煙のおかげでその首くらいまでの髪は真っ白だ。
ジーンズにパーカー。その上から体の前半身だけが見えるコートで包んでいる。
「ヤケに数が多いわ・・・。一体何が?」
女は背後から爪をむき出しに襲ってきた「魄霊」を二つに切り分ける。
「魄霊」・・・・
いわゆる体を持たない「魔物」 肉体のある霊体。
一般的に言う「悪魔」「畏怖」「邪悪」。太古から恐れられしモノ。
「悪魔」の成り下がりと言われている種族。
いまここに居る魄霊は全員が低級の「フィン」。
下半身より下が無く、上半身が異様に発達し、顔は狼みたいなもの。
爪や牙も発達し、ただ何の目的も無く人を襲うモノ
魄霊には「魔付」 魔法力が組み込まれていない市販の武器では傷つけれない。
今戦っている彼女の双短剣にも無論、魔付はされている。
「魄霊達の視線・・・私じゃなくて南を見ている? まさか神―――」
上空から襲ってきた三体のフィンの叫び声にかき消される声。
彼女は膝を極限まで曲げ、一気に跳躍した。
一番最初のフィンの首を切り取り、二体目三体目をバラバラにした。
着地するとすぐにその場から走った。
彼女が今いた所に4体のフィンが爪を振り下ろした。
戦場を駆け抜ける戦乙女・・・琴原 燐(ことはら りん)。
彼女は足を止め、すぐに後ろを振り向き4体のフィンに突貫する。
フィンの一体目が爪を突き出すが、燐はスライディングでそれをかわす。
フィンの足元に来ると一本のナイフを喉に投げつけた。
喉が破れ、食道を貫く。刺さったナイフを掴み、そのまま横へ引き裂いた。
ブラン・・・ゴトッ
首の右半分を引き裂かれ、残った左半分が首を支えきれなくなり、そのまま地面に落ちた。
二体目のフィンの両腕を綺麗に斬ると、背中をむけ、後ろ蹴りを放った。
燐の靴にも属性は魔付されている。「衝撃」の属性が。
フィンは3体目のフィンを巻き込み飛んでいく。
4体目のフィンの頭上を跳躍で飛び越え、片手で首を跳ね飛ばした。
血は絶えず首の切れ目から噴水のように飛び出す。
周りが鉄の匂いでいっぱいになった。
二体目と三体目のフィンが奥から飛び込んできた。
燐は既に腕の無い二体目を無視し、三体目の胸を2本ともを使い突き刺した。
心臓を見事に貫き、フィンはそのまま倒れこんだ。沢山の血と共に。
二体目のフィンが後ろから襲い掛かってくる。
燐はナイフを逆手に持ち、後ろも向かずに左手を振り払った。
ナイフはフィンの目に刺さり、血をぶちまけた。
悶え苦しんでいるフィンの胴体を右手のナイフで切り裂いた。
フィンの集団、およそ100体は燐を残し、南の方へと向っていった。
「神無月・・・もう戦闘モードに入ってるんだね・・・・ハァ・・・」
燐は深くため息をつくと、なぎ倒された木やフィンの死体の上を歩いていった。
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クロニクル第二章、第一話〜虐殺・その光は破滅なり〜
叫び声を上げながら兵士達が槍を持って神無月に向っていった。
「アララ? やる気満々? なら・・・」
短いコートの下から日本刀を取り出した。ソレを鞘から引き抜くと鞘を投げ捨てた。
カランと音を立て、バウンドする鞘。暫くすると音を立てなくなった。
神無月は日本刀をヒュッと振り、兵の軍勢を見た。
真と龍介の背筋に寒気が走った。
そして本能が叫ぶ。「コイツはヤバイ」と。
「ダメだぁーーーーーーっ!!」
同時に声を張り上げたが、その声が兵士たちの耳に届く頃には遅かった。
「遠慮はいらないね」
日本刀を片手で握り、兵の軍勢へと走っていく。
兵士達で神無月の姿が見えなくなった。
ワァーワァーと聞こえる叫び声。士気を上げる為のモノ。それも無駄だった。
全ては一瞬。
神無月の周りを取り囲む兵士たちが次々と吹き飛んでいく。
一人、二人・・・六人・・・・十人・・・・30・・・40・・・50と。
そして兵士たちに真と龍介の声が届いた時には全てが終っていた。
広い花畑の中で立ち尽くす神無月、そしてその周りで倒れている兵士たち。
もうお終い? と城門の梨奈たちに眼をやった。
「次はアンタ達だね・・・」
ザッとその場を歩き出す神無月。日本刀は抜いたままで。
倒れている兵士たちを見て梨奈と真は激怒した。
「酷いじゃないかっ!! 何も殺す事も無いのに!!」
真が梨奈の言いたいことを神無月にぶつけた。
「ちょ、ちょっと・・・」
いきなりの怒りに焦る神無月。
ピタリと歩みを止め、汗をタラリと流す。
真は木刀を持つと、城門から一気に神無月の元へ駆け抜けた。
横一閃。
神無月はそれをヒョイとかわし真の足に足をかける。
「うわっ」
勢いよく顔から転ぶ真。神無月は真の背中にお尻を乗せた。
ジタバタしている真の頭に指を乗せ、言い放つ。
「あんまし無闇に飛び出すもんじゃないよ〜」
神無月は真を頭をコツンと指で叩いた。
ケラケラと笑っていると。背中に殺気を感じた。
ヒュッ! パァンッ!!
神無月はすぐに真の上からどけ、身をかわした。
殺気を向けたもの・・・それは龍介。
水無月を逆袈裟に振り上げ、茎の長い花の茎を刈り取る。
すぐに真を軽く蹴ると真は立ち上がった。
「へぇ・・・あんた達も・・・か。いい度胸じゃないかっ」
ザワッ!
またもや背中に寒気、いや殺意をそのまま感じた。
龍介が後ろを振り向くと神無月がまさに刀を振り下ろそうとしていた。
キィン―――!
