- 『幸福論』 作者:花田司 / 未分類 未分類
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原稿用紙約4.65枚
「はいっ、本日はご利用頂きまして、誠にありがとうございます。私はですね、そちら様の言うところの、いわゆる悪魔というものでして。どうぞよろしくお願いいたします。
どこから来たって……。ほら、そこの。はい、それです。貴方がお持ちのですね、携帯電話。それです。煙のようなものが出てきましたでしょう。あ、故障ではないのでご心配なく。それです、その煙が私だったと、そういうわけなんです。何で出てきた? それはお電話を頂きましたのでやって参りました。かけた覚えがないって、そんなそんな。それでは私が参りますわけがございません。
で、ですね。早速で失礼なんですが仕事の話に入らせていただきますね。お願い事をお伺いしてもよろしいでしょうか。はい、恐れ入ります。それが私の仕事です。
――え、お代ですか。それは勿論お客様のお命です。古今東西今昔、悪魔への報酬はそれと相場が決まっております。……ははあ、そんな取引をするものはいないとおっしゃる。それはお客様、早計というものです。物語などでありますでしょう。この望さえ叶うなら命も惜しくない、ですとか。私どもはそれを実践しているわけでして。それに、ほら、世の中自殺者がどれほど多いかご存知でしょう。いらないものを欲しいものと交換する。いわゆるリサイクル業というやつですね。ちょっと違いますか。あっはっは。
納得いただけましたでしょうか。はい、それではご要望をお願いいたします。……時間、ですか。いえ、私の方には特に都合はありませんが……。ええ、そりゃ数分くらいでしたら幾らでもお待ちいたします。
……ははあ、世界一の美女が欲しいと言えばどうなるか。ええ、それは勿論世界一の美女を手に入れたと、お客様が思われた瞬間お命を頂戴すると、そういうことになります。……で、よろしいですか。あ、違うのですか。はあ、はあ、納得するまでは決められない。ええ、ごもっともでございます。
ははあ、金持ちになりたいと言えばどうなるかと。それは……はい、はい、そうです。使う暇なくご臨終です。ええ、ご明察。そういう例もございます。ええ、まあ、もしかしたら本意ではなかった可能性もございますが……、お客様の言われることですから、その、仕方なくと申しますか、ええ、そういう場合でもお代は頂戴いたします。ご本人が納得されているかどうかというのは、これは、もう個人の問題ですから、私どもが一方的に判断できることではございませんし。それにですね、以前のお客様ですが、金貨に埋もれて死にたいと、そうおっしゃられた方もいらっしゃいまして。ええ、ご満足いただけたのではないかと思います。そういう例もあるわけですから……。
は、それは表現だったのではないかと。いえいえ、これは少々たとえが悪かったでしょうか。そうですね……。ああ、そう、やはり以前のお客様なのですけれども、畳の上で死にたいと、そうおっしゃった方がいらっしゃいまして。牢屋にですね、お住まいでしたので、そのようにお考えになられたのではないかと存じます。その時はですね、お客様の古い家の畳の上で、まわりにご友人ですとか、ご家族の方ですとか、いろいろな方が駆けつけていらっしゃいまして、彼らが許す、まだ死ぬなと、口々にそう言われるなかでお客様はお亡くなりになられました。
はい! ええ、そうなんでございますよ。ご本人の望、それを叶えるのが私どもの仕事なのです。え、何でございましょう。先ほどのお金持ちになりたいと言う場合にどうしてお金が使えないか、ですか。ははあ、それはですね、お客様が『お金持ちになりたい』と決められた時に、そのお金をどんな風に使うか、それこそお話でも書けるようにきっちりと決められている場合はその通りになります。ですが、大抵の方は漠然と『お金持ち』としか考えていらっしゃいませんので、お金だけ手に入れられた時点で亡くなられると、そういう結果になります。ご理解いただけましたでしょうか。
はい、そうですね。ですから『幸せになりたい』と、それだけでは望みを叶えることはできません。どういう状態をに幸せというのか、くっきりと、イメージしていただけませんと。それが幸せへの第1歩、というわけですね、はい。
それでは――何をお望みになられますか?」
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■作者からのメッセージ
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