- 『闇が晴れたら炎の花が』 作者:輝 / 未分類 未分類
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全角5305文字
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原稿用紙約19.45枚
ある村の馬小屋の中。
飼い葉の上に陣取って、博打を始める二人がいた。
郁己が小さな湯飲みに賽を二ついれ、軽く振って地面にふせる。
「丁!!今度こそ絶対丁!!!」
「あ、そ。じゃぁ俺は半でいいよ。」
誠の返事を待って、湯飲みを持ち上げる。
結果は・・・
「半だな。」
「んあーー!!何でさっきっからマコやんばっか当たるんだよっ!!」
「ま、運の差だろ。」
「ちくしょーーっ!!」
「・・・っおい!!お前らっ!!!」
郁己が頭を抱えてのたうちまわっていると、ふいに少年の声がした。
二人がそちらを向くと、まだ8歳程度の少年が肩を怒らせて立っていた。
「何だよ。俺は今機嫌悪ぃぞ。」
「お・・おどしたってダメだぞ!!
あんたら、さっき村に来た人達だろ。何でここにいんだよっ!!」
「何でって言われてもなぁ。
よそ者は歓迎してもらえない、宿もない。」
「流石に野宿はキツイし?この季節じゃ。」
賭博道具をいそいそとしまいつつ、しれっと返す二人組に、
少年は精一杯肩をいからせて抵抗した。
はたから見るととても健気な…。
「ここはオイラの家だぞっ!!」
「ここが家かよ。汚ねーなー。」
「うるさいっ!!勝手に入んなよっ!」
「おじゃましてまーす。…これでいいのか?」
「だ…っだめだそんなのっ!!」
意地悪な大人相手に涙まで浮かんできている。
意地悪な大人はマコやんの制裁をうけて飼い葉の中に突っ伏した。
「いい加減にしろ郁己!!かわいそうだろ!!」
「ふぁ〜い…」
飼い葉の中からこもった声がした。
誠はため息をつき、少年に優しく話しかける。
「ごめんな?勝手に家にはいって。
兄ちゃん達泊まるトコがなくて困ってるんだけど、
ここに泊めてもらってもいいかな?」
「……うん…。」
「ありがとう。キミ、名前は?」
「滋…。」
「そっか、いい子だな滋。」
「…ホント?」
頭をなでられ、それまでぐずっていた滋少年は、とたんに顔を輝かせた。
マコやん、保父さんの鏡。
「現金だねぇ、お子様は。」
余計な事を呟いた奴には鉄拳制裁。
数時間後。郁己と滋は二人で村に買い物に繰り出していた。
「俺らが携帯調理器具持ってて良かったなぁ滋。
お前いっつも何食ってんの。」
「え…食べれる山菜…とか。」
「マジかよそれだけ!?肉食え肉。」
「火がないから。」
「あんだけ馬がいんだから食っちまえよ。」
「だ…だめだっ!オイラの友達だぞっ!!」
「はいはい。肉は買いますって。」
そんな低レベルな会話をしながら二人は市場へ向かった。
が、道中浴びせられる村人達の冷たい視線に、郁己は首をかしげる。
「歓迎しないにも程があんじゃねえの?…俺そんなに汚い格好?」
「…うん。」
「『うん』てどっちにかかってんだよ。後ろだったら張っ倒すぞ。」
「滋!!」
いきなり割り込んでくる第三者の声。
見ると、中年の男性が顔を真っ赤にして走ってきていた。
村長だろうか。
「何をしているんだ!ソイツはよそ者だろう!!」
「え…あ、あの…。」
「よそ者を村に入れたらどうなるか、わからないのか!?」
「でも、兄ちゃん達優しいよ!悪い人じゃない!!」
「子供に何が分かる!!」
男性は汚いモノを見るように郁己に視線を移した。
「旅人か。何が目的だ?」
「いや目的も何も、俺達は一晩の宿を…。」
「嘘をつくな!狙いは金か?家畜か?
今晩にでも村を襲うつもりだろう!!」
「はぁ!?おっさん頭おかしいんじゃねえの!?何で俺らがそんなこと…」
「全く、親が親なら子も子だな、滋!
お前も父親同様村に災厄を持ち込むつもりか!!」
瞬間、滋の目に涙が浮かんだのを郁己は見逃さなかった。
とっさに男に足払いをかけ、地面に転がす。
「うおっ!」
「お〜っとぉ。長い足がごめんなさ〜い?」
「き…貴様ぁっ!!」
「ホラ、走るぞ滋。」
「え。う、うん…。」
怒鳴る男を後目に、二人は市場の方へ駆けていった。
その市場でも不快な扱いを受けたのは、言うまでもない。
「すっっっっげぇムカツク!!!何だアイツらっ!!!」
馬小屋にて。
携帯用の小さな鍋を囲み、三人は夕飯をとっていた。
先ほどの外出から滋も元気がなく、マコやん特製の鍋を静かに食べている。
「最後なんか石投げてきやがったぞガキ共がっ!!!
