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『少年の恋』 作者:葉桜 美和 / 未分類 未分類
全角3026文字
容量6052 bytes
原稿用紙約11.15枚
 少年の恋 (出会い)

僕は余り人を好きにならない。惚れにくい人間だ。ただ
ズート好きになる変なタイプなのだ。
その人とは、転職先で出会った。僕はもう僕とは言えないほど
世間的には大人だった。その人は僕より8つ上だった。当然
結婚しており、子供もいた。最初は好きって気づかなかった。
恋愛偏差値ってある?僕は50ないのだろう。恋に臆病だった。
なのに、変なポリシーばかりで自分よがりな恋をする。映画のセリフ
「この人と結婚すれば、僕は幸せになれる」
あっ、あの映画と思い出す人もいるだろう。まさにそのタイプ。
その人と、余り話すことはなかった。職場が違いほとんど逢えない
のだ。1年ほど過ぎたとき、その人は受付兼総務みたいな感じの
仕事をするようになった。その会社では、女性がスカートを穿くことは
なかったので、急にスカートになりみんな驚いていた。
「おはよう!」
「あはようございます・・・」
とてもどきどきする。僕は好きな人とあまり喋れない、不器用
極まりない男だ。自分で
「不器用ですから・・・」
高倉健まがいのギャグ?を言うほどだ。
僕も仕事が認められたのか、事務所勤務になった。昇格した事
も嬉しいのだが、やはりその人の側で仕事が出来ることに興奮
を覚えた。
いつからか、どきどきせずに話だけは出来るようになった。
進歩したのか?少しその人の笑顔に慣れたのだ。
ある時期、僕が東京に数ヶ月出張となりその人にPCを教えることに
なった。今から1週間一緒にいられるのだ。
とてもどきどきしていた。隣にその人が座っている。
その人の咳払い、仕草、声・・・全てに高揚している。ただ・・・
ほんとに、側にいるだけでよかった。それだけで・・・
僕は
「少年の恋」
と後から呼ぶことになる。
いつからか、休みで逢えない時、他の男性と話している時、その動作
全てが気になった。下手すると、ストーカーになるのでは・・・
びくびくする自分もいた。
1週間、その人にパソコンを教え僕は東京へと行くことになった。
このころから、好きなのか?と意識するようになったのだが、
自分がその思いがあることに満足しつつも、どうせ・・・
という負のイメージも拭えない。悪いことをしてるのか・・・
そんな気持ちのまま、東京へと出かけた。
                 少年の恋(出会い)

 少年の恋(告白)

僕は1ヶ月の予定で東京本社に出張にでた。1ヶ月もあの人に
逢えない!考えると切ない。ただ、今回の出張は、事業移管の
プロジェクトで、普通の状態ではとてもキツイものだった。あの人への
感情のお陰で、プレッシャーを感じなかったのかもしれない。
東京本社は多国籍軍と呼ばれていた。韓国人、ベトナム人、アルゼンチン人、
そして日本人。女性ばかりの職場である。
韓国人女性は
「日本の男性やさしい」
アルゼンチン人の女性は、いつもニコニコ。
「すいません、今日早退いいですか?あしたはがんばる!」
ベトナム人女性の怖い話は
「ベトナム戦争で爆弾落ちて、死体がたくさん・・・」
と怖さのレベルがリアルだった。
日本人女性は、残業時間に世間話するいい相手だった。
とても愉快な職場で、ストレスがなかった。
毎朝8時30分に、工場に電話をかける。
「あはようございます」
もちろん、あの人の声だ。そのために電話をかけていた。
「なにか、変わったことはない?」
会話にもならないが、至福の時だった。
ぼくは、受話器越しに幸せを感じていた。独り占めしているかの
ような、錯覚を覚えた。あの人はそんなことも知らず話してくれた。
僕は一人よがりな遠距離恋愛を楽しんでいた。
あっという間に3ヶ月すぎ、大幅に遅れて出張の終わりを迎えた。
送別会をするとのことで、少し寂しい。こんな時何故寂しいって
思うのだろう?人は、寂しいという感情がなければ、楽なのかも
知れない。
その日は、みんな呑んで騒いだ。とても楽しい時間は過ぎ、別れの
時を迎える。この呑み会で、韓国人の女性がとても好きになった。
あの人を好きという感覚とは全く別の、好きだった。
とても勤勉で、熱心で、優しい。結婚するならと思う相手だ。
二次会のカラオケの帰りには手をつないでいた。
あの人を好きだ。という感情は何者だろう?とても嫉妬し、声
だけで満足し、顔を見れたらそれだけでいい。
・・・まるで餓鬼の恋愛だなぁ、中学生の初恋か?・・・
ほんとうに、そうだった。
それから程なくして、僕は工場長と喧嘩になった。とても小さい
会社では居残れる度胸はなかった。辞めることにした。
僕は迷っていた。あの人に、僕の気持ちを伝えたい・・・
好きだって言いたい。それだけで満足できそうだった。
チャンスは今日しかない。告白しよう。僕の心臓は、100メートル走った
かのように鼓動が激しい。喉も渇く・・・
「あのさ、前から思ってたんだけど・・・」
「うん?」
「綺麗で、何もかもが僕の理想なんだよね」
「・・・うん・・・」
「好きなんだ」
とうとう告白した。
少年のように顔が赤いと気付いていた・・・
                   少年の恋(告白)
  
