- 『いつか貴方と一千の星−後−』 作者:柳沢 風 / 未分類 未分類
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原稿用紙約12.35枚
俺が目覚めて座っていたのは、一本の紅葉の木の上だった。
何故こんな所にいるんだとうろたえた時、
「くしゅんっ」
と、ひとつのくしゃみをした。
洋館の中に入った覚えがない。
どうやら一晩中、俺は外でいたらしい。
体が重い。顔が熱い。
困った・・。完璧に風邪をひいてしまった。
よりによって旅行中に風邪をひくとは・・、俺も馬鹿だな。
そんなことを考えながら、俺が木から降りようとした時、
「勇人さん、何故そんな所に!?」
俺はその声に驚いて、木から足を滑らせた。
バタン!
・・豪快な音をたてて、
俺は木の上から地面にたたきつけられた。
「勇人さん、大丈夫・・ですか?」
洋館の主人、星紅が心配そうに尋ねてきた。
「だ・・」
『大丈夫じゃないけど大丈夫』と、言おうとした時だった。
俺は体がくらつき、胸が気持ち悪くなって、
そのまま地面に倒れてしまった。
かすれる意識の中で、星紅が大声を出して俺を呼んでいるのが聞こえる。
親父が俺の体を揺らすのがわかる。
だが、俺はその中で意識が途切れてしまった。
あれからどれ位の時間がたったのだろう。
俺は吐き気が無くなったのを感じながら、薄っすらと目を開けた。
俺が寝ているベットから少し離れたところで、
親父と星紅が座っていた。
ふたりはぼそぼそと小さな声で話し合っている。
俺は気付かれない様に、その会話に耳をかたむけた。
「・・そろそろ勇人に言うのかい、あのことを・・」
親父の声だ。
つづいて星紅の声が聞こえてきた。
「だけど、今の勇人さんには熱がありますから・・、
あのことを言っても意味が分からないかもしれません」
『あのこと』ってなんだよ。
気になるんだが・・・。
そんなことを考えていたときだった。
星紅の大声が聞こえてきたのは。
「だって・・、言えないじゃありませんか。
私はもう、・・死んでいるなんて」
「・・・は?」
俺はつい起き上がって声を出してしまった。
ふたりは一斉にこっちを向く。
星紅は苦しそうな顔をしながら言った。
「ごめんなさい勇人さん。
実は私は明治時代・・80年位前の人なんです」
頭が回らない。
意味がわからない。
じゃあなんでここに・・、
なんでこんな若さでここにいるんだ。
「意味不明な嘘だな・・」
「嘘じゃありません」
「じゃあなんでそんな姿で・・」
星紅は少し目に涙ぐみながら口を開いた。
「ここの一千の星の力です」
一千の星・・。
昨日見た星のことか?
「あの星には言い伝えがあるんです。
『山の上の一千の星に清らかな心の持ち主星に祈れば、その者の願いひとつ叶える』という言い伝えが・・」
俺はつい苦笑いをする。
そんなのおとぎ話じゃないのか?
すると、星紅は目を細くして話し出した。
「私病気持ちでいつも、勇人さんが泊まっている部屋で窓を眺めていたんです。
私は一度、外に出て窓から見える紅葉や星を見たかったんです。
そんなある日、
ひとりの男の人がこの洋館にやって来て『一晩泊めてください』と言ったんです。
その晩、男の人は私のところにやって来て、色んなお話をしてくれたんです。
そのとき私、
『外に行って星を見たい』って言ったんです。
そしたらその男の人私の手をひいて外に連れて行ってくれたんです。
でもその晩外が冷えてて・・、
それがもとで体調を壊してしまって、
そのまま寝たきりになってしまったんです。
そんな私を見て男の人は責任感じたんだと思います。
男の人はここの一千の星の言い伝えを思い出して祈ったんです。
『自分とこの子をかわらせて下さい』って・・」
「それでその男はかわりに死んだってか?」
俺は素っ気無く言った。
あまり信じられなかった。
というか考えられなかった。
この世でこんなことが起こるなんて・・・。
すると星紅が静かに口を開いた。
「その男の人は、・・勇人さんのおじいさんです」
・・・へ。
俺のじいちゃん?
俺がぽかんとすると、親父はポケットから一枚の写真を出して、俺に無言で渡した。かなり古びている。
「これ・・、何?」
俺がきくと、親父は、
「さっさと見ろ」
と、俺を急かした。
俺が写真を見ると、それは・・・星紅と、じいちゃんの若い頃の姿だ。
星紅は今と全然かわらない。
だが、じいちゃんの姿はとても若い(と言っても俺も写真で見た)。
俺が写真を見つめていたとき、
親父が口を開いた。
「実はその時、私もいたんだ」
「へ・・・」
親父がいた?
