- 『私は完璧に死ぬはずだったのに』 作者:晋出霊羅 / 未分類 未分類
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原稿用紙約5.85枚
どんよりとした雲。 自殺するにはもってこいの天気だ。
私の愛車、オープンカーのアメ車に、百均で買ったクラシックのCDを流す。
あぁ、良い感じだ。
予定のビルへと車を走らす。
只今朝五時、人通りは少ない。
ビルに到着した。 車は乗り捨てる。 車の側のアスファルトに半径50センチ程の落書きを確認する。
このビルは何かの会社のビルらしいが、朝から開いていてエレベーターも動く。残業のための徹夜が頻繁に起こるらしい。
それにしても、不用心な。
簡単に会社に入り込めるじゃないか。 まぁ、各作業場は厳重に閉まっているから問題ないのかな?
そんな事を考え乍、エレベーターに乗り、最上階のボタンを押す。
エレベーターが開く。
目の前に階段があり、其処を少し歩くと屋上だ。 全く、変な造りだ。
天国への階段を一歩一歩昇り、目の前には、扉。
鍵は壊れている。
ドアを開けると、キィ、という音が鳴る。
大きな風が、吹き付ける。
風が強いのかな。 そう思うも、余り風も無いようだ。
強い風だと思ったのは多分精神的な問題だ。
真っ直ぐ前に歩き、高さ60センチ位のフェンスを越える。
死ぬ準備が出来た。
下を見ると、あの円形の落書きが見える。 今日の夜、チョークで描いたのだ。 あそこに飛び降りればいい。 何かの映画で見た。
遺書を懐から取り出し、靴をそろえて脱ぎ、靴の中に遺書を入れる。
よし、深呼吸。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。
違う、これはラマーズ法だ。 焦っているのか、自分。
よし、もう一度下を見る、それにしても高……
おかしい。
おかしいおかしいおかしい! 何故、チョークで描いた円に点が二つと曲線が描き足されて、ニコチャンマークになっているんだ?
これでは自殺が出来ないではないか!
ニコチャンマークに落下し、死亡。
なんて格好悪いんだろう。
「まだ、近くに描いた奴いるはずだ」
探して、一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。
急ぎ、屋上から車へと向かう。
車に着いた時には、息が上がっていた。
そして、クラシックが陽気なポップスに変わっていた。
畜生!私は自殺したいんだ!
落ち着け、落ち着くんだ自分、まずは、ニコチャンマークを描いた犯人を探そう。
怒りを込めて周囲を見渡した時、動く影が見えた。
隣のビルの陰に隠れたようだ。
私は走った。 元陸上部副部長を舐めるな!
どうやら、其処は行き止まりだったようだ、其処に、犯人はいた。
小5くらいの帽子を深く被った少年。
子供でも関係無い、一発引っ叩いてやろうと思い、歩み寄ると、その小さな体を活かし、私の横を走り抜ける。 逃がすか!
絶対引っ叩いてやる。 そう思ったとき、目の前の少年が横に吹っ飛んだ。
車に撥ねられた。
私は呆然とするしかなかった。 さっきまで私の車が置いてあった所には、何も無い。 そして今、少年を撥ねたオープンカーは余りにも見覚えがありすぎた。
私の車だ。
畜生!車盗まれたのか!しかもそれで飛び出した少年を撥ねたってか!そして飛び出した原因は私だと!
畜生!畜生!
撥ねられた少年を見る。 動かない。
もう、駄目だ。 そう思ったとき、少年はのそりと動いた。
緩慢な動きで、膝を立て、立ち上がり、服に着いた埃を払う。
一歩、一歩と少年は私に歩み寄る。
何故か、動けなかった。 私のすぐ近くで止まると、少年は言った。
「痛いじゃねぇか」
只一言、そう言って去って行った。
盗まれたはずの車はいつの間にか私が停めた位置に有り、ポップスが流れていた。
丸い顔が笑っていた。
気持ちの良い青空が広がっていた。
只今午前5時半。
嗚呼、26回目の自殺も失敗だ。
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2004/01/02(Fri)10:43:32 公開 / 晋出霊羅
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■作者からのメッセージ
ちょっと長くてすみません。
発作的に頭の中で作成された作品なので未熟な所も多いかと。
お暇が有りましたら批評お願いします。