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『ライフゲーム<1>』 作者:rathi / 未分類 未分類
全角15668文字
容量31336 bytes
原稿用紙約54.65枚
1−1 〜日常の中で暮らす日々〜

・9月1日(月)

ガンガンガン。 
工場の中で鉄板を叩く音がする。 
俺はどこかの製鉄場で働いていた。 
周りには見たことのない人達が、黙々と働いている。 
ガンガンガン。 
音は続く。 
正直言って、うるさい。 
俺はよくこんなところで働く気になったものだな。 
ジャリ、誰かの足音が聞こえる。 
「お兄ちゃん!」
(ゆな)
唐突に、遊奈が現れた。 
長袖にチェックのスカート、そして前掛けのエプロンといういつもの格好だった。 
右手には『10t』と書かれた馬鹿でかいハンマーを持ち、左手にはギネスにも
載りそうなくらい大きな中華鍋を持っていた。 
傍目から見ても分かるくらい大きく息を吸う。 
「起きなさーい!」
大きな声で叫び、馬鹿でかいハンマーで馬鹿でかい中華鍋をガンガン叩く。 
ガンガンガン!
五月蠅いと思っていた音の正体は、これだった。 
ガンガンガン!
遊奈は叩く、何度も叩く。 
あまりの五月蠅さに意識が遠のきそうだ。 
ガンガンガン!ガンガンガン!!ガンガンガン!!!
そこで俺は目を覚ました。 



「起きろー!!」
ガンガンガン!
現実世界に戻っても音は鳴り響いた。 
半分も開かない寝ぼけ眼を擦りながら、上体を起こす。 
そこでやっと音は鳴り止んだ。 
「やっと起きたよお兄ちゃん。 早く朝ご飯食べないと遅刻するよ」
いつの間にか遊奈は俺の部屋に居た。 
手にはオタマと中華鍋、格好は夢で見たままだった。 
これで音を鳴らしていたというのは、一目瞭然か。 
「・・・ん、今行く」
頭をボリボリと掻きながら応対する。 
この返答はほとんど条件反射のようなものだ。 
「二度寝は禁止ね」
それだけを告げて、俺の部屋を出て行った。 
いくら声をかけても起きないときは、最終手段として今のように鍋とオタマでガンガン鳴らす。 
俺のような頑固な寝ぼすけでも、さすがに起きる。 
時刻を見れば7時半過ぎ。 
準備に30分かかると考え、登校するのには20分はかかる。 
門が閉まるのが8時半だから、まぁ丁度の時間か。 
のらりくらりと布団から出て、制服に着替える。 
「シワだらけだな・・・」
昨日は脱いでそのまま放置してあったもんだから、所々に変な癖がついてしまった。 
10秒ほど制服を見た後、袖に手を通す。 
「・・・別に気にしないけどな」

階段を降りると、良い匂いが漂っていた。 
見なくても匂いで何の料理かは判別が出来た。 
みそ汁、卵焼き、そして昨日の残りの鳥の唐揚げといったところだろう。 
居間に入ってみれば、思った通りの料理がテーブルの上に乗っていた。 
「ほらほら、早く座って」
急かされるように遊奈の向かいの席に座る。 
「はい、いただきます」
「ん、いただきます」
御飯を食べる前には、必ず兄妹揃ってこれをやる。 
親父達が出て行ってから始めた事だが。 
「・・・そういえば親父達は今何してる?」
卵焼きを突きながら質問する。 
「ん〜・・・、この前トルコからエアメールで来たけど順調だってさ」
「こんどは宝石でも発掘する気か?あの馬鹿親父達は」
親父達が家を離れたのは去年の6月、今から1年と3ヶ月ほど前だ。 
過去にも何度か家を離れたのはあったが、大体1ヶ月ほどで帰っては来てた。 
まぁその度に怪しげなおみあげがあるのはある種の楽しみではあったが。 
今回は違う、かれこれ1年3ヶ月ほど家を離れている。 
仕送りは十分すぎるほどあるものの、なんちゅー親だ。 
息子達の素行が悪くなったとしても文句は言えまい。 
・・・が、お陰で妹の遊奈は、料理は出来るは掃除はするは洗濯するは、そこらの主婦並になっている。 
お嫁に行っても何の心配もいるまい。 
対する俺は・・・まぁそれなりとでも言うべきか。 
「なぁ、お前今の生活に満足してるか?」
俺の質問に怪訝な顔する。 
「どうしたの、急に?」
「いやな、朝早く起きて炊事洗濯してて疲れないかなって思ってな。 親父からは金貰ってるんだし
 家政婦でも雇ったらどうかなって」
「それは前に議論したでしょ、別に今の生活が苦痛だとは思ってもないし、お金も勿体ないしね。 
 お兄ちゃんとの2人暮らしも悪くはないわよ」
そういって唐揚げを頬張る遊奈。 
「まぁお前がいいなら俺は別にいいけどな」
ご飯を口一杯に頬張り、みそ汁で流し込む。 
「ご馳走様、先に洗面所に行ってるぞ」
「食器を下げてから!」
手早く食器をまとめ、キッチンの流し場に入れる。 
「ご馳走様」
後を追うように遊奈も食べ終わり食器を流し場に入れた。 
「俺、結構食べるのは早いほうだとは思うんだがお前も早いよな〜」
「時間がないからよ、あと10分で出ないと間に合わないよ」
小走りになりながら洗面所になだれ込む。 
遊奈とほぼ同時に歯ブラシを構え、磨き出す。 
シャカシャカシャカ・・・。 
少し大きめな鏡の前で、2人並んで無言で歯を磨く。 
関係のない話ではあるが、人は歯磨きをすると無口になってしまうのは何故だろう?