「そのときはお前のおばあちゃん・・、
私の母以外、言わばまだ生まれたばかりの私と父が山へ登った」
こまった。
そろそろ頭が回らない・・。
「私はそのころのことをほとんど覚えていないが、
この山と彼女のことは覚えていた。
当然、私の父がやったことも・・・」
そこまで言うと、
親父は黙ってしまった。
俺はそんな親父を見てから、星紅に視線を移した。
星紅はだまって俺を見てから、
少し迷ったように目を細くしてから、
俺の手をひいて歩き出した。
「ど、どこに・・」
俺が聞く前に、
星紅は話し出した。
「貴方のおじいさんはここの一千の星に願い事をして私を生かしました。
でも星の力は中途半端で、
私は永遠の命を持ってしまったんです。
『永遠』といっても私の体は人なので体の中の細胞はボロボロなんです・・。
今のまま生き続ければ私の中の細胞はいつか完全に動かなくなります。
そんな私はもう・・、死人と同じなんです」
俺は『死人』ときいてかっとなった。
「お前は死んでないじゃんか!
生きてるから体だって体温ってもんがあるし、
感情ってもんがあるんだ!」
俺は夢中で言った。
いつの間にか俺の目には涙がたまってきていた。
それを見て星紅は優しく笑って俺の手を握った。
「勇人さんは優しいんですね」
俺はそんなことないと首をふる。
星紅はそんな俺を見つめて言った。
「私も願い事をしたんです。
もし私に大切な人が出来たら・・、自分は消えるっていう願いを。
・・・だから、私は消えます」
俺はぽかんとした。
「なんで」
俺が大声できくと星紅はゆっくりと言った。
「大切な人が出来たからです」
俺はぽかんとする。
俺が気付いていないのは仕方ない。
こういう話にとてもうといのだ。
星紅はニコリと笑うと上を見上げた。
すると「わあ」と声を上げて飛び跳ねた。
「どうしたんだ」
俺がきくと、星紅は満開の笑顔を向けた。
「一千の星です。勇人さん!」
それをきいて俺も上を向く。
すると俺も「わあ」と声を上げた。
それは昨日見た星よりも、一千倍位綺麗な『一千の星』・・。
俺が星に見入っていたとき、
星紅はぐいっと俺の腕をひっぱった。
「勇人さん、願い事を言ってください」
「へ」
そんな突然言われても、と俺が困ると、
星紅は俺の顔を上に向かせていった。
「一千の星はきっと、貴方の事を裏切りません」
すると星紅の体が光り始めた。
「なんだ!?」
俺が叫ぶと、星紅は薄っすら笑った。
「時間です。もう・・、私に残された時間はあと少しです・・」
俺は顔を真っ青にした。
「消えるのか?」
星紅は少し下を向くと言った。
「私が消える前に、願い事を言って下さい。
そうじゃないと、私悲しいです」
それだけ言うと、星紅は上を向いた。
夜空には綺麗な一千の星。
「でも、最後に勇人さんと見れてよかったです」
俺はそれを聞くと静かに言った。
「また、見に来ようぜ」
星紅は顔をぽかんとさせる。
俺は願いを決めた。
「またふたりで一千の星を見れますように」
・・一千の星が一瞬強く輝いた。
星紅が笑うのがわかる。
そしてその影が薄れていくのがわかる。
その影が一瞬、俺の体を包み込んだと思うと、
・・消えた。
俺はそこで、ずっと座っていた。
後ろで親父が立っているのがわかった。
そのとき、
紅葉の木がざわめいたのがわかった。
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ひとりの青年が、
ある紅葉の木の前でたっている。
その後ろには、古びた洋館がたっている。
青年はそこをゆっくり見渡すと、
ひとりの少女が立っていた。
少女は青年に気付くと薄っすらと笑い消えた。
青年はそれを見て、
笑いながら山を降りて行った。
そのあとで、
紅葉の木がざわめいていた。
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2003/12/07(Sun)21:21:00 公開 / 柳沢 風
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■作者からのメッセージ
最後の最後は読んでる方にお任せです。
なんだか書いているうちに、
話がややこしくなってしまいました・・。
許してくださいませ。
最後まで読んでくれた方有り難うございます!