- 『小さな夜のひとつの夢。 〜一話完結集〜』 作者:白桜 / 未分類 未分類
- 
	全角3886文字
 容量7772 bytes
 原稿用紙約13.9枚
 ―小さな夜のひとつの夢。―
 
 夢であってくれたら。そう思う様な夜だった。
 
 ***
 
 ふと夜中に目が覚めた時、目の前に小さな男の子がいた。
 明らかに普通の感じではない。こんな冷たい目を見たことがなかった。
 「えっ…あ…」
 一瞬にして眠気も覚め、同時に気が動転した。
 どこかの映画で観た様な真っ白な肌の色。薄紫の唇。
 よくよく周りを見れば、明らかに自分の部屋とは思えない程暗く閉ざされた空間だった。
 ベッドは何とか見渡せる。天井は……天井には小さな女の子がつら下がっていた。
 蒼白い目で2人はじっとこちらを見ている。
 恐怖で動けない。背中の方にある時計は静かに音を響かせる。
 何故か、時計が何時を指しているか気になったが、知っても状況は変わらない。
 むしろこの2人に背を向けるのが怖かった。
 「…あ!」
 ふと枕の下にある本を思い出した。
 『漆黒の闇に包まれ、そこに幽霊を見た場合、その幽霊は光を求めている。
 何らかの形で光を当ててやれば、その霊は成仏してくれるだろう。
 だがもし光を与えられなければ、自分も闇の一部になるだろう』
 「…この本のせいで嫌な夢見てるだけだよな…」
 ちょうど地震に備え買った懐中電灯が手元にあるのはわかっていた。
 少し手を伸ばし懐中電灯を持とうとした。
 ……くちゃ……
 そこにはベッドの横で懐中電灯を持つもう一人の男の子がいた。
 濡れた手に、蒼白い肌。寂しげな目つきだった。
 「ひ…ひゃぁぁ…」
 声にならない声が出た。
 だが力を振り絞り懐中電灯を手にし、その男の子を照らした。
 すると男の子は照らした部分からすーっと肌の色が良くなり、光の中に消えていった。
 次に天井の女の子に光を向けると、やはりすっと消えていった。
 一瞬にして安堵の空気が漂う。あと一人。
 「あ…あれ…?」
 …カチッ…カチッ……
 電池が切れた。
 目の前の子供はニィッっと笑った。……恐怖だった。
 小さな手でオレの肩をつかむ。
 冷たい手。こんな冷たい場所に連れて行かれるらしい。
 泣きたかった。大声を出したかった。喉の奥は振るえ、歯はガタガタと音をたてる。
 だんだんと、肩を持つ手が強くなる。子供とは考えられないほどの力だ。
 必死になり光の出るものをいろいろ考えた。
 ケータイはベッドにはない。電話製品すら何も見当たらない。
 あるのはこんな時でも静かに音をたてる時計しか……
 「時計!!」
 急いで手探りで時計を探し、電池を抜いた。
 それを懐中電灯に手早く移し子供を照らした。
 肌の色が照らされ子供らしい健康な色になっていく。
 「……良かったな」
 そう言うと今度は子供らしい無邪気な顔でニィッと笑った。
 
 ***
 
 その夜はいつの間にか寝てしまい、次の朝になっていた。
 目の前には止まっている時計と付きっぱなしの懐中電灯が落ちている。
 その光景をどうにか受け入れ、ふと枕の下の本を手に取った。
 すると、何故か昨日起こったコトを書いた部分が本から消えていた。
 「なんだ、良かったじゃんか」
 子供は成仏し、この話はもう本に残す必要はなくなったのだと、この時はそう確信した。
 もちろんこの考えは間違いではなかった。
 だが、今思うと何故この時気付かなかったのだろう。
 
 この本、残り13話。この夜は小さなひとつの夢に過ぎなかった。
 
 
 
