- 『破滅の印象』 作者:ティア / 未分類 未分類
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全角3270文字
容量6540 bytes
原稿用紙約11.15枚
少年の名は誠一(せいいち)。
彼は人間が手にしてはならない物を手に入れてしまった。
誠一は昔からいじめられていた。友達なんて一人もいない。
心の底からいじめっ子を恐れていた。恐れ続けていた。
その恐れという弱い心といじめっ子への憎しみの念が、彼とあのペンダントを巡り合わせてしまった…。
誠一は、ついにある日、自殺を決意した。
泣きながらロープと小さな箱を引きずって裏路地に来たとき、ふと目に飛び込んできたのは路地の隅っこで座り込んでいる老人。
誠一は問いかけた。「ここで何しているの?」と。
老人は誠一の顔を見上げ、目と目が合ったと思うとニタニタと笑い出した。
誠一には、それは悪魔の笑顔に見えたが不思議と老人から立ち去ろうとは思わなかった。
老人はそっと誠一の手をつかみ、彼の手に何かを渡した。
それは真っ黒なペンダントだった。
老人はしがれた声で不気味に言った。
――それをつければ救われる。怖いものなぞ無くなる。怖くなったら憎め憎め。後には楽しい血の祭りが待ってるぞえ…――
不気味な声、そのものだった。
だが誠一は自然とその言葉にひかれていった。
誠一は後ずさりながら、その老人を後にし、公園の公衆トイレの中で老人から渡された真っ黒なペンダントを身につけた。
が、何も起こらなかった。
彼自身本気で期待していたわけではないが、やはりペンダントをつけたからって自分の心が強くなったりなんかしないようだった…。
…まだ彼は知らない。
その真っ黒なペンダントが何を意味しているか。
その先に待つ結末を彼は… まだ…。
誠一はいつも通り、学校へ向かった。
いつもと違っているのは、首から降ろした黒いペンダント。
教室へ着いた途端、クラスメイトから不気味なペンダントを似合わないと馬鹿にされた。
そしていつも通り、いじめっ子から暴力を受けた…。
しかし。
違った。
結末は違っていた。
いつもと違い、誠一はいつの間にか、いじめっ子を返り討ちにしていた。
誠一の拳には血。相手の血。
彼には血が勝利の証に見えた。
誠一が殴り倒したいじめっ子が立ち上がった。
いじめっ子は誠一に負けたことで逆上し興奮していた。
そのため、また誠一に襲いかかったが、何度やってもクラス一力強いいじめっ子がクラス一ひ弱な誠一に勝つ事ができなかった。
不思議だった。
誠一自身、自分がいじめっ子を返り討ちにしたのは不思議で仕方なかった。 帰り際の細道の中でこう思っていた。
――このペンダントのおかげだ、やっぱりこのペンダントは力をくれるんだ、誰にも負けないほどの――
…間違いに、まだ誠一は気付かない…
翌日、すぐに異変が起こった。
誠一はベットから起きあがると右腕に小さな痛みを感じた。
右腕を見てみると、一箇所細い線のようなものがあった。
触れてみて彼もわかったが、それはかさぶただった。
右腕をぐるっと一回転に細い糸のように、切ったような、かさぶたができているのだ。
少し誠一は戸惑ったが、すぐに家を出ないと遅刻になるため急いで家を飛び出した。
途中、見てしまった。
登校途中にある家、誠一にとってはいじめっ子で昨日返り討ちにした相手が住んでいた家に、たくさんのパトカーが止まっていたのだ。
誠一は何だろうと思い、足を止めしばらく家の周りにむらがっている野次馬の会話に耳を傾け衝撃が走った。
誠一を昨日いじめていた少年が、バラバラ死体となって、明朝、発見されたという事だった。
信じられない気持ちと反面、ざまあみろという事で心が揺さぶられながら、何気ない顔でいつも通り学校へ登校した。
すでにいじめっ子が殺された事は教室で話題になっていた。
その日のHRで、このことについて緊急に全校集会が行われた。皆、注意するように、と何度も先生から言われた。
しかし、殺された奴とは違ういじめっ子が僕にこう言い寄ってきた。
