- 『ギリギリ×SAFE!?』 作者:咲羅えんり / 未分類 未分類
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全角12988.5文字
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原稿用紙約44.5枚
ぼんっと音がして、教室中が煙だらけになる。とたんに、みんなからの集中攻撃が来た。
「瑛加〜っ…」
「いいかげんにしろ〜…」
「何度目だと思ってるんよ〜…」
みんなの声が疲れているのは、…あはは、やっぱりあたしのせい?
いい加減にしなきゃいけないとは思ってるけど、だって難しいんだも〜ん、忍術って。
「…あのねぇっ、テストはっ、明日だよっ、明日!」
一番あたしの近くにいたために一番被害にあった友達の絵智が、かなりむせながら叫ぶ。
「瑛加…、取り合えずあたし、明日まで生きることを目標にするわ。あんたの忍術のおかげで、それがやばくなってきたから…」
『親しき中にも礼儀あり』って言葉を知らないらしい、友達の理世が言う。
「瑛加の使う『火』って、扱いやすいはずじゃなかったっけ?」
皮肉じゃなくて本気で心配しているのが、これまた友達の亜沙。
「や〜だよ〜、瑛加だけ落第とか〜」
「千奈、それは励ましなのか」
亜沙とは反対に完璧に茶化してるのが、またもや友達の千奈。そして千奈に突っ込んでるのが天乃。
「ほら、瑛加っ。次いくよ〜」
絵智の掛け声で、あたしはよろよろと立ちあがった。
あたし達――あたしと、絵智と、理世と、亜沙と、千奈と、天乃――六人は、私立『桜陽中学校』の一年生。この学校、表向きは『一学年六人のとてつもなくさびれた私立中学』なんだけど、ここからがくせものなんだな、実は桜陽中学校、『忍者』のための学校なのだ。
ここでいう忍者ってのは、魔法使いのようなもの。あたしは『火』の術を使い、手裏剣から炎を出したりする。だから、訓練でなるものというよりは、生まれつき。
小さい頃は、こんな力を持っている自分がすごく嫌だったけれど、ここでみんなと出会ってからは、すごく楽しいし、自分の力が好きになれた。
…そこまではいいんだけど、あたしははっきり言って忍術が苦手だ。まず、手裏剣が投げれない。手裏剣に力をこめてそれを投げて使うのに、投げれないからどうにもならない。
しかも、たまにうまく投げれても、力のこめ方が上手くない。こめすぎたり、こめなさすぎたり。その結果が、さっきの『教室煙まみれ』。
しかも、だ。明日、二年生に進級するためのテストがある。それが、昨日先輩に話を聞いたところ、
「わたし達、去年受けたんだけどね…」
「すっごく難しいよ」
「ありえない!うん」
「教えてあげたいんだけど、教えると先生にすっごく怒られるらしいし…ゴメン」
だそうです。…やばすぎる。
「どうしよ〜、絵智ぃ〜」
取り合えず聞いてくれそうな絵智に頼んでみるけど、
「どうしよ〜、って言われてもな…」
と言われてしまった。
「取り合えずさ〜、投げ方を何とかしよ?」
完璧に落ち込んだあたしに、亜沙が慌てて言う。
「じゃあ、見本やる〜っ」
元気に千奈が立ちあがって手裏剣を手にした。
「うわっ、なんか千奈だけだったら不安…わたしも」
天乃も立ちあがる。千奈がその台詞に微妙な表情をした。
「…まあ気にせず、行きま〜す」
いきなり千奈の顔が真剣になった。すうっと息を吸って、振りかぶり――。
「とぉぁっ!」
これ、千奈の声…。叫び声はこんなんだけど、一応真剣だからね、多分。
千奈が投げた手裏剣から、桃色の光が迸る。
「じゃあ、わたしもいくよ?」
宙を飛ぶ天乃の手裏剣から、こちらはオレンジ色の光が迸った。
二つが教室の床に突き刺さった瞬間…、
まずは、色とりどりの花が、教室中に一気に咲き乱れた。これが、千奈の力、『植物』。
それから…、
「ぎゃ―――っ!!??」
教室中に、五人分の叫び声が響き渡った。
教室の床が、地割れした―――っ!!??天乃の力、『大地』――!!??