肉は死守したけどな。」
「それで自分が怪我してちゃ、ただの笑い話だぞ。」
「うっせ。」
郁己の顔や体のあちこちに絆創膏が貼られていた。
買ったばかりの好物の肉を守るのに必死で、自分が子供達の石攻撃から逃れそこねたのである。
ぐだぐだと文句を挙げ連ねる郁己を見、滋が小さく呟いた。
滋も非難の視線を浴びせられ、子供達の石攻撃を受けていくつか傷をつくっていた。
郁己が肉以外に滋もちゃんと守ったらしく、その数は少なかったが。
「・・・ごめんな、兄ちゃん達。」
「何でお前が謝んだよ。お前はアイツらに謝ってもらう側だろ。
同じ村の住人なのにヒドすぎるぜ!!」
「いいんだ。村の人達がオイラを嫌いなのには、理由があるから。」
諦めたような口調。まだこんな小さな子供なのに。
誠は馬小屋を見回した。
「その理由のせいで、こんな馬小屋にしか住まわせてもらえないのか?」
「それは・・・。」
「良かったら、聞かせてくれないかな。」
誠の優しい笑顔を見、滋はポツリポツリと話し始めた。
滋の父親は、元々この村の住人ではなかったという。
いつしかまだ赤ん坊の滋を連れてフラリと現れ、村に住み着いた。
長年の旅で培った知識を村の為に役立て、人望の厚い人物だった。
しかし3年前。
滋の父親が、旅の途中だという男を家に泊めた。
その次の日には、村の畑は荒らされ、金品は盗まれ、家畜は殺され家は燃やされ・・。
大惨事だったという。
その際村長が大けがを負い、現村長に代替わりしたという話だ。
「父ちゃんは、それが原因で村を追放された。
オイラも一緒に出ていくハズだったけど、オイラはまだちっちゃくて。
こんな子供に旅は無理だって、父ちゃんが村長を説得してくれたんだ。」
「それで村に置いといてもらえるいいが、与えられたのは古っちい馬小屋一 軒・・・って訳か。」
「・・・うん。」
「何も分かっちゃいねぇな。この村の奴らは。悪いのはその旅人だろ。」
郁己は椀を置き、ごちそうさま、と手を合わせる。
どんな時でも礼儀は大事。米の一粒には七人の神様。
郁己は膝をパン、と叩いた。うつむいている滋の頭を上げさせる。
「よっしゃ滋!!村の奴らを見返してやろうぜ!!」
「え?」
「・・郁己。また変な事やらかすんじゃないだろうな。」
「ぜ〜んぜん?別に村の奴らをボコにしてやってもいいんだけど。」
郁己は立ち上がりニヤッと笑った。
巨大な筒を担ぎ上げる。
「やっぱ俺流で行くわ。ドカンとド派手にぶちかまそうぜ!!!」
自信たっぷりに笑う郁己を、滋は不思議そうに見つめていた。
横では、こうなると思ったと、誠が盛大にため息をついている。
何はともあれ、まずは鍋の片づけをしなければ。
---その日の晩。
村人達が完全に寝静まった頃。
広場に集った三人の内の一人が、マイクを手に大声で演説を始めた。
『あー、あー、テステス。・・マコやん、コレ接触悪くねぇ?』
「文句言うな、即席なんだから。」
『村人の皆さーん!!こーんばーんわ〜!!!
夜分遅くにお邪魔しまーす。
本日この村に立ち寄ったよそ者A&Bでーす!!』
「単純すぎる仮名はヤメロ;;売れない芸人みたいだから。」
この奇妙なノリツッコミ演説に叩き起こされた村人が、一人、また一人と家から出てきた。
迷惑度が絶頂に達しているといった目で、広場の方を見ている。
ぞくぞくと村人が外に出てくる中、がんとして家から出ない人物が一人いた。
村長である。
「兄ちゃん、これから何すんの?」
「まぁ見てな。迷惑度の高さはともかく、キレイだから。」
「ふーん。」
横の二人の会話は無視し、はた迷惑な演説は続く。
『よくも昼間は石ぶつけやがったなガキ共!!痛ぇんだよまったく!!!
そこでちょっとした仕返しとして、余興をご披露したいと思いまーす!』
そこで村長の家の方を向く。
といっても本当は場所を知らないのであてずっぽだが。
『おーい村長聞いてっかー!?今から仕返しすんぞー。
危ないから家からでておいでー。』
返答ナシ。
近くで子供があくびをしている。
よい子はもうおねむの時間だ。
『アブねーっつってんだろー!!今からアンタの家爆破すっからなー!?