激しい金属音。
龍介は水無月を横にし、神無月の斬撃を受け止めた。
そのまま水無月を振りぬき、距離をとった。
「中々やるね・・・じゃ―――」
「伝令!! 北方向、距離は800に!! フィンの集団が!!」
「「「!!?」」」
張り詰めた空気に飛び込んだ大声。
声の主は城の天辺で望遠鏡みたいなものを来た方向に向けている。
神無月と真と龍介。いや、城にいる全員が来た方向を見た。
遥か遠くに見えるのは土煙と、茶色の動く物体。
「ヤバッ 本気出しそうになったし・・・」
神無月はそう呟くと、動く物体の方角へと走っていった。
鞘を走りながら拾い、刀を納めると神無月は仁王立ちにたった。
鞘に入れた刀を集団に向け、言葉を解き放つ。
「寛大なる神が与えし光。 汝は光、汝は破滅。
此処にあるは大いなる怒り、今ソレを開放せん―――。
受けよ! そして消え去れ!!」
鞘の先に光が集う。それはドンドン大きくなり、やがては神無月よりでかくなった。
「我流魔剣術 神名技!!」
『――――天照大神』
集まった光が次々に銃弾となりフィンの集団に襲い掛かる。
光の粒子の塊は茶色い物体の集団を白く染めていく。
まさしく極光。梨奈はただそのキレイな光に感動していた。
絶えず光の粒子の塊は空気を突き破りながらもフィンを削っていく。
粒子の塊が貫いた所が溶けていく。煙を出しながら消えていくフィンの集団。
神無月の背丈位まで光の集まりが小さくなると最後に一本の光の飛礫が飛び出した。
大きい光跡を残しながらも螺旋を描き、キラキラと輝きながら一直線に。
太陽の光よりも眩しい光であたりを照らす。
まさに「アマテラスオオミカミ」
フィンの集団に大きな穴を開ける。
焼け飛ぶフィンの集団・・・。大きい爆発と共に残った光跡は消えていった。
砂の混じった爆風が神無月の髪を大きく揺らす。
最後の一撃を放った後に残った光の粒子がキラキラと光る。
神無月の少し濃い藍色の様な髪の毛に反射し、水色の光が周囲に飛ぶ。
髪の毛をかきあげ、神無月は鞘をまた短いコートの下に隠した。
「じゃっ! 今回は遊びに着ただけだから!!」
そう叫ぶと、爆炎の方向へと姿を消した。
梨奈たちはすぐに兵士たちのもとに駆け寄り、生存者がいないかを探した。
しかし、兵士たちは全員生きていた。
兵士たちの顔や鎧に付いた殴られた後。
神無月は・・・手加減をしていた。
*******************************
「オレはいつまで無視されるんだ・・・・」
既に誰からも忘れられている王様は自分の寝室へと戻り、枕を涙でぬらした。
*******************************
何が起こった。
オレは兵長だから戦闘切って走っていたから?
ここで「アイツ」をとれば手柄がもらえる。
そんな思いは簡単に砕け散った。
俺が最後に覚えている光景は・・・。
獲物を狩る目。
そして三日月。
その後に目の前の景色いっぱいに鉄色をした何かが飛び込んできた。
オレの景色はソコで終った。
「・・・じょ・・・すか・・・?」
? 何の声だろう?
「大・・・夫・・・ですか!?」
必死で呼びかける子供の声。
無駄だ、俺はもう死んだのだから・・・・。
死んだ? なら何故俺の意識はここにある。
「彼」は目を開けようとする。
黒い景色に光が横に細かく一本ずつ入る。
その景色はドンドン霞んで来、一人の人影が姿を見せた。
小さい子供のような影。
俺を呼ぶ声と、体全体に来る振動。
そして肩にあるかすかな温もり。
やがてまだ朧気だった景色が色彩を映す。
目の前にいるのは本当に小さい子供。
誰だこの子は?
ああ、そういえばメシュル様が呼び出した子供の一人の・・・なんていったっけ。
思い出した・・・徳堂 真だったな。
「大丈夫・・・か!? しっかり・・く・・・さい!!」
オイオイ・・・もう少し寝かせてくれないのか? しょうがない。起きるとするか。
戦闘をきって走っていって一番最初になぎ倒された兵長が目を覚ました。
顔に残る酷い痛み。
ハッキリと色彩が写り、周りを見渡した。
驚いた。
そこにあるのは有象無象の転がり。
自分の部下たちが転がっている。
「ありがとう・・・。トコロで、神無月は?」
「あの人なら、フィンの集団を消し去った後、姿を消しました」
そうか・・・と腫れた顔を苦笑いさせ、己を莫迦さ加減を笑う。
「教えてくださいっ!! 一体あの人は・・・何者なんですか?」
肩にあった温もりが一層激しくなった。
自分の肩のぬくもりは・・・真の手だ。
「アイツは・・・・」
クロニクル 第二章 第二話〜絶望・その名は神無月〜
「私からお話しましょう」
背後から聞こえた声はメシュルの声。
いつの間にか王様も隣に立っている。
「アレ・・・? 貴方いつの間に私の横に? ていうかいつからここに?」
「ガーンッ」
冷たいメシュルの言葉にまたもやスネる王様。こんなのが王様でいいのか?
しかし王様もスネてばかりいられない。すぐに立ち直った。
「取り合えず、奴の事について説明しよう・・・」
王様の顔が先ほどとはまるで違う。お笑い芸人から殺し屋になったかのような変わりっぷり。
既に荒野と化している場所に、一陣の風が吹く。
その場にいる全員に不吉の一文字を与えた。
「アイツは・・・・」
*******************************
二人は鉢合わせした。
燐は死体の上を、神無月は爆風の中を。
それぞれ全く違う環境の中から歩いてきた。
「神無月〜・・・」
燐の顔が笑顔を見せる。
「イッ・・イヤっ、その、ほら、アレはさ、なんていうか・・・・」
「言い訳無用!! アンタの力は使ったらダメなんだから!!」
腕をぶんぶん振り回しながら追いかける女と。
後頭部を抑えながら逃げる女。
「まったくもう」とプンプン怒った。
「ゴメンってばぁ!!」と半ば逆ギレで大声で謝った。
少し時間が過ぎると二人はもう仲直りしていた。
肩を組んで歩き口を空けて大笑いしながら歩く。
やがて夜が過ぎ、神無月と燐はある「町」にたどり着いた。
自分たちの帰るべき場所。「リルカット」に。
決して大きくは無いけど、村と言うわけでも無い。「市」といった所であろう。
クロスクルセイドの城から50キロは北東に離れた山岳部の中にある町。
二人は町の中に入ると面積の広い井戸の中へと降りていった。
暗い井戸を降りるとそこには広い空間があった。
「ある人」にしか知られていない空間。
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「神無月は東側に位置する大陸。「ゲルブハルト」一の殺し屋さ」
「殺し屋?」
梨奈が真っ先に王様に疑問を吹っかける。
あんなサッパリした人が殺し屋?
人には色々あるのだよ。大人が言う決め台詞。
「簡単に説明すると・・・
神無月は殺し屋だ。そしてゲルブハルト大陸には幾つもの組織があり、神無月はそれ全てが束になってもかなわない存在。その他の情報は何も知られていないんだ。そしてその神無月がコチラに宣戦布告をしてきた・・・。まさに絶望だなこりゃ」
梨奈はゴクリと息を呑んだ。
手加減をしてアレほどの実力を持つ人が宣戦布告。
今すぐに来る訳では無いがそれでも恐怖。
戦争の日が来れば・・・この城は真っ先に地図から消えるであろう。
「貴方達にはこれから戦争をしてもらいます」
いきなりメシュルが言葉を開いた。
「戦争〜〜!?」
ついこの間まで高校生だった4人にかけられる言葉。
4人はただ唖然としていた・・・。
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「ちなみに、オレの名前は「メイグラート・ヴァレル」だからな!
