- 『雪とパンプス』 作者:まつ / 未分類 未分類
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「分かっていたよ」
彼はふっと笑うと、そう言った。
クラシックのBGMが突然聞こえなくなる。目の前に映っていた彼の姿も白くぼやけてくる。
…私はやっぱり、嘘をついていたのか?
「お皿をお下げいたします」
腕にナプキンを下げたボーイが私と彼の食べ残した料理を下げていく。そのボーイの愛想笑いが、私の胸をひどく突き刺す。
「今までの笑顔も、今日の誘いも…君が僕を見ていないのも。君は、僕じゃなくて他の誰かを僕から見ていた」
私は彼から…あの人を探していた?
「でも、いつかは僕を見てくれるんじゃないかと信じていたよ」
自分でも気付いていたのかもしれない。彼を愛していないということを。
私は…そんな曖昧な気持ちのせいで、彼までも傷つけていたのだ。
私は立ち上がった。
もうこの場にいる必要はないと思ったから。
いや、この場にいることが、もう出来なかったから。
彼のことを好きだと思ったこともあった。
亮太のことを忘れたことだってあった。
でも、私にも彼にも、きっとそれは愛想笑いでしかなかったのだ。
カウベルを静かに鳴らし、私は店を出た。
いつの間にか積もってしまった雪の上を大好きなブランドのパンプスで歩きながら、あの懐かしいアパートへと足を進めた。
『どうしたってきっと、クリスマスには真雪を思い出すのかな』
『…さようなら』
『…真雪!!…俺、クリスマス、忘れないから!!』
…最悪なのかもしれない。自分で決めたくせに、私は亮太のあの言葉に甘えているのだから。
でもやっぱり、亮太を忘れようとしている私と同時に想いが強くなっていく私もいて。
傷つけたのは私だった。私は亮太を信じてあげることが出来なかった。
今なら出来る。私は亮太を信じれる。
幸せだった4年間。本当に毎日が楽しくてたまらなかった。
亮太といるのは当たり前なことだった。これからもずっと一緒にいると思っていた。いつかは結婚して子供も出来て、幸せな家庭で顔の似た老夫婦になると、そう思っていた。
だから、別れるなんて考えていなくて。
たまたま居合わせた亮太のお見合い。そこには私の知らない亮太がいた。私の大好きな亮太の笑顔を、相手も笑顔で見つめていた。
無理矢理なお見合いだと言われた時には、私はもう亮太を信じることが出来なくなっていた。嫉妬心が、疑い心がただ暴走するだけだった。
今考えると、どうして私は信じてやれなかったのだろうと思う。
でもそれはきっと、今までがあまりに幸せすぎたからなのだろう。
2階建ての古いアパートは、変わらずそこに建っていた。
そしてあの1室の窓から…亮太は雪を望んでいた。
3年ぶりの亮太。どうしてこんなにも変わっていないのだろう。
“亮太”
私は静かに語りかけた。
“愛しています”
涙が頬をつたりきる前に私はアパートへ、そして亮太へ背を向けて、真っ赤になった足を前へと踏み出した。
窓に映る彼の後ろに見えた、彼女の笑顔が見えてしまう前に。
涙が、パンプスを濡らし続けていた。
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2003/12/02(Tue)21:57:47 公開 / まつ
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■作者からのメッセージ
以前作った作品を大分改定したものです。
最後の展開はとてもつらいものになってしまいました。しかしこのストーリーの最後はこれしか思い付きませんでした。
初投稿です。よろしくお願いします。