・・・そりゃそーか。 
遊奈が一歩前に出て口をゆすぐ。 
この歯磨きには暗黙の了解が在り、遊奈が最初で俺が後となっている。 
遊奈は手際よく顔を洗い、制服に着替えるために急いで部屋へと戻っていく。 
その後、俺がゆっくりと洗面所を使う。 
少々冷ための水を被り、目を覚ます。 
ソファーについて一息ついたところで奥の部屋から遊奈が部屋から出てくる。 
「おまたせ、さぁ行こうか」
相変わらず大した化粧もせず、髪も整える程度でオシャレというものはない。 
まぁ1時間もかけて山姥に変身されたら困るが・・・。 
玄関で靴を履き、玄関を開ける前に一度腕時計を確認する。 
「おっ、まだ3分くらい余裕があるな」
「ちょっと早めだね。 まぁゆっくり歩けるからいいんじゃない?」
そして玄関を開けて外に出た。 
夏の終わりだというのに、外は少し強めの日差しが降り注いでいた。 



俺が通っているのは金城高校という学校だ。 
県内でも上位の生徒人数を誇る。 
まぁ要するに、何の取り柄もない生徒が入りやすいから増えているに過ぎないけど。 
「じゃあ私はここで」
昇降口を抜け、下駄箱近くで遊奈は俺に別れを告げる。 
「おう、勉学に励めよ」
「それはお兄ちゃんでしょ、せめて月末テストの赤点は避けてよ」
「まぁ・・・、検討してる」
深いため息を吐いた後、鞄から何かを取り出す。 
青と白のチェック柄に包まれた弁当箱を俺に渡す。 
「忘れないでよね、せっかく作ったお弁当」
「あっ・・・、悪い」
慌ただしかったので弁当の事などすっかり忘れていた。 
「じゃね」
弁当を俺に手渡した後、手早く上靴に履き替えて自分の教室へと向かっていた。 
「出来過ぎた妹だよなぁ・・・」
ため息混じりに独り言を語る。 
出来の悪い兄の妹は、出来過ぎた妹になるという法則は多分本当だろう。 
俺も上靴に履き替え、教室へと向かうことにした。 
俺の教室、つまり二年生の教室は三階にあり、学年の中では一番遠い。 
何が悲しくて二階分上り下りしなくてはならないのだろうか。 
不満は募る一方だ。 
なんとか三階まで上がり、自分の教室も見えてきた。 
その時、背後に感じる殺気があった。 
「甘い!」
右脇に抱えていた鞄を盾に、上段攻撃をガードする構えをとる。 
――が、その予想をまるで嘲笑うかのように、強烈なボディーブローが炸裂した。 
「ぐはぁ!」
胃やら内臓やら中身が全て出てしまいそうな苦痛に襲われ、地面をのたうち回る。 
   (ゆうや)
「誰が甘いって!?バカ勇也!!」
顔を見上げてみれば、眼鏡越しに俺を見下すように見ている、俺の宿敵がそこに居た。 
走ってきた反動からか、肩までかかった髪が揺れる。 
   (なお)
「出やがったな那緒!つーか朝からいきなりボディーブローなんかすんな!!
 この暴力女!!!」
痛みを堪えながら立ち上がる。 
何とか溶解物を吐瀉することだけは避けたが、ゲホゲホとむせる。 
文句を言おうにも、むせて言葉が続かない。 
「あ〜・・・、もしかしてちょっとやり過ぎ?」
「当たり前だ!空手やってた奴が本気でボディーブローなんかすんな!!
 危うく朝食った物が出るとこしたぞ!!!」
「それで済むならまだマシよ。 あたしのボディーブロー喰らったらふつー気絶するわよ」
その言葉を聞いて一つの事件を思い出す。 
まだ高校に入ったばかりの頃、那緒は人気のない道を歩いていた時に痴漢にあった。 
痴漢の男が『もの』を見せようとコートを広げようとする前に、那緒のボディーブローが炸裂した。 
結果、痴漢は気絶、後に警察を呼んで逮捕しようとしたが、内蔵の一部が破裂したらしく手錠をかけられる前に
病院へと送られることになった。 
この後、那緒には『殺人ボディーブローの那緒』なんてあだ名を付けられ、恐れられた時期もあった。 
・・・よくよく考えれば、そんなボディーブローを喰らっても平気な俺はある意味すごい。 
「さすが勇也、無駄に頑丈」
「誰のせいだと思ってんだ、こら?」
「・・・さぁ?」
大げさに両手を広げて肩をすくめる。 
「同じクラスになってから毎日のように奇襲をかけるのはどこのどいつだ?」
「・・・どなたでしょうか?」
もう一度肩をすくめる。 
「中学の時、人様の『もの』を蹴って危うく再起不能にしようとしたのは誰だっけ?」
さすがにこれは堪えたのか、恥ずかしい過去となっているのか、那緒の顔が紅潮する。 
「あ、あれはあんたが悪いんでしょうが!オバケの格好して驚かすから!!」
「肝試しでオバケの格好しない奴なんかいないだろうが!あの後大変だったんだからな!!