覚えておいてくれよっ!!」
誰に向ってかは知らないが自己紹介をする王様であった・・・。
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ピチョン
天井に這ってあった水が垂れ落ちた。
閉鎖された空間に音は振動と鳴り全体をふるわせる。
横幅が狭く、天井が高い空間。
ヒト二人と半分がちょうどスッポリはまるくらいの狭さ。
琴原と神無月はそこを並んで歩く。
夜道を歩くこと6時間
そして今度は古い井戸の底を歩くこと10時間
少し早めに歩く事16時間
大体50キロは歩いただろうか
琴原の持ってるカンテラしか無い光
その暗い空間の奥からかすかな光が見えてきた
琴原はカンテラの火を消すと、持ってたカバンに詰め込んだ。
光がドンドン強くなると階段が見えた。
琴原と神無月は階段を登り、とある小屋の地下室から出てきた
「やっとついたよ・・・歩き詰めでもうクタクタ・・・」
神無月は刀を杖にしながらヨロヨロと歩き出す。
琴原はまるで元気。鼻歌を歌っている。
「アンタ・・・元気すぎだって・・・」
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クロニクル 第二章
第二話 作戦会議
「ちょっと待ってください!!」
梨奈が唐突な展開に耐え切れず声を張り上げた。
最初から事態に流されて、気付けば変なことに。
そんなことはもう耐えられない。今度は流れに逆らうんだ。
「どうして私達がそんな知らない人たちの戦争に参加しないといけないんですか!」
「そうあるべき運命だからです」
メシュルはシレっと答えた。
あまりに簡単に答えが帰って来たので梨奈はキレた。
「だーーーっ!! 大体なんで戦争なんかしてるんですかーーー!!」
「・・・・」
梨奈は両手を振り上げ完璧にキレこんだ。
メシュルは理由も答えず話を続けようとした。
「貴方たちにしてもらいたいのは正確には戦争ではなく―――」
「俺たちが他国と話し合いの場を作るからソレまでの間ココを守ってくれって事だ!!」
ゴシャッ
メシュルの言葉を奪い取って満足気なヴァレルの顔が一瞬歪んだ。
その場からヴァレルは消え、横にキリモミ回転しながら吹き飛んでいた。
ズザザーー!!
顔面から思い切りスライディングし、動かなくなったヴァレル。
そしてその5メートル横に右こぶしを見もせずに打ち抜いたメシュル。
その場にいた全員の心の言葉が一つになった。
うわぁ・・・人って、空飛べるんだぁ
「コホン、とにかく、私たちは人間同士で争いをしてる場合じゃないと、話し合いの場を作るので、ソレが出来るまでこの城を守って欲しいのです」
何事も無かったかのようにメシュルは咳をつき、説明しなおした。
「・・・・・元の世界に・・・戻してくれるんでしょうね?」
「ヤクソクは、守ります」
「・・・・やってやろうじゃないの・・・いい? 私たちは貴方たちの守護だけしかしないから! 話し合いの場が出来たら戦争だろうがなんだろうが元の世界に帰して貰うわよ!?」
「・・・分かりました」
メリュルはまず梨奈たちに何をすべきなのかを教えた。
「まず・・・貴方たちにはカミイズミにあってもらいます。ですが、その間襲撃されたらかなわないので・・・二人は残ってください」
「二人・・・」
梨奈は考えた。誰を上和泉(多分教頭)のところへ行くか。
まず、龍介と真は残しておいた方がいいが、自分と彗だけじゃ絶対途中で殺される。
だから彗はここにのこして真か龍介を残しておいた方が良い。
・・・剣も持っている龍介は残しておくべき。梨奈はそう判断した。
「・・・私と真で行くわ。龍介君と彗はここで守っててね」
「了解」
「分かった〜」
少し真面目な返事と気の抜けた返事。
梨奈はそれを聞くと上和泉の場所を聞いた。
「カミイズミは・・・ここから真西へ行った場所の湖に住んでいます。
真さん、貴方にはこの短剣を渡しておきます」
メシュルは柄に穴の開いた剣を渡すと地図を渡した。
「これって・・・・」
梨奈が、真が、龍介が、彗が驚いた。
メシュルが見せた地図は。日本地図。
梨奈のリュックに入っている地図帳のと全く同じの。
「ここは・・・・地球の裏側なのです」
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「ぐ・・・・ぐほっ・・・き、効いたぜ・・・・ガクッ」
地面に顔を滑らせて倒れているヴァレルであった。
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「さあて・・・そろそろかね」
小さい小屋から出てきた一人の老婆。
上和泉は呟いた。
手に持っていたコーヒーを軽く啜ると空を仰ぐ。
抹茶色なコーヒーの水面が上和泉の顔を僅かに映し出す。
「最近嫌な予感がするねえ・・・何かが近づいてくる感じだわね」
少し曇り気味の空を眺めると、残ったコーヒーを飲み干した。
風に揺らされる木漏れ日の音が音楽となり上和泉の耳に響く。
「良いー風だねー・・・」
曇りだがすがすがしい風を体全体で受け止めると小屋に戻っていった。
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クロニクル 第二章
第3話 〜動き出した歯車〜
メシュルが出してきた日本地図。
梨奈はそれを慌てて奪い取ると地面にピンと張って置いた。
それでもクルクルと丸まっていく地図の両端を靴で抑えるとジっと地図を睨んだ。
間違い無い、私達が知っているのと全く同じ世界地図。
地図の右側にあるのがアメリカ大陸。
左側にあるのがユーラシア大陸。
下側にあるのがオーストラリア大陸。
そして・・・ユーラシア大陸の東側にある小さい島国、日本。
「ホントに・・・日本地図・・・だ」
目の前にある地図にただただビックリしていた。
世界の北端と南端にある北極南極。
しかし、梨奈達の知っている世界地図とは違うものが一つあった。
オーストラリア大陸の少し上にあるマーク。
地図の中なのに微妙に動いている樹のようなマーク。
「・・・? これは?」
ソレに指を押し付けメシュルに尋ねる龍介。
メシュルは地図を取り囲んでいる4人の間に割り込んだ。
「コレは・・・死の大樹『セフィロト』です」
「セフィロト・・・?」
ちょっと待ったと雑学好きな(家に帰ってもすることが無いので本を読んでいる)
真が疑問符を頭に抱えた。
「確かセフィロトは僕らの世界では創造の樹と言う事になっているんですが・・・」
セフィロトの樹
