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『【 幸せの定義 】』 作者:☆YUMI☆ / 未分類 未分類
全角4576.5文字
容量9153 bytes
原稿用紙約21.4枚
「“幸せ”って何なんだろうね?」




いつも、そう口癖のように呟いていた彼女が、ある日突然、失踪した。




【 幸せの定義 】




「ねぇ、聞いたぁ?芥さんの事。」

「聞いた、聞いた!いなくなっちゃったんだってね。」

「家出とか?」

「でも、無くなってる物は無いって聞いたけど。」

「書き置きとかも無いんだってさ。」

「じゃあ誘拐!?」

「うわぁ〜、恐い!!」




ざわめく教室。
主人を失って寂しそうな空席。

その席の持ち主は芥 更紗(あくた さらさ)。
私こと清光 鈴鹿(きよみつ すずか)の親友であり、
今日のざわつきの原因でもある。

彼女が一体どうしたのかと言うと、
昨晩、誰にも何も告げる事無く姿をくらましたとの事らしい。




「鈴鹿も何も知らんの?芥さんの事について。」

「えっ?」




突然話を振られた私は驚いた。





「芥さんとはあんたが一番仲良かったやん。何か知らんの?」

「更紗について?」

「そうそう!悩みがあったみたいだとか、
 家出をほのめかす様な事を言ってたとかだとかさ。何か無い?」

「さぁ・・・?」

「え〜っ!?鈴鹿も知らないんだ!?
 それならやっぱり誘拐とか、事件に巻き込まれたとかだって線が有力なのかなぁ?」

「どうだろう?」




本当は心当たりが全く無いわけじゃ無かった。
ただ、こんな、更紗の失踪を面白おかしく騒ぎ立てるような人達には話したくなかった。
話しちゃいけないような気がした。





更紗の失踪についての心当たり。
それは、少し前に遡る(さかのぼる)。




「幸せになりたいなぁ・・・。」

「はぁ?またソレ?」

「ごめん、ごめん。もう聞き飽きたよね。」

「そうよ。
 毎日毎日、暇さえあれば“幸せになりたい”って。
 更紗は今、幸せじゃないの?」

「ううん、そんな事無いよ。幸せだよ。すっごく幸せ!
 貧しくも無ければ裕福でもない、
 優しくて子煩悩(こぼんのう)な両親に姉思いの妹。
 欲しいものはほとんど持ってるし、成績だって悪くない。
 おまけに鈴鹿ちゃんみたいな親友も居る。
 理想的な人達に囲まれた、理想的な環境での、理想的な生活。
 これで幸せじゃないなんて言ったら罰が当たっちゃうよ。」




更紗はそう言って笑った。




「じゃあ、どうして“幸せになりたい”なんて言うのよ?」

「さぁ・・・・・どうしてなんだろうねぇ?」




また、ある時はこうも言っていた。




「幸せはさ、器用な人じゃないと掴めないものなのよ。」

「器用な人?」

「うん。器用な人。
 幸せを幸せだと思えて、しかも、
 その幸せを逃がさないように出来る器用な人。
 そういう人にしか幸せって掴めないんだと思うな。」

「じゃあ、私は幸せを掴めないんだろうね。
 何をやらせても不器用だもんなぁ〜。」

「大丈夫だよ!鈴鹿ちゃんは器用な方だもん。私が保証する!」

「ありがとう。で、更紗は?更紗はどうなのよ?」

「私?う〜ん・・・。微妙だね。」

「“微妙”って、答えになって無いじゃん。」

「だって分からないんだもん。分からないから微妙!(笑)」

「何よそれ?(笑)」




更紗は変わり者だけど、至って平均的な普通の女の子だった。
口数は多い方じゃなかったけど、優しくて、思い遣りがあって、
クラスメイトの女子からは、よく相談を受けていたらしい。

いつも幸せそうに微笑んでて、悩みなんて無さそうで、
だから私は彼女の“幸せになりたい”を聞くと、とてもムカついた。
幸せなクセして幸せになりたいだなんて、贅沢な悩み事だと思うもの。

自分の事を幸せだと言っていた。
理想的な生活を送っているとも言っていた。
それなのに、幸せになりたいとはどういう事なのだろうか?
今以上の幸せがあるとでも言うのだろうか?
彼女の失踪の原因は、彼女の口癖と何か関係があるのだろうか?




