- 『ガンナーズ―序章』 作者:ヤブサメ / 未分類 未分類
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	全角5820文字
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 原稿用紙約19.3枚
 
 森の中にて
 
 鬱蒼と茂る森の中―黒いジャケットに身を包んだ白髪の少年は1人、藪の中に身を潜めていた
 その腰には黒皮のポーチ、そして長い銃身の拳銃の入ったホルスターが下がっていた
 草を踏み分ける音―少年はボソリと呟く
 「プトアか・・・」
 巨大なトカゲ、とでも言うのだろうか―緑色の鱗に覆われた体、長い首に小さな頭、長くピンと張った尾を持ち、筋肉で引き締まった後ろ足と対照的な小さな前足―少年は、プトアと呼んだそれが木時の間をゆっくりと歩いていくのを茂る葉と葉との間から見つめた
 「今」
 そして少年はホルスターから拳銃を取り出して右手に握り、小さく呟き―藪から飛び出していった。
 
 草がざわめく音に、プトアは後ろを振り返る―葉が舞う中、その眼に少年の姿が映った。
 プトアは体を反転させると、口を開けて高い鳴き声を発っして少年に向かって駆け出した。
 少年は狙わずに引き金を引く―轟音と共に弾はプトアの頭をかすると、木の幹にあたり木片を撒き散らした。
 間合いを一気に詰めたプトアは後ろ足を少年に向けて蹴りだす。
 大きなカギ爪のついたそれを少年は体を横にして受け流す。少年は体勢を立て直しながら装填部を開くと空になった薬莢を地面に落とした。
 プトアはベルトのポーチに手を突っ込んだ少年の頭に目がけてカギ爪を横に凪いだ。
 少年は膝を屈させて避ける―カギ爪は幹を削り、その頭に木片を降らせる。
 装填部にポーチから取り出した弾を少年は詰め、そして屈んだまま前に飛んだ。その体はプトアの足と足の間を潜りぬけ、そして前周りの要領で受身を取る。
 少年はその体勢のまま、引き金を引いた。
 轟音と共に、弾丸は真っ直ぐと鎌首をもたげたプトアの頭をしっかりと捕らえる―弾丸は、その狭い額から進入して頭の半分を吹き飛ばした。
 下顎だけ残った意思の無いプトアの体は一瞬悶え、そして横に倒れた。
 「仕留めた・・・」
 小さく呟きながら、少年はゆっくりと立ち上がると、横たわったプトアの死体に近づく
 そして、無くなった頭から流れ出す血をポーチから小瓶を取り出すとその中にすくって入れた。
 「・・・」
 血の入った小瓶を片手に、少年は血に染まった自分の手をまじまじと見つめ、それを黒ジャケットの裾で拭った。
 そして、踵を返してその場から立ち去ろうとした時
 草の掻き分ける音に少年は足を止め、そして振り返る―幾つものプトアの首が藪から飛び出していた。
 「・・・ち」
 小さく舌打をすると、少年は一気に駆け出した。
 
 木の上に短い黒髪の少女がいた。
 「あちゃー」
 ベージュ色の裾の短いコートに身を包んだ少女は、双眼鏡を覗きながら額に手をあて思わず声を漏らす―その視線の先には、プトアの一団に追いかけられる少年の姿があった。
 「やっぱり1匹だけじゃなかったのね・・・」
 少女は双眼鏡から手を放すと、脇に置いてあった所々茶色の塗装が剥げた無線機にのマイクを握った。
 
 どこまでも、緑の芝生の海が広がる丘―そこに布を被った荷車を牽引するケッテンクラート(前が車輪で、後ろがキャタピラのバイク)が止っていた
 その荷台の上に、眠る茶髪に褐色の肌を持った少年の姿があった。
 『アル?聞こえる?』
 脇では無線機から少女の声が響く。
 「う〜ん。もう食べられないよぉ〜」
 少年―アルフォード・ラウリはそれに答えず寝言を呟きながら寝返りを打つ
 『アル!』
 「ふにゃ?」
 2度目の問いかけに、アルは頓狂な声を上げて瞼をゆっくりと開ける。そして手を伸ばすと卓上型のマイクのスイッチを押した。
 「はい〜」
 『アル!“花火”を用意して!』
 アルが出ると、少女は言った
 「あいあい〜」
 アルは荷台から飛び降りると、ケッテンクラートの後ろに牽引された布に包まれた荷車から布を引っぺがす―そこからは、幾本もの筒が円くまとめられたダークイエロー色のロッケトランチャーが姿をあらわした。
 