「わっ、ごめん!まあ、避けといて。…じゃあ修復しますか…」
ごく軽く謝って、天乃が修復作業開始。
「うわっ、天乃、すごいことになってるじゃん。手伝うよ」
「わたしも」
二メートルくらい地割れした床を見て、絵智と亜沙も修理に取りかかり始めた。
でも、調子に乗り始めた千奈を止められる人は誰もいない。止めるどころか、理世がそれに加わってしまった。
「てやぁ〜っ」
楽しそうに理世が手裏剣を投げる。そこから、薄い緑色の光が迸った。
「ぎょえ―――っ!!??」
教室中に、五人分の叫び声がまたもや響き渡った。ただし、千奈っぽい声の語尾には、音符マークまたはハートマークがついていた。
風がびゅんびゅんびょんびょん吹き荒れる。教室の備品が吹き飛ぶ。理世の力の、風――!!??誰かぁ――!!!助けて――!!!
その瞬間、いきなりすべてが止まった。調子に乗りまくっていた二人の顔が、さっきと打って変わって固まった表情で、あたしの後ろに向いてる。
何?振り返ったあたしは、一瞬、時が止まったのかと思った。…担任の、白本先生、がいる…。
「どしたの?」
五テンポくらい遅れて、ようやく絵智と亜沙、天乃も振りかえり…固まった。
「…榎谷瑛加、舞野絵智、乙村理世、文野亜沙、阿山千奈、保野天乃…っと」
先生は、いつものように微笑みをたたえ、あたし達六人の名前をフルネームで呼びながら、手に持っていたメモに書きとめた。そして、その顔のまま、
「通常なら八十点以上で明日のテストは合格ですが、あなた達六人に関しては、特別に九十点以上にしちゃいますね」
「…ど……どうも…」
呆然としすぎて、なに言ってんだかわかんなくなってる千奈が言った。
「それから」
「………なんですか、先生」
恐る恐る聞いた絵智に、先生は特上の笑みを返した。
「床、直すまで、帰っちゃだめだからね」
十秒間静止した後、あたし達は床の修理に取りかかった。
来てしまった。
来てしまった、テスト…。
昨日は床の修理で、全然練習できなかったし。うらむぞ、天乃。
取り合えず、計百点中八十点は筆記試験だ。忍者の道具やらなんやらが出るんだけど、そういう暗記物は得意だから、…あとは、実技をなんとか…。
「では、これからテストを始めます」
いつもどうりの微笑みをたたえて、白本先生がやってきた。
「まず、筆記試験から始めますので、席について下さい」
あたし達はぞろぞろと席についた。
ゆっくりと、用紙が配られる。落ち着け、榎谷瑛加っ!
「…始めっ」
…ふ〜。
なんとか、全部埋めれた…。
問題は、次よ、次!次の実技…。
「瑛加、いつもみたいにベリベリいけばいいからねっ。お互いがんばろーねっ」
「ファイト&ガッツで、もう超バリバリいくんだよっ」
…絵智、理世、その応援、意味わかんないよ♪
「は〜い、そこの六人!集まってー」
集合がかかり、『実技教室』と書かれたプレートが下がる部屋に、みんな集まった。
「これから、実技テストを始めます。名簿順に一人ずつ、入ってきてください」
そこから先は、もう聞かないでほしい…。
とりあえず言えるのは、手裏剣の投げ方に失敗して、実技教室の窓を割っちゃって、先生の額に青筋が出来ちゃったこと…。
まぁ、何はともあれ!とにかく!テストは終わったのよ!後は天に祈るのみ!
「いや〜、なんか、さぁ。終わったねぇ〜、テスト」
絵智がしみじみとつぶやく。
教室で、『テスト終わったぜ記念会』とかいう、訳のわからんパーティーを延々としているうちに、外はすっかり暗くなっていた。
「そろそろ、帰りますかっ」
理世の掛け声で、みんながぞろぞろと後片付けを始める。黒板に書かれた『テスト終わったぜ記念会』の文字を消し、『フルーツバスケット』と『爆弾ゲーム』と『椅子取りゲーム』に使った椅子を片付け、かばんを背負う。
「では…気を付け!礼!」
「ありがとうございました〜!」
千奈と理世の号令で、みんなで挨拶をした。こういう、ばかばかしいけど騒がしくって楽しい、瞬間。そんなことが一緒に出来る友達。あたしは好きだ。
「じゃぁ、気をつけて帰りましょお〜!」
みんなでわいわいがやがやとしゃべりながら、廊下を歩く。そして玄関のドアを開けようとした、その時だった。
「…あれっ?」
先頭にいた天乃が、ドアを開けようとして止まった。
「どしたの?天乃…」
「…開かない」
がちゃがちゃとドアを押したあと、天乃がつぶやく。
「え?」
「開かない、このドア。鍵がかかってるわけじゃないのに」
鍵がかかってないのに、開かない?