「もう、どこに行ったのよ?早く戻って来なさいよね!」




教室内のざわつきは、まだ当分は収まりそうに無かった。




------------------------------------------------




更紗が発見されたのは、それから3年後の高校の卒業式の前日だった。
家から遠く離れた海岸の洞窟の中で、白骨死体となって出てきたのだ。
持ち物の中に睡眠薬のビンがあった事などから
自殺であろうと認定された。




ピ〜ンポ〜ン♪




「ん?誰だろう?」




自宅で受験勉強に励んでいた私は、家に誰も居ないことを思い出し、急いで玄関へと出た。




「は〜い?」

「あの、あなたが清光 鈴鹿さんですか?」




そこには私と同い年くらいの女性が立っていた。




「そうですけど・・・。誰ですか?」

「初めまして。私は芥 更紗の妹の芥 莉菜(あくた りな)と言います。」

「・・・更紗の妹?」

「姉が生前、お世話になりました。」

「それで、更紗の妹が私に何の用?」

「はい。これを渡したくて。」




彼女が手持ち鞄(かばん)から取り出した物。
それは更紗の字で、私の宛名の書かれた古びた封筒だった。




「姉が鈴鹿さんに宛てた手紙です。
 姉の・・・死体の傍(そば)の鞄の中に入っていたそうなんですけど
 ・・・もらっていただけますか?」

「・・・・・」

「・・・・・やっぱり気持ち悪いですよね。死人からの手紙なんて。」

「いや、もらうわ。もらいたい、もらっても良い?」

「えっ?・・・はい!喜んで!!」




莉菜は鈴鹿に手紙を手渡した。




「嬉しいです、もらっていただけるだなんて!!
 きっと姉も安心して成仏できます!!」

「・・・似てるわね、更紗に。」

「えっ?」

「笑った顔がそっくりだわ。さすが、血の繋がりがあるだけある。」

「そうですか?」

「ええ。」

「・・・姉は、私の理想でした。尊敬していました。
 そんな姉がいつも話してるくらいだから、きっと鈴鹿さんって
 素敵な方なんだろうなぁってずっと思ってたんですけど、
 予想以上に素敵な方ですね。
 鈴鹿さんみたいな友人が居ただなんて姉は幸せ者です。」

「そんな事は無いわよ。」

「じゃあ、私はこれで・・・。
 手紙、受け取って下さってありがとうございました。
 明日、葬式があるんで良かったら来て下さいね。さようなら。」




莉菜は去って行った。
鈴鹿はそれを見送り、姿が見えなくなると部屋に戻り、
ベッドに寝転がり、更紗からの手紙を見つめた。




「・・・・・何が書いてあるんだろう?」




読みたいという思いはある。
更紗だって、私に読んでもらいたくて書いたのだろうから。
だけど、読んでも大丈夫なのだろうか?
良い様の無い、理解不能な不安が押し寄せて来る。

この手紙には多分、更紗が自殺に及んだ理由などが書かれてあるのだと思う。
そんなの、いまさら知ったって遅いだけなのに・・・

私の知らない更紗を知るのが恐い。




「でも読まなきゃ!」




カサッ




封筒を開けて手紙を開くと、湿っぽい、カビ臭いにおいと共に
見慣れた更紗の筆跡が目に飛び込んできた。




『鈴鹿ちゃんへ

 
 お元気ですか?
 私が姿を消してからどのくらい経ちましたか?
 もしかして、私の存在なんて忘れていましたか?
 
