- 『一緒に』 作者:HAL / 未分類 未分類
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原稿用紙約6.65枚
「さみぃな・・・」
「さみぃよ」
冷たい風が、頬をさす。23時30分、商店街の端の小さな空き地で、2人して星空を見上げた。ぱらぱらと散った星屑に、少し感動。不意に目を合わせて、意味もなく笑った。
「健ちゃんさぁ、宇宙人信じる?」
「んあ?」
健介の間抜け声に笑って、あたしはさっき見てたテレビ番組の話を聞かせた。未確認物体とか、何処まで本当なのかよくわからない話。
「信じるよ、めちゃめちゃ信じる」
話を聞き終えて、健介はわざとらしく何度も頷いた。
「てか俺人体実験された事あるし」
「はぃ、嘘」
また2人して笑った。近くのお寺から、鐘の音が聞こえる。小さい頃、いつも2人でならしに行った大きな鐘。突然のフラッシュに驚いた2人の間抜け顔の写真、今もちゃんと取ってある。
「おばさん達は?」
健介が、てっぺんの赤く染まった鼻をこすりながら聞く。
「今頃健ちゃんちで酒飲んでるんじゃない?」
「ほぉ。年頃の娘がこんな時間に男と会ってるってのに呑気なもんで」
「相手が酒屋の健ちゃんじゃねぇ」
「なにおぅ」
健介はあたしの頭をがしがし撫でると、真ん中のツボをぐっと押した。
「いったぁっ。下痢になるやんか」
「こらっ乙女がそんな大声で下痢とか言っちゃいけません!痔だよ痔」
「どっちも嫌やしっ」
あたしは対抗して、健介のつむじを狙った。けどいつの間にか大きくなった身長の差が、それを邪魔する。
「おぅ、健に沙代ちゃんやんけ。元気ええなぁ」
いつの間にかツボ押し合戦になっていたあたし達に、通りかかった文具屋のおじさんが言った。
「おっちゃん、お寺行くん?」
息を整えて、聞く。
「おぉ。お前らも後で来いよ」
そう言って、おじさんは酒の瓶を片手に歩いていった。
「寺の鐘、もぅ2年もついてねぇなぁ」
ゆるんだマフラーを締め直して、健介が言う。
「てか健ちゃんと年超すのが2年ぶりやもんな」
「そっか。ここ2年、あけおめノックの為に9時には寝てたからな」
2人の通う中学校の、野球部恒例“元旦ノック”は、相当きついことで名が知れている。
「いぃなぁ。なんか取り柄あると、高校もすぐ決まってさ」
少し下を向いて、呟く。年が明けると、すぐに受験。合格確実と言われていても、不安がないわけない。
「大丈夫」
いきなり、健介が言う。
「何が?」
「大丈夫やって」
言って、にっこり笑う。わたしもつられて、微笑む。
「中学もあとちょっとかぁ」
「俺がいないからって泣くなよ」
「お前がな」
しばらく2人黙りこくって、星空を見上げた。
今年はとにかく、色々あった。泣いたしキレたし、いっぱい笑った。いっぱい学んだ。来年は何が起こるだろう。分からないけど、戦争とか殺人とかいう暗いニュースが、パンダの赤ちゃんが生まれましたなんてニュースに変わればいいと思う。心から、そう願う。
「来年は、今年以上に笑ってたいなぁ」
「うん」
いつの間にか、自然と繋がっていた手。あたしが知っている健介の手よりは遥に大きくてがっしりとしていた。すごく、温かかった。
「あっ、10秒前っ」
空き地の秒針付き時計を見た健介が、大きな声をあげる。
「カウントダウンしよっ」
急にドキドキしてきた。
「5」
2003年が、もうすぐ終わる。
「4」
実は今年、重大な事に気づいた。
「3」
健介には、まだ教えてないけど、
「2」
あたしたぶんさ、健介のこと、
「1」
友達以上に想ってる。
「あっ、UFO!」
驚いて顔を向けると、健介の顔が、あたしの顔を覆った。時間が、止まったような気がした。
「いっ、いきなりは卑怯やろ」
離れた顔を、見られずに言う。顔が、燃えるように暑い。
「へへっ」
健介は、一層赤くなった鼻をこすって笑った。そして、よいしょっと立ち上がる。
「今年もよろしく」
手を引かれて、あたしもゆっくりと立ち上がった。
「さっ、鐘つきに行こ」
前を歩く健介と、しっかり繋がった手。ぎゅっときつく握った。
「こらイテェだろが」
「天罰」
なぜか涙が出そうになって、あわててぐっとこらえた。
今年こそ、世界中に、笑顔が咲き乱れますように。
誰もがみんな、温かい布団の中で、幸せな夢を見られますように。
「来年の年明けも、笑って迎えられたらいいな」
「一緒に、ね」
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■作者からのメッセージ
あけましておめでとぅございます(*´∀`)ノ
新年のあいさつのために急遽作成。初めていきなりパソ打ちながら考えました。
この1年があなたにとって、素敵な年になりますように。
今年もよろしくお願いします☆