- 『硝子の王国 §第一話§(ただいま二章まで)』 作者:空アルファ / 未分類 未分類
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第一話『逃亡と出会い』
-序章-
空から降ってくる雪は全てを洗い流すように白かった。
――― 人々の憎しみや悲しみまでも消し去りそうだった。
そしてその氷の粒は周りのもの全てを凍らすぐらいに冷たかった。
―――燃え上がる炎まで凍らすぐらいに青く冷え冷えとしていた。
しんしんと降り積もっていく雪はどこか悲しげだった。
―――戦争の残酷さを物語るかのように・・・・・。
人々はまだ気づいていない。
遠い国のどこかで争い事が起こっているなんて。
第一章
初雪を見に,ベランダに出た途端,あまりにも中と外の温度が違いすぎて少女は思わず身震いした。
「なんで今年はこんなに寒いのかしら。」少女は小鳥の歌うような声で呟いたが,その呟きも銀の雪に吸い込まれてしまった。
毎年巡って来る,世界を白銀に染めてしまう冬。
いつも,この季節が巡ってくるとはしゃいでいた少女だが普段より,格段と寒い今年の冬には思わず溜息が出てしまった。
少女は寒さに耐えられず,急いで部屋の中に入ると赤々と燃える暖炉の前に手をかざし,ふぅっと溜息をついた。
少女は群青の瞳に落胆の色をこめて赤々と燃える暖炉をぼーっと見つめた。
透き通るような白い肌,薄紅色の上品な唇。ふんわりとした淡い白金の髪。
そして,何よりも人々をひきつけるのが,その海よりも深い青の群青色の瞳だった。
少女は,魔力により安定を保っているクレーニオ国の姫だった。
「はぁ・・・。 もう16歳なのね。 わたくしって一生このままなのかしら?」
少女は自分に問うように呟いた。彼女の名前はフェアリナ・クラッチ・クレーヌ。
美しい容姿。小鳥のような澄んだ声。王家のプリンセス。
一見,もの凄く幸福そうに見えるフェアリナだったがそんな境遇を当の本人は逃げ出したいと思っていた。
誰もが,当たり前のように魔法を操ることができるこのクレーニオ国では,王家や賢者は人並みより高い魔力を持っている。
流石にフェアリナぐらいの年になると魔法はほとんど習得できていると言ってもよかったが,この少女,フェアリナは何一つ,魔法が使えないのだった。
そして,16歳という年齢もフェアリナの大きな悩みだった。
16歳――――――。
この年齢になる日が一生来ないことをどんなに願っただろう。
しかし,確実に,ゆっくりと,時は過ぎていき今日という日が来た。
フェアリナには姉がいる。
フェアリナが16歳になれば,2人のどちらが王位を継ぐか民衆の前で自らの魔法技能を示さねばならない。
魔法中心のこの国では,魔法技能に優れていたほうが,当然この国の王位を継ぐ権利があるのだ。
フェアリナは王座に特に興味がなかった。
しかし,民主の前で大好きな姉と,分かりきっている勝負をするなんて嫌で嫌でたまらない。
何一つ魔法が使えないフェアリナに対して,姉のミレーナは昔から天才と呼ばれていて,
一般魔法の習得は勿論,今では上級魔法もほとんど習得していた。
そして今では一般の賢者より魔法の腕が立つといわれている。
今では,ミレーナに適わないのは王宮賢者のフーバと,クレーニオ国の最高権力者,2人の両親のフォルト王とサラ王妃ぐらいのものだった。
風になびくブロンドの髪や翡翠の緑の瞳はフェアリナに負けないほど人目をひいた。
そして,いつも凛としていながら,誰にでも公平で優しいその姿は,まさしく王にふさわしかった。
そして今日がフェアリナの誕生日,明日は王位継承者を決める日だった。
その夜,フェアリナは大広間の王座の横にある椅子に座っていた。
頬杖をついてさっきから溜息ばかりついているので誰が見ても機嫌が悪いのは人目で見て取れた。
「どうしたの? フェアリナ。今日はあなたの誕生日パーティーですよ。」
王妃は心配して尋ねたが,フェアリナはむっと黙ったままでなにも言おうとしなかった。
それどころか,突然席を立ち上がり人々の間をかけて広間の真ん中にくるとそのよく響く声を精一杯に出して言った。
「皆様。今夜はわたくしの為に来て頂き有難う御座います。
皆様には申し訳ありませんが,わたくしは部屋に戻らせて頂きます。」
フェアリナはそう言うと,スタスタと大広間を駆け抜け,扉の閉まる大きな音と共に出て行った。
広間は一瞬静まり返ったが,すぐに人々のざわめきで一杯になった。