「っていうかさぁ、ドアってこれだけじゃないじゃん?」
明るく千奈が言って他のドアの方へ行き、開けようとしたけれど、
「開かない…」
戻ってきた時には、鑑真像のような顔になっていた。…って、どんな顔なんだ。
「どういうこと?」
ぎ―ん ご―ん が―ん ご―――ん
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!??」
恐怖の鐘の音に思わず叫ぶ。なによ、この音は―――!!
しかし、次に聞こえてきた音は、あたし達の想像をはるかに超えていた。
「え〜、こんにちは。校長の春森です」
「…は?」
みんな、口が半開きになってる。いきなり校長の声?なんで?
あ、そうか。パニックでわかんなかったけど、さっきの恐怖の鐘の音、あれ、放送開始の合図だ。普通は「ぴーん ぽーん ぱーん ぽーん」なんだけど、この学校は、校長の趣味かなにかで鐘の音になってるんだっけ。
「ドアが開かなくて、パニくってるんじゃないですか?」
はい、パニくってます。
「実はですねぇ、これ、私たち教師がしたんですよ」
「はぁ〜〜〜!!??」
口が、全開き。
「ドアだけじゃありません。全ての窓も、封鎖しちゃいました」
封鎖しちゃいました、じゃないっすよ、校長!しかも、なんか音符マークつきそうな口調だし。校長、意外とお茶目ですねえ。いや、そんな問題じゃないか。
「実は、これがあなた達の進級テストなんです。この学校のどこかに、“力の石”がある」
力の石ってのは、あたし達が使うような『力』を自然に出している石のことだ。それによって、いろんな現象が起こったりする。
「それを封印すれば、全てのドアや窓が開きます。そして、校舎外に出ればクリア。あなた達は、進級テストに合格、ということになります」
…は、はぁ…。
「では、頑張ってくださいね〜」
放送が、プチっという音を最後に、切れた。
「……………」
誰も、何も言えない。口が半開き。理世に至っては全開き。
「…先輩達が言ってた意味が、ようやく分かった気がするね」
「…うん」
そして、再び、誰も何も言えない状況。
「…あ〜、もう!とにかく!さっさとクリアして、ここを出よう!」
絵智が叫ぶ。それでようやく、みんなが我にかえった。
「でもさぁ、えぴぃ」
千奈が絵智に言う。ちなみに、えぴぃってのは絵智のあだ名。千奈しか呼んでないけど。
「何?ちななん」
ちななん、ってのは千奈のあだ名。絵智しか呼んでないけど。
「どうやって石を探すの?」
「『ぐっちょっぱ』して、三つに分かれたら?校舎広いし、一人だと危険だし。」
亜沙がもっともな意見を出した。
「じゃ、そうしよっか。…ぐっちょっぱ!」
あたし、ぱー。
絵智、ちょき。
亜沙、ぱー。
理世、ちょき。
千奈、ぐー。
天乃、ぐー。
…おお〜、すごい。一発で決まった。
「よし、じゃぁ、しゅっぱ〜つ!」
「おっしゃ〜!!」
絵智と理世が叫ぶ。…不安だなぁ、この二人のペア…。
「行っくぜ〜!」
「…千奈、お願いだから、突っ走ってはぐれて迷子にはならないでよ」
「ならないっつの」
どつきあってるのは千奈と天乃。…このペアも不安。
みんなにそう言ったら、
「あんたんとこのペアが一番不安だー!!!」
とハモリで叫ばれた。
「何でー!?」
って亜沙と叫び返したら、
「不安だからだー!!!亜沙はいいけど、瑛加は不安だー!!!」
…と叫び返された。悔しー…。
「とにかく、じゃあ、一階を千奈と天乃。二階を瑛加と亜沙。三階を、あたし達が担当するね。一通り見まわったら、もう一度ここで集まろう」
絵智が指示を出し、それからみんなで円陣をくんだ。
「…頑張りまっしょ!」
…暗い。
…暗いんですけど、廊下…。
二階の廊下を亜沙と歩き始めて三十秒。何も見落とさないように、ゆっくり歩くんだけど…とにかく、暗い。怖いっつの!