「お前がやったんじゃないのか? 昨日、喧嘩してたからよ」
もちろん、彼は冗談で言ったかもしれないが、誠一は完全にペンダントの力で強気になっていた…。
だから、ムカついてそいつを殴り飛ばした…。
翌日、目が覚めると今度は左腕に痛みが走った。
また同じだ。左腕にぐるっと細い糸のようなかさぶたができている…。
しかし、誠一は気にも止めず登校した。
教室の中は沈黙していた。今度は…なんと、昨日誠一にふっかけてきたいじめっ子が、またバラバラ死体となっていたというのである。
これにはたちまち町中、市内中、日本中が驚愕し、市の方でも厳重な警戒網がしかれた。
半ば誠一はある事に気づき始めていた…。
そんな事件から犯人が捕まらないまま1ヶ月たったある日、誠一は担任に呼ばれた。
不登校が多い、テストの点数が悪い、親を呼ぶ。
それらの担任からの言葉は、誠一は不快に思った。
しかし重要なのは、彼自身も気付かない何かが始動した事だった…
翌日、早朝に誠一の耳に入ってきたのは担任が死んだということ…。
路上でまたもやバラバラになっていたらしい事がニュースで報道されていた。
ニュースを聞いている最中、誠一は右足に痛みがある事に気付いた。
見るまでもなく、そこには右足のふとももをぐるっとかさぶたができていた。
誠一はようやく全てわかった。
――このペンダントは俺に力を与えるだけではない。俺が少しでも気に触った相手を、俺のこの小さな細い傷と引き替えに、この世から消してしまう効果があるんじゃないか?――
恐ろしいことだ。しかし、そんな事が頭の中で考えついたにもかかわらず、誠一は恐ろしいとも思わなかった。
いや、逆に恐ろしい笑みを浮かべ、喜んでいるようだった…。
…彼はまだ気付いていない。
それに気付いたとき、誠一は暴走したように自分から喧嘩を売る人間になっていた。
そして誠一の喧嘩を買ってしまった相手は、次の日にはバラバラとなって発見されていた。
思った通りだった。
彼が狂い始め、気付いたころには彼の両手、両足、さらには体中のいたるところに、グルッっと一回りの細いかさぶたができていた。
彼にはもはや、自分にできる血の乾いた後のかさぶたにすら快楽を覚えていた。
そしてさらに1ヶ月たった時には彼は学校を止め、日本中を放浪していた。
放浪の途中、腹が減ってはコンビニなどを襲って空腹と死に至らしめる快楽を、まるで楽しんでいた。
彼の体中の細い傷はおよそ998本になっていた。
そう、ここにくるまで998人殺してきたのだ。
彼自身でなくとも、彼の意志がそれだけの命を奪っていった…。
ある日、彼はペンダントの力に頼り切るのが嫌になって、恐ろしいことに自分の手で何の罪も無い子供を手にかけた。
きゅうひゃく
きゅうじゅう
きゅう
子供の死体が夕日に照らされていた。
彼の握っている包丁は血に満ちていた。夕日に照らされ、なお赤く染まっていた。
殺人鬼と化した誠一は、子供の死体をみつめ、何かを感じた。
自分を重ねていた。子供の頃、自分が好きだった頃の自分が子供の死体と重なった。
死体のそばにある砂場をほる小さなスコップ、バケツ、どろんこな服装。
彼は我に返った。
思いだした。昔の自分を。
…そこまでだった。
思いだした途端、彼の体の多くのかさぶたを境界線に、彼の体はバラバラにはなれた。
あとには彼自身の首だけが残った。首から上にはかさぶたが無かったからだ。
そして夕日が沈んだとき、彼の首は髪の毛から砂に変わって消えていった。
――――黒いペンダントは恐れた対象を消す。――――
彼は、昔を思いだし…、今の変わり果てた自分自身に、恐れたのだ。
砂場に残ったのは。
真っ黒なペンダント。
誰にだっているんだ。
心の隅に住み着く黒い影が。
でもね、その黒い影に…支配されちゃ…。
ダメなんだよ。
Fin
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■作者からのメッセージ
ちょっと残酷だったかもしれません。ごめんなさい(汗)
感想、批判、お願いします。