広間から抜け出したフェアリナは,大きなざわめきを背に,静まり帰った廊下を歩き,自分の部屋に入った。
月明かりが照らすその部屋に置いてある天蓋つきの寝台にどさっと身を沈める。
頭に浮かんでくるのは明日のことばかりだった。
そして,大いに悩んだあげく,少女はとんでもない事を思いついた。
まさか自分でもこんな大胆なことが頭に浮かぶとは思わなかった。
しかし迷っている暇などない,朝日が昇るのは刻一刻と迫っているのだ。
フェアリナは一大決心を胸に“とんでもない事”の準備を始めた。
第二章
翌朝,クレーニオ城の前には国民のほとんどが集まっていた。
なにしろ、今日は自分たちの新たな王を決める日だ。新たな国王に国の将来,つまり
自分たちの将来がかかっているのだ。気にならない者はいないだろう。
国民が,いまかいまかと戴冠式が始まるのを待っていると,ドーン!!! という
すさまじい爆発の音が城外の広場に響き渡った。
と,一斉にキャー!だのワーッ!!と人々の興奮の入り混じった声が広場をいっぱいにした。
いよいよ戴冠式が始まったのだ。
「これより,第13代の国王を決める戴冠式を行う!! 候補は私の娘,ミレーナと
フェアリナ。 依存のあるものは直ちに申し出るように!!」
城のバルコニーから堂々と出てきたフォルト王の一声で,広場は一瞬のうちに静まりかえった。
依存をとなえる者は1人もなさそうに見えた。
誰もが依存なしと思い,次の王の声を聞こうとしたそのときだった。
「はい!! わたくしには依存があります!!」
淡い白金の髪をきっちりと結い上げ,シルクのドレスに身を包んだ少女がバルコニーの最前へすっと進み出たのだった。
その少女はこれから始まろうとしている戴冠式の候補者の1人,フェアリナだった。
候補者が依存をとなえる,こんなことなど過去に一度もなかっただろう。
国民は予想外の事態に唖然とし,ある者は自分の耳を疑った。
しかし,驚いたのは民衆だけではなかった。
フォルト王を含めて,サラ王妃,姉のミレーナもぽかんとしていた。
「フェ・・・フェアリナ? 依存とは何があるのか。」
だが,フォルト王は一国の王,ましてや,こんな大事なときに自分が動揺してはいかんと思ったのか,
気を取り直してよく響く声で言った。
フェアリナはバルコニーからぐっと身を乗り出した。
「皆さん,聞いてください。 わたくしにはクレーニオの王になる資格はありません!!
何故かというとわたくしは,魔法が使えないのです!!
お母様,お父様,お姉さまも,今まで黙っていてすいませんでした。
そして,宮廷賢者のフーバ先生,わたくしの秘密を今日まで守ってくれてありがとうございました。
一生懸命,何度も練習したが無理でした。多分,わたくしが魔法が使えないのは生まれつきなんだと思います。
そんな魔法が何一つ使えないわたくしが,どうして国王になどなれましょう。
ですから,わたくしは,姉と魔法対決など致しません。 国王には姉がなるべき だと思います。
姉は,とても魔法の腕が立つので良い国王になれると思います。
わたくしは,王家と縁を切りたいと思います。そして・・・この国とも―――。
わたくしは,この国を出て行きます。勝手なわがままであるのは,承知のうえです。
どうかこんなわたくしを,お許しになって下さい。」
それだけ言うとフェアリナはヒュッと口笛をふいた。
が,次の瞬間バルコニーから飛び降りていた。
皆があっと思ったときには,16歳の少女は白い背中の上に居た。
少女がまたがっているのは,少女の自慢の魔獣(グライダ)だった。
国民や王家の人々が唖然とそれを見守る中,少女を乗せた魔獣(グライダ)は大きな
翼で優雅に風を切り,南のレテア森の方へ消えていった。
王や王妃が我に返ったときにはもう少女は見えなくなっていた。
つづく。
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2004/02/27(Fri)15:25:03 公開 /
空アルファ
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■作者からのメッセージ
文才なくて・・・。
読みにくかったらごめんなさい。
とにかくぱっと思いついた話ですが,皆さんに
楽しんでいただけると嬉しいです。
やっと二章が書けました。
一章より変になってるかもしれません((涙
一章に感想くれた山里さん,林さん,ありがとうございます。
これからも頑張るのでよろしくお願いします。