- 『暁ノ向日葵。【プロローグ〜第1話】』 作者:木下日丸 / 未分類 未分類
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原稿用紙約25枚
幾夜も幾夜も
赤く濡らした枕。
全ての要因は
遥か昔、何億年も前にさかのぼる─────
カナシクタタズム ヒトミノオク
ナンオクネンモノ ハルカムカシ
アダム ト イブ
フタリノインガ ガ ネムルバショ────・・・
少し難しい話になるけれど。
理由はまだ、わからない。今はまだ。
だけど、アダムは凄く怒っていて、“エデンの園”から、妻イブを追い出したんだ。
─アダム!行かないで!!─
夜、真夜中だったから、帰り道が分からなくて。
イブはその場で狂ったように泣き始めたんだ。
─アダム・・・・アダム・・・・!!─
そのイブの涙から生まれたのが、百合の花(リリィ)─────
たくさん、たくさん。
イブはたくさん泣いたから、涙の数だけ地には百合の花が咲いた。
涙がしみこむ・・・・と同時に生まれる百合の花。
ふと気付けばそこは一面の百合花畑。
イブはたくさん百合の花の子孫(たね)を、その場に植えつけた。
そして、向日葵の花。
向日葵の花も、たくさんの種(しそん)を残す事は、皆分かるはず。
イブの残した多くの百合の花の子孫と、
夏が終わり、向日葵が残す数え切れないほどの種達。
数の多さがとても良く似ているから、この物語は、後にこう呼ばれる。
─────暁ノ向日葵─────
この物語のせいで、今でも苦しんでいる人がいるんだ。
それは誰って?
物語の続き、開けば分かるよ。
──────嫌でもね。
開いて・・・・・みるかい?
物語はまだ、始まらない。
【第1話】
────イブの魂は『サンフラワー』の名の下に────
物心ついたとき
私の脳が記憶していたものはたった2つ
自分の名前、『リリィ・ブラッディー』と
それから
────私の任務
私に託された────いや、受け継がれた任務
それは
『サンフラワー』の息の根をとめること
イブの最後を看取った者として・・・・
百合の花が元服を迎える時
2つの花がとうとう出会う・・・・・・
・・・暁ノ向日葵。・・・ #1
カラン・・・・
コップの中に沈む氷が崩れて、威勢のいい音を立てた。
町はずれのバーのカウンターに佇む、一人の女性。
漆黒の長いストレートの髪が、店内の中を吹き抜ける、
柔らかい風に美しくなびく。
(いよいよ今日・・・か。)
何か物思いにふけている様子で、不慣れな酒を
口に注ぐ作業に没頭している。
何故、あんなに悲しそうな横顔をしているのだろう?
大人しそうな雰囲気に似合わず、腰に下げている
赤い刃の短剣が目に付く。
柄の所の、赤いバラの刻印も洒落ている。
カタン
その女性の隣に、別の女性が腰を下ろそうとする。
金髪の、ショート。けれど、顔の横の部分だけ伸ばしている。
「隣、いーですかぁ?」
何か考え込んでいる様子にもお構いなく、
彼女は漆黒の髪の女性に尋ねた。
「どうぞ」
ニコッとした作り笑いで答える。
悲しそうな表情は、消えない。
「えーっとぉ・・・・オレンジジュー・・・・じゃなくて!
グレープカクテルを一つ!!」
バーの店長、ひげを生やした太った男性に注文する、
金髪の女性。少し幼い顔だ。
「お姉ちゃん・・・・カクテルはアルコール入ってるから、
元服(この世界では15歳を迎える事)してから
じゃないとダメだよ。」
男性が、優しい口調で言う。
すると予想外に、金髪の女性はニッと笑ってこう答えた。
「じ・つ・は!今日でげんぷく!!じゅうごさい☆」
「お〜そりゃめでたい!!それじゃあサービスしたげるぞ!!」
「やったぁ☆」
こんな会話を交わす二人の隣に座る、
先ほどの女性はこう言って話題に入ってきた。
「ちょっとそれは酷くないマスター。
私だって今日で元服なのに。」
「「え!!」」
そう言う漆黒の髪の女性の言葉に驚く二人。
どう見ても金髪と漆黒の髪の女性、同い年には見えない。
・・・・が、事実だ。
「おめでとぉー!!よぉし!じゃあ今日は二人で元服祝いだぁー!」
「おっちゃんもサービスするぞ!!」
「そうだね。」
カクテルを少し多めに注がれたコップを手に、
2人はしばらく初めての酒をたしなむ。
「う〜ん・・・・あたしはあんまり好きじゃないかも・・・」
顔をしかめて金髪の女性が言う。
そして、続ける。
「そだ!ねぇねぇ、どこからきたの?」
目をきらきらさせながら、漆黒の髪の女性に問う。
すると、質問された彼女は少し困った顔をして、言った。
「・・・・・・・・わからない」
「・・・・へ?あははっ、変わってるね!」
「・・・・・・・おかしいと思う?」
上目遣いに、今度は漆黒の髪の女性が問う。
「なんで?誰にだってわからない事くらいあるよ!