これは、神=創造主の創作活動を通じて、あらゆるものの多様性を表すと共に、
神の創造したあらゆる存在の調和と統合を示している。
つまり、この樹の中には、
この世の始まりの神が創造した世界の全てが表されている。
「コレは・・・すでに創造ではありません。ある意味では創造ではありますが」
「ある意味・・・?」
「・・・コレは魄霊を創造する・・・つまりエクロルに災厄を創造させる種なんです」
「災厄の・・・種」
今まで読んできた旧約聖書。カバラの書物等に書いていたものとは全く違う樹。
「まぁそれは置いておきましょう。まず、私たちの現在地はここです」
メシュルが指差したのはアフリカ大陸の東側にあるスーダンというところ。
「そして上和泉の現在地は・・・・」
スーダンから指を左にズラし、チャドと言う場所の左側に指を差した。
「このチャドという地の西にある緑の地に上和泉はいます」
「アフリカ・・・僕たちも随分遠い所まで・・・」
苦笑いしながら龍介は言った。
彗もそうだねーと苦笑いした。
「まあ、兎に角っ、ここへ行けばいいんでしょ?」
ハイと返事をし、メシュルはもう一つ地図を取り出した。
先ほどの世界地図よりも若干大きいボロい地図。
「コレはここら一体を拡大化させた地図です。これを見れば迷うことも無いでしょう」
ありがとう
そう一言言うと梨奈は世界地図を抑えていた靴を履き、真の手を引き立ち上がった。
早速行こうといわんばかりに(実際心の中で思ってる)真の手を引っ張る。
いきなり引っ張られてつんのめりになりながらも片足で何とか踏みとどまる。
梨奈は少し早足で地図を見ながら歩き出した。
「あっ、梨奈・・・足元に・・・」
気をつけて、その言葉と同時に顔から転んだ。
3秒間ほど動かなかったが、ユックリと立ち上がった。
顔についた土を手で払い。改めて地図を見直すと今度は足元も見ながら歩き出した。
梨奈の背中をプッと笑いながら真は着いて行った。
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クロニクル 第二章
第4話 〜合戦開始〜
ソマリア 〜エルフェイム軍突撃部隊『猛虎』キャンプ地帯〜
「ふむ・・・神無月が暴れてクルセイドに少しだが被害が出ているね」
「その少しが戦闘を大きく動かすぞ・・・」
幾つもあるテントの群れ(?)の中にある一つのテントの中で会話する二人の男。
地図を見て作戦を立てる二人。
少し子供っぽい風を感じる男と、髪の毛が極端に長い男の二人。
青いコートをお互いが羽織っている。
中くらいの髪の長さで顔が少し幼いのは『月代 天華』
髪の毛が長く、少し大人びているのが『塚島 一誠』
テントの外からの焚き火などの火の光が二人の影を大きく伸ばす。
地図中にペンなどでどう攻めるかと色々書いているのでその影は動きっぱなしだ。
塚島のその長い髪から見える顔はとても美形だ。
だがその瞳はとても冷淡な眼をしている。
塚島は目の前ウザったい髪の毛を書き分けるとペンをある場所に指し示した。
「ここなら・・・奴等の城を攻め落とすのも簡単だろう」
塚島が示したのはクルセイドの背後にある大きな絶壁。
そこ意外は眺めがよく。伝令などにすぐに発見されてしまい。中々攻め落とせない。
「なるほど・・・逆に来ないと思う絶壁から行くわけだね?」
「ああ、だがやつらもバカではないはずだ。無駄に大人数では行かない方がいいな」
「どれくらいの数を使うの?」
月代が塚島に尋ねると塚島は紙にその数を書いた。
「たった・・・これだけで?」
「コレで充分だ。一箇所でも良い。そこを落とせば他のやつらも動かせば良い」
塚島が挙げた数。その数30。
クルセイドの数は神無月の被害を抜いても2000はある。
だが、本当はクルセイドはもっと大きい軍だった。
クルセイドや他の国との戦闘で大部隊が借り出されたのである。
その隙を塚島と月代は見逃さなかった。
「向こうにはもう此方が仕掛ける事がバレているはずだ。だから護衛を強化させるに違いない。逆に、そこを突いて30人を使って一つの箇所に穴を空けてそこからドンドン数を増やして穴を広げていけば良い」
塚島はペンと地図を机に置くと懐から一つの札を取り出した。
何かをボソボソと呟くとその札は少し大きい鳥に変化した。
それを肩に乗せるとナイフでクルセイド軍の場所に突きつけた。
「コノ戦闘で・・・奴等を落とす」
二人は立ち上がるとナイスなタイミングで兵士がテントの中に入ってきた。
「隊長! そろそろ時間です!」
その言葉を聞くと月代は笑みを浮かべた。
「さ、戦争という名のダンスの始まりだね」
*******************************
クロス・クルセイド軍 アリウス城 会議室
「恐らく、エルフェイムも今日来るでしょうね」
メシュルは地図を取り出すとソマリアを指した。
そこからメシュルの予測する『猛虎』の進路をペンで書き入れる。
ここから東南にある国ソマリアからアチオピアを渡り。アリウス城の後ろの絶壁へと。
「やっぱお前も背後から来ると思うか」
ヴァレルがメシュルの肩から顔をニュっと出すと絶壁を指で指した。
「ええ、ですが固めすぎるとかえって狙われやすいでしょうね」
メシュルが珍しく普通の反応を返すとリハードを呼んだ。
すぐにメシュルの近くに寄っていった。
「相手は恐らく少数で来るでしょうから・・・こちらも少数で対抗しましょう」
「分かりました。では・・・散らばった軍が帰って来るまで耐えればいいんですね?」
「ええ、まずは守りに専念します。相手が少しでも退いたら押し返しましょう」
微妙に専門的な話をしている龍介と彗は仲間はずれだった。
龍介は龍介なりに色々と考えている。
「ねぇ、コノ世界の事。どう思う?」
龍介が彗に言葉を投げかけた。
「どうって?」
首をかしげ、言葉を返す。
「そもそもおかしい所が沢山ある・・・ここは日本じゃないはずなのに。メシュルさんは「上和泉」っていう人の事を変になまらず言って見せた」
「ふんふん」
「何か・・・おかしいとは思わないかな・・・」
「まぁ、今はそんなこと考えててもキリが無いんじゃないかな? 今は来るであろう戦闘のことを考えないと・・・」
そうだね、と龍介が頷くと大きな音がした。
「きましたねっ! 意外と早い!!」
メシュルが絶壁の方向を向くとすぐに会議室を走り出た。
絶壁を見渡せるベランダまで来ると既に敵部隊の予想より早い不意打ちを受けていた。
メシュルはその現状を見ると唇を噛んだ。
「くっ・・・早いわね・・・」
もう少し遅くに来ると思っていたが断然早い。