 ―卒 業―
 
 桜の花が舞った。遊歩道には明るく日が射した。
 毎日通った道も、今日は特別な一面を見せた。
 いつもの様に下駄箱の前に立ち、いつもの様に上履きを取り出そうとした。
 いつもの様にぼろぼろの上履きの横には、綺麗な手紙が置いてあった。
 
 ***
 
 「いよいよ明日か、卒業式」
 親友の佑は寂しそうな顔で言った。
 「まぁな…早かったなー、この高校に3年もいたとは思えねぇよ」
 「だな。立ち入り禁止の屋上、3年も立ち入ってやったな」
 佑はいつもの笑顔に戻り答えた。
 「それより康伸、お前も吸えって」
 佑がタバコを勧める。
 「いいよ、高校卒業したら山ほどもらうから」
 そもそもここは佑がタバコを吸うために見つけてきた場所だった。
 「ったく、じゃあ明日の卒業式後には吸ってもらうからな。
 まったく、オレが喫煙者じゃなかったらこの場所はなかったっての」
 「それより佑、お前結局…梨花には告ったの?」
 「おっ、ようやくその話題ふってくれたか。
 実はな、昨日メールでな、ばっちりOKもらったよ!!」
 「マジかー!!良かったじゃんか!!」
 「次は康伸だからな!!で、誰に告るんだよ?」
 「えっと…そうだな…どーすっかな」
 「ホント、いつもそれだよな。オレみたいにちゃんとやれ、っつの」
 「はぁ?お前2年前から好かれてんの知ってて何こんな時間かけてんの?」
 「ったく、何でも煮込まなきゃ味が出ねぇんだよ。だから今は極上に煮込まれて…」
 「あ?もう腐って何も残ってねぇよ」
 「…ちょっと、誰が腐ってるって?」
 「あ…梨花…」
 梨花が屋上のドアから顔を出した。
 
 実は2年前、それはオレが梨花に告白したときのコトだ。
 「ゴメンなさい…私、佑君が好きなの」
 とフラれた。けれど、当時から親友であった佑には本当のコトをすべて話した。
 すると、佑はオレの話そっちのけで梨花を意識しだした。
 「梨花って、何部だっけ?」
 「梨花って、今まで誰と付き合ったっけ?」
 オレはうんざりしながらその質問に答えた。
 オレの答えを聞く佑は、今も忘れられないほど輝いた目をしていた。
 さすがに答え疲れたオレは佑に切り出した。
 「なぁ、結局どう思うよ?オレどうすりゃいいんだよ…」
 すると、佑はオレの肩を叩きこう言った。
 「ま、終わった問題掘り起こしても仕方ねぇよ」
 
 ***
 
 帰り道、オレと梨花は帰り道が一緒のため途中で佑と別れるコトになった。
 「いいのか、オレら2人になっちゃうケド」
 「え、いいよ。オレそういうトコじゃ信用してっから」
 佑は当たり前のような顔で言った。
 こういう妙に素直な部分が好きで、結局3年も一緒にいたのだろう。
 「じゃ、また明日卒業式で」
 「おぅ、またな!!」
 佑と別れオレと梨花は2人になった。
 妙に、緊張したムードだ。
 「あ、あのさ、良かったじゃん。佑、いいヤツだから」
 「うん…」
 会話が続かない。普段みんなといる時は仲良く話しているのに。
 そういえば梨花と2人になるのは告白して以来だ。
 正直、今でも自分が梨花のコトを好きなのはわかっていた。
 けれど、佑との仲の方が大切だから気持ちをずっと抑えてきた。
 「それじゃ…私これで…」
 いつの間にか梨花との分かれ道だった。一体何分無言でいたのだろう。
 「え、いや、最後だしさ、少し話さない?」
 このままの状態で卒業してしまうのが少し嫌だった。
 「あ…ううん、ゴメンなさい」
 梨花はそのまま後ろを振り返った。
 「え、じゃあ、明日卒業式で!!」
 そう言って自分の帰る道に身体を向けた。
 「ったく、別に拒否するコトないじゃ……」
 その瞬間、少し驚いて足を止めた。
 それは暖かい風が身体を通り抜ける様な感覚だった。
 急に、後ろから梨花が抱き付いてきていた。
 「やっぱり、こんなままで卒業したくない…」
 空白の時が流れた。頭では必死に否定した。
 けれど…ムリだった。
 気付くと梨花を抱きしめ、どちらともなくキスをした。
 卒業式前日、初めて佑を裏切った。
 