出身地ってのは初耳だけど〜!!あははっ!」
「・・・・・けど、分かる事は・・・・あるよ」
悲しそうな表情が、更に増した。
「へぇ!なぁに?」
「・・・・・・・生まれてからずっと、
・・・・・一人で生きてきたって事・・・・」
「・・・・・・・・ふうん・・・・・」
少し不思議な顔をして、話を聞く金髪の女性。
しかし、直後、明るい声でこう言った。
「じゃあ、もう一人ぼっちは終わりだね!」
「・・・・え?」
「だって、あたしがいるじゃん!もう、一人ぼっちじゃないよ!!」
その時───目頭が熱くなって、
『この人に出会えて良かった』って思った。
──────こんな気持ち初めてで、でも、本当の事で。
「・・・・・・そうだ!!名前聞いてなかったじゃん!!
キミ名前は??」
「リリィ・ブラッディーだよ。」
「『リリィ』って、百合って意味だよねぇ?可愛い名前だねっ♪」
無邪気にそう言う女性。
喜ぶと思ったから、そう言ったのに、
リリィは少し薄れた悲しげな顔が、再び蘇った。
「そうでも・・・・・ないよ・・・・・」
蚊の鳴くような小さな声で、呟いたリリィ。
気を取り直して、反対に問う。
「貴方は?」
「あたしはね──────」
ドンドンドンドンッ
しかし金髪の女性の言葉は、4発の銃声によって遮られた。
その銃声と共に、体格のいい男性が乱暴に入ってくる。
店内がどよめく。
(まさかっ・・・・・)
心の中でそうリリィは呟き、腰にある短剣、『レッドローズ』に手をかける。
刹那、目にも留まらぬ速さで、リリィはしっかりとレッドローズを
拳銃をもつ男性の首へ当てていた。
そして、耳元でこう囁いた。
「・・・・お前が『サンフラワー』か・・・・・?」
あまりの速度に恐怖を覚えた男性は、体が小刻みに震えていた。
「さ・・・・サンフラワーだぁ・・・?向日葵って意味か・・・?
ち、ちげぇよ・・・・お、俺はジィクだぜ・・・・・」
「ちっ・・・・」
リリィは小さく舌打ちする。
その音にあわせて、ジィクと名乗る男性の体がビクンッと動く。
「え?向日葵?」
唖然としてその光景を見ていた金髪の髪の女性は、
リリィに問う。
「うん・・・・向日葵・・・・」
リリィの脳裏に、ぞくっと計り知れない嫌な予感が過ぎる。
もしかして、という恐怖と不安。
「向日葵はね、あたしだよっ!あたしが向日葵!!」
さっき、お互いの元服を祝った女性。
涙が出るほど、裏表のない、優しい言葉をかけてくれた女性。
リリィの任務、『サンフラワー』を殺す事。
百合が元服を迎える時、2人は出会う─────
そう
─────私はあの子を殺さなくちゃいけない─────
イブの最後を
看取った
者として。
無意識にリリィの手から離れた『レッドローズ』の転がる音が、
沈黙の続く店内に響く、唯一の音源となった。
・・・第二話へ続く・・・
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■作者からのメッセージ
初めまして、木下日丸と申す者です!
私の駄サイトから引っぱり出して参りました。
とても素敵な小説掲示板ですね!
なんだか残酷なストーリー展開ですが(汗
どうか、寛大な方は、おつき合い下されば嬉しいですー^^
感想、ご指摘など、ございましたら書いていって下さると狂喜乱舞いたします(すな