- 『ひ ろ い ん 2』 作者:ラインストーン / 未分類 未分類
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全角1600.5文字
容量3201 bytes
原稿用紙約6.65枚
翌日。
林檎は漫画を描くのに必要な最低限の物を一通り揃えた。
だが、いくら漫画家になりたいと思っても、そのためには
白い紙を埋める技術や、読者に喜ばれるストーリーを考える事が
必要になってくる。
「あかん。これが丸ペンやろ。これトーンやろ、どうやって貼りつければ
これ貼りつくんやろ…」
漫画家になりたい人は大勢いる。林檎だってその大多数のなかの一人だ。
漫画を描くなんて、すごく簡単な事だと思っていた。
「漫画家」いや、まだなってもいない。
たった今始めたばかりなのに、挫折しそうになる。
「締め切りは…?」
林檎は昨日の夜見たあの文字を思い出し、ページをめくった。
「え…。一週間後ぉ!!??」
―――この雑誌買ったの…
確か一ヶ月前だったからな…。
―――次回にしよかな。
や、駄目!駄目や!そういう軽い考えが人生を甘くさせるんや…。
とにかく、描く事から始めよう。トーンの貼り方も、
丸ペンの使い方も…。
―――短い時間だけど、知識を詰め込もう…。
林檎の七日限りの長い戦いが始まった。
林檎が描いた物語は、彼氏に振られて失恋した女の子が、同じ部活仲間の
相談相手の男の子と恋に落ちるという物語。
ありきたりかも知れないけれど、とにかく必死だった林檎は、
寝る間も惜しんで只ペンを進めた。
全ては、小さい頃の夢を叶えるために。
今も同じ夢を見ていた事に気づいたから。
―――今の私を蹴り飛ばせ。
―――想う事一つ一つ。
幸せに夢見るだけで終わらせたくない…
林檎の決意は、今までたどって来たどんな道よりも険しかった。
締め切りギリギリで、作品は出来あがった。
「うん、初めてにしてはいいやんか?」
母親の励ましの声もそこそこに、林檎は「夢」をポストに押しこんだ。
―――あとは、結果を待つのみ!!
月日が流れるのが早かった。
それから二ヶ月、林檎は進路も決め、落ち着いた中学校生活を送っていた。
周りの友達のように受験勉強に苦しめられる事もさほど無く。
結構幸せな日々を辿っていっていた。
「林檎〜?帰ろ。」
「あ、今日うち本屋寄るから先帰っといてぇ」
「おっけ!」
友達についてきてもらっても良かったのだが、なんとなく
恥ずかしかった。
(でも、もしも、もしも大賞とかになってたら…)
(新人漫画家は十六歳!!なんて)
「まっさかなぁ〜!!」
思わず声に出してしまった林檎は、誰もいない廊下で一人でにやけた。
本屋の店頭に並ぶあの雑誌。
(あぁぁ〜。心臓の鼓動がテロップで流れそ…)
ページをめくる。
「大賞…
文字が鮮明に林檎の目に映る。
…ペンネーム:春菊さん」
「…」
他は?あたしの名前…
結局、何回ページをめくっても同じ事だった。
林檎の名前は、なかった。
自分が見落としてるのかと心で何回も思い直して、その度に
ページをめくった。
けれど…
家路に着くと、林檎は机に突っ伏した。
―――当たり前やん。何も勉強しないで書いたんやし…
―――大体、話も今思うと簡単すぎたな。
―――だけど…
林檎は買ったペンを転がす。
涙を、必死で我慢した。
けれど、限界が来る。涙が溢れる。
しばらく林檎は、何も考えずに泣いた。
だんだん、何が悲しくて泣いているのか自分にもよくわからなくなってきた。
気休めにと、CDをかけた。
いつも何気なく聞いている曲なのに、何故だか心が休まった。
夢みていたこと、いつか叶えたい
想いだけ、いつも偉そうに高鳴るけれど
もうちょっと、先を見て 私が描きたい事は何?
歌詞の中に書かれていた言葉。
―――私が書きたいこと…
―――あの時は確かに必死で、審査員受けを狙った話ばかり考えていた気がする。
―――私が描きたい事を書く…
―――小さい頃見た夢
―――忘れたわけじゃない
―――まだ、夢から抜け出せないでいるのは
今も同じ―――
《続く》
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2003/12/10(Wed)20:03:07 公開 / ラインストーン
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■作者からのメッセージ
えーと、次回で最終回となります!
こんなんで完結するのか!?って
感じですね。ハイ。
とりあえず頑張りたいと思います!!