- 『クローン』 作者:シア / 未分類 未分類
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原稿用紙約8.2枚
「ついに完成だ!ルシア!お前の望む夢が叶ったぞ!男の子だ!」
ある有名病院の天才院長、キリの喜声が病院の秘密地下室に響きわたる。
院長の妻、ルシアの驚き声。
「ほ・・・本当に・・・!?」
「あぁ、本当さ・・・!僕らの命の誕生だ!!」
そこには、人間が作った、人間の姿があった。
『クローン人間』の赤ちゃんの姿が。
まだ幼い、人間・・・クローン人間の姿だ。
「あぁ、赤ちゃんなんて見るのは久し振りだわ・・・。
私が・・・赤ちゃんの命を失わせてしまって・・・。」
頬に嬉しい涙、悲しい涙が流れる・・・。
「言うな、ルシア。もう赤ちゃんが産めないルシアの為に、僕がこの子の
命をつくったんだ。」
ルシアは頬の涙をぬぐう。
「それにしても、本当の人間の男の子の赤ちゃんみたいね・・・。」
おぎゃあ、おぎゃあと泣く人間がつくり出したクローン人間。
「この子を・・・クローンと名付けましょう。この子をどんなに愛したとし
ても、クローン人間と忘れないために・・・。そして、私とキリが作りだ
した命・・・。」
にこやかに笑う。
「にしても、この事は皆に知らせない方がいい。この子の為だ。
他の人間がどう感じるかもわからない。この子もどう感じるか・・・。」
「そうね。これは私とキリだけの秘密。
この子にも秘密よ。絶対この事だけは言えないわ・・・。
でもいずれ、話す時が・・・くるのか・・・。」
時は過ぎ、クローン少年はすくすくと育ち、中学生になった。
「クローン!気をつけて行くのよ!」
「わかってるよ、ママ。いつもいつも言わなくても僕はわかるさ。」
元気に家を飛び出し学校に行くクローン。
本当の人間のように。微笑ましい姿だ。
でも、そんなクローンを見ても、怖い事があった。その怖い事とは、
ークローンが自分が本当の人間じゃない事と気付く事。
その事だけがルシアにとっていつも気にかかっていた。
そして、クローンだけじゃない、他の人間がクローンを人間じゃないと
気付く事。これだけはルシアだけじゃなく、夫のキリも感じていた。
ただただ幸福な生活が続くばかりでそんな感じ方もうすれていった。
「おい、クローン、期末テストどうだったよ?」
「おいおい、そんな事聞くなっつーの。クローンはいつも100点に
決まってんだろ!?最初の期末テストだって100点だぜ!?」
「おーっと。そーだったな。」
クローンは食べる事だって、歩く事だって何不自由なく生活できた。しかし
テスト。頭の中の知識。それだけはクローンにとって他の人間とくらべると
ずば抜けたものだった。
クローン人間は作られた人間。作られた命。
今の技術では、クロ−ン人間の脳をつくるには、それなりの知識をいれとけ
なければいけなかた。脳のなかを白紙にはできなかった。
学習する能力を身につけていなかった。
だから最初から全て知っておかなければなかった。
クローンの脳にはキリ、ルシアの知ってる限りの知識を叩き込んだ。
そしてキリは有名な病院の院長。学問の事なら全てといわんばかりに
知っていた。
「おいおい、100点と決めつけんなよ。」
クローンの顔には苦笑いが浮かぶ。
「はぁー?お前はいつだって100点だろうよ!!・・・ほら見ろ!」
クローンのテスト用紙をクローンの目の前で見せる。
「もうお前人間とは言えないくらいだぜ!!
化け物かー!?人間は失敗してこそ成功して100点とるもんだぞ?」
どの教科も全て100点。うらやましい限りに。
「はは・・・。脳が全て記憶しちゃってんだよ・・・。」
「うらやましいなーおい、クローン。俺なんか夜ずぅーっと塾だぜ!?」
笑い声があがるなか・・・クローンだけはいつも苦笑いだった。
何でこうなんだろう。何で僕はこういう事が簡単にできるんだろう。
僕は人間・・・なんだろうか。
そう思うクローン少年の考えは日に日に増していった。
時は過ぎー・・・高校を受験する時がきた。
三者面談。
「クローン君はもうこの国の一番いい学校に行くといいですよ。
もう留学にでも行ってもいいくらいです。
なんせこの子は人間とは思えないくらいの天才ですからな。」
先生の笑い声があがる。
「家でもいい子ですし・・・。こんな天才の子で自慢できますわ。」
ルシアも自分の子がクローン人間という事を忘れるように自慢をする。
幸福な家庭、幸福な生活。何不自由ないクローン。満足だった。
そんな自慢話を中断させる言葉があがった。
「僕は・・・天才なんかじゃないですよ・・・。
脳が記憶してるんです・・・。」
「それだから天才なんじゃないかね。現在クローン君のようないっつも
100点を取る天才の子供なんていませんぞ!」
「僕以外にこんな子供なんていない・・・。人間なんていない・・・?」
・・・ルシアは真っ先に思った。知らずの間にクローンの心が歪んでいる。
自分が人間だとは思えない事に気付いてる、思ってるー・・・。
「いやいや・・・クローン君は人ー・・。」
ジョークと説明する先生の言葉よりも先にクローン少年は三者面談の
場所から、天才と言われ続ける所からかけだした。
「クローン!!!」
ルシアはクローンの後を追う。
クローンは家に向かっていた。ルシアはその後を追った。
すると、家でもちゃんと家事をしてくれる、良い子だった。
怒った所など、見た事もなかった。
クローンの心が不安定だ。怒ったようにバタンと戸を閉じる。
ルシアは思った。
バタンと戸を閉じるクローンの気持ちに答えられなかった。
クローンの気持ちについて今まで幸せで考えて無かった。
クローン人間だと言う事を忘れていた。
そんな事がルシアの頭の中をよぎる。
ルシアは戸を開ける。
「クローン!!」
ハァ、ハァと走って来たと思う母を見つめてクローン少年は言った。
「ねぇ、僕、人間だよねー・・・?」
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2003/12/21(Sun)20:31:47 公開 / シア
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■作者からのメッセージ
こんばんは。
はじめて小説を書きます。
将来は小説家になりたいと思っていますが
どうでしょうかー・・・?
皆さんの感想が聞きたいです。
この小説の後は皆様方の想像に
おまかせします*^^*