- 『翼』 作者:ササキ / 未分類 未分類
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翼が欲しいと彼は言う。
俺は欲しくない、と返すと彼は不思議そうな顔をして何で、と聞き返してきた。
彼は天使の絵が大好きだ。いつもそんなのばかり描いている。
天使程愛らしくて清らかな存在はないと言う。
世の中がそんな人ばかりだったらどんなに平和だろうと言う。
俺は天使の絵が嫌いだ。
天使なんて清らかなものいるわけないじゃないか、そんなものは人間が作り出した幻想だ。
存在なんて初めからしていない。
俺はそういうことをいうお前が嫌いだ。
彼の肩に飛んできた鳥が止まる。カッコウだ。
ほら見ろよ、そのカッコウは翼が生えているけど決して清らかな存在なんかじゃないだろ?
だってカッコウは自分の卵を他の鳥の巣に産むんだぜ?
子供は孵化するとその他の鳥の卵を地面に叩き落とすんだ。
だけど、俺は、そんなカッコウの方が天使なんかより美しいと思っている。
だって生きるための智恵じゃないか。弱肉強食、なんて現実的だ。
だけど彼はなおも言う。
カッコウだって教えれば分かるはずだ、きちんと神様の教えを守ればどんな生物でも幸せになれる、と。
お前は何て馬鹿なんだろう、愚かにもほどがある。
夢ばかり追って現実を見ない奴は救いようがない。
もう俺はお前のお守は飽きたんだ。
「お前、神様の教えを守っていればいつか翼は生えると思うか?」
そう聞くと、彼は笑って、そうなったら素敵だね、といった。
その答えを聞けばもう十分だ。
おれはそっと窓の方を向いている彼に近づくと勢い良く彼の背中を押した。
彼の体は簡単に空中に舞った。思ったよりもずっと感触が軽かった。
そのまま翼でも生えてどこかへ飛んでいくような気さえしたがそのまま彼は下へ落ちた。
上から覗くと見事に彼はつぶれていた。手と足と首が変な方向に曲がっている。
俺は何故か悲しかった。そして初めて、彼に翼が生えて何処かへ飛びさってしまって欲しかったことに気がついた。
俺は翼の生えた天使が彼を迎えに来るんじゃないかとじっと彼を見つめていたが、いつまでたっても彼はそこにずっといた。
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■作者からのメッセージ
ちょっと気持ち悪い文章かもしれません。
初めて文章を書いたので自信はありませんが感想などいただけると嬉しいです。