自然とくっついて歩く。
「何もないね〜、今のところ」
「いや、歩き始めて少ししか経ってないからだって思うけど」
「とりあえず、教室も見たほうがいいかな?」
すぐそこにある普通教室のドアを開ける。これは、二年生の教室だ。
しん…としてて、不気味な感じ。誰もいない教室がこんなに怖いとは。というか、シュチュエーションが悪い。かすかすぎる夕日の光、なんて怖すぎる。
「…なんか、怖い…ね…」
あたしがつぶやく。すると、亜沙は鋭く教室内の一点を見つめていた。
「…瑛加…あれ、何…?」
「…え!?」
あたし達が見たのは、教室に充満しつつある、黒いもやもやとした物。それが、こっちにも迫ってくる。…何、これ!?
一気に息苦しくなる。
「なっ…何っ…!?」
「多分…石の…力が出てるんだ…。これは…多分だけど…、石が、『空気』を操ってる…」
こんな時でも解説をしてくれるのが、亜沙らしい。
「…とにかくっ、なんとか、するっ。瑛加、変なところに飛んだら、よけてねっ」
亜沙が手裏剣を懐から出し、振りかぶった。…いや、よけてね、って…。
「…えいっ」
きれいに弧を描いて飛ぶ手裏剣。避難の必要なしと感じたあたしは、亜沙の近くに戻る。そして、手裏剣は淡い水色に光り出す。
「…水よ、包み込め…!!」
亜沙が詠唱っぽいものを叫ぶと同時に、黒いもやもやの中心で光が『爆発』した。そのまま、ぷよぷよした膜――多分水、に、もやもやが包まれていく。
「…水で、包み込んだから、もう大丈夫…」
その言葉どうり、もやもやが水の膜から出てくる気配はない。
「よ、よかった…。ありがと、亜沙」
「いえいえ、当然のことだから…。ただ、」
亜沙は、教室の床を見た。『水』を使ったことから、教室がちょっと、いやかなり、濡れてる。
「…行こっか」
どちらともなく、教室の水浸し状況の改善を放棄し、ドアを開けて廊下に出た。
そこに、
「瑛加!亜沙!」
どたばたと一階から千奈と天乃が上がってきた。
「今、すごい音が鳴ってたから、どうしたのかなって思ったんだけど…」
「何が、あったの!?」
「実はね…」
亜沙とあたしで、今起こった状況を説明する。すると、千奈と天乃はぽかんとした表情をした。
「…あたし達、一階を全部見たけど…。何にもなかったよ?」
「…変だね…」
天乃がシリアスモードのスイッチをオンにしたらしく、視線を落とした。
「…もしかして、さ。」
スイッチオンから五分後、天乃がおもむろに口を開く。
「想像でしかないんだけど…。ほら、石の力って、近いほど影響が起こりまくるよね?」
「うん」
「…うん?」
「…そうなの?」
ちなみに、上から亜沙、あたし、千奈の声…。
「でさぁ、一階で何も起こんなかったってことは、一階は、石から離れてるってことだよね?で、二階は起こったから、二階の方が石に近いってことだよね?そうすると…」
みんなが、はっと顔を上げた。
「…三階の、絵智と理世、が…、もしかして、一番影響が強い所に…」
「やばい!!」
四人で同時に叫ぶと、ダッシュで階段を駆け登ろうと…したところに。
…出た。今度は、階段の上のほうから、植物の太いつるがゆっくりと何本も降りてくる。
「…あぁ、もう!邪魔だっての…」
天乃が手裏剣を振りかぶるのを、慌てて押さえる。
「…なにすんのさ、瑛加っ!」
「…よく考えてね、天乃」
「は?」
「天乃、今、どういう術使おうとしてた?」
「地割れでも起こして、植物をそこに落としてやろうって思ってた」
…ため息が出てくる…。
「なっ、何よ、瑛加…」
「あのさぁ、地割れを起こすってことは、階段をぶっ潰すってことだよ?…登れないじゃん!!」
「じゃぁ、あたしの出番だねっ。やった〜」
すっごく楽しそうに出てきたのは、千奈。
「ちょっと待ってよ千奈。あんた、『植物』でしょ?植物どうしでやっても、効果ない…」
「まぁ、見てなさいって。ほら、昔から言うじゃん?『植物にはレッツ植物!』って」
…言わないと思う。
「辞書にも載ってるよ?」
「うそつけ」
「…とにかくっ、任せなさいって」
千奈が手裏剣を振りかぶり…投げる、そして桃色の光。
出てきたのは、同じようなつる。
「…はっはっは、巻きつけちゃえ〜」
人って、状況によってここまで壊れられるんだなって痛感。
とにかく、千奈が出したつるは、相手のつるにぐりんぐりんに巻き付いた。
相手のつる、ノックダウン。
「見た?見た!?」
笑顔で千奈が駆け寄ってきた。
「…見た」
「見直したでしょ〜。攻撃以外にも、使い道はあるんだよ〜ん」
そして、真剣な顔に戻った。
「…早く、三階に行こっ」
「…理世?絵智?」
叫んでも、しんとした静寂だけ。
「…ま、さか、ね…」
天乃の顔が、引きつってる。
その時。
「きゃあああっっ!!」
みんなが一斉に反応する。…理世と、絵智!?声がしたのは、一番奥、実習室!