 家に帰っても痛いもんだから前屈みになってたら遊奈が『お兄ちゃん、どこか痛いの?』
 って聞いてきたもんだから、さぁどーしよう!?って状況だったんだからな!!!」
「そりゃ悪かったと思ってるわよ・・・。 ってか、朝からそんな話すんなー!!」
耳まで真っ赤になって叫ぶ那緒。 
こんなやりとりは日常茶飯事ごとなのか、こんだけ騒ぎになっても周りに人集りは出来ず、
むしろ『いつも通り』らしい。 
「あーそうですか、そっちがそんな事バラすんだったらこっちにも考えってヤツがあるんだからね!
 中学の時の修学旅行でホテルに泊まった時、あたし達が露天風呂に入ってる最中に・・・!!」
「バカ!待て待て待て!!人のイメージを下げようとすんな!!!」
「変な声がするから見に行ったら、そこになんとー!!」
「わー!わー!!」
キンコーンカーンコーン。 
その時、どこからともなく音が聞こえてきた。 
普段は恐怖の音にしか聞こえないこの音も、この時ばかりは感謝した。 
「相変わらず悪運だけは強いわね、勇也」
「うるせーよ、那緒」
競うように教室へと雪崩れ込んでいった。 



「・・・あれ?」
気づけば、いつの間にか昼休みになっている。 
だいぶ爆睡していたらしく、ノートにはよだれの世界地図が完成していた。 
もちろん、授業の内容など微塵も覚えてはいない。 
「今回も赤点かもな・・・」
遊奈が怒る姿が目に浮かんだ。 
「おっ、起きたな寝ぼすけ」
俺のすぐ横には那緒が立っていた。 
「なんだー・・・。 飯かぁー・・・」
「お客、学長が呼んでるよ」
学長、聞き慣れない単語だがこの学校では当たり前の単語となっている。 
正式には学園生徒委員会生徒長、略して『学長』だ。 
「なんで学長が呼んでるんだ?」
「大方、あんたが犯罪沙汰を起こした類でしょうね」
「・・・お前はそんなに俺を犯罪者にしたのか?」
「面会には行ってあげるわよ」
「アホか」
訳の分からない会話を切り上げ、学長が待つ廊下へと急ぐ。 
今年の学長は確か・・・、渡辺とかっていう冴えない男だったことは覚えている。 
一体なんの用なのか・・・。 
「おっす」
男にしては随分とかわいい声を出すんだなと、最初は思った。 
顔を見て、思考が停止する。 
「もしもーし?こら勇」
癖っ毛の強い髪型をし、ほんのりとした顔つき。 
記憶違いでなければ俺のよく知っている人。 。 
「あ、葵姉・・・?」
「そう、葵姉ちゃんよ。 どしたの?キョトンとして?」
「だって学長に呼ばれたって・・・」
「そう、学長」
そういって自分を指さす。 
「・・・え?それは、去年だろ?今年は渡辺って冴えない奴だった気が・・・」
「勇、またあんた集会サボったわね。 先月、渡辺君は転校しちゃって今居ないのよ。 
 で、急きょ代役を立てる事になったんだけど私に白羽の矢が来ちゃってねー。 
 2年連続になったわけよ」
俺の知らないところで実はスゴイ事になってたんだな・・・。 
途中からとはいえ、2年連続学長なんてもの凄い快挙だ。 
まぁ当の本人は面倒な事になってたな、くらいにしか思ってはいないんだろうけど。 
「さっ、行くわよ」
何の脈絡もなしに、葵姉は腕を引っ張って俺をどこかへと連れて行こうとする。 
「ちょ、ちょっと待った!どこに行くんだよ!?」
「言ってなかったっけ?生徒委員室」
それだけ告げてまたもや連れて行こうとする。 
「だーかーら、用件を言ってくれ!」
「言ってなかったけ?手伝ってよ」
再度生徒委員室へと連れて行こうとする。 
「行動する前に全部伝えてくれって昔から言ってたろ!頼むから説明してから行動してくれ!!」
葵姉は昔からこうだ。 
取りあえず何処かへ連れて行ってから用件を伝える、というパターンだ。 
「そうだね、そうするか」
そこでようやく手を離された。 
「いやね、今月の終わりに文化祭があるじゃない。 それの下準備を手伝って欲しいのよ」
ここでようやく呼び出された事、連れて行こうとしている意味が分かった。 
今月の24日、25日に文化祭があるのだが、生徒委員会が筆頭に行われるためこの時期になると
生徒委員会が慌ただしくなるのだ。 
「下準備?普通は二週間前くらいからじゃないのか?」
「それは物を作るときの下準備の話。 こっちは書類作りの下準備なのよ」
「しかしなんでまた俺が?生徒委員会って結構人が居なかったっけ?」
葵姉は深いため息を一つ吐く。 
「それがねー、差し入れでもらったオニギリが痛んでたらしく、みんな食中毒でお休み中なのよ」
「そりゃ難儀だな・・・。 で、人が足りないから俺の所へ?」
「そういう事。 知らない人に頼むよりは知った人に頼った方が良いと思ってね」
「クラスの連中は?仲良い人は居るんだろ?」
「う〜ん・・・、なんかこういう事って頼みづらいのよ。 相手の時間を潰すみたいでさ」
「・・・俺は?」
「・・・そういえばそうだね」
『よく気がついたね』というように、感心したような顔をこちらへ向ける。 
「まぁその辺は気にしない、気にしない」
昔からこんな性格だからもう気にはしないつもりだが、溢れるため息は抑えられなかった。 
「手伝ってもいいけどなぁ・・・。 放課後だろ?あんまり学校に残りたいとは思わないんだよ」
「あぁその辺は大丈夫。 私だって残らないわよ。 この昼休みだけよ」
昼休みだけ・・・か、まぁそのくらいだったら別に支障はないか。 
けど・・・、どうしようか?