 『いつでもオッケよ〜』
 無線からアルの声が返ってくる。
 「私達が森を出たら、その後ろを狙って撃って!」
 『あいあい〜』
 少女はアルの了承の声が返ってくると無線機の電源を切り、そしてヘッドフォンを外した。
 「さて、私も行くか・・・」
 少女はそう呟きながら立ち上がると、木から跳躍した。
 
 森を縫うようにして作られた道―少年の履いたブーツはその抜かるんだ土に足跡を作り、続いてプトア達がそれを踏み消していった。
 少年は上半身だけ振り返ると引き金を引く―被弾したプトアの1匹が高い声を上げて転げた。
 「キリが無い・・・」
 そう呟きながらも少年は空になった薬莢を落とし、新しい弾に詰め替える。
 そしてプトアの1匹に銃口を向け狙いを付けた刹那―その上に人影が着地するのが見えた。プトアはその衝撃に耐え切れなかったのか、そのまま前につんのめった。
 人影はその背中に手を付き、跳び箱のように跳躍すると少年の横に着地してそのまま一緒に併走する。
 「チョウ、遅かったな・・・」
 少年は少女、チョウ・バックルにそう言いながら引き金を引いて発砲した。
 「あら、来てくれただけでも良かったと思ってくれなくて?ケリス?」
 チョウはコートの下に両手を突っ込みながらケリス・ハースイに尋ねる―そして、再び出てきたその手にはそれぞれ黒塗りの、前に大きな弾倉が突き出た大型の自動式拳銃が握られていた。
 「とりあえず、このまま森を抜ければ大丈夫よ!」
 そう言って後ろに振り返る―チョウはバックステップしながら両手の拳銃の引き金を引いた。銃口に連続してフラッシュが焚かれる。放たれた弾に命中したプトアの1匹が地面に転がった。
 チョウは空になったマガジンを地面に落とすと、左手に握った拳銃をスナップを効かせて投げる。回転しながらそれはプトアの狭い額に当たり、そして気絶させた。
 「なあ」
 少年は弾を込めながら、少女に尋ねた。
 「何?」
 少女は残った拳銃にマガジンを入れながら聞き返す。
 「両手に持ったら装填できないって分かるんだったら最初から1挺にしろよ」
 そう言って少年は後ろに発砲する。
 「まあ、1つよりは2つの方がいいし」
 少女は言う
 「後で拾うから、問題ないでしょ」
 そして引き金を引いて発砲する。
 「そういう問題かな・・・」
 ケリスは首を捻りながらも新しい弾に詰め替える。
 そんな2人とそれを追うプトアは森の道を駆けていった。
 
 アルはランチャーの脇に取り付けられた照準器越しに2人とその後ろを追いかけてくるプトアの群れを確認した。アルは調節ノブを指先でゆっくりと回す。ランチャーはそれに連動して上下、左右に動く。
 そして、走る2人の少し上に照準器の十字を合わせ、そして引き金を引いた。
 「はっしゃ〜」
 間延びした声とは裏腹に、ランチャーからは轟音を立てながら次々とロケット弾が放たれていく。
 「うひょ〜」
 ゴーグルを赤く染めたアルは、爆風に茶髪を躍らせた。
 
 「伏せて!」
 少女はそう叫ぶと地面に飛び込むようにうつ伏せになる。少年もその横に伏せる―その上をロケット弾が飛翔していく。そして地面に着弾した。ロケット弾は地面を抉りながら炸裂する。
 爆発に巻き込まれてプトアの一団は高い悲鳴を上げるがそれは轟音に掻き消された。
 硝煙の香りと土煙が止んだあと、チョウとケリスは立ち上がって、後ろに振り返る―そこには黒こげになったプトアの死体が転がっていた。
 「よし!」
 少女はそれを見て歓喜の声を上げた。その傍らで、少年は耳に響く飛翔音に上を見上げた
 「おい」
 そしてチョウに声をかける。
 「何よ」
 チョウも上を見上げる―そこには、ゆっくりと大きくなってくる1発のロケット弾の姿があった。
 少女と少年は慌ててその場から駆け出す。その直後、ロケット弾は着弾した。
 