少年の恋(決心)

「・・・好きなんだ・・・」
僕は、赤くなった顔を自覚しており、ちょっと鏡越しに確認した。
とても、いい気持ちだった。好きって感情だけは、言葉で表現
しないと相手に伝わらない・・・
あの人も、少し顔が赤くなっていた。
それから、退職する2週間はとても恥ずかしい日々だった。あの人
は毎朝変わらず
「おはよう!」
と笑顔を僕にくれた。それだけで、あの人が彼女になったかの様に
僕は満足だった。
退社の3日くらい前のことだろうか、
「すいません」
と、浅黒いすこし筋肉質な男性が会社を訪ねてきた。
「はい、どちら様ですか?」
「・・・はいますか?」
僕は、急にオドオドしはじめた。
「うちのいますか?」
それは、あの人の亭主だった。
「今呼んできますので、お待ちください」
その場を早く立ち去りたかった。心臓がドキドキしている。
僕は別に悪いことをしていた訳ではない。ただ・・・なぜだろう。
あの人の亭主を見た瞬間に、とても悪いことをしている感覚に襲われた。
「食事にいっても、なにもしないよ・・・」
あの人が、告白した時に言った言葉だ。その時は何も考えなかった
(ぼーとしていたのだろう!)その言葉が亭主の前で、反響する。
僕はその場を離れ、彼女を呼びに言った。
その日も、引き継ぎの資料を作っていた。一人だった。
あの人の机に、出来上がった資料を置いて帰ることにした。
何気に、手帳があるのを見つけて、僕はどうしても、中を覗きたく
なった。あの人のことが・・・
毎日の出来事が綴ってある。何枚かめくり突然愕然とした。
「あなたに逢いたい!」
それは、僕とは違う名前だった。
・・・頭が真っ白とは、このことだろう・・・
しかし、それよりもあのセリフは、僕を絶望の淵に落とすのには、
あまりに短く、そして、心にささるセリフだった。
僕は、本当にあの人の顔えお見るだけで、声を聞くだけで、笑顔を
見るだけで満足だったのか?本当にそうなのか?
「なにもしないからね」
という言葉に、男をくすぐられたのは本当だ。もしかしたら・・・
少年の恋はそのとき終わっていたのかも知れない。
あの人の体温をそして息遣いを、ぼくは求め始めていたのかもしれない。
そうでなければ、この落胆は説明できない・・・
それからの僕は、恋にもっと臆病になり・・・
まだ、あの人が好きだった。
               少年の恋 (完)
2004/01/20(Tue)17:24:48 公開 / 葉桜 美和
http://plaza.rakuten.co.jp/hpspbn2003/
■この作品の著作権は葉桜 美和さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
少年時代のような恋。懐かしい感じのする、

そんな物語書きたかった・・・



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