手伝うことにした。 
「・・・ん?」
ほんの少しだけ、何かに違和感を感じた。 
「どうしたの?」
「いや・・・、何でもないよ。 それより、せっかく葵姉が頼って来たんだから手伝う事にするよ」
花が開くように、パァーと顔が明るくなる。 
そんな顔されると、こちらとしても嬉しくなる。 
「さっすが勇。 私の育て方には間違いはなかったわね」
「妙な言い方するなよ、昔世話になっただけだろ」
「まぁいいわ。 さぁ行きましょうか」
そういって再び袖を掴む。 
『手伝う』と言っているのに袖を掴む必要はあるのだろうか?
「ちょっと待った、弁当を取ってくる」
「あぁ、遊奈ちゃん特製のお弁当ね」
「まぁな、ちょっと行ってくる」
掴んでいた袖を離してもらってから小走りに教室へ入り、鞄を持つ。 
「あれ?バカ勇也。 帰るの?」
俺の行動が気になったのか那緒が聞いてくる。 
「違ぇよ。 ちょっと違う場所で弁当食うハメになっただけだ」
「ふーん、学長と?」
「まぁな、多分そうなる」
「ふーん」
面白くない、那緒はそんな顔をしていた。 
「学長って、杉村さん?」
『学長』という単語に反応したのは、同じクラスの男友達、渡辺だった。 
こいつは葵姉のファンの一人だ。 
「そう」
「なんでお前みたいな奴なんかと一緒に弁当を食べるんだよ」
こちらも面白くないという顔をしていた。 
「昔、近所に住んでいてな。 その時に世話になったんだ」
「あたし初耳」
那緒は妙に食らいつく。 
「別に話すような事でもなかったしな。 つーか、お前も昔、何度か世話になった事があったハズだぞ」
「覚えてない」
どうにもツッケドンな態度だ。 
まったく、何が気にくわないんだか・・・。 
「世話って・・・」
「まぁ色々な」
「い、色々!!?」
「・・・お前が考えてるピンクな妄想のような出来事は一切ないからな」
もはや俺の声も届かない様子で、渡辺は自分の世界へと旅だってしまったようだ。 
「じゃ行ってくる」
「学長と仲良くね」
・・・どうにも那緒の言葉にはトゲしか感じられない。 
「お待たせ」
「なーちゃんの声がしたけど、もしかして同じクラスなの」
『なーちゃん』、葵姉が那緒を呼ぶ時に使っていた名だ。 
「そうだよ。 しかし、よく那緒の事覚えていたな。 小学校以来会ってないはずなのに・・・」
「そりゃあね、なーちゃん素直で良い子だったもん」
「でも・・・」
でも、那緒は葵姉を覚えていなかった。 
そう言おうとして言葉を飲んだ。 
「なんでもない、さぁ行こうか」
「そだね」
何故は知らないが、葵姉はやっぱり袖を掴んで俺を連れて行こうとする。 
・・・逃げないっての。 



1階の職員室の奥にその教室はある。 
普段は鍵がかかっており、鍵は職員室にあるため生徒委員会以外は入ることはできない。 
ただし、学長のみが合い鍵を持つことを許されている。 
葵姉は一度ノックする。 
「開いてますよー」
中からは随分と幼い声が聞こえてきた。 
葵姉はそれを聞いてからドアノブを回す。 
中は相変わらず狭苦しい感じだ。 
中央に会議室のようなテーブルが置いてあり、その周りに書類を入れる棚がずらりと並ぶ。 
テーブルから椅子を出すと、その後ろを通るのには一苦労する。 
そのテーブルに少女が一人だけ座っていた。 
一見すると中学生くらいにしか見えないが、この学校に来ている以上同じ高校生なのだろう。 
だが、そう分かっていてもやはり中学生にしか見えない。 
「よっ、悠ちゃん。 悪いね、一人だけ残してさ」
「別にいいですよ、それより後ろの人が助っ人ですか?」
『悠ちゃん』と呼ばれた少女は俺を指さす。 
「うん、助っ人一号君」
冗談めいた名前で俺を指す。 
体をこちらに向き直すと、ぺこりと深くお辞儀をする。 
   (もりきた ゆうこ)
「初めまして先輩、僕は『森北 悠子』っていいます。 1年4組に所属してます。 
 どうぞよろしくお願い致します」
あまりの礼儀の正しさに、むしろこちらが手間取う。 
    (ゆめじ ゆうや)
「あっ、ど、どうも・・・。 俺は『夢路 勇也』です。 一応2年生をやっとります」
こちらもぺこりとお辞儀をするが、どうにもこうにも、しどろもどろな感じだ。 
「勇、あんたがしっかりしなくてどーすんのよ・・・」
俺の情けなさに深いため息を吐く。 
「時間もないことだし、さっさとお弁当食べて書類やるわよ」
葵姉はテーブルに置いてあった鞄から青い布に包まれた弁当を取り出し、悠子ちゃんの隣に座る。 
それに続くように悠子ちゃんも鞄から取り出す。 
俺も弁当を取り出してから何処に座ろうか悩んだ結果、2人の向かいの席に座ることにした。 
ほぼ同時に皆弁当の包みを開ける。 
俺の弁当箱は、相変わらずの二段重ねの弁当。 
