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『invariable』 作者:砂流 / 未分類 未分類
全角2134文字
容量4268 bytes
原稿用紙約7.45枚
 
 茜色に染まる空は懐かしく、暖かく、けれどどこか切なく僕の心を包んだ。
 何かができると過信していたわけじゃないけれど。
 何も出来ないとは思わなかった。
 ただ全てがくるくると視界を通り過ぎていく傍らで、あまりにも当然のように消えていく世界があることが、
 なんだか無償に・・痛かった。

 
 特に思考を働かせることもなく、歩みを止めて僕は空を見上げた。
 そこには普段となんら変わりない、『いつも』の夕刻の空があった。
 もう日は傾き、群青色の世界に小さく光が瞬き始めている。
 何を思うでもなしに再び歩みを進めようとしたとき、ポケットに振動を感じた。
 規則的に動くポケットの中身を力なく取り出し、画面を見ることなくボタンを押した。
「・・何?」
 僕の携帯の番号を知っている相手は、もう一人しかいなかった。
『今どこにいるの?』
 機械を通して聞く声は、なんだか偽物くさかった。
「駅のすぐ近くの公園。」
『・・っんでんな遠いところにいるのよ!?もう始まるわよ・・?』
「あぁ・・・。もうそんな時間・・。」
 言葉に力が入らなかった。
 ただ無気力な気持ちが、心を支配していく。
『何!?あんたまだそうやってうだうだやってるの!?ばっかじゃない!?
 餓鬼じゃあるまいし!!!まさかあんた忘れたなんていうんじゃないで』
「そうじゃないよ。ただ・・ただ少し、力が入らないだけ。」
 相手の言葉を遮って言葉をはいてから、黙って再び空を見上げた。
 受話器の向こうからは何も聞こえてこなかった。
 数秒間の沈黙が、何時間も続いたように思えた。
 沈黙を破ったのは、僕だった。
「ねぇ・・。この空は・・・。毎日僕らの上にあって、
 僕らを嘲笑うかのように時を紡いでいく空は、何も変わらないのに・・
 どうして僕たちはこんなに変わるのかな?
 変わりたくもないのに、移ろいで行かなければならないのかな・・?
 永遠のものを望むことを許されず、永遠の空間を作ることもままならず。
 ずっとただその場にいて・・・その世界で生きて、笑っていたいだけなのに・・。
 同じモノを感じていたいだけなのに・・。」
 本当に、心から不思議に思う。
 世界は何も変わりはしない。
 例えば僕らがどこかで争おうと、死のうと、抱き合おうと・・。
 世界は何もなかったかのように突き進んでいく。
 ちっぽけな僕らの存在などてんで気にすることもなく、
 お前たちが何かをしても、俺は痛くもかゆくもないぞといわんばかりに。
『んー・・?でも空はいつも違うじゃない?昨日と全く同じ空なんて、私見たことないわよ?』
 僕はその返答に苦笑してから
「そういう意味じゃないんだけど・・。まぁいいや。ただ、僕らがいてもいなくても、
 世界はきっと回っていく。何の違いもない新しいいつもが始まる。
 なんだかそれは、とても寂しい気がするんだ。
 そんな大きな世界を感じてしまったら、僕らは何のために生まれてきたのか・・
 何のために生きているのかわからなくなる。」
 永遠の時間もなければ、永遠の人もいないのに、どうして生きていけるだろう?
 何かを支えにしなくては歩いていけないのに。
 唯一あった『明日』という支えすら無くしてしまった僕は、どうして生きていけばいいのだろう?
『別に何も変わらないわけじゃないと思うけど?』
 機械から響くその声は、どこか力強く先程までのうそ臭さは微塵もなかった。
『私は・・例えばあんたがいなくなったら悲しいわ。泣くと思う。
 私だけじゃない。きっと他にも涙する人がいると思う。
 それって、あんたがこの世界に与えた影響なんじゃないの?
 そりゃぁ私たち人間以外のものに影響を与えるのは難しいけど・・。
 私たちがたくさんいなくなれば、捕食されてる魚とかには影響するんじゃない?』
 あっけらかんと言ってのけてから、声は少し笑った。
『そう考えてみたら、私たちの存在ってちっぽけねぇ・・。
 毎日必死に生きてるつもりでも、大きく見たらそれほどでもないんだわ。
 私たちなんかより、世界の輪を作っている他の動物達の方が欠けた代償は大きいのよ?
 それなのに私たちは平気でその動物達を殺す。
 不思議な世界よね・・・。
 アイツも、よく言ってた気がするな・・・。
 あ!!!!!
 そうよ!だからもう始まるっていってんのよ!!アイツの葬儀が!!
 あんた以外に一体誰がアイツに言葉をあげられるとおもってんのよ!?
 みんなもう了承済みなんだから!
 わかった!?わかったらさっさと帰ってきてね!んじゃ!』
 電話は唐突に切れた。
 きれた電話を数秒間見つめてから、再び空を見上げた。
 そこにはやっぱり先程と少しも変わらない・・、
 あえていうなら濃さを増した空の中で、よりいっそう力強く輝く星の数が、増えていた。
 そんな星に敬意を表してから、
「ひどいな・・・。
 こんなときでも・・、僕に生きろと命令する。
 何も無いと言っているのに、それでも生きろって言うのかい?
 そういう自分勝手なところが、僕は昔から・・・。」
 誰ともなしに呟いて、くるりと身を翻した。

 
 再び歩みだした僕の顔にも気持ちにも、弱さというものは存在しなかった。
  

2004/02/03(Tue)19:02:30 公開 / 砂流
http://kaeruman.fc2web.com/
■この作品の著作権は砂流さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
初投稿です!!
初めまして!!(><)
へぼへぼですが、これからちょっとずつ投稿していきたいです!!
よろしくお願いします!
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