 ***
 
 卒業式が始まる前、オレと佑はいつもの様に屋上に来た。
 いつもの様に、佑はオレに尋ねる。
 「吸う?」
 「…わりぃ、もらうわ」
 佑は驚いた顔をした。
 「え、卒業式終わってねぇよ?」
 「いいんだよ、最後まで良い子じゃいられねぇし」
 「そうだよな、オレはフリーター、お前は大学。この優等生め」
 「関係ねぇよ、ったく……ゴホ…ゴホッ」
 「は?まさかタバコにむせた?うっわ、だっせー」
 「仕方ねぇだろ…オトナになるにはいつでも痛みが必要なんだよ」
 お互い笑い合った。最後の日らしく最後の思い出らしく。
 
 卒業式も終わり、梨花も交えた3人でまた帰るコトになった。
 いつもの分かれ道で佑はちょっと自慢げに言った。
 「じゃ、オレら今からデートしてくっから」
 「行け行け、勝手に行け」
 「お前は…この後男と打ち上げだっけ?」
 「だまってろっつの。早く目の前から消えてしまえ」
 「お、いいのか?親友と、昨日キスしてた相手に向かって」
 梨花は若干気まずい顔をした。
 「うるせーよ、とっとと行け!」
 梨花の気持ちは知らないが、オレは知ってるのにコトバに出されないよりは気が楽だった。
 「じゃあな康伸、また遊ぼうぜ!!」
 「あぁ、またな!!」
 これが最後の別れ…ではない。“また”がある。
 
 ***
 
 下駄箱の手紙は、佑からだった。
 最後の日に、最初の手紙。
 綺麗な封筒に似合わない汚い字だった。
 昨日の夜、オレは佑にメールした。
 スベテを正直に話した。
 手紙はその返事だった。
 
 「昨日梨花からもメールきたよ。
 最初は信じられなくってムカついたケドさ。
 2人とも正直にメールしてくれて良かった。
 オレはそれでも2人と仲良くやっていきたいからさ。
 それに康伸とは一生やっていける親友だと思ってるからよ。
 オレと梨花はまだスタートしたばっかで、まだ不安定だったんだよな。
 あとよ、康伸の気持ちわかってたよ、親友なめんなよ。
 だから今回は許してやるよ。俺より先にキスしたコトもな!!
 卒業してもオレを忘れんなよ」
 
 相変わらずの妙に素直なコトバに、不器用な文章。
 また大切な思い出が増えた。
 結局一番の謎は、なんで梨花が抱きついてきたか。
 「…ま、終わった問題掘り返しても仕方ねぇか」
 
 桜が舞った。優しい風に身体をゆだねた。
 何となく出た涙は、大切な思い出のヒトカケラ。
 
 
 
- 
2004/03/22(Mon)05:41:44 公開 / 白桜
 ■この作品の著作権は白桜さんにあります。無断転載は禁止です。
 
- 
■作者からのメッセージ
 長くてすみません…読んでくれた方、ありがとうございます。
 書き途中の作品が何故かパスワード通らなくなっているので、
 とりあえずショートストーリーでも足して…と。
 これだけで新規にするのもったいない気もしたので追加しました。
 小さな…は、人生初のホラー?です。
 どうも微妙な描写がまだうまく書けてない気も…。
 あと卒業の方は大幅に削ったんで、梨花の描写が薄くなっちゃいました。
 別に泣きドコロとかはないんですケド、
 ちょっとほのぼのしてくれたらいいかな、って感じで。