葵姉は俺の一段分くらいしか大きさがない弁当だった。 
悠子ちゃんは・・・、ドカベンだった。 
「・・・随分とまた渋い物を使ってるな」
女の弁当箱がドカベンというのは初めて見た。 
普通使うのは工事現場のおっちゃんぐらいなもんだ。 
「いや〜、この無骨さが好きでして・・・」
頭をポリポリと掻き、照れているというポーズ。 
「「いただきまーす」」
皆手を合わせて食べる前の儀式を行ってから弁当の蓋を開ける。 
俺のは毎度お馴染み遊奈の手料理弁当。 
コロッケ、鶏の唐揚げ、野菜炒めなどバランス良くおかずが設置してあった。 
葵姉はミートボール、スパゲッティーなど洋食中心となっていた。 
そして悠子ちゃんは豚の生姜焼き、トンカツ、鶏の唐揚げ・・・つーか肉だらけ。 
肉弁当といっても過言じゃないくらい肉だらけ。 
「え〜と・・・」
悠子ちゃんの弁当を見て動揺している俺に気がついた葵姉は、静かに首を振る。 
それは、『ツッコミを入れちゃだめ』と無言で語っていた。 
結局、悠子が嬉しそうにその弁当を平らげるまで、その弁当を気にしながらの昼食だった。 

弁当を手早く食べ終わると、葵姉は重そうな書類を俺の前に置く。 
それは各グループが行う出店の書類だった。 
焼き鳥、焼きそばなど、火を使うグループは校庭、玄関側に配置する事を決定したり、作品の展示会をやるために
使う長机の使用許可、スライドショーを行う為の暗幕の使用許可等々・・・。 
結構重要そうな書類なのだが、葵姉いわく『とんでもない無茶な注文以外なら認証ハンコを押して良し』とのこと。 
この書類を俺に任せると、2人ともどこかに出かけてしまった。 
本当に忙しいらしい。 
少しでも負担を減らしてあげようと思い、早速書類に手を出す。 
一枚目の書類は『綿アメを販売するため、教室内に機械を持ち込んでもいいか?』という物だった。 
火を使うわけではないと思うのでハンコを押す。 
二枚目、『調理実習室で料理教室を行いたいので教室の使用許可を下さい』。 
調理実習が空いているかどうか確かめると、まだ空いていたのでハンコを押す。 
三枚目、『喫茶店で水着を着用しての接客をしてもよろしいでしょうか?』。 
・・・イメクラじゃないんだからさぁ・・・。 。 
本当にやるかどうかある意味楽しみだったので、ハンコを押す。 
ちょっとぐらい無茶でも景気よくハンコを押していると、23枚目にしてすごいものが出て来た。 
『体育館でファイヤーダンスをやりたいのですが、大丈夫でしょうか?』
思わずハンコを押しそうになったが、室内という事でアウト。 
ここで初めて不許可ハンコを押す。 
気を取り直してハンコを押していく。 
ポンポンとハンコを押していくこと約10分。 
何とか昼休み中に書類全てにハンコを押し終わった。 
不許可ハンコを押された物は、本当に無茶であり、無謀であった。 
ベスト3を上げるとするならば、
3位『古本市でエロ本を売ってもいいですか?』
未成年の為、却下。 というか売るならこっそり売れ。 
2位『酒を持ってきて売っていいですか?』
やっぱり未成年の為却下。 飲むなら別に構わないが・・・。 
1位『学長、僕と一緒に文化祭を回って下さい。 』
1人2人ならまだしも、10人以上居るとなると、さすがに驚いた。 
しかも学年、クラス、名前までしっかりと書いてあった。 
直接本人に言えっての。 
不許可ハンコどころか、あまりに下らないので破いて捨てた。 
「ふぅ・・・」
ため息をはきながら、背伸びするように背もたれに寄りかかる。 
ボキボキと背骨が鳴る音が聞こえる。 
10分程度しかやってないが、慣れない仕事のせいもあるのだろう。 
ガチャリ、扉が開けられた。 
「あれ?夢路先輩終わったんですか?」
生徒委員室に入ってきたのは悠子一人だった。 
手には書類をまとめたバインダーが握られていた。 
「葵姉は?」
「あっ、まだ他の場所を回ってます」
「そっか」
悠子が向かいの席に座る。 
一息ついてから悠子は口を開いた。 
「夢路先輩、一つ聞いてもいいですか?」
「答えられることならどうぞ」
「なんで夢路先輩は葵学長を『姉』付けで呼ぶんですか?」
「あぁー・・・、それか。 みんなからもよく聞かれるんだよ、それ。 やっぱり気になるか?」
「そりゃー誰だって気になりますよ。 学長に弟さんは居ないですし」
「ジツは腹違いの兄妹なんだ」
「え?本当ですか!?」
その言葉によっぽど驚いたのか、テーブル越しに体を乗り出して来た。 
「嘘。 本当は昔お世話になった名残さ」
「・・・いじわるな性格ですね」
「天の邪鬼と言ってくれ。 ところで夢子ちゃん?」
しかめっ面になる悠子。 
「わざと間違ってませんか、それ?」