「…急ごうっ!」
あたし達が、実習室で見た物。それは…。
…それは、さっき階段で見たつるの大量バージョン…の残骸と、横で楽しそうに果物を食べてる理世、困りながらも結局は果物を食べている絵智、という二人の姿だった。
「…何やってんの」
あたしには、それを言うだけで精一杯だった。
「いやあ、それがさぁ」
理世が口をもごもごさせながら言う。
「ここを探してたら、いきなり太いつるが襲ってきてさぁ。で、あたしがこの天才的な目を生かして、つるに果物がなっていることを発見したんだわ」
…つまり、さっきの『きゃあああっっ』の叫び声は、喜びの声ですか…。
「で、さっさと倒して果物ゲット〜♪もう、あたしの風魔法をつかったら1発で♪でさぁ、食べてみたらめっちゃ美味しくて。絵智がなんか、『テスト中にこんなことしてていいの?』ってすごく心配そうにしてるからさあ、無理矢理食べさせてみたら絵智もハマっちゃって」
「…あのさあ、なんであたしたちが名前呼んでるのに反応しなかったの?」
恐る恐る尋ねた亜沙に、理世が笑顔で答えた。
「あぁ、最初はいきなりつるが現れたから、びっくりして声が出なかったの。それで、その後は、果物見つけたうれしさに、声が出なくて…」
「…ほ〜ぉ」
あたし達の額に、青筋が出来る。ぴきぴきぴき…。
〜少々お待ち下さい〜
「…さあっ、どうする?」
お仕置きとして、理世と絵智から果物を全て奪い、もぐもぐとやりながら、あたし達は作戦会議に入った。理世が、
「みんなだって食べてんじゃんか〜!!」
って抗議したけど、無視。
「上に行くほど、力が強いってことは、やっぱり上に石があるんだよね?」
「そういうことだよね〜」
「じゃあ、三階を探そっか?」
「うん、理世と絵智は果物事件でここしか調べられてないって言うしね〜…」
天乃が言い、同時にみんなが冷たい視線を送る。そして、受け縮こまるお二人さん。
「三階は、力が強いわけだし…みんなで行ったほうがいいかもね」
「そうだね」
ようやく全ての果物を食べ終わり、あたし達は立ち上がった。
「では、三階の捜索にれっつらごー!!」
まだ、理世と絵智が不平不満を言ってるけど、まぁ、気にしないでおこっかな。
だんだん、本格的に暗くなってくる。
静寂に、包まれる。
みんなでくっついて、となりの『音楽室』に向かう。って言っても、実習教室から五秒あれば行けるんだけど…。
「…誰が、ドア、開ける?」
亜沙の質問に、みんなが一斉に指差したのは…。
「…あたし!?」
「なんで!?」
理世と絵智が叫んだ。
「…だって、さっき」
「果物食べてたじゃん」
「ねぇ」
「あれはやっぱり償うべきね」
そして頷きあう。
「みんなだって、あたし達から奪って食べてたじゃんかー!!」
騒いでる人が約二名いるけど、気のせいってことにしとこう。
「…はいはい、分かりましたよ」
諦めた二人が、ドアノブに手をかけて、ゆっくりと回し、ドアを開けた。
…何も、ない。
ゆっくりと音楽室に入るけど、何もなかった。
「…何もない、ね…」
きょろきょろと周りを見まわしていた亜沙がつぶやく。
「…じゃ、次のところに行こっか」
あたし達が、退散しようとした時。
「……っ」
一番後ろにいた千奈が、短く、声になってない声で叫んだ。
「どしたの、千奈っ!?」
慌ててばっと振り向く。
そこで見たのは。
腕を押さえてる千奈と、その後ろにいる、鎧を着た武者っぽい人だった。しかも、黒っぽいから不気味。しかもしかも、手に持ってるのは日本刀!?
