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『トランペット・ハート』 作者:柳沢 風 / 未分類 未分類
全角2113.5文字
容量4227 bytes
原稿用紙約8.95枚
来年になったら、
私とあいつは離れ離れ。
あいつは、趣味だったトランペットを本格的に習うらしく、
来年の1月・・、
今は12月だから一ヵ月後にあいつはフランスに行くらしい。
・・私は今でもあまり実感できない。
だって小さい頃から一緒だから、
今更居なくなるなんて・・・、
信じられなかった。
「鈴、なにぼうっとしてるんだ?」
「へ、正平っ・・」
ぼてん!
突然話し掛けられた鈴という少女は派手に尻餅をついた。
あいつこと正平は、鈴のその状態を見てあざ笑う。
「お前、何アホなことやってんだよ・・。
俺がフランスに行く前に怪我するんじゃないか?」
ごす!
「いってえ!」
正平の部屋の中に鈍い音が響き渡った。
鈴が正平の顔面にパンチを食らわしたのだ。
「私をあざ笑った罰よ」
そう言いながら次は鈴が正平をあざ笑った。
それを聞いて正平が顔を歪ませる。
「この・・、馬鹿女!」
ぺしん!
正平が鈴の額に平手打ちを食らわした。
「なにすんのよっ、この大馬鹿正平!」
鈴は素早く正平に殴りかかると、
正平もそれに応じて鈴のパンチを軽やかに交わす。
「まだまだだな鈴公」
「なにを!」
鈴は隙をついて、
強い一発を正平の腹に食らわせた。
鈴の笑い声や昌平の大声が響く。
ふたりにとって、いつも変わらない光景だ。
だが今では鈴は複雑な気持ちだった。
『あともうちょっとで、
こんなことも出来なくなるんだな・・』
それなのにどうして正平は平気な顔をしているんだろう。
この頃はいつもそう思いながら鈴は平気な顔を作っていた。
「・・ねえ正平」
「ん?」
鈴は少し顔を傾けると、軽く笑っていった。
「なんでもない」
鈴は顔をそらして、
ベットの上にあるトランペットを見た。
「そう言えば、正平のトランペット聞いたことないんだ。
ねえ吹いてよ、正平のトランペット聞きたい」
そう言うと正平は顔を真っ赤にさせてトランペットを隠した。
「れ、練習中だから無理!!」
「練習?なんでよ。フランスの学校のテストで吹いたんでしょ。
なにを練習するのよ!」
「ああーうるさいなっ」
正平はそのまま、トランペットをケースにしまってしまった。





それからあっというまに一ヶ月が過ぎた。
まだ鈴は正平に自分のことも教えてもらってない。
鈴は駅のホームで軽く舌打ちした。
正平は家族や知り合いにあいさつをしている。
「いってらっしゃい」
「がんばれよ」
「また会おうな」
ありきたりな台詞が皆言い終わると、
正平は鈴のほうに歩いてきて言った。
「鈴も・・、またな」
「うん、がんばってね」
鈴もありきたりな台詞を言ってから、
小さなため息を溢した。
そんな鈴を見て正平が笑う。
「なんだ鈴、俺と別れるのが悲しいのか?」
それを聞いて鈴は拳を振り上げた。
ごす!
「いたあ!」
鈴の拳は正平の額に直撃した。
今までにないクリスタルヒットだ。
「今までの恨みを拳に込めました」
鈴はそう言ってガハハと笑った。
それからふたりは一瞬静かになってからゆっくりと目線を合わせた。
先に口を開いたのは正平だった。
「またすぐ帰ってくるからな・・、うん」
「その時が学校を退学されたときじゃないのを祈ってるわ〜」
鈴はにやりと嫌そうに笑う。
それからぱっと爽やかな笑顔になった。
「いってらっしゃい。結果とお土産楽しみにしてる」
鈴は妙に『お土産』に力を込めて言った。
正平は軽く苦笑い。
そのとき、
『電車がきます。皆さん白線までお下がりください』
いよいよ電車が来た。
これに乗って、空港から飛行機に乗ってフランスまで行くのだ。
鈴はつい、
「遠いなあ・・」
と漏らしてしまった。
正平はさっきの言葉を聞いたのか聞こえなかったのか・・、
鈴には分からなかったが気にしなかった。
第一一生の別れじゃないし、
暗くなっても仕方がないからな、と思っていた。
だが、
ひとりトランペットケースをぶら下げている正平が、
なぜか鈴の瞳には悲しく映った。
シュー・・
電車のドアが開き、正平が中に乗り込む。
夜が遅いということで、乗客はほとんどいなかった。
外がとても暗いので、鈴以外の全員が帰ってしまった。
でも本当は、
正平と鈴を気遣ったからなのだ。
正平は電車に乗ると早口で言った。
「俺、帰ったら真っ先にお前に会いに行くからさ!
それと言いたい事があるからその時きいてくれるか?」
「うん、がんばれ」
鈴が笑って言うと同時にドアが閉まっていく。
すると正平がトランペットをすばやく取り出した。
「?」
鈴が首をかしげると、
正平が窓から体を乗り出して、
小型のトランペットを吹き出した。
聞いたことのないメロディだ。
だが、
とても心にしみた。

『パー パパー プアー・・』

出発して行く電車に音色が響くのがわかる。
自分の心に響くのがわかる。
鈴は、
ずっと音色を聞いていた。
いつまでも。
いつまでも・・。





正平が最後に吹いた曲の題名は、
鈴が知ることは一生ないだろう。
だってそれは、
正平のオリジナルの曲だからだ。

その曲の題名は、

『I love you』









未来の鈴と正平はどうなるのだろうか。
それは誰にもわからないが、
多分・・・、嫌きっと、

ふたりは言える。




I love you …







2003/12/09(Tue)22:56:04 公開 / 柳沢 風
■この作品の著作権は柳沢 風さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
恋愛物・・のつもりで書きました。
よくわからないかも。
はわわわわわわ・・。
ひろい心でよんでくださいませ〜。
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