カウントダウン開始ー!!5−!4−!3−!』
おもむろに開始する。
ほとんどの村人は呆れ顔でそれを見ていたが、
ノリ良くつき合ってくれたのは酔っぱらいの親父達。
『2!!1!!!』
サスガにうんざりとした顔で村長がでてきた。
寝間着姿で後ろ手に扉を閉める。
・・と。
『0−!!!』
郁己(と酔っぱらい)の叫びと共に、村長の家が爆発した。
轟音と共に光りの筋が空へと伸びていき・・・
空に鮮やかな大輪が咲く。
寝ぼけなまこだった村人達の間から、歓声がわき起こった。
『おらぁー!!まだまだいくぞーっ!!!』
2発、3発。村中の至る所にしかけた装置から、
どんどん空に向かって花火が打ち上げられる。
眠さも迷惑もよそ者に対する怒りも忘れ、
目の前の美しい光景に村人達は歓声をあげ、ただ一心に見入っていた。
それに気分を良くしたのか、郁己は自分の巨大な筒を担ぎ上げ、
さらに花火を打ち上げる。
その横では、初めて見る花火に興奮した滋が飛び跳ねていた。
「すげー!!!すげーな兄ちゃん!!!!」
『そーだろぉそーだろ〜!!俺はスゲェんだぞー?』
「ちょっと貸せ、郁己。」
「ありゃ。」
上機嫌で花火を打ち上げまくる郁己からマイクを奪い取る。
一息ついて、話し出した。
『俺達はよそ者だけど、この村に危害を加えたりはしません。
・・・まぁ、事情により一軒壊しましたが。あとで弁償しますんで。』
こんな時でも頭を下げる。
破壊性の友人を持つと大変だ。
その張本人は素知らぬ顔で、寄ってきた子供達と大騒ぎ中。
『ここの外の世界には色んな人がいます。
いい人もいれば、悪い人もいる。
この村に悲劇をよんだのは、滋でも滋のお父さんでもない。
悪い心を持った、その旅人だけのはずだ。』
いつしか花火もやみ、広場に響いているのは誠の声だけだった。
郁己も状況を察して子供達を黙らせている。
村中の人間が、よそ者の少年の問いかけにただ俯くばかりであった。
『確かに、3年前にこの村に来た奴は悪い奴だと思う。
でも、それだけで外の人間は全てが悪人だと決めつける必要がありますか?
たった一度の悲劇で、外の世界に目を向けることをやめてしまっていいんですか?
旅人を招き入れてしまったのは、村全体の責任ではないんですか?
その旅人のせいで家も父親も失った子供を、
養ってやることもせずに放っておくのは正しいことですか?』
この子は悪くないのに。
悪いのはその旅人だけだというのに。
小さい頃から苦しい生活をして、守ってくれる親さえいない。
『一度の失敗から目を背けて、何も学ぼうとしないんじゃ、
あなた達の生きていく意味はどこにあるんですか?
失敗からきちんと学ぶことで成長があるんじゃないんですか?
あなた達が学んだのは、子供を差別する方法だけですか?』
答える者は、答えられる者は誰もいなかった。
責任を一人の男になすりつけ、その子供を差別することで3年前を忘れようとしていた。
村人達の醜い心は闇におおわれ、何の光も映さない。
村人達は押し黙ったまま、自分の家へ帰っていった。
家を失くした村長も、暗い顔をしてどこかへ立ち去る。
「さて、そろそろ行くか。」
「あいよー。」
マイクをその辺に放り、まとめておいた荷物を持ち上げる。
郁己もプラプラと手を振り、地面から立ち上がった。
隣にいる少年に声をかける。
「どうする滋。一緒に来るか?」
「・・・ううん。いい。」
「そっか。」
滋の頭をポン、と叩く。
滋はうれしそうに郁己を見上げた。
「オイラ、父ちゃんがいなくなってから村の人達と一緒に笑えたの、
今日が初めてだ。」
「へぇ、良かったじゃん。」
「思ったんだ。オイラもいけなかったって。
もう諦めて、村の人達から隠れてたけど、それじゃダメなんだな。
オイラが勇気だして話しかけたら、今日みたいに笑ってくれるかな。」
「ああ、すぐには無理でもいつか、きっとな。」
人は変われる。
今日はダメでも、明日、明後日、一ヶ月後、一年後。
時間ときっかけさえあれば、人は変われる。
頑なに変わろうとしないのは、ただ、きっかけを与えられないだけで。
ささいな事で、きっと変われる。
今日の問いが村人に届いていれば。
失敗にきちんと向き合ってくれれば。
そうすれば差別もなくなる。皆が笑っていられる。
そう、必要なのは、小さなきっかけと、失敗を認める強いココロ。
今は閉じてるココロの扉。
きっかけという鍵でそれが開けば、心に光りが射してくる。
何も映さなかった心に、光が映る。
暖かくなった心に、炎の花が、咲き続ける・・・。
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2003/12/19(Fri)15:06:02 公開 / 輝
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■作者からのメッセージ
花火シリーズも4つめです。
長いっすね;;おまけに色々とおかしい;
ここまで読んでくださった方にはもう感謝の言葉もありません・・!!
この話、微妙に次の話と連動する予定です。
でも予定は未定(笑
どうなることやら・・・