「ちななん!」
絵智が千奈に駆け寄る。
「何、これ…」
「瑛加、『これ』って物扱いするのは、やっぱ武者さんに失礼だと思うよ…っ」
理世がいつもの調子で訂正してくれたけど、その声は真剣味を帯びている。
「…いきなり、刀で…っ。傷は全然深くなくて、大陸棚っぽく浅いんだけどっ、でも本気でやられたらやばいっ…」
天乃と絵智によって引き戻された千奈が状況説明してくれるんだけど、意味不明な表現がある…。
「…これも、石の力…?」
すっと、武者っぽい人が日本刀を振り上げた。そのまま、刀をおろす――。
「きゃわ――――っ!!??」
パニックになって騒ぐあたし達の中、一人だけ冷静な人がいた。
「…よけてて!!」
…絵智が、手裏剣を武者っぽい人に向けて投げた。それが灰色がかった銀に光る。
「…刃よ、切り刻め!」
ざっと、何かが武者っぽい人の体をはしった。そして、そのまま武者っぽい人は消えていった…。
「……は…」
パニックの後遺症で、訳がわかんなくなってる。そっか、絵智の力って、『刃』だったっけ…ふだん使わないから、忘れてたけど…、なんて、ぼんやり考えながら。
「みんな、大丈夫?」
絵智が駆け寄ってくる。そして、あたし達全員が無傷なのを見て、へなへなと座りこんだ。
「よ…よかった…」
そして、目にちょっと浮かんだ涙を拭き取ってから、次の言葉を言った。
「実はさぁ、さっきやった刃の力のやつ、あれ、刃の中でもかなり高度なやつでさぁ。一回も成功したことなかったんだ。だから、使うのがすっごく不安だったんだけど、あれしか武者っぽい人さんに効きそうなのなかったから…。ほんとにみんな、大丈夫?」
「……お蔭様でねえ、」
ちょうど、あたし達五人の声がばっちりはもった。
「とっても元気だよ…」
〜再び、少々お待ち下さい〜
「…じゃあ、三階の捜索を再スタートさせますか」
気を取りなおして出発。
音楽室のとなりは音楽準備室。…なんだけど、鍵がかかってる。ここには高価な楽器なんかがあるから、音楽の先生だけが持つ鍵がないと入れない。
「あたしの出番〜♪」
楽しそうにしてるのは理世。
「あんたの出番って…何すんの」
一応聞いてみたら、
「風でドアをぶっ壊〜す!」
と言われた。
「…修理費は?」
「連帯責任!」
…もう、何も言えません。
「じゃあ、行っきま〜す!」
理世の手裏剣は音楽準備室のドアに当たり…。
どがーんっと激しい音を立ててドアが壊れた。
「……修理費は?」
念のため聞いてみたら、
「連帯責任!」
と返された。…諦めよっと。
激しくドアを壊した割に、音楽準備室には何もなかった。
「な〜んだっ、せっかくあたしがドアを開けたのに…」
開けたんじゃなくて、壊した、だよ。日本語は正しく使いましょう。
「じゃあ、次行こっ。えっと、となりは…」
「美術室だね。三階はあと美術室だけだよ」
美術室は鍵がかかってないので、すっと開いた。…後ろで理世が、すっごくつまんなさそうにしてた。
扉を開く。
「何かあるー?」
みんなが続々と足を踏み入れる。
しん、としてる。胸騒ぎがするような、ドキドキした雰囲気。
「絵の具臭いねー」
…雰囲気ぶち壊しは理世。
ゆっくり、ゆっくりと足を進める。
そのまま部屋の真ん中まで行った時。
いきなりずどんっと音がして部屋中が揺れた。
「なっ、何…!?」
絵智が腕をつかむ。
そしてべきべきべきーっという音と共に、天井からでっかい物体が落ちてきた――!?