 この手紙がきちんと鈴鹿ちゃんに届いて読んでもらえているという事、
 とても嬉しく思います。
 察しの良い鈴鹿ちゃんなら、多分、気付いているだろうと思うんだけど、
 これから、私が姿を消した理由、
 自殺に及んだ理由を書きたいと思っています。
 
 読む読まないは鈴鹿ちゃんの自由です。
 読まなくても、決して恨んだりしないので御心配無く。』





「読むわよ。読むに決まってるじゃない。」




鈴鹿は大きく深呼吸をすると、手紙の続きを読み始めた。




『私はずっと不安だった。
 あまりにも幸せ過ぎたから、
 あまりにも私を取り巻く環境が素晴らし過ぎたから、
 それが壊れてしまったらって凄く恐かったんだ。
 
 不安で、不安で、耐え切れなくて、苦しくて・・・
 でも、そんな胸の内を誰かに話して、心配かけたり、
 困らせたりするのは嫌だったから、気付かれない様に、
 ただ笑ってるしか無かった。

 頭じゃ自分は幸せだって分かってるのに、何だか不幸に思えちゃってつい、
 “幸せになりたい”が口癖になっちゃって、
 鈴鹿ちゃんをウンザリさせちゃったね。
 ごめんね。

 私は自分が大嫌いだった。
 皆に幸せを与えられながらも不幸だなんて思ってしまう自分が。
 与えられた幸せのお返しが出来ない自分が。
 誰にも本性を曝け(さらけ)出せない自分が。
 本当に大嫌いだった。

 自分を変えたかった。
 やり直したかった。
 だから私は家を出たの。
 知らない土地で、知らない人たちに囲まれながら生活して、
 自分を少しでも好きになれたら良いなって。
 自分を好きになれたら家に帰ろう!
 それまでは絶対に戻らないぞ!って。

 でもダメだった・・・。
 結局、変わるなんて無理だった。
 私は新しい土地でも今まで通り、自分の心を偽って、笑ってばかりだった。
 
 悔しかった。
 どうしてわたしはこうなんだろうって。
 憎らしかった。
 許せなかった。

 私は弱い人間だね。
 たったそれだけの事で死を選択しちゃうだなんてさ。
 愚か者だと思うでしょう?
 私もそう思うよ。

 でもね、本当は死にたいわけじゃないんだ。
 眠りたいの。
 夢を見ていたいの。
 ただそれだけなんだ。

 
 ごめんね、こんな話。
 長くなっちゃったけど、最後まで読んでくれてありがとう。
 私のような奴と仲良くしてくれてありがとう。
 鈴鹿ちゃんが私の事をどう思っていたとしても、
 私にとっては鈴鹿ちゃんは最初で最後の最高の親友でした。
 今は鈴鹿ちゃんへの感謝の気持ちで一杯です。
 本当にありがとう。


                        更紗より』





「“ありがとう”って・・・・・
 私、あんたに何もしてやってないじゃないっ・・・!」





ポロポロと、瞳からは涙が零れ落ちる。
この涙が何を意味するのかは鈴鹿本人にも分からない。




「“ごめんね”なんて謝るくらいなら生きていて欲しかった。
 もっと一緒に居たかったっ・・・!」




どうして気付いてやれなかったのだろうか?
“幸せになりたい”は、助けを求める彼女の心の叫び声だったのに。
驕(おご)ってるのかも知れないけど、
彼女の一番近くに居たのは私だったはずだ。
私がもし、彼女の苦しみに気付いてやれていれば、
こんな事にはならなかったのかも知れない。 




「ごめんね、更紗。
 私、あんたに親友だなんて言ってもらえる資格なんて無いよ。
 でもね、私にとってもあんたは最初で最後の最高の親友だよ。
 あんたほどの友達なんて、もう、2度と現れないよ。
 ありがとう、大好きだよ。」




“幸せ”とは何だと思いますか?
それは人によってまちまちで、不確かで、言葉にするのは難しいかも知れません。
しかし、誰もが大なり小なり、幾度かは幸せを体験しているはずです。
さぁ、目を閉じて、その時の事を思い出してみて下さい。
きっと見つかることでしょう。


あなたにとっての“幸せの定義”が―――――・・・





                             〜END〜
2004/03/02(Tue)11:10:46 公開 / ☆YUMI☆
http://plaza.rakuten.co.jp/confess
■この作品の著作権は☆YUMI☆さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初めての投稿です。
かなりの駄作品ですが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございます!
私が何年間も考えていた『幸せとは何か?』についての話・・・のつもりです。
タイトルの『定義』の意味は『ある事物や用語の意味・内容をはっきりと説明すること』です。
この話の主人公の親友『芥更紗』は私の分身みたいな奴です。
私はああいう性格なんでしょうかねぇ?(←聞くなよ...)
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