「バレバレ・・・か、んじゃ普通に悠ちゃん、今度はこっちから質問していいか?」
「あ、はい。 どうぞ」
「悠ちゃんは生徒委員会なのか?それとも手伝い?」
「前者ですよ。 これでも生徒委員会の書記をやってます」
えっへんとでもいうように、あまりない胸を張る。 
「へぇ〜、字が綺麗なのか?」
「習字とかやってましたから字には自信がありますよ。 よく分かりましたね」
「まぁな、書記は字が綺麗な奴がやるのが相場だからな」
「・・・それって褒めてます?」
「本人の見解によるんじゃないか?」
「やっぱりいじわるです・・・」
ガチャリ、その音がした時点で誰が入ってきたかは容易に分かった。 
「お帰り、葵姉」
「お帰りなさい、葵先輩」
重そうな書類をどさりとテーブルに落とし、肩を回しながら悠子の隣に座る。 
「うー・・・、食中毒で休んだ奴らには、後で地獄の校庭草刈り作業を全部やらしちゃる」
さり気に怖い発言をする葵姉。 
この学校では11月に入ると何故か校庭の一斉草刈りが始まる。 
11月というクソ寒い中、生徒による手作業のみで。 
故に、俗称で『地獄の草刈り』なんて行事名がついた。 
「ちょっと葵先輩!聞いて下さいよ!!」
「はいはい、聞いてますよ」
「夢路先輩ったらいじわるなんですよ!葵先輩と夢路先輩は腹違いの姉弟だ、なんて嘘つくんですよ!!」
いじわるだったのがそんなに気に入らないのか、大声で葵姉に報告する。 
「嘘じゃないよ、本当よ」
葵姉はさらりと言ってのけた。 
「うっそぉ!!?」
悠子は芸人顔負けなリアクションをとってくれた。 
「嘘、勇がいじめたくなるのもよく分かるわ」
「だよな、いじめがいがあるキャラクターだもんな」
俺と葵姉はやはり意見が同じだ。 
これだけいじめがいがあるキャラクターも滅多にない。 
「・・・2人してひどいです・・・」
顔を下げ、ショボンとしてしまった。 
「ほらほら、落ち込まないの。 勇、書類は終わったの?」
「一応な、多分大丈夫だと思う」
「よし、えらいえらい」
葵姉は、テーブル越しに頭をなでなでしてきた。 
「あのなぁ・・・、そんなので喜ぶ年じゃないぞ」
「またまたー、本当は嬉しいくせに」
葵姉の言う通り、ほんの少しだけ嬉しい。 
しかし、気恥ずかしいので頭から手を避ける。 
「そろそろ鐘もなるから行くな」
そう言って席を立った。 
「そうだね、ご苦労さん」
「ご苦労様でしたー」
鐘が鳴るまであと2分とないのに、葵姉達はまだ書類に向かっていた。 
「ギリギリまで粘るのか?」
「ううん、こんな状況だから次の授業は免除になってるのよ」
「そうです。 嬉しい反面、仕事があるので悲しいです」
随分と頑張るんだなぁ・・・。 
早く行かないと鐘が鳴るな・・・。 
俺は・・・。 



扉に手をかけ、ドアノブを回す。 
「がんばれよ、さすがに授業をサボると遊奈が騒ぐんでね」
「そうしなさい、あんたはただでさえ頭悪いんだから」
「へいへい」
扉を開け、閉まる直前に一言告げていった。 
「手が足りないならまた貸すからさ、またな」
返答を聞く前に扉を閉め、教室へと急いだ。 



そう、俺には悪魔が憑いている。 
そいつはいつの間にか俺を襲い、気づいたときには手遅れになっていた。 
最後の授業の終わりを告げるベルが鳴る。 
「やべぇ・・・、また寝てしまった・・・」
口の端から垂れるよだれを制服の袖で拭く。 
ちくしょう・・・、睡魔め。 
いつもいつも俺ばかり襲いやがって・・・。 
最後に大したことを言わないHRも終わり、帰るだけとなった。 
弁当箱しか入ってない鞄を持ち、席を立った。 
外履きに履き替え、校門前で妹を待つ。 
「あっ、先輩。 こんにちわー」
聞き覚えのある声がしたので振り向くと、ツインテールを揺らしながら歩いてくる女の子が居た。 
  (れいな)
一瞬誰かと思ったが遊奈の友達の一人、玲奈だ。 
いつもこうして妹を待っているせいか、妹の友達の何人かに顔を覚えられてしまった。 
まぁ、悪い気はしない。 
「遊奈ちゃんでしたらもうすぐ来ると思いますよ」
「おう、報告ご苦労」
「先輩って妹さん思いですよねー、毎日こうして一緒に帰ってあげてるなんて」
「そうか?」
「そうですよ、家の兄貴なんか私の事なんかほったらかしなんですよ!」
ぷんぷんと効果音が付きそうな怒り方をする。 
「んー、それが普通なんじゃないか?」
「それが普通でも私は嫌ですよ。 遊奈ちゃんは羨ましいです。 こんなお兄さんを持って」
「持ち上げたって何もでんぞ。 生憎、財布は空に近い。 持ち上げるなら家の財布係を持ち上げてくれ」
「ちぇ、パフェくらい奢ってもらおうかと思ったのに・・・」
「また今度な」
去り際に「ばいばーい」と手を振りながら走って去っていった。 