それは、頭が二つある、でっかい蛇だった。
「何これ――っ!!??」
って叫んだら、
「…蛇」
と亜沙に返された。…いや、確かに蛇なんだけどね、亜沙。
「まかせてっ」
理世がすっと前に出る。多分、さっきのドアを壊せなかった分を発散するつもりなんだろうな…。
「…風よ!」
詠唱っぽいものを唱えて、手裏剣を蛇に当てる。そのとたん、美術室内に風が吹き荒れる。立っているだけで精一杯…。
それだけの風なのに。
「…なっ…!?」
思わず理世が一歩下がった。蛇は、ほとんど無傷のままそこにいたんだから…。
「…バリア、張ってる…!」
あたしの言葉に、みんなが蛇を見た。蛇の周りにある薄いもの。かなり強力なバリアだ。
「こうなったらっ!」
千奈が叫ぶ。何?何か、対策でもあるわけ?
「…逃げるべしっ!」
叫ぶより前に駆け出す千奈。…そう来るか…。
取り合えず、全員で美術室から全速力で抜け出す。
「なんなのよ、あの蛇ーっ!!」
「やっぱり、石に近いんだって…」
階段の前まで走って、肩で息をしながら蛇について語り合う。
「理世の風が効かんとは…」
「でも、逃げてきたからもう大丈夫…」
絵智の台詞が途切れた。…理由?それは、あたし達の目の前に、追ってきたらしいあの蛇が登場したから…。
「ぎょわきゃ―――!!??」
謎の叫び声×六。まさか追ってくるなんてー!!しかもまたバリアっぽいものまとってるし!!
「こうなったら、なんとしてでも倒さなきゃ!」
勇敢にも亜沙が手裏剣を投げた。
「水よ、包み込め…」
亜沙の手裏剣が光り、蛇に当たりそうになった瞬間。
蛇が首を擡げた。あたしには、その瞬間蛇の周りのバリアが、光ったのが見えた。
「亜沙っ、やばい…」
叫んだ時には、手裏剣から出た水が跳ね返っていた。
「…っ…」
「亜沙っ!」
それを受けてしまった亜沙が倒れる。
「…バリア…で、跳ね返された…っ」
「じゃあ、どうしようもないじゃんっ…」
完璧に絶望的。
「どうしようもないことなんて、絶対ないよっ。何か、打つ手がある…はず、だと思う」
絵智が叫ぶ。後半ちょっと弱気だけど、まあ気にしないであげておこう。
「でも、どうすれば…」
「あのさ」
いきなり天乃が言った。
「わたしが、『大地』の力を使う」
「え…えぇっ!?」
「ちょっと待て、それじゃ二の舞じゃ…」
「みんなは見てなかったかもしんないけど、さっき亜沙の水を跳ね返した後、あのバリア、消えたんだ。それで、もう一度張りなおしたっぽいんだけどね。だから、わたしが使ったのを跳ね返した瞬間に、力を加えて。いい?」
「…でも…」
「…ほらっ、来るっ」
誰も何も言わなかった。おもむろに天乃が立ち上がった。
「大丈夫だから。…頼んだからね」
「…うん」
みんなでゆっくりと頷く。
「…大地よ、その力を…」
天乃の手裏剣がぶつかろうとした瞬間、さっきと同じように蛇が首を擡げて…。
「!」
予想していないことが起こった。さっきみたいに、力を使った人だけに返るんじゃなくて、あたし達にも跳ね返った力が襲ったのだ。
「あっ…!」
みんなの手から、用意していた手裏剣が離れる。慌ててあたしは取ったけど、みんなの手裏剣はそのまま階段の下に落ちた。
「…早く!」
天乃が叫ぶ。蛇のバリアは、だんだんと修復されていく。
「瑛加っ!」
絵智が後ろから叫んだ。
「今、手裏剣を持ってるのはあんただけなんだからっ…」
「でもっ…」
待ってよ、絵智。あたし、満足に手裏剣投げれないんだよ?なのに、…なのに、あたしに託すの?そんなの…出来なかったら、どうするの?