『猛虎』のスピードを甘く見ていた・・・。
メシュルはすぐに命令を下した。
「第二守護部隊! 不意打ちを受けた第一部隊の援護に回るのです!!」
城の中から40人くらいの兵士がワラワラと出てきた。
18時 32分 アリウス城 背後の絶壁にて
合戦開始。
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クロニクル 第二章
第五話 〜双虎激突〜
今、アリウス城背後の絶壁と城壁の境目では怒号と鎧が軋む音、
そして斬撃音と悲鳴と言う戦場音楽が渦巻いていた。
アリウス城の背後の城壁に『猛虎』の爆砕部隊によって大きな穴があけられた。
その後、月代を含んだ30人の部隊が突入してきた。
不意打ちを受けたクロス・クルセイド軍は予想以上に被害を受けた。
本来突撃戦が得意な『猛虎』。それに加えて完璧に不意を着いたのですんなり城の中庭へと入れた。
「さて・・・まず第一部隊は突入。 ・・・此方の被害は・・・3人くらいか。 これなら支障は出ないね。 さて、後は塚ちゃんに穴を広げてもらいますか!」
先陣切って突入した月代は周りの敵兵を全てなぎ倒し、城内の庭へと侵入していた。
辺りを見回し、全てをなぎ倒しているのを確認すると合図の旗を振りかざした。
「塚ちゃ〜〜〜ん! 第二部隊突入しても良いよ〜〜〜!」
人をなぎ倒した後に健康的なスポーツっぽい汗をかいて笑顔で旗を降る月代。
その旗を見るや否や塚島はガケ上で待機していた騎乗隊を進ませた。
戦声と共に砂煙を巻き上げ絶壁を駆け下りてくるおよそ50の騎乗兵。
塚島は絶壁の上からベランダにいるメシュルを見ると中指を立てた。
「!!」
メシュルは塚島の行動が目に入ったのか激しく怒りを覚えた。
しかし、すぐに冷静さを取り戻すと笑みを浮かべた。
「私も何も準備しなかった訳ではありませんよ・・・・弓兵隊! 構え!!」
「!?」
メシュルの叫び声に上を見上げる月代とその他26人。
その視線の先・・・城の屋根の上に10人ほどしかいないが弓兵が狙っていた。
メシュルの手を振り上げる合図で弓を構え、その手を月代部隊へと振り下ろした。
その瞬間。10人の弓兵が次々に弓を射り始めた。
同時発射ではなく。二人が射ったその後もう二人が射る。
こうする事で二本ずつだが敵に絶え間なく牽制を与える。
月代はすぐさまガントレットを装備し、矢をコブシで弾いた。
残りの26人は物陰に隠れようとするが5人が射抜かれてしまった。
塚島はチィっと舌打ちをすると忌々しげにメシュルを睨んだ。
メシュルは更に合図を出した。
「特殊防衛戦闘隊!『コンバット』!前へ!!」
「おおおおおおお!!」
「な!?」
ボゴンッ!
メシュルの合図と共に月代の背後の土の中からリハードが出てきた。
そのまま砂煙を利用して眼くらましをしながら月代に突撃する。
「くっ!!」
ギギィンッ!!
リハードの槍が月代の顔面めがけて襲い掛かった。
だが横一歩半身になりながらガントレットで受け止める。
月代の目の前で空間が破裂した。
わざと自分で後ろへ吹き飛び衝撃を軽減する。
「あ〜・・ぶないなっ!!」
後方へ飛び着地すると更に距離をとった。
ガントレットをもう一度ちゃんとはめ直し、履いてるブーツも履く。
トントンとつま先で地面を蹴り、両コブシの骨をポキっとならした。
「怖かったなぁ! なんてことしてくれるんだ!」
勝手に一人で怒り出す月代。
そんな月代になりふりかまわず走りこむリハード。
右から左へとブォンと空気を吹き飛ばしながら振り払う。
月代の頭を潰すはずだった槍は数センチの見切りによって空を走った。
月代の瞼の数センチ・・・1センチほど前で突風が発生した。
目のちょっと上位までしかない髪の毛を月代支点から見たら右へ。
リハード支点から見たら左へ浮かした。
月代が僅かに後ろに動いたのである。
瞬時に見抜き、瞬時に動いたのだ。
月代は、止った瞬間に右コブシをリハードの顎めがけて打ち上げた。
死角からの攻撃。月代は決まったと確信した。
月代は笑みを浮かべた。子供のような笑みではなく一人の格闘家としての。
クロス・クルセイド軍 最高の実力を誇る槍使。リハード・シュメルツ。
通称「神のライオンエーリエル」「神鬼」「壊槍」
そう恐れられたリハード・シュメルツを殺った。
少し簡単に終ったが、まぁいいかな。
そんなことを考えていた月代の腹部に何かムズかゆいものが走った。
それと同時に衝撃が体全体を走る。そして大きな音がした。
すぐさま左手を腹部にあてがった。
「うぇっ」
下から上へと吹き飛んだ。
決まったと思った右アッパーより先に視界がブれ、いきなり上へと飛ばされた。
背中から地面に落ち、一度バウンドした。
左手のガントレットにヒビが入っていた。
「く・・か・・は・・・一体・・・な、に・・・が・・?」
みぞおちに何らかの攻撃を受けたのでかなりのダメージである。
ヒューヒューと空気を吐き出し、腹部を押さえている。
「全く・・・危ない所だったな」
リハードがした攻撃は膝蹴り。鋼鉄のガントレットにヒビを入れるほどの。
通常、リハードの持っている槍はどちらかというと戟に部類される。
そしてその先端を片手で持っているリハード。
手首にかかる負担はかなりものだろう。
それを簡単に横薙ぎにしたリハード。彼の力は大したものだろう。
「ぐ・・・く・・・まだ・・・やれ、る・・・」
両手を使い気力で立ち上がろうとする月代。
その姿を見るリハード。彼はクルリと背中を向けた。
そして後ろから走ってきた騎乗兵に飛びまわし蹴りを放った。
「ふぅ・・・ここは退け。お前に勝ち目はねぇよ」
「!?」
リハードに投げかけられた言葉。
それは格闘家としての自分を見下す発言。
月代は激しく怒りを覚えた。
だが、リハードの言うとおりもう勝ち目は無い。
ヒュッ
月代の周りに一陣の風が起きた。
リハードが風の出所を見てみるとそこには塚島の姿が。
あいも変わらずの冷淡な目。その目でリハードを見下ろしている。
「月代が負けるとはな・・・流石は神鬼。だが、まだこの戦闘に負けた訳ではない。メシュルを討ち取ればそれですむからな」
「なっ!」
塚島が懐から一枚の札を取り出すとそれは炎の玉になった。
指先に炎の球を集めるとそれをベランダで指揮をとっているメシュルに向けた。
「お前たちには欠点があった。守備を固めるあまりにどうしても個人の力が強いものを側近に置けなくなる。そして・・・そこを狙えば一撃だ」
「くそっ!」
すぐにメシュルの方を向いたがもう遅い。炎の球がメシュルめがけて飛んでいった。
(やばい・・・殺られる!!)