再び校門前で待つ。 
そのまま立っているは少々辛いので、学校を囲っている柵に寄りかかる。 
右手の時計を確認すると、ここに来てから10分は経過している。 
帰る人も少なくなり、校門前には俺一人以外見当たらない。 
この学校の妙な現象の一つだ。 
掃除のない帰宅部はHRが終わってから10分以内にはこの校門を通過する。 
掃除のある帰宅部はもう20分程してから帰り始める。 
そして後は部活のある奴や用事のある奴だけが残る。 
10分から20分程、『空白』が生まれるのだ。 
そこを狙ってか偶然なのか、遊奈はその時間帯にこちらへ来る。 
そんな空白があったのを知ったのは、今年の7月、遊奈と帰るため待っていた時だった。 
それ以来、遊奈と帰るのは、その空白の時間帯だ。 
時計をもう一度確認する。 
秒針が12を指し、15分丁度経ったときに遊奈が来た。 
「さ、帰ろうよ」
「了解」
柵から背を離し、帰ろうとする。 
「お兄ちゃん、よだれの後があるよ」
「え・・・?」
無意識のうちに袖でよだれの後を拭こうする。 
「・・・お兄ちゃん」
「・・・悪い」
この手に引っかかったのは、これで何回目だろうか?
人間、無意識というのは怖い物である。 



自室で漫画を読んでいると、下から遊奈の声が聞こえる。 
時刻は7時、いつもなら夕飯の時間か。 
ハッキリとは聞こえないが、大方夕飯が出来たのだろう。 
階段を降り、居間へと行く。 
既にテーブルに並んでいる料理を見る。 
今日のメニューは、麻婆豆腐、キムチ、コンソメスープと中華中心のメニューだ。 
「つまみ食いしないでよ」
台所の方から遊奈の声が聞こえる。 
水の音も一緒にするから、恐らく後かたづけだろう。 
仕方がないのでソファーに座って待つことにした。 
グゥと腹の音が鳴る。 
目の前に料理が在るというのに食べれないこの状況は、餌を前に『待て』された犬のような気分になる。 
「ほらほら、エサを前にした犬じゃないんだから、そんな顔しないの」
エプロンを外しながら、台所から遊奈が歩いてきた。 
気が付けば水の音も止まっていた。 
「全くその通りだ、早く食うぞ。 既に俺の胃袋がデモを起こしている」
「そう思うんなら少しは手伝えばいいのに」
「分かってないなぁ、遊奈。 ここか自室に居るときに、台所から漂ってくる匂いで食欲を増加させるんだ。 
 じゃがいもの匂いがするから今日はカレーか?いやいや生姜のような匂いがするから豚の生姜焼きかもしれない・・・。 
 そんな想像する事によってだなぁ」
「はいはい、じゃあ手を揃えて、いただきます」
「え?あ、頂きます」
いつの間にか向かいの席に座っていた。 
相変わらず無駄がない。 
「そういえばお兄ちゃん、また那緒さんと喧嘩してたでしょ?」
「そうだけど・・・、噂にでもなってたのか?」
「言い合いの声がこっちにまで聞こえてきたんだよ。 恥ずかしいったらありゃしない」
ふぅと、ため息を吐く。 
そのため息の吐き方には、何故か年季が入っているように見えた。 
「それはだな、あっちが悪いんだよ。 毎回毎回後ろから奇襲を受けてれば、こっちだって言い返したくなるもんだろ」
麻婆豆腐を口に入れると、ピリリと舌が痛む。 
丁度いい辛さだ。 
「それはそうかもしれないけどさ、それでも頻繁に騒がれちゃ困るわよ。 お兄ちゃんと那緒さんと言い合いが始まると
 『お、始まったな』とか周りから聞こえてくるんだよ?」
「いいじゃないか、恒例行事みたいで」
「もう・・・、いっつも変な事ばっかり言ってごまかす・・・」
夕ご飯を食べるときは、今日あった出来事や、今週の予定、遊奈の愚痴など代わり映えのない会話を交わす。 
夕飯を食べながら会話をするもんだから食べるスピードは異常に遅い。 
食べ終わる頃には8時を過ぎてしまっている。 
「お兄ちゃん、お風呂汲んで置いてね」
「あいよ」
遊奈と一緒に食器を流しに入れ、その後風呂場へと向かう。 
一応、遊奈は食器の片づけ、俺はお風呂の汲むという分担作業になっている。 
まぁ大した仕事ではない。 
洗剤を使用して風呂桶を洗い、その後水を入れてスイッチを押すだけだ。 
こういう時にはお風呂も便利になったものだなと、しみじみ感じる。 
居間へと向かうと、遊奈も片づけが終わったらしく何かの番組を見ていた。 
「なんの番組?」
ソファーに座りながら訪ねる。 
だが遊奈が答える前に何の番組かすぐにわかった。 
デカデカとタイトルがブラウン管に映し出される。 
『密着24時!飽くなき犯罪との抗争!!』
毎週月曜9時からある警察のドキュメンタリーものだ。 
毎回取材陣が警察に密着して犯罪の実態、逮捕の瞬間などを放送する。 
少なくとも、華の女子高校生が見るようなものではない。 
