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『願わくば、この炎の花と共に・・・』 作者:輝 / 未分類 未分類
全角3673文字
容量7346 bytes
原稿用紙約13.8枚

−−−ねぇ。どーして父さんは世界一なの?
−−−ん?何だ、イキナリ。
−−−だって世界一ってことはスゴイんでしょ?父さんは何がスゴイの?
−−−うーん・・これは企業秘密なんだが・・。
   しょうがない!お前だけには特別に教えてやるよ。実はな・・・。




「お目覚めかね?橘郁己くん。」
目が覚めて一番に聞いたのがこの老人の声。
冷たい石床に転がっていた郁己は、うんざりとしたように口を開いた。
「こんな堅いトコで寝かされて、目覚めサイアクなんだけど。」
「おぉ、それは失敬。逃げられては困るのでな。」
自分と老人の間に隔たる鉄格子。
郁己が今いるのは、石牢の中だった。

事が起こったのは昨日。
いつものように誠と二人で道をブラブラと歩いていたところ、
この老人の部下に捕まったのだ。

石牢の中には自分一人と愛用の巨大な筒。
一緒に捕まったハズの誠の姿が見あたらない。
「・・誠は?」
「別室にて待機してもらっている。安心したまえ。彼もすこぶる元気だ。」
「あ、そ。」
別室ったって、どーせ牢屋だろうが。
胸の中でつぶやく。
「さて。そろそろ本題に入らせてもらおうか。
 私がナゼ君を捕らえたか分かるかね?」
「知らねー。」
相変わらず床に転がったまま空返事を返してくる郁己に、
老人はイラついたそぶりも見せず、静かに微笑した。
「君のお父上が発明した、人体発火技術について・・と言えば分かってもらえるかな?」
「なっ・・!!」
予想外の言葉に思わず飛び起きる。
老人は郁己の反応を予想していた、というように笑っていた。
「・・・アンタ、何でそのことを知ってんだ!?」
「そんなことはどうでもいい。君はお父上からその技術について何か受け継いでいるだろう?」
「・・さあね。受け継いでたら何だってんだよ。」
「我々にはその技術が必要なんだよ、郁己くん。
 今、ある二つの国が戦争しているのは知ってるだろう?
 私は片方の国の大臣を務めていてね・・。
 戦争に勝つために、その技術が必要なんだ。
 君には、我々に協力してもらうか・・・。
 でなければ、技術の秘訣を話してもらった後に、
 死んでもらうしかない。」
老人は笑っていた。人の良い笑みではなく、人殺しの残忍な笑顔で。
郁己はそんな老人の笑顔を見、しかし即座に言い放った。
「断る。」
「何をだね?今のを聞いてわからなかったか?
 君に選択権はあれども、否定権は存在しない。」
「うるせーな。親父はこの術を残すつもりはないって言ってた。
 この術の使い手は、俺で最後じゃなきゃいけないんだよ!!
 ・・それに。お前らみたいな怪しい奴らに協力すんのもヤだし。
 まだ死にたくもないし?どっちも全力でお断りだね!!」
マコやんにも怒られるし。それが一番怖い。
老人は呆れたような目でこちらを見てきた。
「これだからガキは困る。君に否定権はないと言ったはずだが。」
「勝手に決めんじゃねーよ。…ところでさ、マコやんに刀持たせたまま?」
「何?」
「持たせたままなんだったら、失敗したねぇ。」
自分も筒を取り上げつつ、笑う。
その瞬間、衛兵が息をきらせながら走ってきた。
「た…っ大変ですっ!!ソイツの連れが脱獄しましたっ!!」
「何だと!どうやって牢から出たのだ!?」
「それが…鉄格子を斬られました…!!」
「何…!?そんなことが…」
郁巳がほらみろ、というように大声で笑った。
老人が忌々しげに見やる。
「バッカだなぁ!あいつに刀を握らせたら、斬れないモンなんてねーんだよ!!」
「くそ…!!」
「マコやんが脱走したなら、俺も心おきなくトンズラするとすっか。」
言いながら老人に背を向けて。
「噴けっ俺様花火っ!!」
筒から何かをブっ放した。
轟音と共に煙が立ちこめ、視界がさえぎられる。
「じゃーなっクソジジイ!」
視界が晴れた後には、壁には大穴が開き、
あざやかな色で輝く火花が散っているのみだった。
「くそっ!!ヤツを探せっ!!何としてでも捕まえるんだ!!」