メシュルは死を覚悟し、目をつぶった。
キィンッ―――
5秒、10秒、20秒。いつまで立っても来ない炎の球。
メシュルは恐る恐る瞼を開いた。
そこにあるのは驚く塚島の顔、そして火の玉があったために少し焦げた匂い。
そして目の前にいる植田 龍介の姿。
「危なかったですね。大丈夫ですか?」
「貴方は・・・・っ」
水無月を構え、塚島の方へ再度振向く。
そしてメシュルの方も向かずに話しかける。
「貴方は指揮をとっていて下さい! 兵たちが混乱します!」
しばし呆然としていたメシュルはすぐに我に返った。
「・・・・分かりました」
龍介はすぐに飛び降り、塚島の方へと走っていく。
「ふぅ・・・助けられましたね・・・」
「おい、呆然としてると・・・また狙われるぞぉ?」
驚いて振り返るとヴァレルが部屋の奥から出てきた。
あくびをしながらスタスタと。
「あなた・・・最初からいたんですね?」
「いやぁ、アイツが先に飛び出して行ってよぉ」
「・・・ま、いいでしょう」
いつもどおりのケラケラ笑いをしている王様が眉をひそめた。
次の瞬間、メシュルの肩を掴み、グッと引きずり込んだ。
「え!?」
「あぶないっ!」
ビンッ―――
メシュルのいた位置に飛び込んできたのは弓矢。
メシュルはヴァレルを見るとニッコリ微笑んだ。
カンゼンナル ヤイバ
「アリガトウ・・・また出るのかしら? 『パーフェクト セイバー』が」
かつてそう呼ばれたヴァレルの異名を言うと、ヴァレルはケラケラ笑いで答えた。
「出るかもなっ!」
19時 21分 城内の庭にて
月代 天華 撃破
********************************
「さて・・・人の城に勝手に上がりこんできた無礼者に・・・教えてやるか」
ヴァレルはベランダに出ると何処からとも無くメアホンを取り出した。
「人に受けた無礼はそれ以上の無礼で返せってね・・・絶対泣かす。・・・覚悟しとけよ・・・エルフェイムのイノシシ供・・・・」
ヴァレルは思い切り息を吸い込むとメガホンに向かって叫んだ。
「『コンバット』!騎乗部隊に一泡吹かせてやれ!!」
ヴァレルの一叫びで次々と地面から腕が伸び、馬の足を掴んでは引きずり倒す。
そしてその後その腕の横から人の頭が出てきて。姿を現す。
もう片方の手に持った武器で馬ごと乗っている敵兵を突き刺す。
「なっ、なんだと!?」
いきなり自軍の数がドンドン減っている事に気付く塚島。
しかし驚いてる暇は無い。目の前にガケをものすごい速さで駆け抜けて来る龍介の姿。
塚島は急いで月代を札を変化させた大型の鳥で遠くへ運ばせると懐から黒い札を取り出した。
それは剣の姿に変わるとソレを握り締め龍介の剣激を受け止める。
火花が激しく宙に舞う。塚島はもう一つ札を取ると「言葉」を唱えた。
『焦がれし炎よ 空を斬り裂き敵を撃つ!! 燃えろ! 燃えろぉ!』
塚島の剣の先から閃光が周囲に舞い散る。
それは龍介の周囲にやそこら辺に浮いている。
やがてキラキラと光る閃光の粉は炎に変わる。
およそ200に達する炎の粉はグルグルと渦を巻き、2つの弾丸となって龍介に飛び掛る。
それを2つとも水無月で振り払うと龍介は一旦バックステップした。
水無月を地に突き刺し、石を拾うと。ソレを少しフワリと上に投げた。
『弧瞬絶投 飛び砕け! 破石飛空!!」
宙に浮いてる石を右手で回転をかけながら打ちぬいた。
石は回転を増しながら螺旋を描く。
塚島はそれをいとも簡単にはじこうとした。
だが、剣が手首から勝手に捻じれ、地面に落としてしまった。
「な!」
「ピストル・・・ってどういう回転で飛ぶか知ってるかい?」
「くっ・・・・!」
龍介が塚島の懐に潜り込みながら尋ねる。
「縦でも、横でも、逆回転でもなく、ドリルの様に回転するんだ」
水無月を峰に向けると、胴への一撃を放つ。
「したがって、君の剣にドリルとは逆の回転をかけた、一手に集中ではなく、一転から拡散していく様に・・・何、殺しはしないよ。僕自身、人は殺せないけどね」
「ぐがはっ!!」
峰からの強烈な一撃を受け、派手に吹き飛ぶ塚島。
手だけでスライディングしながらも何とか受身を取る塚島。
「ちっ・・・此処は引くか・・・流石にアレを召還したまま戦うのはしんどい・・・」
そういい残すと煙幕ダマを使い、姿を消した。
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クロニクル 第二章
第6話 出会い そして物語
ザアアアアァァァ・・・・
上泉の住む西の地まであと少し。
梨奈と真は楽に歩いて行けた。
「何だっ、結局誰も何も出てこなかったね!」
「ん〜・・・もっとこう厳しい展開を予想してたんだけどなぁ・・・」
Σマークを頭に浮かべ、梨奈にえー!とツッコム真。
冗談冗談と笑いながら流す梨奈。
真はこう思った。
(君の冗談は何でも本気に聞こえるよ・・・)
え?何か言った?と梨奈が聞くと、
な、なんでもないよ、と慌てて答える真。
それを最後に沈黙が生まれた。
そして
「あー、つまんないなぁ〜。もっとこう血肉が沸き踊る展開が欲しかったのに〜」
「イヤどんな展開だよソレ!」
「どんなって・・・決まってるじゃない。人々の罵声。そして爆音と共に消えていく人の叫び声とか・・・」