対外の女子は、同じ時間帯にある月9ドラマ『全力疾走』というものを見ているはずだ。 
あまり見てないので詳しくは覚えてないが、主人公は何事に置いてもひたすら全力で取り組む姿勢を描いたドラマだ。 
恋にも全力で取り組む主人公の姿勢が結構人気を呼んでいる。 
・・・が、家の妹はそんな物には興味がなく、このような渋いものを見る趣向がある。 
「あ、ほらお兄ちゃん。 福田さんが出てるよ」
「またか?あんまりにも多く登場するもんだから、なんかやらせに見えてくるぞ」
ちなみに福田さんとは、この番組で一番多く登場する刑事だ。 
主な担当は『密入国者、違法滞在者取り締まり』だ。 
毎週といっていいほど外国人が逮捕されている姿を見ると、やらせではないか?と思えるほど外国人が逮捕されている。 
「そんなわけないでしょ。 この番組の売りは『今の日本の実態』なんだからさ。 そんだけ捕まえているって事は
 そんだけ犯罪が多いってことなんだから」
「確かにその通りだな」
感心して頷く。 
「お、アパートに突入してったぞ」
画面には福田さんがデカデカと映り、どこかの部屋を激しくノックする。 
「決まり台詞でるかな?」
「そりゃ恒例だからな」
福田さんはガチャガチャとドアノブを捻った後、開かないと分かると激しく叫んだ。 
『あんたを保護しに来ただけだ!早よ開けろ!!』
福田さんのいつもの決まり台詞が出た。 
よく分からないが外国人が立てこもると必ずと言っていいほどこの台詞が出る。 
「さて、福田さんの決まり台詞も見たし、私は先にお風呂入るね」
「おう、ゆっくり湯にでも浸かっててくれ」
「そうする。 でも、ふやける前には出るよ」
そう言って遊奈は居間を出た。 
この時間に見る番組も対してなく、取りあえずチャンネルを変えて興味を引く番組があったら
少し見て、すぐに変えるという作業を繰り返す。 
画面によく分からない物が映ったので、見ようかと思ったが間違ってそのままチャンネルを進めてしまった。 
「おっと」
急いでチャンネルを戻すが、その番組かCMが終わったのか、見飽きたCMが流れていた。 
何となく悔しい。 
「お風呂空いたよ」
タオルで髪を拭きながら居間へ入ってくる。 
「あいよ、今入る」
一度部屋に戻って着替えを取り、風呂場へと向かった。 



夢を見た。 
この夢が何を意味しているのかは分からない。 
それが、『夢』という物だろう。 
俺の前には、有象無象の青の点が散らばっていた。 
それらは点滅するように消えては出て、出ては消えを繰り返す。 
まるでその青い点は、移動しているように見えた。 
時折何かの形を成すが、それはすぐに崩れる。 
初めは大きな塊だった点も、やがては散り散りに離れ、消えた。 
全体を見渡すと、見始めてから明らかに減っていた。 
これからどうなるのだろう?
そんな不安に駆られた。 
だが、中央にあった点が徐々に増え、やがては最初より増えた。 
増えては消え、消えては増えて・・・。 
他の動作など何一つとしてない。 
青い点は、『増える』と『消える』の二つだけを繰り返す。 
そんな動作を繰り返される中、まるで離れて暮らすように点がいくつも固まっていた。 
周りからの影響を受けることなく、いつまでもそこに固まっていた。 
中央で激しく『増える』と『消える』を繰り返していた点が、枝を伸ばすように点が移動する。 
その先には、『増える』事も『消える』事も止めていた点がいくつもあった。 
大きな渦に巻き込まれるように、それらはその場所から移動を始めた。 
後には何も残らず、小さな塊だった点達は大きな渦に巻き込まれていく。 
移動してはいけない。 
移動すれば、『増える』と『消える』を繰り返す事になる。 
それは良きことか?悪きことか?
答えはなく、ただ二つの動作は繰り返されていく。 
飽きることなく、停滞することなく、増えては消え、消えては増え・・・。 




<続>
2004/02/22(Sun)16:41:03 公開 / rathi
■この作品の著作権はrathiさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
先月辺りから書き貯めていた小説です。
シリーズ物です。
本当は分割して載せるべきだとは思うんですが、最後の部分がないと安い小説にしかならないので、一話分全部載せました。
もう少し書き貯めた分はありますが、もう少ししてから載せときます。
『出し惜しみなんかすんな!』という方がありましたら言ってください。
その場合は早めに載せときます。
長いコメントになりましたが、ではでは
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