「大丈夫だから。大丈夫っつったら大丈夫だからっ!」
今度は理世が叫ぶ。
「…もしかしたら、瑛加が不安がってるように、出来ないかもしれないよ。でも、出来るかもしれないじゃない!」
もう一度、絵智が叫んだ。
…あたしに、出来ること、やるしかない…。
「……炎よ、姿を現せ!」
「瑛加っ…」
絵智があたしの後ろからいきなり抱きついた。
みんなに向かって、Vサインをする。
「…みんな、あたしを説得する時の台詞、かなり意味不明なこと言ってたよ…」
苦笑いしながら突っ込んでみた。
「でも、大丈夫だったじゃん」
あくまでも開き直る気だな、理世。
「さあっ、力の石のことだけど…」
「はいっ!はい、は〜い!!」
理世が手を挙げる。まるで、授業参観日の小学一年生。
「何ですか、乙村さん」
それに乗る千奈。声色を完璧に変えて、…すごく楽しそう。
「あのですねぇ、三階は一階よりも二階よりもやばかったんだから、やっぱり上に行くほど力が強くなってる――つまり、石は上にあるんです。でも、三階にはなかった。ってことは、ここよりも上の、屋上にあるんじゃないでしょーかっ」
「はい、河野さん、よく出来ました〜」
…いい加減終われよ、学校ごっこ…。
「じゃあ、屋上に行けばいいってことね!」
天乃が非常に簡潔にまとめた。
「…行きますか!」
屋上への階段を登る。ゆっくりゆっくり、慎重に。
「…なんか、どきどきするね…」
亜沙がつぶやく。
「…うん」
踊り場をすぎて、屋上のドアが見えた。
天乃が先に進んで、ドアを調べる。
「…鍵かかってる。慎重すぎるって、先生…」
「じゃ、あたしの出番〜♪あ、もちろんこれも修理費は連帯責任っす」
理世が前に出る。ああ、また出費が…。
楽々と理世がドアを破壊。
「…行くよっ」
あたしが言って、みんなが一斉に屋上へ飛び出した。
その屋上のど真ん中に。
淡く光る、石があった。
ゆっくりと歩み寄る。
「じゃあ、封印しますか」
絵智が言う。だけどさ…。
「あのさ、封印ってどうやるの?」
と、前々から思っていた疑問を聞いてみた。そうしたら、絵智がいじけた。三角座り&地面に『の』の字書き。
「…そんなの、知るわけないじゃん…。あたしは暗記物は苦手なの…」
「…誰か、知ってる?」
みんなに聞いてみたけど、
「知らない」
…もちろん、あたしだって知らない。
「どうする…?」
「…っていうかさ」
突然天乃がぽつっと言った。
「別に封印しなくても、この石をぶっ壊せばいいんじゃない?そうしたら、この石は力を出せなくなるわけだし、で、ドアも開くと思うけど」
「……ナイス」
どうして気付かなかったんだろ…。
「じゃ、石が力を使わないうちに、さっさとやっちゃいましょー!」
あたしの掛け声で、みんなで石を囲んだ。
そして、手裏剣を振りかぶり――。
「何でこんなことになるんよー!」
理世が叫ぶ。
「天乃があんな案出すからー!!」
「何でわたしなんよ!」
そして始まる喧嘩。
「いい加減にしろーっ!まだまだ修理は途中なんだから!」
あたしが叫ぶ。
結局、あたし達は進級テストに合格した。
ただ、最後の石ををぶっ壊した衝撃で、屋上がやばいことになってしまったため、先生に笑顔で、
「直すまで二年生にしません♪」
と宣告され、現在修理中。
「ほらっ、今十二時!あと明日の始業式まで、いち、にー、さん…二十一時間!」
絵智が衝撃の事実を口にする。
「に、二十一時間〜!?今まで五時間かかってやっと六分の一なのに〜!!」
「直すまで二年生になれないんだから!きちんと始業式から二年生を始めるためには、あと二十一時間で終わらせないと!」
ぶーぶー言いながらも、こうやってみんなで一緒にいれること。なんだか幸せな気分だった。
そんなこと言ったら、思いっきりブーイングくらいそうだったけど。
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2003/12/29(Mon)16:35:39 公開 / 咲羅えんり
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■作者からのメッセージ
はじめまして、咲羅えんりという者です。まだまだ未熟者ですが、よろしくお願いします。
なんだかものすごく長くなってしまいました…。しかも、ハイテンション。皆さんの中で浮いているような気がしています…。
それでは。