- 『コワレタハネノ ツクリカタ 第零羽』 作者:輝 / 未分類 未分類
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第零羽
僕には、羽が片方しかありません。
片方しかないから、うまく飛べません。
神様、どうして僕には羽が片方しかないのですか?
飛べない僕は必要とされませんか?
神様、僕はできそこないですか?
この世界は真っ白だった。
どこもかしこも真っ白で、皆の羽も真っ白で、建物まで真っ白で。
何も変わったところがない世界。それが、この『天界』と言う場所。
「みんな、『カタバネ』がきたぞー」
僕を見て、みんながそう言いながら飛んでいく。
僕の周りには誰もいなくなる。もう、慣れたことだけれど。
『カタバネ』とは、僕の名前。羽が片方しかないから、カタバネ。
これは本当の名前ではないけれど、本当の名前で呼んでくれる人は、もう誰もいないから。
皆と同じ、金髪に蒼い目。でも羽は片方だけ。それが、僕。
僕は、ある場所へ向かって歩いていった。歩くしかない。皆のように飛べないから。
僕が向かったのは、ある神殿の庭だった。ここにはよく、ある方がお忍びで遊びに来ている。
今日もその方はそこにいた。庭の隅に座って、どこかを眺めていた。
大きな体に真っ白な服をまとって、白い髪と白い髭が生えていて、大きな白い羽を持っている人。
「神様」
僕はその方に呼びかけた。僕は時々、ここに来て神様に色々なお話を聞かせてもらっていた。
神様は、天界で一番偉い方。僕たちをこの世に誕生させてくださった方。
僕は神様の前にひざまづいた。神様を見下ろすなんて、無礼な真似はできないから。
今日は聞きたいことがあるんです。
僕の声に、神様はゆっくりと立ち上がった。
「言ってごらん」
「はい」
僕も立ち上がった。僕の背は、神様の胸くらいまでしかなかった。
「神様、どうして僕には左の羽がないのですか?」
「どうしてだと思う」
「わかりません」
「本当に?」
神様は僕を不思議そうな目で見てきた。その、全てを見透かすような瞳で僕を見つめた。
どうしてそんな目で見るんですか。どうしてそんなことを聞くんですか。
わからないから聞きに来たのに。
「カタバネや」
神様は遠くを見つめながら僕の名前を呼んだ。
「お前は自分の本当の名前を覚えているかな」
「はい、神様」
「では、その名前にこめられている意味は?」
「…いいえ、神様」
「それを思い出したとき、もしかしたらお前の望むものが得られるかもしれないな」
そう言って、神様はその大きくて白い、きれいな羽を広げた。
今日はもう行ってしまうのだ。今日は少ししかお話ができなかったな。
羽を広げる神様の、大きな後ろ姿を見て、僕は思わず聞いてしまった。
「神様、僕はできそこないですか。だから羽が片方だけなのですか」
「お前がそう思うのなら、そうなんだろう」
神様はそう言って、飛んでいってしまった。
僕はなんだか力が抜けてしまった。先ほどまで神様が座っていた庭に座り込んだ。
違う、と言ってほしかった。できそこないではないと。誰でもない神様に。
どうしよう。できそこないだと言われてしまった僕に、生きている意味はあるのかな。
僕の心が絶望に駆られた瞬間、足下が音もなく崩れた。消えた、の方が正しいかもしれない。
とにかく足場がなくなって、僕は飛べなくて。
そのまま僕は落ちていってしまったんだ。
人間達が暮らしている、下界へ。
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2003/12/22(Mon)15:36:04 公開 / 輝
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■作者からのメッセージ
皆が当たり前に持っているのに自分だけ与えられなかったモノを求める一人の天使のお話です。
読んでくださってありがとうございました。