脱走した郁巳は、森の中を駆けていた。
あの建物は森の中に建っていたらしい。
「何なんだよ、あのジジイ…」
人体発火術。失われた古代の究極の戦闘技術と言われている。
郁巳の父がその謎を解き明かし、術を修得した。
父が生前自分に教えてくれた、最後の技術。
「しっかし。」
郁巳はふと立ち止まった。
「しつっけーなぁ、ジジイ。」
後ろを振り向く。
そこには息をきらして走ってくる老人の姿があった。
「ま……待て…っ!!」
「あーあー、そんなにムリすっとポックリ逝っちまうぞー?」
呆れたようにため息をつき、筒を上に向けた。
空に一発、花火を打ち上げる。
−−−ドーーン!!
と、音と共に空にあざやかな花が咲いた。
「何のつもりだ?」
「キレーだろ?これが花火だ。
 俺は花火師で、皆を喜ばせるのが仕事なんだ。」
空を見つめる郁巳の目は、どこか寂しそうで。
花が散るのを見届けると、弾切れになった筒を地面に放り投げた。
「親父もそうだった。人の笑顔を見るのが大好きで、
道具がなくても身一つでいつでもどこでも花火が上げられるように、
人体発火術を解明したんだ。」
淡々と言いながら、郁巳は頭に巻いていた布を解いた。
それは、まるで意志をもつのように、郁巳の腕に巻き付く。
「アンタに・・親父や俺の気持ちが分かるか?」
静かに問いかける。郁己の目は、もう笑ってはいなかった。



同じ頃・・。
脱走した誠は、追っ手を蹴散らしながら森の中を走っていた。
「くそ・・・こんな森の中じゃどこに行ったらいいんだか・・。」
郁己を捜さなければ。
あの方向音痴が正しく街道まで出てこられるとは思えない。
いや、それ以前に。
ちゃんと逃げ出せているのだろうか。
(あの男達がつけてたのは・・出穂国の紋章・・。)
確か今現在戦争中の国だったハズだ。
そんな国のゴタゴタに巻き込まれては、たまったもんじゃない。
こういう場合はさっさとトンズラをこくに限るのだが・・・。
「あーもうっ!!落ち合い場所でも決めとくんだったっ!!」
誠が頭を抱えて怒鳴る。消えることのない苦労性に合掌。
と、その時。
---ドーーン・・・
遠くで音がした。
あの聞き慣れた音・・・空に咲く炎の花。
「・・郁己・・!!」
誠は180度方向転換し、花火が上がった方へ駆け出した。




郁己の腕に巻き付いた布は、風にたなびき、
燃えさかる炎のようにゆれていた。
「親父は・・・花火が大好きだったから、あの技術を解明したんだ・・。」
思い出を懐かしむように切なく、優しく呟いた。
老人は、そんな郁己からほとばしる、理解しえない恐怖に震えていた。
「それを…戦争に使うだぁ!?ふざけんじゃねえっ!!
 親父が解明した花火の技術を、人殺しになんか使わせてたまるかっ!!」
叫びと共に。布が巻き付いた腕を地面に叩きつけた。
「な・・何をするつもりだ!!」
「そんなに見てぇなら見せてやるよ。その身でじっくり体感しな!!」
とたん、老人の足下が紅く輝きだし、炎が一気に立ち上る。
老人は空高く打ち上げられた。
「咲け、紅蓮!!」
夜空に、一輪の輝く紅の蓮が咲いた…。



「・・郁己っ!!」
「おー、マコやん。おっせ〜。」
「はぁ!?わざわざ迎えにきてやったんだろうが!!
 どーせお前、一人じゃ街道まで出てこれないだろ?」
「うん。サンキュv」
「え?・・あぁ。」
いつもより素直な郁己の態度に釈然としないものを感じながら、とりあえず誠は歩き出した。
郁己も隣をついていく。布を頭に巻き直しながら、何気なく呟いた。
「・・やっぱさ、戦争はいけねぇよな。」
「何だよ、突然。」
「だってさ、戦争はたくさん人が死ぬだろ?みんなが泣くんじゃねぇか。
 俺は・・皆を笑顔にするのが仕事だから・・やっぱヤだな。」
寂しげに言う郁己を見、誠はさっきの釈然としなかったものがなんとなく分かった。
郁己は、まだ幼い頃のあの出来事を気にしていたのだ。
(まったく・・・)
「なぁ、マコやん。」
「何だ?」
「俺の花火はさ、みんなに喜んでもらえてんのかな。
 ・・・親父みたいに、出来てんのかな・・。」
あのことを気にしているのは、もうお前だけだというのに。
誰も気にしちゃいないのに。
この世界一の技術を受け継ぐ花火師も、他と変わらぬ人間なのだ。
心の傷は、楽には癒えない。
「・・少なくともおれは、お前の花火は好きだよ。」
「誠・・。」
「他のヤツだって、好きだと思う。
 お前の花火を見たヤツは、みんな笑顔になってただろ?」
「・・・・。へへっ。」
呆然としていた郁己は、恥ずかしそうに笑みをこぼすと、後ろから誠に飛びついた。
「うわっ!!何すんだお前っ!!く・・首がしまる・・・っ!!」
「ちくしょーっ!!だから好きだぜ、マコやんってーー!!!」
「・・ほ・・ほんとくるし・・っ!!ちょ・・・っ!!!」


願わくば、皆がいつまでも笑顔でいられるように。
戦争とは、本当にむなしいものだから。



少しでも多くの人が笑顔になれるように。



今日も、空に花火を咲かせる・・・・
2003/12/08(Mon)12:45:32 公開 /
■この作品の著作権は輝さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
ちょっと久しぶりです〜
学生にとって地獄の日々だったもんで・・。
花火シリーズ3つ目です。
これだけだと訳わからんかもなので、お暇でしたら1,2個目も読んでいただけたらうれしいですv
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