「ちょっと待ったあああ! 一体どんな事を想像してるの!?」
「ククク・・・それは真の想像次第・・・・」
等とコントみたいなものを繰り返しているうちに一つの森に迷い込んだ。
「あれ・・・? こんな森・・・地図に無いけど・・・」
しかももう大分暗い。ここでもう動くのは危険だろう。
そう判断した真は一休みしようと言った。
・・・・・
全く声が出ない状況。
いつの間にか迷い込んだ森は湿ったまま時が止まっている。
フクロウの声どころか虫の声一つ聞こえない。
風さえも。
「さて・・・そろそろいこっか」
「・・・梨奈も感じた?」
「って事は真もかぁー」
二人は感じ取っていた。どうしようもない不気味さ。
それと寒気、殺意を。
ずっと休んでいても君が悪いだけなので歩くことを選択した。
月の明かりを頼りに歩き出した。
足元がよく見えずおぼつかない足取りで。
クシャクシャと地面に落ちた葉っぱを踏みしめながら。
先ほど感じた寒気や不気味さ、殺意はどんどん増して行く。
少し足を速めると駆け足になっていった。
次々と前に繰り出していく足をドンドン速めていく。
やがて全力疾走になった。しかし不気味さはまだ消えない。
むしろ不気味さは次第に強くなっていく。
「・・・やっぱ・・・戦うしかないみたいだね」
「どうしてこうコッチに来てからは変なことが起きるのよ・・・」
「さっき自分で期待してるって言ってたじゃないか・・・」
「あ、あれは・・・ノリよ! ノリ!」
「ノリねぇ・・・」
不気味さを目の前にしながらもショートコントみたいなものを続ける二人。
その不気味さが二人を確実に包み込んでいった。
やがて、第五感に加えて勘、第六感までもが不気味さを感じるようになった。
口の中で不気味な味がし、鼻で不気味な匂いを嗅ぎ、耳で不気味な音を聞き、
目で不気味な何かを見て、肌で不気味さを感じ、勘で不気味さを読む。
二人は暗い恐怖の中へと落ちていった。
・・・風が吹く。
森の中で初めて吹いた不気味な風。
ここでは感じる全てが不気味。
「ほぅ・・・珍しい、お客さんかね」
不気味な空間に響いた枯れた声。
瞬きをし、もう一度景色を見るとそこはあの森ではなく滝のある湖。
そして湖のほとりの小さな小屋から白髪の老婆が一人出てきた。
コーヒーカップをその手に持ち、杖で体を支えている。
「しかも、呼ばれた側が自分から・・・ご苦労なこったい」
「呼ばれた側・・・という事は、貴方が上和泉?」
「ああ、そうさね。あんた達から来るとはねー・・・アタシから気が向いたら行こうと思ってたのにねぇ」
ヒェッヒェッヒェと意味不明な笑みを浮かべ、コーヒーをすする上和泉。
杖から手を離し。手招きした。
「え・・・」
「嘘・・・」
手という支えを失ったはずの杖が、倒れない。
先端が結構丸く、地面には刺さることが無い。
それ以前に、地面に刺していない。
「まぁ小屋に入りんさいや。コーヒーでも出してあげるさね」
「あ、ハイ」
手招きされ、流されるがままに小屋の中に入っていく真と梨奈。
小屋の中は一見普通である。
真ん中には少し大きいテーブル、奥側には暖炉がパチパチと火をたてている。
そして、その暖炉の右側にある短い廊下の先には水道。
そして台所の様なものもある。
全てが木で出来てあり、少しでも火を放したら完璧に燃え尽きそうだ。
上和泉は電気からのびているひもを一回引っ張ると。光がパっとついた。
「お客さんが来たのに暗いまま放す訳にも行かないじゃろうてね」
イスを差し出すと、何の抵抗も感じぬままにすんなり座ってしまった。
「さあて、で? 何の様だい?」
机に肘を突き、少し前かがみになりながら上和泉が尋ねる。
そして、少し困ったように。
「いえ、詳しいことはよく分からないんですが。王様が連れてきてくれと・・・」
「ヴァレルの坊やがかぃ・・・偉くなったもんだねー。あの子も・・・」
「あの・・・王様と一体どんな関係で?」
「まぁ、そんなモンは今はいいじゃないさね。本題に入ろうか」
梨奈の質問をきれいに流すと。上和泉はコーヒーを差し出した。
まぁのみんさいと言われ、ちゃんと飲む二人。
少しの間安息の沈黙が現れた。
「で、どうせあの坊やのことだから戦争をやめたいんだろ?」
「はい、そして・・・貴方の力が必要だとか・・・」
フム・・・と少し黙りこくり考えた。
「良いじゃないか、行ってやろうかね」
「え、偉く簡単ですね・・・」
額にタラリと汗を見せ、真が苦笑いする。
「んなもん一々考えることでもなかろうに」
サラリと答える上和泉。
「だが・・・真、て行ったね。アンタは」
「ハイ」
「アンタにも『牙』が必要だね・・・自分を守るための」
「牙ですか・・・」
「そっちの・・・梨奈には魔放の才能があるけど、アンタは木刀・・・剣と言っても短剣だけじゃ守りきれないだろうに、良いものあげるよ。コッチに来なさい」
テーブルを立ち、小屋のドアを開けると湖の滝の方へ向かった。
上和泉は滝の近くにある木の前に立つと呪文を唱えた。
『我が封ず扉よ・・・今開かれる時来たれり・・・開け!!・・・・ポチっとな』
気の根っこにあるボタンを足を出踏むと、滝が二つに分かれたしまった。
(ポチっと・・・?)