 「あちゃちゃ〜失敗、失敗〜」
 着弾の砂煙に揉まれて消えた2人の姿を見て、白い煙を立ち上げるランチャーの脇でアルは頭を掻きながら呟いた。
 「生きてるかな〜?」
 心配そうに呟く。そして舞い上がった塵が消え去り、埃塗れになった2人の姿が現れる。
 そして、自分の名前を叫ぶ小さな声を聞いて
 「あ、生きてた生きてた」
 安心したように呟いた。
 
 「ま、いつもの事だから・・・」
 埃塗れになって、ケリスは同じく埃塗れで憤慨するチョウの後ろでボソリと呟いた。
 
 ―この世界には、魔物と呼ばれる動物達と人が共存している。人はその中でも害を成す魔物に賞金を賭けるようになった。そしてその賞金を糧に生きるものが現れた。人々は、その者たちをこう呼ぶ。”ガンナーズ”と―
 
 ギュース
 
 円形の広場から広がる通り―その脇にはレンガ造りの建物が建っていた。
 その1つ『国軍第三十五支部』と書かれた看板を吊り下げた建物の前、一台のケッテンクラートの荷台にアルは寝そべり、ケリスはハンドルに両足を掛けて高く昇った太陽の日差しを浴びていた。
 チョウはその建物の中のイスに座っていた。
 「チョウさーん。集計が終わりました」
 制服に身を包んだ書類の山を抱えた女性がその前を通りながら言い残して去る。
 チョウは立ち上がると、換金所と書かれたプラカードの下がったカウンターの前に向かう。
 「チョウか―」
 メガネを掛けた、恰幅の良い禿頭の男はチョウの顔を見て言った。
 「で?賞金は?」
 チョウが尋ねる。
 「検分班からの報告で―お前らの倒したプトア、32匹を確認した」
 男は書類を捲りながら答えた。
 「賞金は、合計で64万ピル―なんだがな」
 男はチョウに書類を差し出す。満面の笑みを浮かべながらそれを受け取ったが、その顔はすぐに青ざめた。
 「ねえ、この赤い文字の列は何?」
 男はメガネを掛けなおしながら答えた。
 「土地の所有者が掘り返した分の請求を求めてきたんだ―だから」
 男はカウンターの上に5枚の硬貨を投げ置く。
 「500ピルな、全部で」
 チョウは書類を床に落とす、そしてカウンターの端を両手で持った。
 「ふ」
 「ふ?」
 男は尋ねた次の瞬間―
 「ふざけんじゃないわよ!」
 チョウが両手に力を込めて引っくり返したカウンターの長机の下敷きになった。
 
 通りの石畳の上、アルが運転するケッテンクラートはゆっくりと進んでいく。
 「カウンターの弁償代まで取られてんな」
 ケリスはその荷台の上で揺られながら書類を見て言った。
 「うるさいわね、キレたくもなるでしょうが」
 チョウは隣で寝転びながら憮然と言い返す。
 「だってたったの500ピルだけ?割りに合わないわよ、まったく」
 チョウはそう言いきった。
 「まあ、いつもの事だしな」
 ケリスは書類を丸めると道路に投げ捨てる。そして大きくため息をついた。
 「今日の夕飯、牛缶だけか・・・」
 そして呟いた。
 三人を乗せたケッテンクラートはブレーキ音を立てて1つの建物の前に止った。
 そして、シャッターの開けられたそこにケリス達は入っていった。
 