二人は最初の呪文の意味はなんだったんだろうと思いながらも、
別れた滝の裏にある洞窟に入っていく上和泉の後を着いて行った。
「コレを使うのも・・・いつぶりだろうねぇ」
軽く呟くと上和泉は垂れて来ている鎖を引いた。
すると、行き止まりだった壁にひびが入り、コナゴナに砕けてしまった。
土煙や砂埃がはれると、壁に一つの剣が埋まってあった。
「これは・・・?」
「これはね、今のアンタにピッタリな剣だよ・・・『クロニクルソード』・・・あんたの為にあると言っても過言じゃないね・・・」
「僕の・・・タメ?」
「まぁ細かいことは気にしない。さっさと戻ろうじゃないか。今頃エルフェイムの連中が城を責めてる頃だよ」
「・・・ハイっ」
上和泉の意味深なセリフに少し戸惑いながらも真は洞窟から外に出た。
そしてさて帰ろうかと思うと肝心なことに気付く。
「・・・今から走っても・・・絶対間に合わないような・・・」
あっ! と梨奈も口をポカンと開け、呆然となった。
あの距離を戦闘が終る前に渡る。まず現実的に考えて不可能なことだ。
「何、移動手段ならあるさね」
「ほ、ほんとですか!?」
「ただし、2回しか使えないが・・・」
「それでいいです! 早く! 今頃は・・・龍介君や彗も戦ってるに違いない・・・」
分かったから落ち着けというと、さっき倒れなかった杖をを地面に押し込んだ。
ゴゴゴゴ・・・・
地響きがなると、湖からタイムカプセルのようなものが浮上してきた。
水を貫きながらその姿を完璧に見せると、やがて地響きは無くなった。
「さ、これにのりなさいな、これで城の背後の絶壁まで一直線さね。それも3秒で」
「ありがとうございます!」
二人は丁寧にお辞儀すると、上和泉と共にその謎の物体に乗り込んだ。
*******************************
クロニクル 第二章
第六話 〜嵐の前の静けさ〜
その謎の物体の中味はエレベーターみたいな少し縦に長くて狭い空間。
3人が乗り込むとドン! と大きい音と共にグラグラ揺れた。
そしていきなり内臓が浮く感覚が真と梨奈を襲った。
「うっ・・・」
1,2,3・・・と3秒立つとその感覚が一気に元の感覚に引き戻される。
更なる気持ち悪さに思わず両手を地面につく真と梨奈。
しかし慣れているのか上和泉は全く動じていなかった。
「ホレ、気持ち悪がっとる暇は無いよ」
持ってる杖を前に向けると、真と梨奈は信じられないものを見た。
激しく鼻をつく血の異臭。耳を貫く剣激音と叫び声。
そして宙を飛び交う真っ赤な血。それと人の体の一部分。
真と梨奈は思わず眉をひそめた。そして真の目に一人の見覚えのある影が映った。
「アレは・・・龍介君!?」
大勢の兵士を相手に戦っているのは植田 龍介の影。
「ホレ、早く行ってあげなさいな。一人では辛いでしょうに」
「ハイッ!」
真はクロニクルを右手に構えると絶壁を駆け下りて行った。
梨奈も真の後を着いて走って行った。
「さて・・・アタシはあの子に会わないとねー」
上和泉は城に向かって足を進めていった。
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絶壁の裏側にある拠点で一人の青年がヒビ割れたガントレットを取り替えていた。
そして医療班と思われる兵士から受け取った包帯を腹に巻きつけると服を着た。
座っていたイスから立ち上がり、準備運動をしていると背後から一人の影が話しかけてきた。
「もう大丈夫なのか・・・?」
影に気付いた月代 天華は答えた。
「うん、大丈夫! それより・・・塚ちゃんこそ大丈夫?」
影の正体・・・塚島 一誠は龍介の峰打ちによるダメージを受けた横っ腹を押さえた。
最初は紅く腫れていたが今ではすっかり治っている。
「少々痛むが、大分治ってきた・・・」
「良し、じゃぁリベンジと行こっか?」
一回だけ縦に頷くと塚島は小さな笑みを浮かべる。
「次は本気でいけそうだな・・・」
*******************************
水無月を振るい、龍介は一人大勢の兵士を相手に戦う。
(くっ・・・キリが無い・・・これ以上は持たない!?)
龍介は目の前にいる兵士に蹴りを叩き込むと背後に殺気を感じた。
後ろ振り向くと兵士が弓を構えていた。
「ガキがっ! これで終わりだ!!」
完璧に隙をつかれ、反応が追いつかない状況。
(くっ・・・もうダメなのか!?)
兵士が弓を引こうとした時、一つの風が兵士の目の前に起きた。
「ん? 一体何―――」
なに「が」まで兵士はセリフを言えなかった。
今の風はなんだ? それが兵士の最後の思考だった。
ズルっと変な音が聞こえると兵士の目に横線が一本はいった。
ゴトッ
兵士の目から上が地面にずり落ちた。
「大丈夫か?」
動かなくなった目より上の無い死体を蹴り倒すとリハードが後ろから出てきた。
血に濡れた槍を振るい、人々を次々と切り裂いていく。
この人は・・・何のためらいも無く人を殺す・・・・?
頭の中がその考えでいっぱいになった。
リハードに一切のためらいが無くむしろ楽しんでるようにさえ見える。
ゴッ!
リハードがこちらの少し上に向かって槍を突き出した。
悲鳴と共に頭の上に赤い液体がボタボタと落ちてきた。
上を見てみると顔に大きい穴を開け動かなくなった人間がいた。
「うわ!?」
龍介は驚いてその場をすぐに離れる。
「・・・お前なぁ、何のために戦ってるんだ!? 帰るためか!? 守るためか!? 違うだろ!! 戦争は殺すためにあるんだ! 変な考えは今すぐ捨てろ!」
それだけ言うとリハードは振り返り、また人を切り捨てる。
リハードの後姿を見ると龍介は考える。
そうだ、僕は何を悠長なこと言ってるんだろう。
向こうは僕を殺そうとしてるのにどうして僕は峰打ちで無いといけないんだ?
そうだ、ここは人殺しの場・・・。
殺られる前に・・・・殺れ。
ボーっと立ち尽くしている龍介に兵士が一人剣を構え、切りかかろうとした。
龍介は水無月を逆手に構えると振り返り際に斜め上へと跳ね上げた。
キィンと激しい金属音と共に兵士の剣が宙を舞った。
続けざまに逆手に持ったまま思い切り振り下ろし兵士の胸に大きな傷をつけた。
兵士は大声を上げると、やがて絶命した・・・。
龍介は水無月を握りなおした。
そして敵兵の所まで歩いていこうとすると声をかけられた。
声のほうを振り返るとそこには真と梨奈の姿。
「龍介・・・アンタ一人で戦ってたの?」
梨奈が息を切らしながらも話しかける。
「他にも兵士さんたちいたけど・・・向こうの人たちの猛攻が凄すぎたんだ・・・」
「僕たちも・・・頑張らないと」
********************************
「いつのまに来てたんだ・・・?」
ヴァレルは背後に気配を感じるとすぐにそれがなんなのか察知した。
「あの子達と一緒にねー・・・」
「んで、アンタも手伝ってくれるのか?」
「ま、少しは役に立ってやろうじゃないか」
「はは・・・それより、真に渡したのか? アレを・・・」
「・・・・・」
少しの間、沈黙が生まれた。
「・・・ふぅ。ま、とにかくこの国の為に頑張ってくれや」
「誰になんて口聞いてんだいこの子は・・・・」
ヴァレルと上和泉は少し微笑みあった。
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「さて・・・一度兵を引き揚げるかな」
その言葉と共に『猛虎』がドンドン逃げていく。
やがて生きている『猛虎』の部隊は一人もいなくなった。
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2004/03/27(Sat)21:29:55 公開 / ベル
■この作品の著作権はベルさんにあります。無断転載は禁止です。
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■作者からのメッセージ
ふぅ〜・・・今回も少し頑張りました。
では、これからキャラクタのプロフィールでも見ましょうかね(いらん
まずは真君から!
徳堂 真
16歳:男
身長:160センチ
体重:45キロ
好きな物:剣道、昼寝、平和
嫌いなもの:喧嘩、面倒事、野菜
好きな色:緑色
嫌いな色:紅色
コレだけは欠かせないこと
「ヤクソクは守る」
・・・とまぁこんな感じです。次回は梨奈さん行きますよ〜(ぉ