 万力に固定され、中身を曝したスライド―黒い長髪を後ろで纏めた女性はタバコをくわえ、それをドライバーとペンチで女性は外からの光を元にいじっていた。その光に陰り射す―女性は振り返ると、そこにケリス達の姿があった。
 「やっほ〜フーシ」
 アルはその背中に飛び乗る。フーシ・マリはアルを背負ったまま立ち上がってチョウとケリスに向き直った。
 「よう、チョウとケリス―稼ぎは?」
 フーシは2人に尋ねる。
 「全然駄目!」
 チョウはそう言いながら、フーシの脇を通りながら自動式拳銃をホルスターから取り出すと、万力の乗った机に置きながら奥の扉を開けて入っていった。
 「すまないな・・・」
 アルに頬と頬を擦り合わせられるフーシに、ケリスも机に拳銃を置きながら言った。
 「まったく・・・」
 フーシはため息をついた。
 「100万と千、今回の整備代を追加して100万7千200ピルの借金いつ払う?」
 「・・・出世払いで」
 そう言ってケリスも扉を開けて部屋に入っていった。
 「まったく・・・」
 そう言いつつも、フーシは肩を竦めると再びイスに座って万力のスライドを弄り始めた。そして尋ねた。
 「そういや、お前下りないのか?」
 「えへへ、もうちょっと」
 アルは笑いながら言った。
 
 「今日の晩飯な〜に〜?」
 後ろで尋ねるアルを無視してケリスは部屋で唯一の家具、冷蔵庫を扉を開けて、そのまま黙り込んだ。
 「どうしたの?」
 チョウが尋ねがら横から覗き見る―そこには、牛の絵が書かれた缶が1つだけあった。
 
 
 ―野原の上に敷かれた―太陽の光に照らされて黒光りする機関車に引かれて、カーキ色に塗られた貨車は進んでいく。
 「もう、嫌だ・・・」
 外とは反対に暗い貨車の中、“鍵”は言った―そして
 
 轟音を立てて最後尾の貨車が吹き飛ぶ。列車は半ば脱線した貨車を引きずりながらブレーキ音を立てて止った。その貨車からは、既に“鍵”の姿はなくなっていた―
 
 
 剥き出しのコンクリートに覆われた部屋の中―冷蔵庫は静かにモーター音が鳴り響かせていた、ケリスとチョウ、そしてアルはそれぞれの右手に端を握り、牛の絵の書かれた缶を囲んでいた。
 「いいか」
 ケリスがそのプルトップを持ち上げて蓋を開けながら言った。
 「これが最後の1缶だ」
 そして中から1枚の加工済みの牛肉を箸で取り出した。アルは横にして、チョウは拳を作ってしっかりと肉を挟んで同じく箸で掴む。
 「今!」
 ケリスが掛け声を上げるとその箸からは肉は離れていった。そしてチョウの箸に少しだけ肉片を残してアルが残りの大部分を獲得した。
 「あ〜ん」
 アルは口を大きく開けると肉をそこに放り込んだ。
 「ち・・・」
 チョウは小さく舌打すると僅かに残った肉片を口の中に入れる。
 「ふ・・・」
 何も残らなかったケリスはそのまま床に大の字になって寝そべった。
 「勝負は時の運、か・・・」
 そして小さく呟くとアンテナの立ったラジオに手を伸ばし、チューナと兼用のツマミを引いて電源を入れた。ラジオのスピーカーから女性の声が流れる
 
 “・・・爆発の原因は調査中との事です―続いて、軍はコルクニルに逃げ込んだファントムに賞金5000万ピルを賭ける事を発表しました”
 
 ケリスとチョウの耳が同時に動いた
 
 
 ―“鍵”は、さ迷い歩いていた。暗い、先の見えぬ闇に包まれた洞窟の中を。
 その様子を三つの赤い目の、狼のような生き物―ファントムは見つめていた。
 そして、一気に前足を蹴りだすと“鍵”に飛び掛る。牙をむくそれに、“鍵”は気付かずに進んでいく、ファントムは踊りかかってそして
 
 前半分がただの肉塊と化した。鍵は、それに気付かずに歩いていく。暗い、先の見えぬ闇に包まれた洞窟の中を―
 
 
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2004/02/22(Sun)15:20:26 公開 / ヤブサメ
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■作者からのメッセージ
 話は進んでいないのですが、推敲と考察をしてみました。しかし、実は3月10日に高校の入試が待っているので不定期更新となりそうです―読んでくださってる方、どうかご了承ください